「さぁ……それはどうかなぁ?」

自信に満ち溢れ、相手を挑発するような言葉。
そして、レールの上に腕を組んで立っている姿。
それは、間違いなくあの時に隠れて見聞きしていた光景と全く同じであったことを虎徹は思い出していた。






〜神様ゲーム〜








今、目の前に自立しているヒーロースーツは所々発光しており、一目見ただけではその中が空っぽであることには気付かないだろう。
虎徹はロビンに気付かれないように視線を動かし、辺りを見渡す。
すると、柱の物陰からアンダースーツだけの姿となったバニーを見つけた。
やはり、バニーはこの作戦を実行してくれたのだ。
後は、油断したロビン目掛けてあの円錐状の柱の上部を被せるだけだろう。

(…………ちょっと待てよ)

今の状況にふと、虎徹は思考を巡らせる。
確かにこの作戦は前回では成功している。
だが、今回は俺がこの場にいることで状況が大きく変わってくるのではないかと思い始めた。
ロビンが油断さえ見せれば、俺がいようがいなかろうがバニーは容赦なく柱のオブジェを蹴るだろう。
それはそれで酷いとは正直思うが、ロビンを捕まえる為には仕方ない事だ。
問題はロビンのほうだ。
前回はヒーロースーツのみのバニーと入れ替わろうとしてNEXT能力を発動させても能力が発動しなかったことにロビンは動揺して隙が生まれたのだ。
だが、今回はその隙が俺がいることで生まれない可能性がある。
ロビン曰く俺には『時空を操る』力があるらしい。
そんな俺の近くで今のロビンがNEXT能力を発動させたらどう思うだろう?
ロビンは間違いなく俺が『時空を操る』力を発動させて、ロビンのNEXT能力を相殺させたと勘違いするに違いない。
その結果、ロビンは油断するどころか警戒を強め、あそこに立っているのがバニーのヒーロースーツだけであることに気付かれかねない。
そうなったら非常にまずい。
そうなる前に全てを終わらせなければ……。
ロビンが能力を発動させる前に……。
ふと、虎徹は身体の状態を確認する。
薬の効果が切れかけてきたのか先程と比べて身体に力が入ることがわかった。
これなら、なんとかいけそうだ。
全てを覚悟した虎徹は賭けに出る。

「…………この勝負、俺の勝ちだ。もう諦めろ、ロビン」
「はあっ? なーに言ってんだよ? あいつと入れ替わっちまえば、俺の勝ちさ!」

虎徹の言葉に何を言われたのかわからず、ロビンは眉を顰めた。

「……さぁ、それはどうかなっ!!」
「なっ!?」

次の瞬間、虎徹はハンドレッドパワーを発動させ、思いっきりロビンの身体を押した。
突然の虎徹の行動にロビンは驚き、思わず虎徹から手を放してしまう。
それにより虎徹は地面に叩きつけられたが問題ない。

「今だ! バニー!!」
「何っ!?」

虎徹にロビンはバーナビーを見る。
勿論、ロビンが見たのはヒーロースーツのバーナビーである。
だが、そのバーナビーは一向に動きをみせない。
虎徹のその声に動いたのは、柱の物陰に隠れていたバーナビーだ。

「はあっ!!」

バーナビーが勢い良く柱の陰から飛び出し、柱のオブジェをキックで切り裂く。
柱から分離したオブジェはそのまま高速回転しながら、ロビン目掛けて跳んでいく。

「上かっ!?」

漸く、バーナビーに気付いたロビンがバーナビーと位置を入れ替えるべく、NEXT能力を発動させようとしたのが見えた。
それを何としてでも阻止しなければ……。

「させるかよっ!!」

虎徹は必死にもう一つの能力を発動させようとした。
正直、もう一つの能力の発動の仕方なんてわからない。
だが、今はそんな事を考えている余裕なんてなかった。
ただ、目の前にいるロビンを逃がすまいと必死だった。
一秒だけでいい。ロビンの動きを封じられるなら……。

