『ロビンは今もタイガーを攫って園内を逃走中。今、タイガーのPDAから位置を割り出しているところ……』

どうして、あの時あの男を僕はこの手でしっかりと掴んでいなかったのだろう。
どうして、もっとあの時あの男に強く忠告できなかったのだろう。
もし、そうしていたならこんな結果にならなかったのに……。
アニエスの言葉を聞きながら、バーナビーは無意識に唇を噛み締めていた。






〜神様ゲーム〜








「……アニエスさん、まだおじさんの位置の特定はできないのですか?」

そうバーナビーは、イラついたようにモニターに映るアニエスに言った。
バーナビーがいた広場にはいつの間にか虎徹を除いたヒーロー達全員が集結している。

『まだよ。……それに、居場所が特定できたとしても、あなたたちに教えるつもりはないわ』
「どうしてですっ!」

声を荒げたバーナビーに対してアニエスは溜め息をついた。

『教えたら、すぐにそこに向かうつもりでしょ? そんなことしてもロビンは簡単に捕まえられないことはわかっているはずよ? ……それに、何でみんなをここに集めたのか……あなたなら、わかるんじゃないの?』
「!!」
「アニエスさん、それどういうこと?」

アニエスの言葉に瞠目したバーナビーに対して、ドラゴンキッドは不思議そうな表情を浮かべてそう訊いた。

『みんなの協力もあって、現在この遊園地は外部から遮断することができたわ。……ただ一ヶ所を除いてね』
「一ヶ所? それは……」
「…………ライジングコースター。あそこに見えるジェットコースターです」

折紙サイクロンの問いに答えたのはバーナビーだった。
バーナビーの言葉にアニエスも頷く。

『そうよ。あのアトラクションは最上部までの非常口はすべて封鎖が完了している。……でも、ジェットコースターは内部からシュテルンビルトの最上部まで続いていて、展望台から街を一望できてしまうの』
「それって、ロビンがあのアトラクションに逃げ込んでそこまで行ったら……」
『この街の人間と誰とでも入れ替われて逃げられるって事よ』
「「「「「「!?」」」」」」

恐る恐る訊いたブルーローズの言葉にアニエスがそう言うとヒーロー達は皆絶句した。

「おい! そんなことになっちまったら、虎徹はどうなるんだよ!」

ロックバイソンの言葉に誰もが最悪の事態を想像した。
もし、そんなことになったら虎徹を助け出す機会が無くなってしまうことになる。
それだけは何としても阻止しなければならなかった。

『でも、これは逆にチャンスでもあるの。ロビンがここから逃げる為には、ライジングコースターのエントランスを潜るしか方法がないの』
「なるほど。ここで待ち伏せしていれば、ロビンは必ずやってくる。奴がここをやって来たところを皆で取り押さえるというわけか」
『スカイハイの言う通りよ』

アニエスの言葉を聞いたスカイハイは納得したようにそう言うとアニエスはさらに言葉を続けた。

『……ミスを挽回したい気持ちはわかるけど、焦って判断を誤るのはよくないわ、バーナビー』
「…………すみませんでした。ですが、一つだけお願いがあります。……あの男の作戦を続行させてください」
『! それは……』
「ここで、ロビンを取り逃がしても、あの作戦ならまだ挽回することができます。おねがいします、アニエスさん」
『…………わかったわよ』

頭を下げるバーナビーの姿を見てアニエスは渋々折れた。

『だったら、みんなに作戦内容を説明して納得させなさい。それができないのなら、諦めること。いいわね?』
「ありがとうございます。アニエスさん」
『ロビンにまた動きがあったら連絡するわ。それまでは、みんな持ち場で待機よ」

バーナビーにそう言うとアニエスは回線を切った。

「ちょっと、何よ。さっきの言ってた作戦って?」

すると、そんな作戦は聞いていないと言いたげな感じでファイヤーエンブレムが声を上げた。

「……みなさんにも話しておきます。僕とおじさんがやろうとしていた、ロビン確保の作戦を……」

バーナビーはそう言って彼らを見渡すと、作戦内容について話し始めるのだった。





















「……という感じとなります。ご理解していただけましたか?」

全てを話し終えたバーナビーはそう言うと皆を見た。
バーナビーの話を聞いた彼らはあの時の自分と同じように驚いているのがよくわかる。

「ご理解していただけたのなら、僕は準備がありますので……」
「ちょっと、待ちなさいよ」

そう言ってさっさとその場を離れようと歩き出すバーナビーを呼び止めたのはブルーローズだった。

「作戦の内容はよくわかったわ。けど、それを実行するのが、何であんたなわけ?」
「……僕では不満だって言いたいんですか?」
「当たり前じゃないっ! これが失敗したら、タイガーを助けられないかもしれないのよ! それを新人のあんたなんかに任せられると思うわけ?」

バーナビーが話してくれた内容は最終手段なのはよくわかる。
だからこそ、それをバーナビーに任せることがどうしてもできなかった。

「では、貴女がやるとでも? ……どう考えてもこの作戦を行うには無理があると思いますけど」
「そうね。私には無理。……でも、スカイハイだったらやれるわよ」
「!!」
「えっ?」

