「ちーっす、斎藤さん。用って何っすか? ……ってバニーちゃんも来てたのか?」

突如、開発部の出口が開いたかと思ったと同時に何とも緊張感のない声が耳に入ってきた。
そして、バーナビーの瞳は漆黒の髪と琥珀色の瞳をしっかりと捉えるのだった。






〜神様ゲーム〜








突然現れた虎徹の姿を見たバーナビーは、少しの間その場から動けなかった。
まさか、このタイミングでこの男と顔を合わせるとは思ってもみなかったからだ。
今目の前にいるこの男は、昨日あの時見た今にも消えてしまいそうな儚げさな姿はそこにはなく、何処となく飄々とした姿がそこにはあった。
その姿を見ただけで、この男が元気であることがよくわかる。
その事に内心ホッと胸を撫で下ろしている自分がいた。

「? ……どーかしたか? バニー?」

バーナビーが微動だにしない事が心配になったのか、虎徹はバーナビーに近づくと何気なくバーナビーの顔を覗き込んだ。
虎徹の思ってもみないこその行動にバーナビーの心臓が跳ね上がる。

「! なっ、何でもないですよっ! ……それより、元気そうですね、おじさん」
「おう! 元気だけが取り柄だからな、俺は!」

バーナビーの様子など全く気にすることなく虎徹はニッと笑ってそう言った。
それを見たバーナビーの鼓動がさらに速くなるのを感じていた。
それを何とか抑え、バーナビーは冷静を装う。

「……そっ、そうですか。僕としては暫くの間、休んでもらっても全然構わなかったのですが。むしろ、休んでもらった方が有難かったのですけど。その方が、貴方に邪魔されずにすみますからね」
「相変わらず、ひっでぇなぁ; バニーちゃんは;」

そう言ったバーナビーの言葉に虎徹は苦笑雑じりでそう言った。
それが気に入らなかったのかバーナビーは虎徹の事を睨みつけた。

「だから、僕はバーナビーです! 何度言ったら、覚えてくれるんですかっ!!」
「いいじゃんか、バニーちゃんで♪」

僕が本当にその呼び方を嫌がっているというのにこの男はその事を敢えて気付かないフリをするかのように笑てそう言った。
それが無性に腹が立つがもういい。
この男には何を言っても無駄だろう。

「…………もういいです。貴方と話していても、時間の無駄なようなので失礼します!」

そうバーナビーはそう言うと、さっさと開発室を出て行ってしまった。

(相変わらず、可愛げがねぇな……)

これがあと数か月もそれば、俺の事を「虎徹さん」っと言って笑いかけてくれるとは、とても想像がつかない。
いや、もしかしたら、もうそう呼んでもらえないんじゃないかと思ってしまうくらいだ。
それくらい昨晩のロビンの事件で俺はバニーに嫌われたのだから……。

――――…………貴方の言う事なんて、信じません。……嘘つきの貴方なんて…………大嫌いですっ!

綺麗なあの顔が涙で歪んでそう言ったバニーの言葉を思い出すと、胸がチクリと痛む。

「(タイガー。思ったより、元気そうだね)」
「何っすか、それ; 俺を呼び出したの、斎藤さんっすよね:」

今まで虎徹とバーナビーのやり取りを見ていた斎藤は、眼鏡の位置を直しながらそう言った事に思わずそう虎徹は言った。

「……で、用って何ですか?」
「(君に見せたいものがあってね……)」

そう言うと斎藤はPCのキーボードを叩き、何やら捜査を始める。
すると、デスクの向こう側、ガラスを隔てた試験室から新旧で愛用してきたワイルドタイガーのヒーロースーツが、アームロボットに吊るされながら現れた。
この光景、何処かで見覚えがある……。

「あっ、あの……斎藤さん。これって――」
「(これが私の開発したスーツ。そして、こっちがお前が以前着ていたクソスーツだ。今から、私の開発したスーツの凄さを見せてやろう)」
「いっ、いや……。それは、いいです……;」

斎藤の提案を虎徹はやんわりと断った。
そんな事をしてもらわなくても、十分このヒーロースーツの凄さは知っているから別に見せてもらわなくてもいいのだ。
それに、これから見せてもらうことはもう見たことがあるし……。

「(まぁ、遠慮するな)」

だが、そんな事は知らない斎藤はデスクの三次元モニターのエンターキーを押した。
その途端両方のスーツに向かって火炎放射器が向けられ、一斉に大量の炎が放射される。
現在使用しているヒーロースーツは新品同様で焼け跡一つ残っていない状態だが、旧スーツの方はあの時同様無残に燃えて、最後には跡形もなく消えてしまった。
斎藤が虎徹の方へとチラリと目を向けると得意げに口元をニヤリと笑ってみせた。

