重い。まるで鉛みたいに身体が重い。 そして、痛い。頭が割れるかと思うくらい激しい頭痛に襲われた。 それが、意識を手放す前に感じたことだった。 一体俺の身体に何が起きたというのだろうか。 そんな中、意識が徐々に浮上するような感覚を感じ、虎徹はゆっくりと瞼を上げた。 〜神様ゲーム〜 「お〜めざ〜めで〜すかぁ? ワイルドタイガー?」 すると、目の前には酷く神経を逆撫でするような声でそう言ったロビンが立っていた。 「…………っ! お前っ!!」 虎徹の反応にロビンは不敵に笑って見せた。 それを見た虎徹はすぐさまロビンを取り押さえようと身体を動かした。 (えっ……?) だが、力が思うように入らず、虎徹はその場に倒れ込みそうになったところをロビンが支えた。 おかしい。身体が全くいうことをきかない。何でだ? 「あ〜、急に体を動かそうとしてもダメダメ♪」 「……おっ、お前。俺の身体に……何……した」 ロビンは虎徹の身体を元の位置に戻すと笑ってそう言った。 まだ、先程感じた頭痛の余韻が残る中、虎徹は言葉を紡ぐ。 「な〜に。お前が眠っている間にちょ〜っと、弛緩剤を使わせてもらっただけだよ♪ あの馬鹿力で暴れられたら痛そうだし……」 虎徹の問いにロビンは嬉しそうにそう言った。 まるでそれは、子供の悪戯が見つかったかのようなものだった。 「…………それに……何よりまた、あの力を使われたら困るしな」 「な……に?」 ロビンが言っている言葉の意味が理解できなかった。 俺のNEXT能力はハンドレッドパワーだけだ。 ジェイクのようにNEXT能力を二つ持ってなどいない。 だが、今のロビンの口振りはまるで俺のもう一つNEXT能力があるような言い方だった。 一体何をどうやったらそう勘違いできるのかがわからない。 「……さっきの反応も演技かと思ったが、どうやら本当に自分のもう一つの能力に気付いてねぇみたいだなぁ;」 そんな虎徹の反応を見てロビンは、呆れたように溜め息をつくとそう言った。 「折角だ。教えてやるよ、お前のもう一つの能力を……」 そう言うとロビンはニヤリと笑った。 「…………お前はさぁ、《神に愛されし者》なんだよ」 「はあっ?」 思ってもみないロビンの言葉に虎徹は思わず間抜けな声を上げる。 「施設で育った俺は、とある絵本を読んで育ったんだ。……知ってるか? 『アイオーニオス・クロノス』って話?」 ロビンの言葉に虎徹はとりあえず頷く。 『アイオーニオス・クロノス』 それは、神と《神に愛されし者》と称された少女の悲恋の物語だ。 生まれたばかりの幼い時の神が巫女である少女が共に時を過ごすうちに神と少女は互いに惹かれ合っていく。 神は少女を愛するあまり、無意識のうちに自分の力少女に分け与えてしまうのだ。 それがすべての悲劇の始まりであったことにも幼き神が気付く事もなかった。 幼き神に与えられた少女の力に人々は魅せられ、少女を我が物にしようと争いを始める。 その争いは豊かな大地を見る見るうちに荒れ果てさせ、人々が住めなくなるまで程にまで及んだ。 そのことに誰よりも胸を痛めた少女は争いを止めるべく己の身を挺した結果、命を落とし争いも治まった。 最愛の少女の死と、人の醜い欲望を目の当たりにした幼き神は人に絶望し、人と関わりを絶つところで物語が終わるのだ。 それは、子供向けの絵本にしてはあまりにも悲し過ぎる結末だった。 この絵本を友恵が幼い楓に読み聞かせた時は、「かみさまがかわいそう」と言って大泣きしたこともよく覚えている。 それを友恵は楓の頭を優しく撫でてやり、「大丈夫、これはお伽噺よ」と言って微笑んでいた。 友恵の言う通りこれはお伽噺、空想の話だ。現実に起こった事ではない。 「……あの話は空想上の話じゃない。この世界で起こった真実の物語なんだよ」 「!?」 虎徹の表情から考えを読み取ったのか、そう静かにロビンは言った。 「お前、何言って……」 「俺だって、初めは信じてなかったよ。……とある国が厳重に管理していた資料館でこいつを見つけるまではなぁ」 そう言うとロビンは何処からともなく一冊の古びた本を取り出した。 「こいつは、『アイオーニオス・クロノス』の《神に愛されし者》である少女のモデルとなった人物の日記だ。たかが日記くらいで国が厳重に管理してるなんておかしくねぇか?」 