(……よし、準備は整った)

ライジングコースターの最上部。
バーナビーは自分が着ていたヒーロースーツを脱いで、スーツだけの状態で腕を組ませてあたかも自分がそこに立っているかのようにレール上に配置させた。
これですべての準備が完了した。
後は柱の物陰に隠れてロビンの到着を待つのみだ。
だが、その前にスカイハイさん達が奴を捕まえるかもしれないが……。
そう考えが過ぎった瞬間、アニエスから回線が入った。






〜神様ゲーム〜








『バーナビー。あなたにとってはグッドニュースよ。たった今、ロビンがスカイハイ達を躱してライジングコースターのエントランスを潜ったわ』
「そうですか……」

やはりそうなったかとアニエスの言葉を聞いてバーナビーは思った。
ロビン相手に複数で挑んだ所で鼻から勝ち目はなかったのだ。
奴を相手にするには単独で対峙するしか方法する他ない。
あの男が考えたこの作戦のように……。

『いい? これが正真正銘最後のチャンスよ! ……必ず、ロビンを捕まえてっ!!』
「わかっています。今から、ここでロビンを待ちます。すべてが終わるまで連絡は控えてください。奴に作戦がバレる可能性もありますし」
『……わかったわ。頼んだわよ、バーナビー』

バーナビーの言葉にアニエスは頷くと回線を切った。
そして、バーナビーはロビンを待ち構えるべく、柱の物陰へと移動する。
正直言うとこの作戦がうまくいくか不安もある。
僕が失敗すれば、マーベリックさんが今まで築き上げてきたヒーローの信頼が失われるかもしれない。
それに何より、これに失敗すればあの男はどうなってしまうのだろう?
ここでロビンを捕まえなければ、もうあの男に会うことはない気がする。
あの男の事をどうでもいいと思っているはずなのに、そのことを考えると何故か胸が痛くなるような気がした。

――――当たり前じゃないっ! これが失敗したら、タイガーを助けられないかもしれないのよ! それを新人のあんたなんかに任せられると思うわけ?
――――いい? これが正真正銘最後のチャンスよ! ……必ず、ロビンを捕まえてっ!!

ブルーローズの言葉が、先程のアニエスさんの言葉が僕に重く圧し掛かる。
最終的にはこの役目を僕に託したかもしれないが、彼らはそれに心の底から納得はしていない。
納得させる為には、結果を残すまでだ。
今までに感じた事のない不安に押し潰されそうになる。

――――……それにさぁ……お前だったら、ロビンを必ず捕まえられるって、俺は信じてるからなぁ!

なのに、何故だろう?
あの男の笑顔とあの言葉を思い出すとそれがすべて掻き消されていく。
自分なら何でもできるような気がしてくる。
あの男の事が嫌いなはずなのに、あの男の言動に励まされている僕がここにいるのもまた事実だった。

(……おじさん、貴方は一体何なんですか?)

己が抱く感情がわからないまま、バーナビーはロビンがこの場に現れるその時を待った。





















――――……おね……がい。たす……けて…………。

声が聞こえる。
脳に直接呼びかけられるようなその声はとてもか細い声だった。
その声を初めて聞くはずなのに、何処か懐かしくも感じた。

――――お願い、助……けて……。もう……あなたしか……いないの…………。

途切れ途切れに聞こえるその声はとても必死に俺に助けを求めているのがわかる。
その声にヒーローである俺は応えずにはいられなかった。
俺にできる事なら、応えてやりたいと思った。

――――……あなたにしか……できないの……。お願い……彼を……救って…………!

その声が頭の中に響いた瞬間、虎徹は一気に目が覚めた。

(何処だ……?)

目が覚めた途端、聞こえてきたのはジェットコースターのレールをローラーで滑走する音だった。
まだ、薬の効果が切れていないのか、身体が思うようにいうことがきかない中、虎徹は辺りを確認する。
辺りは緑一色で、巨大な豆や葡萄などの植物のオブジェが辺りに飾られている。
この光景には見覚えがあった。
どうやらここは、ライジングコースターのグリーンゾーンのようだ。

「ん? 何だ、もう起きちまったのか? さっすがヒーロー♪」

すると、頭上からふざけた声が降ってきたので、虎徹は何とか顔を上げるとそこにはロビンお顔があった。

「ロビン! お前っ!!」
「はいは〜い、そんなに怒んないの。俺はただ勝負を公平にしただけじゃん♪」

虎徹がロビンを睨みつける。
だが、ロビンはそれに動じることなく、笑ってみせた。

「まぁ、おかげでヒーロー達を簡単に躱せたぜぇ。これで、この勝負は俺の勝ちが確定だなぁ♪」
「なっ!?」

ロビンの言葉に虎徹は絶句した。
おそらく、アニエスはロビンがここへ来ることを見越してスカイハイ達を待機させていたのだろう。
だが、ロビンはあっさりと躱してここへ侵入した。
己が気絶している間の出来事を想像して虎徹は唇を噛んだ。
だが、まだ諦めてはいない。
その中にバニーがいなかった事を、ここの最上部でバニーが待ち伏せしている事を信じているからだ。

「もうすぐお前は俺のもんだ、タイガー。……その力で俺の望みを叶えてもらうぜぇ」

だが、バニーが最上部で待ち伏せている事を知らないロビンは余裕の表情を浮かべてそう言った。

「…………なぁ、お前はそこまでして過去に戻って何がしたいんだよ?」

ずっと気になっていたことを虎徹はロビンへと問いかける。
ロビンは長年『時空を操る』力を求めて俺を捜していたと言った。
一体そこまでしてこいつは何をしたいというんだ?
俺の耳元で囁いたようにこいつにも過去に失った大切な何かを取り戻したいのだろうか?
だが、次にロビンの口から発せられた言葉は俺が想像したものとは違っていた。

