嘘だ! これは何かの間違いに決まっている。 これは、あの男の悪ふざけなんだ。 そうでなければ、この状況をどう説明できるというのだ。 今、僕が抱きかかえる男が息をしていないなんて、悪夢でしかないのだから……。 〜神様ゲーム〜 どうしてこうなった? だってあの時、僕へと向かって叫んだこの男はまだ、元気そうに見えたのだ。 なのに、どうしてこうなったのかわからなかった。 だが、この男が今息をしていないことは紛れもない事実だった。 「おじさん……しっかりしてくださいっ! おじさんっ!!」 突然の出来事にバーナビーはどうしていいのかわからなかった。 いつも冷静に物事を考えられる思考が全く働かない。 こんな事、初めてだった。 何故、こんなにも自分が動揺しているのか理由もわからず、この状況を何とか変えようと必死に冷静に物事を判断しようと試みる。 すると、男の身体がまだ温かい事に気が付く。 今ならまだ間に合う。 そう思ったバーナビーは何の躊躇いもなく虎徹の気道を確保し、唇を交わした。 そして、身体に酸素を送り込む。 人工呼吸のやり方は心得ていたが、実際に行うのはこれが初めてだった。 この男を死なせてはいけない。いや、死なせたくない。 そんな思いが頭に過っている事にすら気付かず、バーナビーは必死に人工呼吸をし続けた。 「…………っ!」 「! ……おじさん!?」 すると、突如虎徹の身体が震え、瞼が微かに動いた。 それを見たバーナビーは人工呼吸をする事を止め、虎徹の顔を覗き込んだ。 虎徹の瞼がゆっくりと上がるとそこから現れたのは美しい琥珀色の瞳。 光の当たり加減によっては金色に変わる瞳が現れる。 こんな状況なのに、その瞳の色の美しさに息を呑み込みそうになった。 虚ろだった瞳が徐々に光を取り戻し、その視線はしっかりとバーナビーを捉えていた。 「…………バニー……ちゃん?」 「っ!!」 たった一言だ。 たった一言、その声を聞いただけで、自分の中から何かが溢れだすのを感じた。 その感情が何なのかバーナビーは理解できなかった。 バーナビーの様子を見た虎徹は驚いたように目を見開く。 「! ……バニーちゃん。…………泣いてるのか……?」 「っ!!」 虎徹の言葉で漸くバーナビーも気付く。 己の頬に冷たい何かが伝っている事に……。 それが己の流した涙であることに………。 それを見た虎徹はそっと手を伸ばしてバーナビーの頬を伝う涙を拭って苦笑した。 「……馬鹿だなぁ……別に泣くことねぇだろ。……ホント、泣き虫のウサギちゃんだなぁ、お前」 「なっ、何言ってんるですか、貴方は! 僕は泣いてなんかいませんっ! これは……汗ですっ!!」 そう虎徹に言われたバーナビーは思わずそう声を上げた。 「照れちゃって。ホント可愛いなぁ、バニーちゃんは!」 「っ////」 それに対して、虎徹はニッと笑うとバーナビーにそう言った。 それを見たバーナビーは思わず、赤面する。 この男は、本当に先程まで死にかけていたとは思えない言動する。 「だっ、大体! こうなったのも、全部おじさんのせいじゃないですか! ……おじさんが、ロビンなんかに攫われるから……」 そう口にした途端、また瞳から涙が溢れてくるのを感じた。 もう大丈夫だと、この男は死んでいないとわかっているのに、涙が止まらない。 「……ごめんな。……お前に迷惑かけちまって……」 「本当ですよ。……僕がいなかったら……貴方、死んでたかもしれないんですよっ!」 「……そっか。悪かったなぁ。……でも、もう大丈夫だから。…………俺は……そう簡単には、死んだりしねぇよ」 バーナビーの言葉に虎徹は優しく微笑んでそう言った。 それは、まるで泣いている子供をあやすような優しい声だった。 「…………貴方の言う事なんて、信じません。……嘘つきの貴方なんて…………大嫌いですっ!」 「……そっか。そうだよなぁ。…………ごめんな、バニーちゃん」 バーナビーの言葉に虎徹は苦笑してそう言うしかなかった。 正直、バーナビーの言葉に胸が痛むが言い返すことはできなかった。 バニーの言う通り、この状況を作り出してしまったのは紛れもなく俺自身なのだ。 そして、バニーを泣かせてしまったのだ。 ごめんな、バニー……。 もう俺のせいで泣いて欲しくないと思っていなのに、またやってしまったのだ。 またと言っても、その事をバニー自身は覚えていないだろうけど。 本当にごめんな。 「…………」 虎徹の言葉にバーナビーは何も言葉を返さなかった。 そしてその数分後、その場に現れ、虎徹の名を叫び、大泣きしながらロックバイソンに抱きつかれた虎徹は、その後に行われたパレードに参加することなく救急車に運ばれて病院に搬送されるのだった。 『…………本当、面白いものが見れたなぁ〜♪』 そんなヒーロー達の、虎徹の行動をずっと遠くから眺めていた男は楽しげにそう呟いた。 男はまるで夜空に溶け込むように存在していた。 少しの間、彼を放置していれば面白いものが見えるのではないかと思っていたが、予想以上に楽しめた。 そして、男は何より彼に対してさらに興味が湧いた。 まさか、彼があの力にこんなにも早く気が付き、尚且つその力を己に意思で使った事にだ。 力の存在に気付いたのは、ロビンとかいうコソ泥の存在もあったことも大きいだろう。 だからと言ってあの力を彼が使えたとは限らない。 今まで、男はあの力を何人もの愚かな人間共に与えてきたが、こんなにも早く力を自らの意思で使えた者は誰一人いなかった事を覚えている。 やはり、自分の見る目は間違っていなかったようだ。 彼の相棒ではなく、彼を選んだ事は間違っていなかった。 彼は私にとって、この退屈な時間を潰す為の愛玩具にふさわしい。 『…………さぁ、そろそろネタばらしとしますか』 このままずっと放置していても面白そうだが、もっと近くで彼を見てみたいという思いもあった。 彼に全てを話したら、一体どんな表情を浮かべるのだろうか? あの綺麗な顔が絶望で歪むかと思うと楽しくて仕方ない。 男は、彼――虎徹に逢う為に身を翻して、夜空にその身を溶け込ませるように消えるのだった。 神様シリーズ第1章第25話でした!! 前回で息のしていない虎徹さんにバニーちゃんのキスにて目覚めさせたくて書きました♪ 後、虎徹さんに「簡単にはしなねぇから」とバニーちゃんに「嘘つきな貴方が大嫌いです」を言わせたいが為に書いた回でした。 素直に自分の気持ちに気付かない天邪鬼なバニーちゃんが大好きですっ!! 次回ついに、虎徹さんと神様との邂逅となりますっ!! H.25 5/2 次へ |