(うそだろ……) 恐る恐る顔から両手を放すと全身ダークグレーの色合いのヒーロースーツを身に纏った彼の姿を虎徹は捉えた。 彼のその姿を見たのは一年前のあの日以来である。 「お前……」 「無理はいけませんよ」 虎徹が口を開くと聞き慣れた何処か生意気な彼の声が辺りに静かに響く。 間違いない……。 「…………バーナビー」 虎徹は、この時点ではまだ知るはずのない彼の名を無意識に呟いた。 〜神様ゲーム〜 「!!」 虎徹に突如、名前を呼ばれたバーナビーは瞠目した。 自分は彼の名を知っている。 だが、それは育ての親でもあり、アポロンメディアCEO兼OBC社長であるマーベリックさんから事前に他社のヒーローたちの情報を貰い、頭に入れているからである。 僕のヒーローデビューは本来、来シーズンからである為、僕の情報はまだどの会社にも漏れていないはずだった。 なのに、この男は間違いなく僕の名を呟いた。 敬愛する亡き父から受け継いだバーナビーの名を……。 「……貴方、どうして僕の名を――」 「だあああぁぁっ!」 「!」 バーナビーがそう口を開いた時、それを邪魔するかのように犯人が氷の丘で震える手で拳銃を構え、咆哮する。 それに気付いたバーナビーは虎徹を躊躇なく氷面に放り投げると犯人へと駆け出す。 『えっ? 誰?』 突然のバーナビーの登場にマリオは思わず素の声となる。 そんなことはお構いなくバーナビーは犯人へと高速で飛んでいく。 「はあっ!」 犯人が乱射する銃弾を躱しながらバーナビーは、氷の丘を得意の蹴りで横に切断した。 足場が崩れ、犯人の体勢も崩れる。 そこへすかさずバーナビーが犯人の首根っこを掴むと凍りついた河川によって停止している大型客船へと投げ飛ばした。 犯人は力尽きたかのか、それにより気を失った。 『ああっと! 謎の男が犯人を逮捕〜〜!』 マリオの声を聞きながら、バーナビーはゆっくりとフェイスシールドを上へと開けると、カメラに向かって素顔を向けて微笑んだ。 「フッ……」 すると、大型客船にいる人々が大歓声を挙げ、バーナビーを讃えだす。 中にはカメラや携帯電話を手にしてバーナビーを思い思いに撮影し始めた。 それに応えるかのようにバーナビーは愛想よく手を振った。 『これは、新しいスターの誕生でしょうか!? 謎のヒーローが今シーズンを締めくくりましたっ!!』 (……やっぱ、カッコいいなぁ、バニーは……) その光景を虎徹はただただ傍観していた。 あの時は、一瞬何が起きたのか理解することで頭がいっぱいだったが、今回は違う。 バニーの動きを瞬きすることなく見ていた。 バニーの動きはすべて計算されているかのように全く無駄がなかった。 さすがは、未来のキング・オブ・ヒーロー。 フェイスシールドから見える顔は綺麗に整っていて、まるでアイドルのようだと虎徹は思った。 (……って、何バニーに見惚れてんだっ! 俺はっ!!) 事件は無事に収束し、周囲の人々はブルーローズのエンディングテーマソングを聴く為にステージへと向かっていった頃、虎徹は我に返った。 こんなことをしている場合じゃねぇ! 俺自身の身に一体何が起きたのか確かめなければ……。 だが、それには何をすればいいのか虎徹にはわからなかった。 とにかく、その辺を歩いたら何か情報が得られるかもしれない。 そう思った虎徹はその場を後にしようと踵を返したその時だった。 「ちょっと、待ってください」 「!!」 少し不機嫌そうな声が背後から聞こえ、虎徹は恐る恐る振り向く。 そこには、予想通りバーナビーの姿があった。 ハンサムな顔が明らかに不機嫌そうに虎徹を睨んでいる。 その表情に虎徹は何となくヤバいと感じた。 「なっ、何かなぁ、ハンサムくん; おっ、おじさん、ちょ〜っと、急いでるんだけどぉ……;」 「貴方、さっき僕の名前を呼びましたよね。……何処でそれを知ったんですか?」 「あ゛っ……えっ、え〜〜〜っと;」 バーナビーの問いに虎徹は言葉を濁らせる。 正直に答えられるはずがない。 何故なら、俺がバニーの名前を知ったのは、この後開かれるヒーローTVの表彰式でだ。 まだ、開催されていない表彰式のことを話しても今のバニーが信じるはすがない。 そんなことを考え、目を泳がせる虎徹に対して、バーナビーは眉を顰める。 そして、さらに追及しようとバーナビーが口を開いたまさにその時だった。 「何やってんだ、虎徹! さっさと表彰式に行くぞ〜!」 「ぐぬぅ!」 「!!」 突然、背後から声が聞こえたかと思った瞬間、何者かが虎徹の首へ腕を回し、そのまま虎徹の身体を引き摺り歩く。 それにより虎徹は一瞬、喉がつまり、声を上げた。 こんなことをするのは、俺が知っている中ではただ1人だけだ。 虎徹は何とか気道を確保すると、その人物へと視線を向ける。 深緑を基調とした厳つい装甲のスーツで身を固めたその男――ロックバイソンを……。 「……ったく、助けるならもっと方法あんだろ! 息できねぇだろっ! バイソン!!」 「あぁ? ……お前、誰かと喋ってたのか?」 文句を言う虎徹に対してロックバイソンは不思議そうな声を上げた。 どうやら、ロックバイソンは虎徹しか見ておらず、虎徹と向かい合っていたバーナビーには気付かなかったようだ。 「…………いや。何でもねぇよ……」 ロックバイソンの反応にそう判断した虎徹はそう呟くとそのままロックバイソンに引き摺られながら、表彰式の会場となるスタジアムに向かうのだった。 「……何なんですか、あの人は……」 その光景を眺めながら、バーナビーは呟いた。 人が話している相手をあんな風に連れて行くなんて非常識にも程がある。 そのおかげで、あの男から聞きたいことを結局聞けなかったじゃないか。 一体、あの男は何処で僕の名前を知ったのだろう。 事と場合によれば、これは会社の情報漏えいに繋がる可能性がある。 絶対に聞きださなければ……。 (……でも、何だ? この感じは……?) ――――…………バーナビー。 あの男に名前を呼ばれてからこの声がずっと耳に残っていた。 その声は、別に嫌なものではないが、何処か違和感しかなかった。 あの男は僕をもっと別の呼び方をしていたんじゃないかと……。 (していた……? 何を考えているんだ、僕は……) あの男とは今日初めて出会ったはずなのにありえないことを考えていることに気付き、バーナビーは首を振った。 そして、バーナビーは踵を返すとゆっくりと歩きだす。 あの男も向ったであろうあのスタジアムへと……。 神様シリーズ第1章第2話でした!! わ〜い!バニーちゃんと一杯絡めたvv バニーちゃん、自分が虎徹たちのことを知っているのはよくて、虎徹がバニーが知ってるのは許せないのかよ; 虎徹のバニーちゃんのエスケープ方法は、やっぱこの方が面白いかと思って牛さんを使いました。 これでおそらく牛さんはバニーちゃんに恨まれるだろうなぁと思いつつ書き進めてました! H.25 2/7 次へ |