「ホントごめん! 三時までには行くつもりだったんだけど……;」 『…………で、今何処なの?』 必死に謝る虎徹に対して電話越しに聞こえる楓の声は明らかに不機嫌であった。 「まだ、仕事残っててさ」 『ホントに来てくれるの? いつ? あとどれくらい?』 「えっ、えーーーっと……」 『……やっぱ来ないんだ』 楓の問いの戸惑う虎徹に対してどこか諦めたような声で楓はそう言った。 「行くって! 四時からだったよな!!」 『うん……そうだよ』 「OK! すぐ向かう!!」 楓とできない約束をしたその時、辺りにエマージェンシーコールが響く。 「ああっ! ちょっとごめん」 虎徹は慌てて楓にアナウンスの内容が聞こえないようにする為、携帯電話のマイク部分を手で押さえた。 あの時と同じようにタイガー&バーナビーの出動要請のアナウンスが流れる。 「あのさ……楓……」 『どうしよう……緊張してきたっ! お父さん、ホントに早く来てよね! 絶対、絶対ぜーーーったいだからねっ!!』 虎徹に話す隙を与えないまま楓はそう言うとそのまま電話を切ってしまった。 これにより、今夜の電話で楓に怒られることが確定した虎徹は溜め息をつくと開発部へと引き返すのだった。 〜神様ゲーム〜 「わりぃ、待たせたな」 虎徹は急いで出動準備を終えると、バーナビーが待っているであろう会社の外へ飛び出す。 案の定、会社の目の前の道路にはサイドカーをスタンバイさせ、真っ赤なヒーロースーツを身に纏ったバーナビーが待っていた。 虎徹はすぐさまバーナビーに駆け寄るとバーナビーに謝った。 「僕の人生の三分を無駄にしたこと、一生忘れません」 「……お前……友達いないだろ;」 何度聞いてもバニーのこの言葉は何とも言えない感情が込み上げてくる。 虎徹の言葉にバーナビーが眉を顰める。 「友達? いませんが、それが何か?」 「何か? って……お前、それは淋し過ぎるだろ;」 「そんなもの、僕には必要ありませんから。そんなことより、さっさと行きますよ」 呆れる虎徹に対して、バーナビーはそんなこと全然気にしない様子でさっさとバイクに乗り込む。 虎徹もこれ以上の会話は無駄と判断し、サイドカーへ乗り込むとバーナビーが目的地目指してバイクを発進させた。 そして、そうこうしているうちに虎徹とバーナビーは漸く現場付近に到着した。 ブルーローズ達らの必死な対応の甲斐もなく、悠然と街中を闊歩する石像から、市民達が必死に逃げ惑っている。 (トニー……何処だ?) そんな中、虎徹はマスクの右耳部分についているボタンを押して、マスク内臓のスコープの倍率を上げた。 すると、あの時と同じように石像の鎖骨部分の空洞に一人の少年の姿が見えた。 (見つけた!) 「ちょっと待ってください!」 虎徹が迷うことなく石像目掛けて駆け出そうとしたが、それを遮るようにバーナビーが立ちはだかる。 「どうするつもりですか?」 「どうするって……助けるに決まってんだろ!」 「僕の推理が正しければ、周りに誰もいないとなると、あの子が石像を動かしているんじゃ。おそらく触れた物を意のままに操るNEXTだと思います」 虎徹の言葉にバーナビーは冷静にそう言った。 「いいから退けって!」 「あの子が犯人かもしれない」 「犯人だろうが、あのままじゃ危険だろ!」 そう虎徹はバーナビーに告げると再び石像へと駆け出そうとする。 だが、バーナビーが虎徹の首根っこを掴みそれを阻止する。 「さっきは、貴方の判断ミスでやられたんですよ」 「いや、あれは……」 バーナビーの言葉に虎徹は言葉につまる。 以前は確かに俺の判断ミスでったが、今回は故意にやったことである。 それをバニーに言うつもりはないが……。 言ったら間違いなく、怒るだろうし……。 「僕は、貴方を信じていません」 「!!」 冷淡なバーナビーの言葉に虎徹は瞠目した。 わかっていた。この時のバニーは俺のことを信じていない。 いや、俺だけでなく誰も信じていないことなんて。 わかっていたはずなのに、胸を鷲掴みされたかのように痛みが走る。 「本当は貴方とコンビなんて組みたくなかった。……でも、会社命令なんで」 「…………あぁ、そうかよ」 そんな虎徹の様子など気付くはずもなくバーナビーは淡々とそう続けて言った。 虎徹は込み上げてくる気持ちをグッと堪えて力なくそう言うと、バーナビーの手を振り払った。 その時、虎徹の目の前に巨大な影が落ち、二人はそれを見上げた。 石像が二人目掛けて拳が振り下ろしている。 あの時同様、逃げる間もないまま二人目掛けて拳が振り下ろされた瞬間、二人の目の前は真っ暗になった。 