『我が名はクロノス。お前に私の力『時空を操る』を分け与え、一年前のこの時間軸へ戻した張本人だよ。我が愛しき玩具、鏑木虎徹よ』

男――クロノスはそう楽しそうに嗤ってそう言った。






〜神様ゲーム〜








「お前……何言って――」
『一年後のあの日、私はジャスティスタワーの最上階に足を踏み入れた』

虎徹の言葉を遮り、クロノスは語りだす。

『この街の運命を担う人物を一目見ておこうと思ってな。そして、そこで私は二人の男を見た。一人は子供のように泣きじゃくる金髪の青年。そして、もう一人は……既に息絶えた美しき男。……お前の事だ、虎徹』
「!?」

クロノスの言葉に虎徹は瞠目した。

(死んだ……俺が……?)

ジャスティスタワーでのあの闘いで俺は命を落としたというのか?
違う! 俺は、あの場で気を失っただけだ! 死んだなんてあり得ない!!

「お前……笑えない冗談はやめろよ」
『冗談ではない。私は見たまま、感じたままを話しているだけだ。……あの時、触れたお前の肌は……冷たかったぞ。だから、私の力をお前に与え、この時間軸に戻したのだ。実際に動くお前を見てみたいと思ってな』
「うっ、嘘だ。そんなわけ……」
『ならば、お前が持つその力をどう説明する? 人でもNEXTでも扱えないその力を何故扱える?』
「そっ、それは……」
『それは、神であるこの私がその力を与えたからだ』

戸惑う虎徹に対してクロノスは、はっきりとそう言った。

「だっ、だからってそんなこと普通信じられるかよっ!」

俺にあの力を与えたのがこの神だという男である事はまだ信じてもいい。
だが、俺があの場で命を落としたという事だけはどうしても信じる事ができなかった。
それを信じてしまったら、楓はどうなる?
あいつを独り残して死ぬわけにはいかねぇんだよ。

『あ〜、やっぱ信じたくないよねぇ。一年後には死んじゃうなんて。……だが、これは紛れもない事実だ。さっき言っただろう? この街の運命を担う人物を私は一目見に来たと……。あれは、お前の事さ。お前の死によってこの街は崩壊の道を辿るのだ』
「! それ……どういう意味だよっ!!」

虎徹の反応を楽しむかのようにクロノスは嗤ってそう言った。
それに対して、虎徹は声を上げる。
理解できなかった。
俺の死がどうやったら、この街の崩壊へと繋がるのか……。

『お前達が戦っていた……アンドロイドと言ったかな? あれがいい具合に暴走して、この街は火の海と化す。……そして、この街にいる者は……誰一人助からない』
「! うっ、……嘘だ。そんなわけ……」

そんな事ありえない。この街にはバニーがいるのだ。
バニーだけじゃない。スカイハイ、ブルーローズ、ロックバイソン、ファイヤーエンブレム、ドラゴンキッド、折紙サイクロン、みんないるのだ。
ヒーロー達が力を合わせれば、負けないはずだ。

『忘れたのか? お前達、ヒーローと呼ばれる存在が束になってもあのアンドロイドには敵わなかったのだぞ。それが、何体もいて、しかも暴走しているんだ。誰も奴らを止められはしない』
「けっ、けどっ!!」
『往生際が悪いなぁ、お前は』

反論しようとする虎徹に対してクロノスは虎徹の顔を覗き込むようにグッと顔を近づける。

『そ〜んなに信じられないんだったら、見せてやるよ。真実を……』

そう言いながら、クロノスはゆっくりと手を伸ばし、虎徹の額へと触れた。

「っ!!」

その途端、虎徹は激しい頭痛に襲われ、声にならない声を上げる。
それと同時に脳に直接、映像が流れ込んでくる。
それは、この街が火の海と化す光景。
暴走するアンドロイド達に人々は恐怖に慄き、逃げ惑う姿。
そして、人々はアンドロイド達によって無残にも殺されていく姿。
その中には、楓やバニー達の姿もあった。

(嘘だっ!!)

その光景に耐え切れず、虎徹は耳を塞ぎ、目を閉じた。
だが、耳を塞いでも、目を閉じても脳に直接流れる映像から目を背く事も人々の悲痛な悲鳴を遮断することもできなかった。
こんな事、信じられない。いや、信じたくない。
これが、俺が死んだあとの未来だというのか。
俺が死んだから、こうなったとでもいうのか。
信じたくなくても信じざる得なかった。
こんなものを見せられたら嫌でもわかる、これが紛れもなく真実である事を……。