「っ!!」

そう強く願った瞬間、すぐに身体に異変が起こる。
先程感じたような激しい頭痛にまた襲われる。
そして、虎徹の力がロビンのNEXT能力を相殺させたのか、能力を発動させたにも拘らずロビンはその場に留まっていた。

「! ……タイガー……お前っ!!!!」

それにより、虎徹が何をしたのか全て理解したロビンは咆哮する。
だが、その咆哮が響いた瞬間、ロビンと虎徹の視線は真っ暗になるのだった。





















「……終わりました。ロビン・バクスター、確保」

手首に装着したPDAの回線を繋ぎ、そうバーナビーは告げた。

『よくやったわ、バーナビー! ……タイガーは無事なの?』

バーナビーの言葉を今か今かと待ち侘びていたようにアニエスはそう声を上げた。
その声音はロビンを確保できた事への安堵感と虎徹を心配するものが入り混じっている。

「あぁ……おじさんなら、気を失っているみたいですが、大丈夫みたいですよ」

アニエスの言葉にバーナビーは遠目で虎徹を確認してからそう言った。
バーナビーの言葉にアニエスは漸く安堵の表情を浮かべた。

『…………そう……よかったわ。……すぐにみんなもそっちに向かわせるわ』
「わかりました。それでは」

バーナビーはアニエスの言葉に素っ気なくそう返すと回線を切った。
今、この空間にいるのはバーナビーを除いて二人だけだ。
一人は、強盗犯であるロビン。
彼を今、柱のオブジェの中に閉じ込め、確保に成功したところだ。
先程まで、柱のオブジェに強い衝撃を与えた事によって生まれた音と振動でロビンは絶叫を上げていたが、今は気絶したのかその声も無くなった。
僕がロビン確保へ動いた際、ロビンはこちらの動きに気付いたように見えたのだが、NEXT能力を発動させなかったところから気のせいだったようだ。
そして、ロビンを除いてもう一人この空間にいるのは……。

「……ちょっと、いつまで寝てるんですか。いい加減、起きてくださいよ」
「…………」

僕とコンビを組み、マヌケにもロビンに攫われたこの男である。
正直、この男には驚かせるどころか呆れると言っていいだろう。
あのまま、ロビンにNEXT能力を使わせて、それがうまく能力が発動しない事に動揺した隙を狙って確保すればよかったものの敢えてあの男はそれを邪魔した。
この作戦を考えた本人であるこの男がだ。
僕がうまくあの男の声に反応して動けたからいいものの一歩間違えれば、ロビンに全てバレて作戦が水の泡になっていただろう。
本当にこの男の行動は、理解不能である。

「おじさん! いい加減に…………!」

なかなか起きない虎徹に対してイライラが募り、バーナビーは虎徹へと近づく。
その途端、何とも言えない違和感を覚えた。
自然と背筋が凍りつく。

「ちょっと、おじさん。………悪ふざけなら、やめてくださいよ」

そうだ。これは、この男の悪ふざけなのだ。
そうでなければ、困る。
そうでなければ、笑い話にならないのだ。
顔から嫌な汗が流れるのを感じる。

「おじさん、起きてくださいよ! おじさんっ!!」

堪らず、虎徹の身体を抱きかかえて必死に呼びかける。
今、僕の目の前に広がる光景がどうしても受け入れられない。
もし、受け入れてしまったらそれは多分、悪夢でしかないのだ。
彼が、あの男が……息をしていないという事実を受け入れることなんて……。
























神様シリーズ第1章第24話でした!!
ついに、ロビンさん確保です!最後はちょっとあっけなく終わってしまったのがちょっぴり残念なロビンさんでした;
事情を何も知らないバニーちゃんの反応は当然と言えば、当然かな?
それと同時に訪れたのは、バニーちゃんにとっては衝撃の展開です!
虎徹さんが今後どうなるかは次回のお楽しみです!!


H.25 4/14



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