とある美術品を強奪した際の逃走途中に偶々資料館に逃げ込んだロビンはこの日記を見つけた。 この日記を読んだ時、ロビンは胸が高鳴った。 幼い頃から読んでいたあの『アイオーニオス・クロノス』が空想ではなく現実であったことに……。 そして、この日記に記されていた内容に……。 「こいつにはなぁ、こう書かれてたんだよ。 『私が死ぬことで私と同じ力を持つ《神に愛されし者》がまた生まれてしまうかもしれない。 でも、彼らとの出会いにより、あの人が真に救われることを願います。……そして、NC1978年にあなたと出逢う《神に愛されし者》ですべてが終わりますように』と。 ……わかるか? 彼女は自分が死ぬ前にすべてを予言してたんだよ。自分と同じ力を……『時空を操る』力を持つ人間がこの時代に現れる事をな! それが、あんただよ! ワイルドタイガー!!」 《神に愛されし者》がこの世に存在する。 しかも、自分が生きているまさにこの時代にだ。 その事実を知った時、その人物を捜さずにはいられなかった。 あの日からずっと捜し続けて、今日漸く見つけたのだ。 タイガー、お前を……。 「ちょっ、ちょっと待て! それが何で俺になる!? 俺にはそんな力――」 「じゃぁ、何でお前は能力を発動させた俺を捕まえることができたんだよ?」 「! そっ、それは……」 ロビンの言葉に虎徹は口籠った。 「答えは簡単だよ。それは、お前があの力を無意識のうちに使って、俺の能力を相殺することができたからだよ。あれがなかったら、俺だってお前が《神に愛されし者》とは気付かなかっただろうけどな」 自分なら《神に愛されし者》を絶対見つけられると確信していた。 あの力は自分の力を無効化にできる唯一の力だ。 だから、目星を付けた人物に能力を使ってそれができるか試してきたのだ。 「つーまーり、お前自身が《神に愛されし者》であることを証明しちまったんだよ、タイガー」 「!!」 ロビンの言葉に虎徹は瞠目した。 だが、それと同時に納得してしまった。 俺の身体に一体何が起きたのか。 何故、俺が過去に戻ってしまったのか。 それは、ロビンの言う『時空を操る』能力があの時何らかの拍子で目覚め、発動しちまった為じゃないかと……。 「……なぁ、タイガー。俺と組まねぇか?」 「何……?」 突然のロビンの言葉に虎徹は眉を顰めた。 「俺さぁ、ずっとのその力を欲してたんだよ。だってそうだろ? その力があれば、運命を思い通りに変えられるんだせぇ? 何でそれを使わないんだよ? ……お前にだって、あったんじゃないのか? 過去に失っちまった大切な何かが?」 「っ!!」 ロビンの言葉に心臓が跳ね上がるのを感じた。 過去に失った大切な物。 その言葉で頭に浮かんだのは、友恵の姿だった。 もしも、あの時傍にいてやれば。 もしも、もっと早く友恵の身体の異変に気が付いてやれていれば、友恵は今でも俺の隣で笑っていたかもしれないのだ。 「……お前の力があれば、それも失わずに済むかもしれねぇぞ。なぁ? タイガー?」 虎徹の様子を見たロビンは耳元でそう囁いた。 それはまるで悪魔の囁きだった。 もし、この力を使って過去に戻れるなら、あの場に戻って友恵の最期を看取ってやれる。 いや、友恵の病気を早期治療してやることもできるのでは……。 もう感じる事の出来ないあの温もりを、あの暖かな笑顔を取り戻すことができるかもしれない。 失われたものをもう一度この手にしたい。 ロビンの囁きに堕ちかけたその時だった。 ――――あなたはどんな時でもヒーローでいて。約束よ。 ――――虎徹さん! 虎徹さーーーんっ!! ふと頭に過ったのは、病に侵され病室のベッドに臥しながらもか細い声でそう言った友恵の言葉。 俺の身体を優しく抱き寄せ、綺麗なその顔を涙でクシャクシャにして叫んだバニーの言葉だった。 こんな事をしてまで友恵を助けた事を彼女は喜んでくれるだろうか? いや、きっと喜んでくれないだろう。 それに友恵を助けたら、バニーはどうなる? 友恵が生きていたなら、俺はアポロンメディアに移籍することも、バニーとバディを組むこともなくなるんじゃないか? そうなれば、バニーはずっとマーベリックに操られたままずっと生きていかないといけないんじゃないか? そんなのはダメだ!! 