「…………復讐」

そう言ったロビンの声は、今までに聞いたことがないくらい静かなものだった。
そして、人に対する憎悪がロビンの声から滲み出ていた。

「……俺はさぁ、NEXTって言うだけで、すっげぇひっどい扱いを受けてきたんだよ。だから、そいつらに復讐してやりてぇんだ」

別に望んでNEXTとして生まれたわけじゃない。
なのに、NEXTというだけで化け物扱いされてきた。
今まで出会った人々は皆、俺に拒絶の目を向け、平気で残虐な仕打ちをしてきた。
NEXTであっても人と同じように傷付く事を奴らはわかっていない。
幼かった俺に同情する者もいたが、決して救いの手を差し出す者はいなかった。
手を下した奴らも、見て見ぬ振りをしてきた奴らも俺にとっては同罪だ。
そんな愚かな奴らに自分が受けて痛みを味あわせてやりたい。
幼かった時にはできなかったそれが今ならできる。
奴らを嬲り殺せたらどんなに気持ちいいだろうか。
散々俺を痛めつけてきた奴らが、俺に命乞いをするのだ。
きっと最高の気分が味わえるだろう。
それを想像するだけで胸が高鳴る自分は頭がイカれていると思う。

「……そして、すべての復讐を成し遂げた後の仕上げは……俺が生まれる前の両親を殺すことさ」
「! お前……何言って――」
「俺さぁ……生まれてすぐに親に捨てられたんだよね。……NEXTだったっていう理由だけでね……」

唯一無性の愛を注いでくれるはずの両親からも拒絶され、俺は捨てられたのだ。
俺は、生まれてくる事すら誰からも望まれていなかったのだ。
望まれて生まれてこなかったそんな命に何の価値がある?
いっその事生まれてこなかった方が幸せだったんじゃないか?
それに、何より俺は自分が嫌いだった。
自分の事が嫌いな奴の事を一体誰が愛してくれるだろうか?
だから、自分なんてこの世にいなくてもいい存在だと決めつけてこれまで生きてきたのだ。

「だーかーら、俺は自分の手で俺を殺してこのくっだらない人生を終わらせてやるさ」
「お前……」
「おっと、同情はやめろよ。これでもそれなり楽しんでいるし、これを実行するのはお前がその力を使いこなせるようになってからだしな。……その頃には、俺も考えが変わっちまってるかもしれないぞぉ」

誰からも愛されなかった自分は人には興味がなかった。
それ故、物に固執し、欲した物は力尽くで奪ってきた。
そして、人に対しては見下し、小馬鹿にしてきた。
そんな自分が人に初めて興味を持ったのは、『アイオーニオス・クロノス』に登場した《神に愛されし者》(テオフィロス)の少女だった。
絵本に登場する美しく、自分が欲した『時空を操る』力を持った彼女に憧れを抱いていた。
そして、物語の少女と同じく《神に愛されし者》(テオフィロス)であるタイガーと出会い、初めて物以外に固執しだしている。
彼の持つ『時空を操る』力だけでなく、彼自身を欲している。
人を愛せない自分が、人を愛しだそうとしている。
彼と共に時を過ごせば、もっと変われる気がする。
そして、自分自身も好きになれるのではないかと……。

「…………」

自分の言葉にタイガーはただ無言で聞いていた。
やっぱり、タイガーは自分が思っていた以上にお人好しのようだ。
こんな俺に対しても心を痛めているのがはっきりとわかる。
本当に彼は《神に愛されし者》(テオフィロス)そのものだと思った。
彼を自分だけのものにしたい。

「随分、手こずらせてくれたな!」
「!!」

その時、辺りに一つの声が響き、ロビンはその場に立ち止りその声の持ち主を探した。
既に、グリーンゾーン、ミラーゾーンを抜け、スカイゾーンも中盤に差し掛かっていた。
辺りに見えるのは、オーロラのカーテンのみで声の持ち主の姿を捉えることはできなかった。
それが変に不安を煽る。

「もう終わりだっ! ……僕がお前を必ず捕まえるっ!!」
「バニー……」

辺りに響くその声に虎徹がそう呟く。
ずっとその声を待ち望んでいたような虎徹の呟きにロビンはイラついた。
まただ。自分を見ていた彼の琥珀の瞳がその声一つで自分へと向かなくなる。
無性に腹が立った。

「おマヌケなルーキーに俺を捕まえるなんてできるわけねぇだろっ!」

ここでお前なんかに捕まるわけにはいかねぇんだよ!
ここから逃げ切って、俺はタイガーとの勝負に勝利する。
そして、タイガーを俺だけのものにするのだ。
その想いからロビンの口から発せられた言葉に自然と力が入っていた。
そして、ロビンは再びレール上を滑走し、展望台へと繋がる乗降場を目指す。
もうすぐだ! もうすぐすべてが手に入る!!

「さぁ……それはどうかなぁ?」

だが、それを阻むかのように腕を組んで立っているバーナビーの姿にロビンは再び立ち止るのだった。
























神様シリーズ第1章第23話でした!!
今回はロビンさんの過去をかなり捏造しました!
誰からも愛されず、愛し方も知らないロビンが虎徹と出逢うことによって変わっていくのがたまらなくいいなぁと思いつつ書き上げました。
バニーちゃんは自分の思いに未だわからないままですが、少しずつ虎徹さんの存在が多きものになっていってます!
次回バニーとロビンさん直接対決の結果は如何に!!


H.25 4/14



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