「……と、その前に皆さんに紹介したい人物が。……入りたまえ」

ヒーローTVの表彰式でマーベリックの挨拶が始まるかと思われた時、一人の男がマーベリックに促されて壇上へとやってくる。
全身赤のスーツに金髪の巻き髪がよく映えて見える。
彼の姿を見たヒーロー達は虎徹を除いて皆驚きの表情を浮かべた。

「彼はこの度、司法局から正式な認可を受けたバーナビー・ブルックスJr.。シュテルンビルトの平和を守ることになったニューヒーローです」

フッとバーナビーが笑みを浮かべるとスタジアムからは女性の黄色い歓声が挙がるのだった。






〜神様ゲーム〜








(……あの男は、何処にいる?)

表彰式終了後、スタジアムでビッフェ形式の打ち上げが行われている中、バーナビーは周囲を見回りながら歩く。
バーナビーが捜しているのはもちろん、ワイルドタイガーである。
だが、バーナビーが辺りを見渡してもあの男の姿は何処にもなかった。

「おい。打ち上げにも来ないのかよ」

すると、何処かで聞き覚えのある声にバーナビーは視線を変える。
そこには、牛を象った深緑のマスクにタキシード姿の男――ロックバイソンが立っていた。
さっきはこの男のせいであの男を問い質すことができなかったのだ。
バーナビーは先程起きた出来事を思い出し、ムッとした表情となった。

「お偉いさん達にはちゃんと挨拶した方がいいぞ」
『じゃ、俺の分も頼んだから』

ロックバイソンの携帯電話から聞こえてきたのは、間違いなくあの男の声。
その声に釣られるようにバーナビーはロックバイソンへと歩きだす。

「あっ、おい! んん……」
「ちょっと、宜しいですか」
「あぁ?」

バーナビーに声をかけられたロックバイソンは明らかに不満げな声だった。

「すみません。先程から、ワイルドタイガーの姿が見当たらないのですが……何かご存知ですか?」

それに若干イラッとしつつも、バーナビーは営業スマイルでロックバイソンに問いかけた。

「あぁ……あいつだったら、ここにはないぞ。打ち上げをバックレたからな」
「そうですか……。ありがとうございます」

それを聞いたバーナビーは軽く会釈するとそそくさとその場を後にする。
ここにあの男がいないのなら長居をする意味はない。
そう思ったバーナビーは独りになりたいと思い、スタジアムの観客席へと足を運んだ。
予想通りそこには人っ子一人おらず、ただバーナビーの足音だけが静かに響いた。
バーナビーは適当な椅子を選びそこへ座るとここに来るまでに貰ってきた飲み物を口に含ませた。

(……結局、あの男に今日は逃げられた)

でも、そう焦ることはないかもしれない。
また、明日になればあの男に会えるのだから。
先程、マーベリックさんから衝撃の事実を知らされたのだ。
あの男――ワイルドタイガーとヒーロー界初のコンビを組むことを……。
だから、あの男は僕の名前を知っていたのかもしれないという結論にバーナビーは行き着こうとしたその時だった。

「バーナビーさん」

その声に思考を遮られたバーナビーはその声の方へと振り向いた。
そこには、癖のある長いグレーの髪を一つに纏めた男の姿があった。

「本日付で司法局に赴任して参りましたユーリ・ペトロフと申します」
「あぁ……ご丁寧にありがとうございます」
「これからのご活躍が楽しみですよ」
「ご期待に添えるよう頑張るつもりです」

男――ユーリの言葉にバーナビーは愛想よく笑みを浮かべて答えた。

「あなたの正義を貫いて下さいね」
「…………はい」

バーナビーの返事に満足そうな笑みをユーリは浮かべるとその場を後にする。
その姿をバーナビーはただ見送るのだった。





















その頃、虎徹は自宅に到着し、部屋の明かりを点けた。
室内は雑然としており、床には酒瓶があちこち転がっている。
俺が前にこの部屋を出たときは、ヒーローを引退して実家に戻る為の荷造りをしていたが、今はそれがなかった。

(……やっぱり、過去に戻っちまったのか……?)

