翌日、虎徹は自分の所属しているトップマグの本社へと足を運んだ。
そして、あの時と同じようにヒーロー事業部であの貼り紙を見つけた。
『ヒーロー事業部撤退のお知らせ』の貼り紙を……。






〜神様ゲーム〜








「すまねぇな、虎徹」

背後から聞こえてきた声に虎徹は振り向いた。
そこにはあの時と同じようにベンさんの姿があった。

「ベンさん。……アポロンメディアと合併したんですよね?」
「! お前……気付いていたのか!?」

虎徹の言葉にベンは驚いたように目を見開く。

「……俺の……せいですよね。……こうなったのも……」

そんなベンの様子に気付かず、虎徹は俯いてそう呟いた。
何故こうなったのか、俺が一番わかっている。
俺が今まで起こしてきた賠償問題のせいで会社の資金繰りが困難になっていたことを……。

「……ほれ」

虎徹が何を考えているのかわかっていて敢えて何も言わず、ただベンは苦笑して一枚の名刺を虎徹に手渡した。
≪アポロンメディア ヒーロー事業部部長 アレキサンダー・ロイズ≫と記された名刺を……。

「お前の新しい上司だ。今からそこ行って挨拶してこい」
「! けどっ……」
「いいんだ」

言いよどむ虎徹にベンは大らかに微笑んでみせた。

「いいんだよ。お前のヒーロー姿が見れない方が辛い。俺は……これからもずっとワイルドタイガーのファンだからな」

ポンポンと虎徹の肩を叩くとベンは部屋から去ろうとした。

「あっ……そうだ、虎徹」

すると、ベンは何かを思い出したかのように突如足を止め、虎徹へと振り返った。

「昨日は偉かったな」
「えっ……?」
「昨日、犯人を追いかけるのに何もものを壊さなかっただろう。……正直、お前がモノレールの上に立った時はレールをひん曲げたり、窓をぶち破るんじゃないかと冷や冷やしてたんだぞ」

虎徹が一体何のことを言っているのかわからないと言った表情を浮かべるのに対して、ベンはそう言葉を続けた。

「けど、それも必要なかった。昨日のお前は最高によかったぞ。……そう調子でこれからも頑張れよ」
「! ちょっ、まっ……」

虎徹が呼び止めるのも聞かず、ベンはそのままその場を去っていった。

(また……何も言えなかった)

今まで俺を支えてくれたベンさん。
マーベリックによって仲間の記憶が改竄されたあの時もベンさんは俺を助けてくれたのに……。
そして、今だって昨日のことについて褒めてくれた。
普段滅多なことで褒めることのないベンさんが褒めてくれた。
嬉しくて泣きそうになった。
だから、ちゃんとお礼が言いたかったのに、結局言えなかった……。

(……そろそろ、行くか……)

いつまでも、ここでこうしていても仕方がない。
もう俺はここの社員ではなくなってしまったのだから、早くここを出た方がいいだろう。
しかし、今のあそこへ行くには少し勇気がいる。
正直、最初の頃のあの人は苦手だからだ。
俺が何か言うと『嫌なら辞めてもらっていい』というあの人のことが……。
虎徹は思い溜め息をつくとアポロンメディアへと向かうのだった。





















「君がワイルドタイガー?」

アポロンメディアのヒーロー事業部部長室に虎徹とロイズがいた。
如何にも上から目線な物言いでロイズは手にしている資料と虎徹を交互に目を向けると何か納得したように頷いた。

「あぁ……トラテツって名前だからタイガーか……」
「コテツです。鏑木虎徹」

虎徹の言葉にロイズはあまり興味なさそうな反応をするとデスクから離れる。

「じゃぁ、開発部でスーツの説明を受けてもらおうか。嫌なら辞めてもらってもいいよ」
(俺、まだ何も言ってないんですけど……;)

虎徹がロイズの言葉にそう思ったその時、室内に事件発生を知らせるエマージェンシーコールが響き渡った。
ロイズは咄嗟にリモコンを手に取ると部屋に設置されたモニターの電源をつけた。
モニターにはシュテルンメダイユ地区と工業地帯を結ぶブロックブリッジを歩く、巨大な石像が映し出されていた。

「工業地区か?」
「スティールハンマー像……」
「ただのシンボルオブジェのはずが……何で動いてんだ?」
「NEXTの仕業……だと思います」

あれは、触れた物を意のままに操ることができるNEXT能力。
友達に仲間外れにされた恨みで破壊行為を行っているトニーの能力だ。

「! おい、何処へ行く!!」
「決まってるでしょうが! 開発部ですよ!!」

虎徹はすぐさま踵を返すとロイズの制止も聞かず、そのまま部屋を後にした。
目指すは開発部。
さっさとヒーロースーツを手に入れて助けに行かなくては……。
虎徹はアイパッチを装着しながら、迷うことなく開発部へ走ると勢いよく扉を開けた。
そこには真新しいヒーロースーツが置いてあった。
白と緑を基調にしたあのヒーロースーツが……。
虎徹はそれに迷いもなく手を伸ばした。

「! 何してるんですか!?」

そのとき、部屋の奥から開発部の人間らしき男が現れ、驚いたような表情を浮かべた。

「ワイルドタイガーです! 出動指令が出たので、スーツを……」
「あっ、あなたが!? わかりました! ワイルドタイガー専用のバイクも手動口にすぐに手配させます!!」

虎徹の言葉に男は急いで内線電話を手にするとバイクについての指示を出し始める。
そして、それが終わると虎徹に近づき、スーツ装着を手伝おうとした。

「あっ、大丈夫。一人でできるから」

虎徹はそれを制止させると手際よくスーツを装着していく。
虎徹のその手際の良さに男は目を丸くしている。

「よし! ……それじゃぁ、行くか!!」
「あっ、はい! こっちです!!」

虎徹の言葉に思い出したかのように男は手動口へと案内する。
そこには、見慣れた白と緑を基調とした俺連用のバイクがあった。

「今、操作の説明を……」
「いや、操作なら知っている」
「えっ……?」

そう言って虎徹は男を制止させると、すぐさまバイクに跨ってエンジンをかけ、街へと飛び出していった。

「(……なんだ、もう行ってしまったのか)」

そこに一人の白衣を着た男が歩み寄り、出動口に向かって呟いた。
自分が作ったスーツとバイクを扱う人物がどういう人物なのか見ておきたかったのだが、どうやら間に合わなかったようだ。

「あの……ミスター・サイトウ。あの人は今日初めてここへ来たんですようね?」
「(ん? そうだが……それがどうした?)」

男に斎藤と呼ばれた男は不思議そうな表情を浮かべた。

「いや……あの人の動きがあまりにもよすぎたので……まるで、初めからすべてを知っていたような動きでした」
「(…………)」

男の言葉に斎藤はただ静かに手動口を眺めるだけだった。
























神様シリーズ第1章第4話でした!!
今回はベンさんとロイズさんとの絡みでした。
虎徹が自分を責めるのを見て敢えて何も言わないのはベンさんの優しさだと思います。
あそこで「お前のせいじゃない」と言わせてもよかったかもしれないけど、きっと虎徹さんは納得しないと思ったので……。
有無を言わせず『嫌なら辞めてもらってもいい』というロイズさんが今回のお気に入りです♪
次回は、何処まで書こうか悩み中です;


H.25 2/7



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