(おっ、落ち着け、俺。前にもこれは見ただろ。だから、何も問題ないはずだ……)

虎徹は何とか心を落ち着かせ、平常心を保とうと試みる。
そんな虎徹の様子を知ってか知らずが、斎藤は再び三次元モニターのパネルを操作しだす。
すると、試験室内に再び新旧のスーツがアームロボットによって運ばれ、吊るされた。
二つのスーツの手には、新旧それぞれのワイヤーが伸びており、別のアームロボットがそれそれのワイヤーをピンと引っ張りだす。
そこへさらに別のチェーンソーロボットが現れ、ワイヤーに刃を当てだす。
次の瞬間、旧スーツのワイヤーはスパッと切れたが、新スーツのワイヤーは火花が散るだけでいつもまで経っても切れる気配すらない。

「…………」

哀しい現実を再び目の当たりにした虎徹は必死でそれに耐える。
斎藤は再び虎徹の方をチラ見すると、さらに三次元モニターを操作し、アームロボットによって新旧のスーツを運んできた。
そして、今度は新旧のスーツに空気を送り込み、膨張させ始める。
旧スーツはすぐに破裂して木端微塵になったが、新スーツはどんどん膨張し続ける。
試験室を覆い尽くすほどの大きさにまで膨らんでいく。

「ああぁぁ! ……わかりました! わかりましたから、もうやめてくれっ!!」

ここまで我慢してきたがやっぱり耐え切れず、虎徹は情けない声でそう言いながら指で耳を押さえて斎藤に懇願の眼差しを向けた。
それを見て斎藤はやっと満足したのか、パネルのキーを押すと、その途端新スーツは空気が一気に抜け、急速に萎んで元の新品同様の状態に戻った。

「ふぅ……。もう十分、わかりましたから;」

若干半泣きになりながら、虎徹はそう言うと斎藤がチラリと目を向けると最後のとどめをばかりに得意げにニヤリと口元を緩めた。

「その顔も十分。…………って、斎藤さん?」

すると、それまで座っていた斎藤が突如、席を立ち開発部の出口へと歩きだす。
そして、斎藤が扉を開けるとそこには何とバーナビーの姿があった。

「!?」

扉が開くと表もみなかったのか、そこにいたバーナビーは明らかに驚いた表情を浮かべていた。

「なーにやってんの? バニーちゃん?」
「いっ、いえ……僕は……」
「(また、盗み聞きかい? バーナビー?)」
「!?」

虎徹の問いに言葉を濁すバーナビーを見て斎藤は溜め息をつくとそう言った。
その途端、バーナビーの表情が凍り付く。
どうやら図星のようだ。

「また……?」
「! なっ、何でもないですよ! 失礼しますっ!!」

斎藤の言葉に虎徹は何気なく首を傾げる。
それを見たバーナビーは慌ててそう言うとハンサムエスケープを思わせるほどの勢いでその場から去っていった。

(何だったんだ、結局……?)

その光景を見た虎徹はただ呆気にとられていた。

「(……さて、邪魔者もいなくなった事だし、本題に入ろう)」
「へっ?」

バーナビーがその場から完全にいなくなった事を確認してから斎藤は再び席に着くとそう言った。
斎藤の思わぬ言葉に虎徹は目を丸くした。

「斎藤さん。……さっきのを見せたかったんじゃねぇの?」
「(もちろんそれもあったけど、本題はこれからさ。さすがにそれは、バーナビーにも聞かせるわけにもいかなかったから、追っ払ったまでだよ)」

虎徹の言葉にそう言いながら、斎藤は忙しく手を動かす。
それに対して、虎徹は眉を顰める。
バニーに訊かせたくないはないとは一体何なんだろうか……?

「(単刀直入で聞かせてもらう。タイガー。何故、能力を二つ持っていた事を隠していたんだい?)」
「!!」

斎藤の問いに虎徹は瞠目した。
どうして、斎藤さんにあの力の事がバレてんだ!?
だが、それをここで認めるわけにはいかない。
あの力については誰にも話さないと決めたのだ。
絶対、はぐらかさなければ……。

「なっ、何言ってるんっすか、斎藤さん? 俺の能力はハンドレットパワーだけ――」
『……わかるか? 彼女は自分が死ぬ前にすべてを予言してたんだよ。自分と同じ力を……『時空を操る』力を持つ人間がこの時代に現れる事をな! それが、あんただよ! ワイルドタイガー!!』
「!!?」

虎徹は何とか誤魔化そうとそう口を開いた途端、斎藤がPCモニターに映し出された映像の再生ボタンを押した。
そして、そこから流れる映像に虎徹は言葉を失う。
それは間違いなく、あの時のロビンとの会話だったから……。

