スケートリンク場の入り口に着くとそこには何十台ものパトカーや消防車が止まっていた。
それを見たトニーは不安そうに虎徹を見上げた。
それに対して、虎徹はトニーに向かって優しく頷いて見せた。
トニーはそれで勇気が出たのか、意を決してパトカーの傍で待機していた警官の方へとゆっくり一人で歩き出した。
その時、辺りに突如叫び声が響くのだった。






〜神様ゲーム〜








その声に皆の視線がスケートリンク場へと集まる。
ビルの天辺に建てられたドーム型のスケートリンク場が少しずつズレ始め、崩れ落ちそうになっている。

「とぉ!」

それにいち早く動いたのはあの時同様、スカイハイだった。
スカイハイは背中に搭載したジェットを噴射させ、傾き始めたスケートリンク場目掛けて飛んでいく。
続けてブルーローズ、ロックバイソンが飛んでいき、折り紙サイクロンとドラゴンキッドはスケートリンク場に隣接しているビルの外壁を伝って駆け上がっていった。

「助けてええぇぇ!」
「!!」

その叫び声にふと見上げると、スケートリンク場から逃げ遅れたアイザックが助けを求めている姿があった。
それにバーナビーが駆け出そうとするのを虎徹が手で制止させた。

「俺に任せろ。お前、まだ能力使えねぇだろ? こっちはそろそろ復活だ」

既に能力を発動させてから一時間以上経過していた虎徹はすぐさま能力を発動させ、スケートリンク場目掛けて跳ぶ。
スケートリンク場の下まで到着するとすでに到着していたスカイハイ、ブルーローズ、ロックバイソンの中に加わり、スケートリンク場を支えた。

「来てくれると思ったぜ」
「ありがとう、そしてありがとう!」

虎徹の登場に心から感謝する彼らの姿に虎徹は少しだけ心が痛んだ。
あの時もそうだったが、俺が能力の制限時間いっぱいまで支えれば大惨事になることは決してないだろう。
だが、俺が救いたいのは人の命だけじゃない……。

「…………あっ、やばい」
「どうかした?」

今まで必死にスケートリンク場を支えていたブルーローズが虎徹の言葉に問いかける。

「時間切れだ……」
「「「えっ?」」」
「能力が、切れる……」
「そうなったら支えきれないぞ!」

虎徹の言葉にさっきまで余裕そうだったロックバイソンが慌てだす。

(悪いな、みんな。また、俺の賭けに付き合ってもらうぞ)

いや、既に結果を知っている俺にとっては賭けではなかった。

「おい、トニー!!」

虎徹はビルの下を向くとトニーに向かって大声で彼の名を呼んだ。

「頼む、助けてくれ!」

突然声をかけられたトニーは動揺し、固まっている。

「このままじゃ全員危ない! 頼む、助けてくれ!!」
「……無理だよ」
「できる! 君なら必ずできるっ!!」

困惑するトニーに対して虎徹はそう言い切った。
大丈夫、お前ならできる。
あの時だってできたじゃないか。
俺はお前が気付いてくれることを信じている。
お前に宿るその力は決して忌むべき力じゃないことを……。

「もう五秒しかない! 五、四、三、二……」

そう言いつつ、虎徹はスケートリンク場を支える力を少しずつ弱めていく。
それにより、スケートリンク場が徐々に傾きだす。
その重みにスカイハイ、ブルーローズ、ロックバイソンは耐えるのに精一杯になりだす。
その時、突然両手にかかる重みが無くなった。
スティールハンマー像があの時と同じようにスケートリンク場を持ち上げたのだった。
そして、石像の鎖骨の窪みからトニーが現れた。
その光景を見た誰もが歓喜の声を上げるのだった。





















「トニー、君のおかげで助かった」

パトカーの後部座席に乗せられたトニーに窓越しから虎徹は声をかけた。

「……本当に?」
「あぁ、本当だ。これで君もヒーローの一員だな」
「ヒーロー……」

虎徹は後部座席のトニーに向かって右手の親指を立てて見せた。
それにトニーも黙って小さな右手の親指を立て、虎徹とパトカーの窓ガラス越しに互いの拳を突き合せた。
その後、パトカーが発進し、トニーをそのまま連れて行った。
すると、虎徹を追い越し、トニーを乗せたパトカーを必死にアイザックが追いかけた。

