「ちょっと! まだ、タイガーの位置の特定ができないわけ!!」

バーナビー達との回線を切ったアニエスはそうケイン達に言った。
その声は明らかにイライラしているのがわかる。

「やってますが、特定できたかと思うとすぐにまた移動されて……」
「言い訳はいいから、さっさとやりなさいよ!」
「……あの、アニエスさん。少し休憩した方がいいんじゃないですか?」

アニエスの様子を見たメアリーが気を遣ってそう言った。
だが、それに気付いていないアニエスは眉を吊り上げた。

「何言ってるのよ! こんな時に休憩なんか――」
「さっき、バーナビーに言ってましたよね? あれ、今のアニエスさんにも言えると思いますよ」
「! …………わかったわよ、少し外の空気を吸ってくるわ」

そう言ったアニエスは踵を返すと、部屋を後にするのだった。






〜神様ゲーム〜








アニエスとタイガーの出会いは去年のシーズンだった。
人気が低迷していたヒーローTVの立て直しを図る為、プロデューサとして社長であるマーベリックより異例の抜擢をされたのだ。
社長の期待に応える為、視聴者を引き込む演出をあれこれ自分なりに試行錯誤してきた。
その甲斐もあり、ヒーローTVの視聴率は徐々に回復してきた。
自分が考えた演出にヒーロー達は皆納得してくれたが、タイガーだけはいつも文句ばかりを漏らしていた。
ヒーローは人の命を助けるのが仕事で、番組の視聴率なんて関係ないなどと言うのだ。
これを初めて聞いた時、タイガーは何もわかっていないと呆れた事をよく覚えている。
番組の視聴率が取れないということは、番組自体が打ち切りになる可能性もあるってことを。
番組がなくなれば、彼だってヒーローではいられなくなるってことをタイガーはまるでわかっていないのだ。
他のヒーロー達は少なくともそれをわかっているから、自分に快く協力してくれているのに。

――――あんたね、自分の置かれている立場わかってるわけ! 視聴率が取れなかったら、番組は終わるのよ! そんなことになったらあんただってヒーローを続けられなくなるのよっ!!

あまりにも自分の意見に口答えするので、タイガーに一度だけそう言い返した事があった。
それを聞いたタイガーはとても不思議そうな顔を浮かべたのだ。

――――何言ってんだ、お前? 大事なのは、誰かを守りたいっていう気持ちだろ? 番組がなくなっても、カメラに映らなくなっても俺はヒーローであり続けるさ!

自分にとびっきりの笑顔を向けてそう言った彼の言葉が今でも頭から離れなかった。
事実、彼が番組にも取り上げられない小さな事件に自ら首を突っ込んでいき人々を助けていたことを知ったのはその言葉を聞いた後だった。
時折、タイガーが妙な怪我を作ってきた際に理由を問い質しても決して喋らない彼を何度も叱ったことがあったが、今になれば原因がこれだった事に気付かされた。
彼は他のヒーロー達とは違う。
正真正銘根っからのヒーローなんだと思った。
それからはそんな彼の居場所を、ヒーローTVを守りたいと強く思うようになった。
彼がヒーローであり続けられるように……。
今以上にヒーローTVを盛り上げようとした。
例え、彼にどう思われようと関係ない。
私は私のやり方で彼を守ろうと……。
そして、いつかは私の事を認めてもらいたいと……。

「……あんたは、どれだけ心配かければいいのよっ…………」

後先考えずに突っ走っていくタイガー。
己の身を挺して市民を助けるタイガー。
それをただモニター越しでしか見守ることができない歯痒さ。
彼が自分の身体を傷付ける度、自分の胸がどれだけ痛んだか彼は知らない。
いくら自分が叱っても、彼はただ苦笑するだけのだ。
そして、今小さく呟いたこの声も彼の耳には決して届かないのだ。
パンッと辺りに乾いた音が響く。
己に気合を入れる為、両手で頬を強く叩いた。
何を落ち込んでいるの、アニエス・ジュベール。
私の役目は何だと思っているの。
私はヒーローTVのプロデューサよ。
番組を面白く盛り上げるのが私の仕事。
タイガーの身を心配することも、彼を救い出すことも私の仕事じゃない。
今は自分のすべきことにだけに集中するべきよ。

「……タイガー。帰ってきたら只じゃおかないんだから」

そこにはもう先程までの迷いはなかった。
彼への想いを胸へと仕舞い込み、プロデューサと言う仮面を被ったアニエスは再び部屋へと戻っていた。

「アニエスさん! タイガーの位置が特定できました!!」
「! 何処よっ!!」

だが、タイガーの事を心配するその想いは部屋に入った直後のケインの言葉ですぐにまた露わになる。
そして、すぐさま駆け寄るとタイガーの位置が表示されたモニターへと目を移した。

(何、これ? 何かがおかしい……)

モニターに映し出されたその位置を見たそれにアニエスは違和感を覚えた。
だが、それが何なのか気付くのはまだ先だった。





















(あ〜あ、ミスっちまったなぁ、こりゃぁ;)

ヒーロー達を撒いてとある建物に逃げ込んだロビンの手にはこの遊園地の地図だ。
この地図によるとあの広場にあったライジングコースターというジェットコースターはこの街の最上部と繋がっていることがわかった。
あの時はあのルーキーから逃げることしか考えていなかったが、あの場を離れたのは間違いだったようだ。
ヒーロー達の動きを見る限り、おそらくここから脱出するにはあそこに行くしか方法はないだろう。

(にっしても……)

ロビンはふと視線を地図から離した。
そこには、一人の男の姿。
先程までこの男が身に纏っていたヒーロースーツを剥ぎ取ってやったところだ。
唯でさえ大の大人一人を担いで逃げるのは一苦労するというのに、加えてあのヒーロースーツの重みはキツイ。
この後も逃げることも考えてロビンは彼のヒーロースーツを脱がし、最後にフェイスシールドを外した時、目を奪われた。
そこから現れたのは艶のある漆黒の髪に褐色の肌。
アンダースーツのみとなったその身体は無駄な筋肉もなく引き締まっている。
今まで逃げることに集中していた為気付かなかったが、こうしてまじまじと彼を見るとかなりの上物であることに気付かされる。
正直、この美しさは男であることが勿体ないと思うくらいだ。
自分はこの男をずっと捜していた。
この男が持っている力を……。
だが、何故か今はそれだけでは物足りなく感じている。
この男を手に入れたのにそれだけでは満足できない。
欲しい。この男のすべてが欲しい。
これもあの力に魅せられたせいなのか……。

「…………っ」

すると、男の瞼が微かに動いた。
おそらく、先程嗅がせた睡眠薬の効果が切れたのだろう。
男の瞼がゆっくりと上がるとそこから現れたのは、美しい琥珀色の瞳。
見ているだけで吸い込まれそうになりそうな程綺麗だった。

「お〜めざ〜めで〜すかぁ? ワイルドタイガー?」
「…………っ! お前っ!!」

虎徹の反応を見たロビンはただ不敵に笑うだけだった。
























神様シリーズ第1章第20話でした!!
今回はアニエスとロビン目線で書いてみました!
過去に虎徹さんとアニエスがこんなやりとりをしていたらいいなぁという妄想で書いてみました♪
アニエスのツンデレも可愛いですよね!!
そして、ロビンさんは虎徹さんが気を失っている間に何してんだ!何気に虎徹さんの美しさに心奪われているロビンさんなのでしたww


H.25 4/5



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