そのとき、僕は夢を見た。 だが、それは決していい夢ではなかった。 一言で言ってしまえば、悪夢だ。 だが、これはいつも僕が見ていた悪夢とは違っていた。 いつも見る悪夢は幼い僕とマーベリックさんと別れるところから始まる。 仕事を終えて帰ってきているだろう父と母に早く会いたい一心で玄関に駆け込むと、突如僕の耳に二発の銃声が聞こえてきた。 何事かと思いその音が聞こえてきたリビングの扉をそっと開けると、そこには火の海が広がり、倒れたままピクリとも動かない日父と母の姿。 ドアの隙間から覗きこんだ僕の瞳に焼きつくように燃え盛る炎の中に拳銃を手にした黒い影がそこにあった。 二十年間ずっと追い求めているその人物の顔は今でもわからないまま。 ずっと、僕を苦しめ続けたあの悪夢を見たのではなかった。 今、僕の目の前に広がる光景は真っ赤な火の海が広がるのではなく薄暗く、何処かの研究施設のような場所だった。 そこにいた僕は一人の男を抱きかかえ、必死にその人物の名を叫んでいた。 夢のせいなのかその彼の顔は影で見えず、僕が口にしているはずの彼の名前も音としては聞こえなかった。 だが、夢でもこれだけははっきりとわかった。 僕にとって彼がかけがえのない存在であったことが……。 父と母が亡くなってから僕の世界に色などなかった。 あるとしたら、復讐に燃える炎の赤のみ。 ただ復讐する為、一心不乱に両親殺しの犯人を捜していた。 そんな僕に彼は光をくれた。 燃え盛る炎の赤の色だけでなく、僕に様々な色を与えてくれた人だった。 彼の傍にずっといたい。 彼に僕の思いを伝えたことはなかったが、彼のことを一生守り続けようと誓った。 なのに、結局僕の方が彼に守られて彼を死なせてしまったのだ。 悔しくて、哀しくて、涙が止まらなかった。 『…………美しい』 「……っ! 誰だ!?」 それに僕と彼しかいない空間に突如、一人の男が現れる。 僕はその男を見たが、これも夢の為かその男の顔も影となっていて見えなかった。 『そうだなぁ……。強いて言うなら……神様かなぁ?』 「ふっ、ふざけるなあっ!!」 男のふざけた口調に僕は我を忘れてしまい、彼から離れてしまった。 それが間違いだったと気付いた時にはもう遅かった。 男に愛しい彼が奪われ、必死に手を伸ばしても決して届かなかった。 彼を取り返すのに形振りなんて構ってられず、必死に音にならない彼の名を叫び、男へと突っ込んでいく。 『……馬鹿か、お前は。そんなに大事なものなら、初めから手放すこと自体が間違いだったのだ』 「っ!!」 男が冷たく言い放った言葉が痛いくらい胸に突き刺さる。 悔しかった。 あの男の言葉がその通りだったから何も言い返すことができず、ただ唇を噛んでいた。 すると、男が彼に何かしているのが見えてそれを阻止したくて、僕は男へ渾身の一撃を喰らわせた。 だが、男は僕の蹴りを素手で受け止めるとそこから衝撃波みたいなものを出現させ、僕を地面へと叩きつけた。 その衝撃に僕の身体はもう動かせなくなっていた。 男の声がそんな僕を嘲笑うかのように何かを言っているが、何を言っているのかまではわからなかった。 ただ、悔しくて仕方なかった。 大切な人も守れない自分の無力さに涙が溢れてくる。 大切な人も守れない僕なんてヒーロー失格だ……。 ――――……ニー。…………バ……ニー! すると、何処からともなく声が聞こえてきたかと思うと光が差し込んできた。 その光の向こうから僕へと手が伸ばされる。 僕は少し戸惑いつつも自分の手を伸ばし、その手を掴んだ。 すると、光の向こうでその手の持ち主が微笑んだような気がした。 そうだ、僕はこの手を知っている。 この温かな温もりを今度こそ手放してはいけないのだ。 そう今度こそ守り抜いてみせる! 貴方のことを必ず……。 そう夢の中で決意したバーナビーであったが、夢から覚めた彼はこの夢のこともその決意もすべて忘れてしまうのであった。 神様シリーズ第1章第7話でした!! バニーちゃんは逆行していないので仕方ないのですが、そのせいで虎徹さんがかなり傷ついています; 「僕は、貴方を信じていません」は今の虎徹さんにはバニーちゃんから言われるととてもつらいと思ます。 初期の頃だったら、こんなには傷つかなかっただろうに。。。 バニーちゃんはあくまでも逆行していませんが、身体が記憶している虎徹さんの死の夢を見ちゃいましたvv バニーちゃんにとって虎徹さんの死は悪夢そのものだと思います。 H.25 2/22 次へ |