『おっ! やっと、私の言った事を信じたみたいだなぁ。よかったよかった♪』

それを虎徹の表情から読み取ったクロノスは虎徹の額から手を放すと嬉しそうに嗤ってそう言った。

『じゃ、そういうわけだからさぁ。残り一年、精々楽しんでくれよ』

自分の言いたい事だけ言ってそれに対しての虎徹の反応を見て満足したのか、クロノスはそう言うと虎徹に背を向けるとその場から後にしようとした。

「…………おい。ちょっと待てよ」
『あ?』

虎徹の声にクロノスは振り返る。
虎徹は俯いていて、先程知った真実にジッと耐えるかのように拳を握りしめているのがよくわかる。

「……何なんだよっ! さっきからっ! 勝手にわけわかんねぇ力俺に渡して! 勝手に過去に戻して! 終いには知りたくもなかった未来まで教えやがって、それで残りを楽しめだって? 楽しめるわけねぇだろうっ! ふざけるのもいい加減にしろよっ!!」
『未来の話については、私の話を信じなかったのお前が悪い。私だって、この事は話すつもりなんてなかったぞ』

虎徹の言葉にクロノスはそう言うと大きく溜め息をつく。

『……なら、お前はこれからどうするというのだ?』
「決まってる! こうなる未来がわかってるなら、そうならないように変えるだけだっ!!」
『…………未来を……変える、だと?』

そう言った虎徹の言葉に対して、クロノスの顔から初めて笑みが消えた。

『……お前達は知らないと思うが、この世に生きとし生けるものすべてのものは予め、どう生きるか定められているのだ。人の言葉でいえば必然、運命と言うべきかな? お前達が自ら考え、行動したと思った事柄も初めからそうなるように世界に仕向けられていただけにすぎんのだ』
「そんなわけ――」
『それはお前がよく知っているはずだ。今日の昼間の事件、お前は起こりうる事すべてわかっていたはずだ。己の手でお前の娘を助けることだってできたはずだ。なのに、何故お前のその手はお前の娘に届かなかった? あの時、偶然に能力が切れ、氷で滑って転んだからか? それは違う。あの娘は、お前の相棒に助けられる運命だった。そして、そうなるように世界が動いただけだ』
「なっ!?」

クロノスの言葉に虎徹は動揺した。
あの時、楓を助けようと必死に手を伸ばした。
今度こそ楓を助けられると思った瞬間、俺のNEXT能力が切れた弾みでこけてしまい、結局あの小さな手をこの手で掴む事はなく、バニーの腕の中に委ねられてしまった。
あれは、運がなかったのではなく、初めから楓がバニーに助けられるように仕向けられていたとこいつは言うのだ。
だったら、あの時バニーが魘されていたのは何なんだ?
綺麗な顔を苦痛に歪めたあれも必然だったと言うのか?
俺にあの時NEXT能力を使わせる為だけに仕組まれていたとでもこいつは言うのか?
それが真実だというのなら、それはとても恐ろしい事だと思う。
己の考えている事すべてそうなるように世界に仕向けられているのだと考えると……。

『……人の運命はどう足掻いても決して変えられぬ。私が宣言してやる。一年後のあの日、お前は必ず死ぬ。そして、この街も滅ぶのだ』
「っ!!」

クロノスの言葉に虎徹は声を失う。
今目の前にいるこの神に受けたのは間違いなく、己の余命宣告である。
一年後のあの日に俺は必ず死ぬと、そうはっきりと迷いなく神から言われたのだ。
それが怖いわけがない。
でも、それ以上に怖い事があった。
俺の死がきっかけで、大切な存在――楓やバニー達の命までも奪ってしまう事だ。

「……それでも…………っ!」

そう口から出た虎徹の声は酷く震えていた。
だが、そんなことは関係ない。
クロノスを見つめる琥珀の瞳に強い光が帯びる。

「…………それでも俺は、こんな結末になる事を知っていて何もしないでいるなんてできねぇんだよっ! …………こんな……誰も幸せにならない運命だったら……俺が変えてやるっ! 運命なんて、この手でぶっ壊してやるよっ!!」
『……《正義の壊し屋》ワイルドタイガーが次に壊すものは、己の運命。……これは面白いっ!』

まるで、虎徹の言葉を待っていたかのようにクロノスは楽しそうに嗤った。

『なら、虎徹よ。お前の運命を賭けて一つゲームをしようではないかっ!』
「ゲームだと?」

眉を顰めてそう言った虎徹の言葉を聞いたクロノスは頷いた。

『そうだ。もし、お前が運命の日を生き抜けたら、お前の勝ちだ。そうなったら、この街にいる人々を暴走したアンドロイドから私が守ってやろう』
「!本当か!?」
『ただし、運命の日を生き残れず死んだ場合、強制的に昨日のあの時間軸にタイムリープしてもらう』

喜ぶ虎徹に対してクロノスはそう話を続ける。

『そして、再び己の運命に贖ってもらう。お前が運命の日を生き抜くまで何度でもだ。そして、お前が運命の日を生き抜くことを諦め、己の運命に贖う事を止めた時点で私の勝ちだ。その場合……』

