(はぁ〜。何やってんだか、俺は……)

あの時、石像に捕まることなんてわかっていたはずなのに、バニーに言われたことにショックを受けて動けなくなったことを今更になって情けなく感じている。
ふと、虎徹は視線を右へと変える。
そこには、俺と同じく石像に捕まっているバニーの姿があった。
どうやらバニーは気を失っているらしく、石像に捕まった拍子で上がってしまったフェイスシールドから瞳を閉じたバニーの顔が見えた。

(何だよ。バニーちゃんも気を失ってたのかよ……)

あの時の俺は気を失ってしましい、そして目が覚めた時にはバニーがスカした感じで「お目覚めですか?」と言ったのをよく覚えている。
よし、今度は俺が嫌味たらっしく言ってやろうと思ったその時だった。

「ッ………!」
「バニー……?」

綺麗な顔立ちのバニーの顔が苦痛で歪むのを虎徹は見るのだった。






〜神様ゲーム〜








「おい……バニー……?」

虎徹はバーナビーの様子がおかしいと思い、バーナビーに呼びかける。
だが、その声はバーナビーには届いていないのか、起きなかった。
それどころかバーナビーの顔色は見る見るうちに悪くなっていく。
その様子からバーナビーが悪夢を見ているのだとわかった。
二十年前に両親が目の前で殺されたあの悪夢を……。
だったら、早く目を覚まさせてやらないと……。

「おい、バニー! バニー!!」

必死に虎徹が呼びかけても一向にバーナビーが起きる気配がない。
バーナビーに手を伸ばそうにもがっちりと石像に捕まれていてビクともしない。
そう、ハンドレッドパワーを使わない限りは……。


虎徹は力を込めると全身に青白い光が帯び始め、それに共鳴するかのようにヒーロースーツも光りだす。
ハンドレッドパワーを使うことに虎徹は何の迷いもなかった。
ただ、悪夢に魘されるバニーを助けたいその一心だった。
虎徹は完全にハンドレッドパワーを発動させると、石像の右手を内側から破壊して、すぐさまパーナビーの許へ飛ぶ。

「おい、起きろよ、バニー! バニーっ!!」
「ん……っ!」

虎徹が己のフェイスシールドを上げ、バーナビーの両肩を掴みとグラグラ揺らしながら必死に呼びかけると、バーナビーの瞼が微かに動いた。
そして、ゆっくりと瞼が上がるとそこからは綺麗な翡翠の瞳が現れる。

「ここは……?」
「バニー! はぁ〜、よかった……」

目が覚めたバーナビーを見て虎徹は安堵した。
それに対して目が覚めたばかりのバーナビーは何が起きているのか状況が全く掴めていないようだった。
そして、虎徹のヒーロースーツが発光していることに気付き、瞠目する。

「! おじさん! 何、能力使っているんですか!? 僕達の能力には制限時間があるんですよ! こんなところで無駄遣いはやめてくださいっ!」
「うっせぇな! 折角、起こしてやったのに、説教はないだろうがっ! 大体、いくら呼びかけても起きないバニーちゃんが悪いんだろうがっ!!」
「!!」

バーナビーの言葉に心外だと言わんばかりに虎徹は腕を組むとそうバーナビーに抗議した。
虎徹の言葉のある部分にバーナビーの眉がピクリと反応する。

「ちょっと待ってください。聞き違いでなければ、おじさん今僕のこと、バニーちゃんって言いましたか?」
「ああ。ピョコピョコ跳ねて、お耳の長〜い、可愛いウサギちゃんみたいだな」
「! 僕はバニーじゃない、バーナビーですっ!!」

虎徹の言葉にバーナビーは本当に嫌そうにそう怒鳴った。
バーナビーに怒鳴れた当の本人はそれを全く気にしていない。
いや、それどころかそれを楽しむかのように虎徹は耳に手を当てて、兎の真似をしだす。

「僕はバニーじゃない、バーナビーですぅ」
「そんな言い方はしていない!」
「そんな言い方はしていなぁい♪」
(やっぱ、この頃は初々しいなぁ、バニーちゃん♪)

最近のバニーはこう呼んでも全く怒らず、寧ろ「虎徹さん」と言って優しく微笑んでくれるくらいになった。
それも勿論嬉しいことだが、久々に見たバニーのこの反応に虎徹は少し懐かしさを感じ、十分楽しんだその時だった。

『ボンジュール、今度は別の石像が動き出したわ! ヘリペリデスファイナンスのシンボル、ライオン像がニューモルゲン地区に向かって逃走中』
(あ゛っ、忘れてた……;)

マスク内臓の無線スピーカーから聞こえてくるアニエスの声で現状を思い出す。
今はバニーちゃんと遊んでいる場合じゃないことを……。
早くトニーのところに行かねぇと……。

「じゃ、バニーちゃん。俺行くわ♪」
「えっ? ちょっ、おじさんっ!!」

そう言いながら上げていたフェイスシールドを下し、虎徹はまだ何か言いたげなバーナビーを一人残して空へとジャンプし街中へと駆け出す。
本当はバニーを助けてもよかったが、予定より早く能力を発動させてしまった残り時間のことを考えると少しでも時間が惜しかった為、それを諦めることにした。
まぁ、あの時俺が助けなくても何とかあそこから脱してスケートリンク場へやって来たのだから問題ないだろう。
そんなことを頭では考えながら、虎徹はワイヤーを駆使して猛スピードでライオン像を追跡するのだった。





















「……まったく、何なんだあの人は!」

一人石像に取り残されたバーナビーは唇を噛んだ。
唯でさえ変な夢を見たのか内容は全く覚えていないのに、気分が晴れない状態であった。
大体、バニーって何なんだ!
僕には、バーナビー・ブルックスJr.という列記とした名前があるのだ。
敬愛する父から受け継いだ名が。
それを貶されたような気がして凄く嫌な気持ちになった。
……そのはずなのに何故だろう?
何処かでそれをずっと待ち望んでいたような、あの男にそう呼ばれるのをずっと待っていたような気持ちが何処からか込み上げてくる。
待ち望んでいた? それをずっと待っていた?
そんなことはあり得ない!
自分の中に渦巻く様々な感情を全て振り払うかのようにバーナビーは首を振った。

(……でも、何故あの男は能力を使ったのだろうか?)

目が覚めるとそこには、フェイスシールドから見えるあの男の必死な顔。
そして、安堵した表情がそこにはあった。
あの男は僕が中々起きないからと言っていたが、そこまで必死になる必要があったのだろうか?
僕だったら、決してとらない行動をとるあの男のことがわからない。
いや、あの男の存在自体謎である。

(……って言うか、さっきから何であの男のことばかり考えているんだ、僕は!)

その事実に気付いたバーナビーはふと我に返った。
あの男と出会ってから何かがおかしい。
それは、まるで僕が僕でなくなってしまうような感じである。
やはり、あの男とコンビを組むべきではなかったのだ。
この事件が解決したら、すぐにマーベリックさんに相談しよう。
そう決心した後、バーナビーはファイヤ―エンブレムの手助けによって石像から脱出し、スケートリンク場へ向かうのだった。
























神様シリーズ第1章第8話でした!!
やっちゃったよvvあざとい虎徹さんvv
「僕はバニーじゃない、バーナビーですぅ」や「そんな言い方はしていなぁい♪」を書くのが楽しくて仕方なかったよ♪
バニーちゃんは自分の気持ちが何なのかわからず、混乱中です。
次回で、トニーの話を終わらせたらいいなぁと思っています。


H.25 2/22



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