「おい、トニー!」

まだ、スピードの出ていないパトカーにアイザックは追いつくとトニーへと声をかける。

「ごめんな! ……さっきのお前、カッコよかったぜ!」
「! ……あぁ」

アイザックの言葉にトニーは瞠目したが、すぐに嬉しさからその目に涙を浮かべた。
その光景を遠くから見届けていた虎徹は己の取った行動が間違っていなかったのだと改めて感じた。
すると、背後から妙な気配を感じ取った虎徹は恐る恐る振り返る。
案の定、そこにはフェイスシールドを上げたバニーの姿があった。

「なっ、何だよ……;」
「まだ、能力残ってますよね?」
「はっ?」

バーナビーの言葉に平静と虎徹はそう言った。

「さっき、二回目のハンドレッドパワーを発動させてから貴方は跳んだ。なのに、そこから一分も経たずに貴方は彼に助けを求めましたよね?」
(相変わらず、鋭いなぁ……バニーちゃんは;)
「あら? おっかしいなぁ〜」

虎徹はあの時と同じようにそれを笑って誤魔化した。
そうすれば、バニーは何も言わずに溜め息をつくだけだとわかっていたからだ。
虎徹の予想通り、バーナビーは真顔のまま、溜め息をつくのだった。





















その頃、一人の男がシュテルンビルトの街中を彷徨っていた。
男はある目的の為、この街へとやって来た。
それは、とある人物を手に入れること。
だが、その人物が誰なのかわからず、ずっと宛てもなく捜し続けている。
名も顔も知らないその人物を様々な国を巡って捜し続けてきたが、未だにその人物を見つけることができなかった。
だから、男はこの街へとやってきたのだ。
様々な人種が集まっているこの街、シュテルンビルトに。
正直、男はこの街には足を踏み入れたくなかった。
この街は明らかに他の街とは違う空気が流れている。
それは、この街で放送されている『ヒーローTV』の影響だろう。
NEXT能力を持つヒーロー達の逮捕劇などを放送する番組のおかげか、この街はNEXTに対するか差別が薄く感じる。
他の街ではまず有り得ない。
ただNEXTというだけで化け物扱いするのが殆どであった。
そして、男もその被害者の一人でもあった。
誰も望んでこの能力を手に入れたわけでもないの……。
男は自分の運命を――NEXTであることを呪った。
だからか、男にとってこの街は何処か居心地がいいとは言えなかった。
忌むべき存在として扱われてきたNEXTを敬愛しているこの街が……。

「……結局、ここもハズレかよ」

ここ数日、この街に滞在していたが、お目当ての人物を見つけることは叶わなかった。
もう、これ以上この居心地の悪い街に居続けるのは御免だった。
この辺で次の街へ向くとするか。
が、一つだけ問題があった。
次の街に行こうにも持ち金が底を尽きかけていたのだ。
だからと言ってこの男は真面目に働くことなど考えもしない。
男が金を稼ぐ方法はただ一つ……。

「ん? ……あそこなんか、よさそうだな」

男の目に飛び込んできたのはこの街の博物館だ。
男は博物館へと入ると辺りを見渡した。
そして、一つの展示物に男は目を留めた。
金色に輝く正義の女神像――スタチュー・オブ・ジャスティスに。
その昔、伝説のヒーローなどと称されたNEXTが守り抜いたシュテルンビルトの平和のシンボル。
この像がこの街のヒーローを信頼している証であるそうだ。
そうだ。だったら、その証が無くなったらこの街の人間はどうするだろうか?
ふと、男は試してみたくなった。
お前たちが信頼するヒーローがどれ程のものか?
そして、思い知らせたくなった。
お前たちが信頼するヒーローがどれだけ頼りにならない存在か……。
その思いに駆られた男――ロビン・バススターはスタチュー・オブ・ジャスティスへ手を伸ばすのだった。
























神様シリーズ第1章第10話でした!!
やっと終わったよ、石像事件!ここまで長かったなぁ〜。
そして、何気にロビンさんも登場です!
ロビンさんがで誰を捜しているかだって?それは今後のお楽しみ〜♪
次回、バニーの歓迎会をする為に虎徹さんが動きます!!


H.25 2/24



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