突如、ブルーローズに名前を出されたスカイハイはキョトンとし、バーナビーは瞠目した。
そんなことはお構いなく、ブルーローズはスカイハイを見つめる。

「ねぇ、スカイハイ。あなただったら、そのスーツを脱いでこの作戦をやれなくはないでしょ?」
「えっ? まぁ……できなくはないと思うが……」
「だったら、スカイハイがやってよ! ……キング・オブ・ヒーローのあんたなら、タイガーの事……任せられるから……」
「…………」

ブルーローズの言葉に少し困惑しつつ、スカイハイはあたりを見渡すと、そう思っているのはブルーローズだけではないことがわかった。
ただ一人、バーナビーを除いては……。
他のヒーロー達の反応にバーナビーは自分がこの作戦を実行できないことを確信した。
自分ではなく、スカイハイさんがあの男を助け出すことになると……。

「…………バーナビー君。一つだけ確認させてくれないかな?」
「……何ですか?」
「この作戦を考えたのは、ワイルド君なのだよね? ……役割も含めて」
「はい。……僕は、おじさんが囮になることは反対しましたけど、聞き入れてもらえませんでした」
「……そうか。……なら、この作戦はバーナビー君がやるべきだと私は思う」
「「「「「「!!?」」」」」」

思わぬスカイハイの言葉にバーナビーだけでなく、他のヒーロー達も瞠目した。

「なっ、何言っての、スカイハイ!」
「そうだよ! スカイハイさんがやった方が絶対……」
「ワイルド君は、バーナビー君を信用してこの作戦を任せたんだ。それを信じて何が悪いんだい?」
「だけど、その時とは状況が!」
「それに、この作戦はあくまでも最終手段だ。その前にロビンを我々の手で捕まえれば何も問題ない。……違うかね?」
「「「「「…………」」」」」

そう言ったスカイハイの言葉に誰も言い返せなくなった。
それを見たスカイハイは満足したように頷いた。

「では、みんなで協力してワイルド君を助け出そうじゃないか!」
「…………わかったわよ。もうっ!」
「キング・オブ・ヒーローにそう言われたら、仕方ないしな」

彼らは口々にそう言うとロビンを待ち構えるべくそれぞれの配置へと向かっていく。

「? どうかしたんだい、バーナビー君? 君も早く準備に向かった方がいいぞ」

未だその場にバーナビーが留まっていることに気付いたスカイハイは不思議そうにそう言った。

「……本当に僕でいいんですか?」

ブルーローズ達の反応は正しい、間違っていない。
デビューしたての僕にそんな大役任せるなんて普通ならできないだろう。
なのに、彼はそれをあっさりと僕に任せた。
あの男と同じように……。
それに彼が一番この役をやりたいと望んだはずなのに、どうして僕に譲るのかがわからなかった。

「……勘違いしないでくれたまえ。私はワイルド君を信じているから、君に任せただけだよ」
「…………すみませんでした」
「? 何故、バーナビー君が謝るんだい?」
「折角、貴方が忠告していただいたのに……こんなことになってしまって……」

もし、あの時もっと強くあの男を引き留めていれば、こんなことにはなっていなかった。
自然と握り締めていた拳に力が入る。
そんなバーナビーの様子を見たスカイハイは軽く笑った。

「それは仕方ない事さ。ワイルド君の事だ。何も考えずに突っ走ってしまったんだろう」
「……貴方は本当にあの男の事、よくわかっているんですね」
「当たり前さ。……ずっと、見ていたんだから。君なんかよりずっと前から」

ずっと見ていた。
見ているだけで満足だった。
なのに、どうしてだろう。
今はそれだけでは物足りない。
おそらく、それはバーナビー君が現れたからだろう。

「……あの男の何処がそんなにいいんですか? 僕にはちっとも理解できない」
「! …………そうか。バーナビー君には、わからないか。ワイルド君の良さが」

バーナビーの言葉にスカイハイは一瞬驚いたが、すぐに仮面の下でフッと微笑んでいた。

「……なら、一つだけバーナビー君にお願いしよう。……バーナビー君。君は今のままでずっといて欲しい」

ずっとそのまま彼の良さに気付かないでいて欲しい。
気付いてしまったら、君は彼を欲するだろう。
そんなことになったら、勝てない。
私の手はもう彼には届かなくなってしまう。
あの暖かな笑顔が私ではなく、君へと向けられてしまう。
それを今何より恐れている。

「……さぁ、どちらがワイルド君を救い出すか……勝負だよ。バーナビー君」
「…………悪いですが、僕が興味あるのは、ポイントだけです。おじさんの救出はついでです」

バーナビーはあっさりとそう言うとライジングコースターのエントランスへと足を進めた。
そんなバーナビーをスカイハイは静かに見送った。
今の彼の言葉が本心であることを願いながら……。
























神様シリーズ第1章第19話でした!!
今回は虎徹さんは全く登場しませんでした;
バーナビーとブルーローズ達のやり取りがかなりギクギャクしてますが、それを爽やかにスカイハイが救ってくれました!
さすが、キング・オブ・ヒーロー!それと、虎徹さんに片想いしているスカイハイがもうたまらんですよww
次回は虎徹さんとロビンの動きをかけたらなぁっと思ってます!!


H.25 4/5



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