「さ、お仕事ですよ」
「! 待てよ! まだ話終わってねぇ……」

虎徹がバーナビーを呼び止めようとしたその時、虎徹は何者かと肩がぶつかり、よろけた。

「……かたじけない」

歌舞伎の隈取に似たマスクに忍装束、天狗のような高下駄の彼がそこにいた。
彼――折紙サイクロンはあの時と同じように虎徹に一言だけそう呟くとブルーローズのトラックを目指して飛んで行った。
見切れることに命を懸ける彼にとって、ブルーローズの登場シーンはまさに絶好のチャンスなのだ。
本当によくやるなぁと虎徹は思った。

「あ゛っ……;」

ふと、虎徹がバーナビーがいた位置に目をやると既にバーナビーの姿はなく、走り出した後だった。






〜神様ゲーム〜








『おっと、あそこにいるのは……出たああぁぁ! ニューヒーロー、バーナビーだぁ!』

マリオの実況に虎徹は振り返ると、石像上方にある建設中のビルの鉄骨の上でバーナビーが素顔を曝してカメラに微笑んでいた。
そして、フェイスシールドを下し、鉄骨からダイブする。
それを見た虎徹はすぐさまワイヤーを左肩へと狙いを定めた。
あの時は右肩を狙ってバニーを釣り上げてしまったのでそこを注意してのことだった。
だが、本当にこのままでいいのかと、虎徹の頭にふと過った。
このままだったら、間違いなくトニーはバニーによって捕まえられる。
そうなれば、トニーは一生友人と分かり合えないのでは?
ここでトニーを捕まえることで、彼の運命を大きく変えてしまうのではないか?
それが彼にとっていい方向に変わるのなら問題ないが、頭に浮かぶのは悪い方向ばかりだった。

(……わりぃ。楓。やっぱパパ、約束守れそうにないわ)

ここでトニーを捕まえたくない。
ちゃんと説得して自首をさせてやりたい。
そう思い直した虎徹は狙いをバーナビーへと変え、ワイヤーを撃った。
ワイヤーは狙い通り、バーナビーの胸に当たり、固定された。

(ごめんな、バニーちゃん……)
「……っしゃ!」

心の中でバーナビーに謝りつつ、すべてを覚悟した虎徹は思いっきりワイヤーを引っ張った。
それによりバーナビーが石像の右肩から虚空へと放り出され、虎徹と勢いよく正面衝突した。
初めからそのことを想定した虎徹は少しでもバーナビーの負担にならないように受け身を取り、体勢を整える為に再びワイヤーを放つ。
だが、あの時と同様、放った角度がよくなかったのか、街柱に弾かれてしまい、ブーメランのように戻ってきたワイヤーが二人を正面から抱き合う形で巻きつく。
気のせいだろうか?
前の時より密着度が増しているような気がした。

(ヤバい……/// バニーちゃんの顔がめっちゃ近いんですけど///)

虎徹はそれにより鼓動が速くなるのを感じ、それを必死に抑える。

「何の冗談ですか!」

そんな虎徹とは対照的でフェイスシールドから覗くことができるバーナビーの顔は明らかに怒りに満ちていた。

「いや〜。わりぃ; 手が滑っちまった♪」
「! ふっ、ふざけないでくださいっl 早く外してください!!」

茶目っ気たっぷりの虎徹の言葉にさらにバーナビーが激昂する。

「いや〜、外したいのは山々だけどさぁ……」
「ん?」
「ほら、後ろ後ろ!」
「!!」

何故か苦笑を浮かべる虎徹の言葉にバーナビー顔を上げるとそこには石像がハンマーを振り上げているのが見えた。
そして、そのハンマーが虎徹たちへと振り下ろされた。

「あああああ!」

そして、辺りにはバーナビーの声が響き渡るのだった。





















「一体何考えてるの! 君、自分の立場、わかってるの!!」

アポロンメディアのロイズの部屋に虎徹はいた。

「……バーナビーの引き立て役……ですよね?」
「そうそう! バーナビー君のセカンド、補佐、おまけっ! なのに逆に危険な目に遭わせるなんてありないでしょうがっ!!」

虎徹の言葉にロイズの説教がヒートアップする。
こうなることは分かっていた虎徹だったが、やはり何度聞いてもいい気分にはなれない。

「そうそう、メカニックも君に怒ってたよ」
「はあっ? なんで!?」

ロイズの言葉に虎徹は理解できなかった。
別に斎藤さんを怒らせることは一切していないと思うが……。

「君に話があるそうだ。今すぐ開発部に行きなさい」
「…………はい」

未だに疑問が残ったままだが、仕方なく虎徹は開発部へとやってくると、そこには白衣を着て椅子にちょこんと座った小さい男がいた。
一目見ただけでその男が斎藤さんだと虎徹はわかった。

「(私がお前のスーツを開発した斎藤だ)」
「あっ、どうも。虎徹です」
(相変わらず、声ちっさ……)