「(昨晩、君のスーツを回収した後、マスクに搭載しておいたカメラを解析させてもらったよ)」
「どうして……」
「(こうでもしないと、またはぐらかされると思ったからね)」

モニターから流れる映像に戸惑いを隠せない虎徹に対して斎藤はそう言葉を続けた。

「(大丈夫。この映像は誰にも見せていないし、話すつもりもない。だから、バーナビーも追い返したんだ)」
「…………本当に、誰にも言わないですか?」

虎徹の問いに斎藤はコクリと頷いた。
これ以上、斎藤さんに嘘をつくことは無理だろう。
そう判断した虎徹は観念したように溜め息をつくと口を開くのだった。





















「(…………つまり、一年後の事件がきっかけで、その力が目覚めて暴走してこの時間軸にタイムリープしてしまった。……そういうことでよかったかい?)」

一通り虎徹の話を聞いた斎藤はそう言った事に対して虎徹は頷いた。
斎藤さんにはトキの事やトキとのゲームについては話さず、それ以外の事はすべて包み隠さず話した。
唯でさえ、過去に戻ってきてしまったというだけでもぶっ飛んだ話だというのに、それに加えて神様と己の運命を賭けてゲームをしているだなんて、さすがの斎藤さんでも信じてはくれないだろうと考えた為だ。

「(……なるほど。だから、昨日の昼間の事件もあんな行動をとったわけか……)」

そのおかげか、斎藤は虎徹の話をあっさりと信じてくれた。
昨日の昼間の事件でのパーナビーに対する奇妙な行動、そして昨晩のロビン事件に対する早すぎると言っていいほどのあの動き。
斎藤が今まで疑問に感じていた事は虎徹の言葉ですべて解消された。

「(タイガー。この事は私とタイガーの二人だけの秘密にしよう。この事が周りに知られたら、またロビンみたいな事を企む輩が現れるかもしれないしね)」
「えぇ。わかってますよ」

俺自身そう思ったから、斎藤さんにも話す事を躊躇ったわけだし……。
だが、斎藤さんに話せて少しだけホッとしていることもまた事実である。
ずっと、この事を独り抱えていかないと思っていたが、思わぬ形で強力な協力者を得る事ができたのだから……。

「(……それと、タイガ―。君には、定期的に私の診察を受けてもらうよ)」
「へっ? なんでまた……?」
「(NEXT能力を二つ持つ人間なんて、そうそういるもんじゃないし、ましてやそれが『時空を操る』力なら、調べてみたい思わない研究者はいないよ)」
「なっ、何だよそれ! ひっでぇな、斎藤さん;」

斎藤の言葉を聞いて虎徹は呆れたように溜め息をついた。
やっぱり、この人にバレたのはマズかったんじゃないのか……。

「……もういいでしょ。俺、トレーニングに行きますよ」
「(あぁ。でも、あんまり無理はするなよ)」
「へいへ〜い。わかってますよ」

斎藤の言葉に虎徹は軽く返事をするとそのまま開発室を後にした。

「(…………本当は、それだけじゃないんだけどねぇ)」

タイガーに言った事は嘘ではない。
だが、それ以上にタイガーの身体の事が心配なのだ。
昨晩、タイガーはあんな状態に陥ったというのに、病院で検査を受けた結果は正常だった。
その結果は明らかにおかしいと斎藤は考えている。
タイガーがあんな状態になったのは、明らかにあの力を使った後遺症だ。
それが、今の医療技術では発見できない。
タイガーのあの力は、現代の医療技術に追いついていないのだ。
タイガーはあの力を使うつもりはないと言っていたが、力の制御自体ままならない状態であることも言っていた。
何時どんな拍子であの力を発動させてしまうかわからない状態なら、またああいった事態になってしまう可能性だってあるという事だ。
今回は偶々助かったからいいものの、もしかしたら命を落としていたかもしれないのだ。
だから、日々タイガーの身体を調べて最悪の事態を避けなければいけない。
それを正直にタイガーに言わなかったのは、彼の性格を考えての事だった。
正直に話せば、タイガーは自分に迷惑をかけまいと身体の不調をギリギリまで隠すだろう。
それでは、もう遅いのだ。

「(……さて、これから色々と忙しくなりそうだ)」

自分にできる事は、タイガーのサポートのみだ。
それを行うべく、斎藤は己の開発したヒーロースーツを改善すべく、PCに向き合うののだった。
























神様シリーズ第1章第29話でした!!
前回の斎藤さんとのやりとりでクソスーツの件をカットしてしまったので、無理矢理捻じ込んでみましたvv
クソスーツの件は本編でも何気にお気に入りのシーンだったのでww
ここに来て、斎藤さんという強力な助っ人をゲットしました!よかったね、虎徹さん!!
若干、バニーちゃんがストーカーみたいですが、そこはお気になさらずに;


H.25 5/9



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