バイクを走らせる虎徹の目的地はブロックブリッジ。
一刻も早くトニーを説得させ、事件を解決する。
そして、今度こそ楓との約束を果たすんだ。
その思いを胸に秘め、虎徹はアクセスを回してバイクを加速させるのだった。






〜神様ゲーム〜








「斎藤さん、遅くなってすみません」

虎徹が出動して数分後、開発部の扉からバーナビーが現れた。

「今すぐスーツとバイクの準備をお願いします」
「(バーナビー。スーツとバイクは既に準備が完了しているよ)」

バーナビーの言葉に斎藤が椅子をくるりと回転させながらそう答えた。

「そうですか。さすが、斎藤さんですね」

斎藤の言葉にバーナビーは満足そうにそう言うとヒーロースーツへと手を伸ばした。

(あれ……? なんだ、この違和感……?)

ふと違和感を覚えたバーナビーは手を止め、部屋の中を見渡した。
そして、その違和感の原因をすぐに把握した。
いつもバーナビーがこの部屋に訪れると必ずあった白と緑を基調としたあのスーツが無くなっていたのだ。

「(あぁ……あのスーツだったら、数分前にタイガーらしき男が着て出て行ったらしいよ)」
「えっ? あの男、もうここへ来たんですかっ!?」

斎藤の言葉にバーナビーは瞠目した。

「(らしいよ。私が姿を確認する前に出て行ってしまったから、何とも言えないけど)」
(あの男に……先を越されたなんて!)

その事実に何故か無性に悔しくなり、バーナビーは急いでヒーロースーツを装着した。

「……では、いってきますっ!」

そして、ヒーロースーツの装着が完了するとすぐさま出動口目指して駆け出した。

「(……なんだか、賑やかになりそうだねぇ)」

そんなバーナビーの一連の行動を見ていた斎藤は静かに呟くのだった。





















(さーて、どうすっかなぁ……)

目的地であるブロックブリッジに到着した虎徹は悩んでいた。
どうやってあの石像を止めるべきか?
いくらなんでも行き成りトニーに話しかけてもきっと怯えてしまって真面に話を聞いてもらえないかもしれないしなぁ……。
そんなことを考えていると、突然虎徹目掛けて謎の物体が猛スピードで飛んできた。

「だっ!?」

慌てて後方に飛び退き、その物体を虎徹は避けた。
そして、地面に思いっきり激突した彼に目を向ける。

「いってぇ……。やっぱ、一人じゃ無理か」

彼の――ロックバイソンのこの言葉を初めて聞いた時は、こいつとコンビを組むのかと勘違いしてしまったことを虎徹は、思い出していた。

「……ったく、大丈夫か。バイソン」
「おおっ、虎徹。すまねぇなぁ……」

少し呆れたように息をつくと虎徹はロックバイソンへと手を差し出した。
それに応えるかのようにロックバイソンが虎徹の手を取ろうとしたその時だった。

「だあっ!?」

何処からともなくバイクのモーター音が聞こえたかと思うと、突然虎徹とロックバイソンの間を目掛けてバイクが横切った。
それに驚いた虎徹は差し出した手を咄嗟に引っ込め、後方へと飛び退くとそのバイクへと視線を向けた。
そこには赤と白を基調にしたバイクとヒーロースーツに身を纏った彼がそこにいた。
すると、彼はフェイスシールドを上げ、その素顔を晒した。
マスクからは金髪の巻き髪が見え、何処か不満げな表情を彼は浮かべているのが見える。

「……何してるんですか。行きますよ、おじさん」
「おっ、お前こそ何すんだよっ! 危うくお前に轢かれるところだったんだぞ! 俺は!!」
「大丈夫ですよ。おじさんのことは轢きませんから。……あっちは知りませんけど……」
(こいつ、昨日のこと、ぜってぇ根にもってやがる……;)

猛抗議する虎徹に対してバーナビーは少しムッとした表情を浮かべてそう言った。
その反応を見た虎徹は呆れたように溜め息をつく。

「とにかく! さっさと、行きますよ!!」
「へっ? ちょっ……まっ……」

バーナビーは有無を言わせず虎徹の首根っこを掴むとそのまま虎徹をいつの間にか連携させたサイドカーに乗せて走り出した。

「…………あいつ、大丈夫か;」

二人のやり取りを一部始終見ていたロックバイソンは、虎徹に対して不憫そうにそう呟いた。





















「……ひとつ訊いてもいいですか?」
「……んだよ」

シルバーステージの幹線道路をバイクで疾走し、目的地まで猛スピードで向かう中、バーナビーが口を開く。
それに対して虎徹は不満そうな声を上げた。
先程はそれほど気にも留めてなかったが、改めて彼を見ると人は見た目でこうも印象が変わるのかとバーナビーは思った。
昨日見たあのセンスの欠片もないスーツとは違い、新しく会社から支給されたスーツを着ているだけで随分真面に見える。

「……貴方が僕の名前を知っていたのは、事前に僕とコンビを組むことを聞いていたからですよね?」
「…………」

昨日、彼と初めて出会った僕は彼に名前を呼ばれた。
それに僕は驚いたが、されに驚いたのは表彰式での彼の表情だった。
僕がマーベリックさんに呼ばれて壇上に上がった際に他のヒーローたちは皆驚いた表情を浮かべていた。
だが、彼は表情一つ変えることなく僕を見ていた。
それは、まるで初めからこうなることを最初から分かっていたかのように僕には見えた。

「…………まぁ、そんな感じだ」
「そう……ですか……」

そう彼が答えたとき、僕達とは進む方向とは逆方向に歩く石像とすれ違った。
彼は何か言いたげに口を開きかけていたが、途中でそれをやめた。
バーナビーが身晴らしのいい場所にバイクを停めると、フェイスシールドの左耳で調節しながら、周囲の様子を窺っていた。
そんなバーナビーを目にしつつ、虎徹は石像へと目を向けた。
そのとき、石像はビルの屋上に備え付けられていた看板をハンマーで破壊していた。
あの時、建造物に一切破壊行為を行わず、ただ黙々と歩んでいた石像が突然看板を破壊した理由がわからなかったが、今ならわかる。
あの看板に描かれていたのは、フィギュアスケートで有名な天才少年であり、トニーの友人でもあった。
今回の事件は彼に蔑まされたことでトニーが彼を狙って起こした犯行だから。

「……くだらねぇ」
「?」

そんな犯人の心境など知らず、ただポイントの為、番組で目立とうとする為だけに周囲の情報集めに熱心な相棒を見て、虎徹は深く息を吐くとそう漏らした。
今のバニーにはあまり響かないかもしれないが、これだけはどうしても言っておきたかった。

「目立てば犯人が捕まるのか? 街が平和になるのか? え? いいか! ヒーローってもんはよ――」
『ボンジュール、ヒーロー』

虎徹がバーナビーに説教をしようとしたその時、マスクに内蔵されたスピーカーからアニエスの声が聞こえ、あの時同様それを遮られた。

『本番スタート、今日もよろしく』

するとマスク内蔵モニターに番組開始を示すカウントダウン映像が映し出され、カウントがゼロになるタイミングでヒーローTVのオープニング画面が流れた。
こうして、虎徹とバーナビーの最初の事件の幕が上がるのだった。
























神様シリーズ第1章第5話でした!!
今回は本番開始前の一幕だけで終わってしまったよ;
バニーちゃんは間違いなく根に持つタイプだと重いので、ロックバイソンに対してああいう行動をとってもおかしくないのでは?っと思って書きました。
虎徹に手を差し出されているロックバイソンを見て無意識のうちにやきもちもやいています。


H.25 2/14



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