「…………俺は……人助けの為にしか、力を使わねぇって決めてんだよっ!」 虎徹はロビンの囁きを振り払うようにそうはっきりと言った。 「それにさぁ、お前はここから逃げ切れねぇよ。……バニーが必ずお前を捕まえるからなっ!」 虎徹の言葉にロビンの眉が吊り上る。 「あのルーキーが俺を? 無理無理」 「無理じゃねぇ! バニーは絶対お前を捕まえる!!」 「……随分とあいつのこと、信用してるみたいだなぁ。……あいつの方はお前の事ぜーんぜん信じちゃいないのに」 「っ!!」 そう言ったロビンの言葉に虎徹は明らかに傷付いたような表情を浮かべた。 その表情を見たロビンは面白くないと思った。 自分と話しているのにその琥珀の瞳に自分は映っていない。 あのルーキーをこの瞳が映していることが妙に腹が立つ。 「……なぁ、タイガー。そんな奴、やめて俺にしとけよ」 「…………」 欲しい、お前のすべてが……。 あの力だけじゃなく、その心まで欲しいと思ってしまっている。 もう完全に自分はあの物語に登場する人々と同じように彼に魅せられてしまったようだ。 ロビンの言葉に虎徹は無言のままだった。 なら、方法を変えるまでだ。 「じゃぁ……俺と勝負しようぜぇ、タイガー! もし、俺がここから逃げ切れれば、俺の勝ち。お前は俺のもんになってもらう♪」 「なっ!?」 「で、俺がここで捕まったら、お前の勝ち。お前の事は綺麗さっぱり諦めるよ。……どうだ?」 「ふっ、ふざけんなよっ! 誰がそんな勝負――」 「あ〜れ〜? あのルーキーの事、信じてるんじゃねぇのか? やっぱ、口だけか。頼りなさそうだしな、あいつ♪」 「!!」 ロビンの言葉に虎徹は瞠目した。 わかっている。これは俺を挑発しているのだと。 わかっているのに、それに乗らずにはいられなかった。 バニーの事を馬鹿にされたままではいられなかったのだ。 「…………わかった! その勝負に乗ってやるよっ!!」 バニーがお前なんかに負けるはずがねぇ。俺はバニーを信じている。 ロビンはその言葉を待っていたかのようにニッと嗤った。 「さっすがぁ、ワイルドタイガー♪ じゃ、早速……勝負開始だあっ!!」 「ぐうっ!!」 そうロビンが言った途端、虎徹は脇腹に激しい痛みが走った。 身体の自由がきかない虎徹はロビンの拳を避けることができなかった。 視界が一気に眩むのを必死に耐え、ロビンを睨みつける。 「……っ! ロビン、てめぇ……!」 「さ〜っきも言っただろう? まだ、自由自在に使えてないとは言え、俺はお前にあの力を使われるのが、一番厄介なんだよ」 まだ、あの力を完全に使いこなせていなくても、力を使われればまた自分の能力を無効化されてしまう。 そうなってしまえば、今度こそ捕まってしまう恐れだってあるのだ。 「だ〜か〜ら! 勝負中は大人しく眠っててもらうよおっ!!」 「があっ!!」 ロビンは笑顔でそう言うとさらに虎徹の脇腹目掛けて思いっきり蹴りを喰らわせた。 それを真面に喰らった虎徹はその痛みから意識を手放し、その場に崩れた。 「……ん? 何だぁ、これ?」 その時、ロビンは虎徹の右腕に嵌められているPDAに気付いた。 「あちゃ〜; これで、奴らと通信取ってたのか。まっずいなぁ;」 先程まで、転移を繰り返していたから彼らかに位置の特定は不可能だろうと高をくくっていたが、ここに長く留まり過ぎたせいでバレたかもしれない。 急いでこの場を離れなければ……。 ロビンはすぐさま虎徹のPDAを外すとその場に放り投げ、虎徹を肩に担ぐとその場にした。 タイガー、悪いがこの勝負は俺の勝ちだ。 お前の力さえ封じてしまえば、恐れるものなんて後は何もないのだ。 そう思いながら、ロビンは笑みを浮かべると唯一の逃走経路となっているであろうライジングコースターを目指すのだった。 神様シリーズ第1章第21話でした!! 今回は虎徹さんとロビンさんの絡みがいっぱいで〜す♪ そして、ついに謎だったロビンが虎徹さんを狙った訳と虎徹さんのもう一つの能力について書いていきました! ロビンについては、劇場版の設定集を買っていないのでかなり捏造しているかと思います!! 次回は虎徹さんはヒーロー達に救出されるのか!! 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