あの時には聞き取れなかった斎藤の声を今回は一回で虎徹は聞き取ることに成功し、斎藤に挨拶をする。

「(もっと、使いこなしてくれなきゃ困るんだよね)」
「いや〜。まだ使い方よくわからなくて……」
「(嘘だね)」
「えっ……?」

斎藤の言葉に虎徹は目を丸くした。

「(お前はそのスーツの使い方、よく知ってるんじゃないのか?)」
「なっ、何言ってんすか。俺は、今日初めてあのスーツを着たんすよ」
「(だったら、どうして人の手を借りずにあのスーツを装着できたんだい? 私の部下がそう言ってたぞ)」
「う゛っ……;」

斎藤の指摘に虎徹は言葉につまった。
確かにそうだ。
俺が初めてあのスーツを着た時は多くの人の手を借りて装着した覚えがあった。
最近は一人でできるようになっていたので、ついいつもの癖でやってしまった。

「(それに、さっきの放送も見ていたが……何でワイヤーをバーナビーに狙って撃ったんだ?)」
「! なっ、何言ってるんですか、斎藤さん。あれはたまたまで、別にバニーを狙ってワイヤーを撃ったわけじゃ……」
「(たまたまで石像の左肩に狙いを定めていたのを右肩へ変えたのはとても不自然だと思うが?)」
「!!」

斎藤の言葉に虎徹は瞠目した。
あの時、誰もがバーナビーに注目し俺のことなど見ていないと思っていた。
まさか、斎藤さんがそこまで見ていたとは思いもしなかった。
虎徹の表情を見た斎藤は目を光らせた。

「(タイガー、お前は一体何を考えている? ……何故バーナビーの邪魔をした?)」
「…………」

斎藤の問いに本当のことを話すべきか虎徹は迷った。
このまま隠していても、斎藤さんにはいずれバレてしまうのではないか?
だったら、この際本当のことを話してしまって今後のことを相談した方がいいんじゃないかと思い、虎徹は口を開きかけた。
その時、それを遮るかのように携帯電話の呼び出し音が辺りに響いた。
虎徹は携帯電話を手にし、着信者を確認した途端、慌てた。

「やっべぇ! すっかり忘れてた!!」
「(ちょっ、タイガー! まだ、話は終わって……)」

そんな斎藤の制止は彼の声が小さい為か娘のことで頭がいっぱいになっている虎徹の耳には入って来ず、虎徹は開発部を飛び出していった。

「(まったく、困ったものだねぇ……)」

先程まで虎徹がいた方向へ目を向けると斎藤は呆れたように息をついた。

「……今の話、本当ですか?」

すると、開発部の奥の部屋からドアが開いたかと思うと、そこからバーナビーが現れた。
彼は明らかに驚いた表情を浮かべている。

「あの男が僕に向けて、わざとワイヤーを撃ったっていうのは……」

それが本当なら、あの男を許せない。
折角、犯人を捕まえてポイントを獲得するチャンスだったのに……!

「(……盗み聞きかい、バーナビー? あまり関心はしないなぁ)」
「……すみません」

スーツのメンテナンスの状態が気になり、バーナビーは開発部へ訪れ奥の部屋でその様子を見ていた。
一通り様子を確認したバーナビーは満足し、部屋を後にしようとしたその時にたまたまあの男の声が聞こえてきた。
おそらく、あの男と話しているのは斎藤さんなのか、相手の声は全く聞こえないがあの男の声は嫌でも耳に入って来る。
そして、あの男の発した言葉が気になり、被害者でもある自分は真実を知るべきだと自分に言い聞かせ、そのまま聞いてしまっていたのだ。
だが、斎藤の言葉の通り盗み聞きをしてしまったことには変わりないので、バーナビーは素直に謝った。

「(……モニター越しから見るとそう思ったけど、実物を見たらどうやら違ったようだ。あれは、何も考えずに行動するタイプだね)」
「……そう……ですか」

斎藤の言葉にバーナビーがそう言ったその時に辺りにエマージェンシーコールが鳴り響いた。

『タイガー&バーナビー。出動要請発令! 石像が動き出した模様。速やかに準備し、現場に出動してください』

アナウンスを聞いたバーナビーはすぐさま踵を返すとメンテナンスが完了したヒーロースーツを装着する為、奥の部屋へと戻っていった。

(……あれくらいのことで信じるなんて、パーナビーもまだまだだな)

バーナビーにはああ言ったが、斎藤は虎徹と話したことであの行動がわざとであったことを確信した。
そのことを言わなかったのはバーナビーの性格上、面倒なことになりそうだと思ったからである。

(さて、どうやってタイガーから事実を聞き出そうか……)

そんなことを考えながら、一人斎藤はパソコンに向かうのだった。
























神様シリーズ第1章第6話でした!!
わーい!バニーちゃんと密着vvそれに一人意識する虎徹さんが可愛いです><
虎徹さんの行動がおかしいことに斎藤さんならいち早く気づきそうな気がしました。
斎藤さんと虎徹さんの会話を盗み聞きするバニーちゃん。バニーならやりそうだなぁ


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