「ごめんなぁ、楓ぇ;」

テーブルの上に置いた電話から浮かび上がる楓のホログラムを見ながら、虎徹はそう言うと先程作ったばかりのチャーハンを口に掻き込んだ。
あの後、大泣きする親友を何とか宥め、パレードに参加することなく病院へと搬送される羽目となった。
俺自身は大丈夫だと言ってパレードに参加しようとしたが、ブルーローズやスカイハイ達に猛反対され、渋々折れるしかなかった。
病院に着いた後は、簡単な検査を受けた。
検査の結果、特に身体に異常がないと診断され、漸く長い一日から解放されたのだった。
正直、呼吸することを忘れる程の激しい頭痛に襲われたにも拘らず、身体に何も異常がないと診断された事には驚いたが、変に調べられてあの力がバレるよりはマシだろう。
今後は、この力について取り扱いは注意すべきだろう。
変にこの力を使って、ロビンみたいな奴に狙われる可能性だってあるのだから。
それに何より、この力を使うと酷く体力が消耗されるからだ。
以後、気を付けよう。

『もう! ホントに怖い目にあったんだからね!!』

そんなことを考えていると電話の向こうからムッとしている事が容易に想像できるような楓の声が辺りに響いた。

「パパがいればぁ〜、楓の事ちゃ〜んと守ってやれたのになぁ〜」

それに対して虎徹は優しくそう応えた。
本当はあの場にいたのにあと一歩のところでその手を掴む事が出来なかった。
今度こそ、この手で助けたかったのに……。

『お父さんがいないくても大丈夫! バーナビーっていう新しいヒーローがいてね。楓の事、助けてくれたんだよぉ! すっごくカッコよくてね! もうファンになっちゃったぁ♪』
「……あぁ、そっか。……そう、だよなぁ;」

凄くはしゃいでそう言った楓の言葉に虎徹は苦笑いを浮かべてそう言うしかなかった。
わかっていた事だが、またバニーに先を越されてしまった。
長年願っていた楓から『カッコいい』っと言ってもらう事をだ。
俺はこの言葉をいつになったら、楓に言ってもらえるのだろうか?

「…………なぁ、楓?」
『何? お父さん……?』

虎徹のいつもとは違う声に楓は少し不思議そうにそう言った。

「…………もし、パパが……ヒーローのワイルドタイガーだって言ったら……どう思う?」

虎徹は今まで決して言わなかった真実を娘に問いかけてみるのだった。






〜神様ゲーム〜








『……はぁ? お父さんがワイルドタイガー? そんなの絶対ありえないでしょ; お父さんの隣にバーナビーがいるなんて;』

虎徹の問いに楓は怪訝そうにそう言った。

「はは。……そうだよなぁ。パパがヒーローなんてありえないよなぁ;」

楓の言葉に虎徹は唯苦笑いを浮かべるしかなかった。

――――どうして黙ってたの! お父さんがヒーローだってこと! 子ども扱いしないでよね!!

ふと、あの時の楓の言葉が頭に過ぎった。
そうだよなぁ。ああいう状況に陥ったから楓は俺がヒーローだって信じたんだよなぁ。
今の俺がそんな事を言っても冗談でしか聞こえないのだ。
それくらい今の俺は楓に信頼されていなのだ。

『…………でも、少しだけだったら……付き合ってあげてもいいよ』
「へっ?」

そう言った楓の言葉が理解できず、虎徹は変な声を上げた。

『だーかーら! たまにだったら、そのホラ話聞いてあげてもいいって言ったの! ……もちろん、バーナビーメインだけどね』

別にお父さんの話を信じたわけじゃない。
だって、お父さんは嘘つきだもん。
私と約束をしても守ってくれた事なんて殆どなかった。
今日だってそうだ。ずっと、お父さんが来るのを待っていたのに来てくれなかった。
ずっと、お父さんが助けに来てくれることを待っていたのに……。
だから、嘘つきのお父さんの話なんて信じられない。
だけど、お父さんの話を信じたい気持ちもある。
だから、少しだけならお父さんのホラ話に付き合ってもいいと思った。
それにそのホラ話に付き合っていたら、もっとお父さんと話ができるような気がしたから。
少しでもお父さんの傍にいられない寂しさを紛らわせると思ったから……。