今までの出来事やこの部屋の状況からそれは判断できるがどうしても確証が欲しかった。
そう考えているとテーブルの上にある電話が鳴りだした。
俺の記憶が正しければ、おそらく愛娘の楓からだろう。
虎徹は電話へと手を伸ばした。

「は〜い」
『もしもし、お父さん?』
(……やっぱり)

受話器から聞こえてきた愛娘の声を聞きながら、虎徹はネクタイを緩めだす。

「おっ! どうしたぁ? 楓〜」
『明日の発表会、忘れてないよね?』

発表会。
それは、おそらくスケートの発表会のことだろう。

「……もちろん! パパ見に行くって約束したろ?」
『ホントにぃ? お父さん、お仕事だったりしない?』
「あ゛っ……」

楓の問いに虎徹は思わず言葉に詰まった。
明日は確か、バニーと初めてコンビを組み、石像を操るNEXT能力を持つトニーや所在転換のNEXT能力を持つロビンを相手にてんやわんやしていたのを思い出した。
そして、その事件に巻き込まれ、楓も危険な目に遭うことも……。

『あ〜! やっぱり、お仕事入ってるんでしょ!!』
「ちっ、違うって、楓! パパ、明日必ず行くから!!」
『……ホント? 絶対のぜーーったいに来てよね!!』
「ああ! 明日は楓の可愛い姿を目に焼き付けるからねぇ〜♪」
『あぁ、そうかい……』
「あ゛っ……;」

甘ったるい声を出していた虎徹だったが、次の瞬間に聞こえてきた声に虎徹から笑みが消える。

「……代わったなら、代わったって言えよ! 母ちゃん!!」
『テレビ観てたよ。……身体は大丈夫なの?』

怒鳴る虎徹に対して、母――安寿は本当に心配そうにそして、楓からは聞こえないように心掛けたような声でそう言った。
安寿が何のことを言っているのか考えた結果、今日の事件で犯人に左胸を撃たれたことを虎徹は思い出す。

「あぁ、大丈夫だよ。……あれくらいなーんてことないって」
『あんた熱くなると見境がなくなるから気を付けなさいよ』
「わかってるよ。心配しすぎだって;」
『心配するわよ! 娘と離れてまでやらなきゃいけない仕事なんて、心配しない方がおかしいでしょ?』
「ああ……わかってる。……わかってるよ……」

本気で俺のことを心配している母の声に虎徹は思わず苦笑した。

「……そういやさぁ、母ちゃん。今年って……何年だっけ?」
『今年? 今年は確か……『NC1977年』ね。それがどうかしたの?』
(やっぱり……)

母が口にした年号は間違いなく俺とバニーが出会い、コンビを組んだ年であった。
これにより、俺が一年前の世界にタイムスリップしてしまっていることを確定させた。

「……いや、な〜んでもないさ。ただ聞いてみただけ。……明日、早いからもう寝るわ」
『そう……。じゃぁ、また明日ね』
「あぁ……また明日」

そう母と言葉を交わして虎徹は電話の受話器を切ると早々にベッドへと向かった。
次に目が覚めたとき、一年後の世界に戻れたらどんなにいいだろうか……。
そんなことを考えながら虎徹は目を閉じると夢の世界へと旅立つ。
しかし、次に目が覚めた時も決してその現状は変わらないのだということを翌日、目が覚めたときに思い知らされるのだった。
























神様シリーズ第1章第3話でした!!
バニーちゃんが虎徹さんを探すも虎徹さんがサボったので会えませんでしたvv
虎徹さんがいないから後は興味なしのバニーちゃんが好きですvv
代わりに劇場版同様ユーリさんと絡ませてみました!
今回書いてみて一番気になったのは、ユーリさんの髪の色でした;白髪?銀髪?グレー?どれですか!ユーリさん!!
次回は、虎徹さん会社へ出勤します♪


H.25 2/11



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