クロノスはそう言いながら、一歩ずつ虎徹に近づくと最後には虎徹の頬に優しくキスを落とした。

『……お前は、私のものになってもらう』
「はあああぁっ////」

突然のクロノスの言動にわけがわからず、虎徹は頬を赤らめる。

「おっ、お前、なっ、何言って――」
『嫌なら、この話はなしだ』

途切れ途切れの虎徹の言葉をそう言ってクロノスはバッサリと切り捨てた。

『それにお前一人あの日を生き残れば、この街の人々は皆救われる。失敗しても何度でも挑戦できるのだ。……お前にとってこのゲーム、メリットしかないと思うがなぁ?』
「…………んじゃぁ、何でお前はこんなゲームするんだよ?」
『そうだなぁ。強いて言うなら……『言っても聞かないから実力行使』かなぁ♪』
「!!」

虎徹は理解した。こいつは確信しているのだ。
俺が何度やっても運命を変えられないと……。

『さぁ、どうする? 決めるのは、お前だ』
「……そんなもん、答えは決まってるっ!」

挑発するようなクロノスの言葉に別に乗ったわけじゃない。
これは俺の意思だ。他の誰かが決めたわけじゃない。

「そのゲーム乗ってやるよっ! そして、証明してやるよ! 運命なんて、自分の手でぶっ壊せるって事をなっ!!」

そう言った虎徹にもう迷いなどなかった。
運命が何だって言うのだ。そんなもん、いくらでも変えられる。
この分からず屋にその事を俺が証明してやるっ!

「勝負だ! えっ、えっ〜〜と…………トキ?」

ビシッと指を立ててそう言った虎徹であったが、最後の一言を聞いたクロノスは思わず力が抜け、こけそうになる。

『私の名はクロノスだ! クロノス! ちゃんとそう名乗っただろう! どうしたら、私の名がトキになるっ!?』
「へっ? だってお前、時空神だろ? 時間だから、トキ。こっちのほうが短いし覚えやすい」
『そういう問題ではない!』
「そう。じゃぁ……トッキーとかどうだ?」
『…………もういい。……トキでいい;』

真顔でそう言った虎徹に対して、クロノスは大きな溜め息をつくとそう言った。
ダメだ、これ以上話しても無駄だ。
これ以上、酷い愛称を考えられて呼ばれるよりはマシだろうとそう悟ったのだ。
虎徹は己の相棒である青年に対しても『バニー』などと男としてはある意味屈辱的な愛称で呼ぶ男なのだ。
それに比べれば、これはまだマシなほうだ。
だが、正直納得いかない。私の名前はクロノスだ。
断じてトキではない。自分の事をトキと呼んだ人物なんて誰一人――。

――――ええ〜、いいじゃない。トキってほうが可愛げがあるでしょ? それに、あなたの事をそう呼べるのは私だけってなんか特別な感じがしていいでしょ?
『!!?』

突如、頭に浮かんだのは一人の少女の姿とその言葉。
自分へと優しく微笑みかけてそう言っているであろうその顔はまるで黒いマジックペンで塗り潰されたかのように真っ黒でわからなかった。

(誰だ……?)

知らない。これが誰なのかわからない。
こんな言葉なんて聞いたことなんてない。
なのに、何故だ? 何故、こんなにも懐かしいと感じるのだろう……。

「おっ、おい。……どうかしたか?」
『! なっ、何でもない///』
「? そうか? ならいいけどさぁ……」

突如、動きを止めたクロノスが心配になったのか、クロノスが我に返った時には虎徹の顔が間近にあった。
それに驚いたクロノスは思わず、赤面するとすぐさま虎徹から顔を背けた。
正直、自分が何故こんなにもドキドキしているのかわからなかった。
クロノスのその行動に虎徹は少し不思議そうな表情を浮かべているが特に気にしていないようだった。

「まっ、いっか! これからよろしくな! トキ!!」
『……お前が何度繰り返した時点ですべてを諦めるか。精々頑張るんだな』
「い〜や。何度繰り返したって俺は諦めねぇぞ」

笑みを浮かべてそう言った虎徹に対してクロノスは皮肉めいた言葉をかける。
それに対して虎徹はケロッとした表情を浮かべてそう言った。

「それにさぁ、俺は繰り返さないよ。この一回ですべてを終わらせてやるよ」
『! ……その強がりがいつまで続くか、見ものだな』

笑みを浮かべてそう言った虎徹の言葉にクロノスは心底驚いたような表情を浮かべたが、すぐにまた皮肉めいた笑みを浮かべるとその場から姿を消した。
こうして、時空神クロノスと虎徹の運命をかけたゲームの幕が揚がり、虎徹の長い一日が終わりを告げるのだった。
























神様シリーズ第1章第27話でした!!
今回の章はここがほぼメインな感じですかねぇ。
クロノスの「《正義の壊し屋》ワイルドタイガーが次に壊すものは、己の運命」と言わせたかっただけでした。
シリアスのまま終わらせようかと思いましたが、ちょっとした笑いもいれてみましたvv
さすがに「トッキ―」はないよ;虎徹さん


H.25 5/2



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