『……だから、次電話するときはもっと面白いホラ話考えといてねっ! じゃあっ!!』
「おっ、おい、楓……」

楓はそう言うと虎徹の返事を聞かずにそのまま勢いよく電話を切ってしまった。

「面白い……ホラ話、か……」

ソファーに凭れ掛かってそう言った虎徹の表情は何処か安堵していた。
もう全く楓には信じてもらえないだろうと思っていた。
でも、楓は少しでも俺の事を信じようとしてくれているのだとわかった。
これで、少しでも楓に寂しい思いをさせずにすみそうだ。
実家に帰った時に見た楓のあんな泣き顔はもう見たくないのだ。

『…………いい娘だなぁ』
「……そうだよなぁ……!?」

突如聞こえてきた声にそう相槌を返した瞬間、虎徹は瞠目した。
おかしい。自宅には俺しかいないはずなのに俺以外の声が辺りに響くなんて……。
ちゃんと鍵もかけたはずだ。
虎徹は恐る恐るその声が聞こえた方へと視線を向けた。

『しかし、この焼き飯うまいなぁ♪ これ、本当にお前が作ったのか?』
「!!?」

そこには、見知らぬ男が一人。
光を全く通さないような漆黒の長髪に藍色と金色のオッドアイの男がそこにおり、作り過ぎて明日の朝食にでも食べよう台所に置いておいたチャーハンを食べていた。

「おい! 人のチャーハン勝手に食うなよ!! つーか、誰だぁ! お前ぇ!?」
『……食い付く話題の順番が逆なような気がするのだが?』

虎徹の反応に男は、何処か呆れたような表情を浮かべた。

「うっせぇ! 食いもんの恨みは怖ぇだぞ!!」
『いいではないか。たかが、焼き飯の一つや二つ。減るもんじゃないし……』
「よくねぇし! つーか、減るだろう!!」
『あぁ、言われてみればそうだな……』
「うう……。俺のチャーハン……」

好物のチャーハンを食べられた怒りからか呻っている虎徹に対して男は楽しそうに笑う。
まるで、敢えて虎徹を怒らせて楽しんでいるようだった。

『まったく……命の恩人に対して酷い言いようだなぁ』
「何……?」

溜め息をついてそう言った男の言葉の意味が虎徹は理解できなかった。
この男とは今初めて会ったのだ。
なのに、彼は自分の事を命の恩人だとい言う事が理解できなかった。

『ああ、そうか……。この時間軸では、まだお前とは出会っていなかったなぁ』

虎徹の表情からそれを読み取ったのか、男は納得したような表情を浮かべてそう言った。

『我が名は時空神クロノス。お前に私の力『時空を操る』力を分け与え、この時間軸へお前を戻した張本人だよ。虎徹』

そして、男――クロノスは笑みを浮かべてゆっくりとそう言ったのだった。
























神様シリーズ第1章第26話でした!!
今回、楓ちゃんにヒーローであることを告白してみましたが、全然楓ちゃんに信じてもらえなかった虎徹さんでした。
楓ちゃんは楓ちゃんなりに虎徹さんの事を信じたいし、傍にいられなくて寂しいから仕方ないよね;
ついに虎徹さんとクロノスの邂逅です!
虎徹さんのチャーハンを勝手に食べちゃうクロノスとのやりとりが楽し過ぎたww
ちなみにですが、牛角さんの会社名の『クロノスフーズ』のクロノスは、「農耕の神」の方となります。


H.25 5/2



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