『みんな、グッドニュースとバッドニュースがあるわ。グッドニュースは、タイガーとバーナビーの手によってロビンからスタチュー・オブ・ジャスティスを奪還したわ。……そして、バッドニュースは……タイガーがロビンによって……攫われたわ』 アニエスの言葉を聞いたヒーローたちは皆絶句するのだった。 〜神様ゲーム〜 『言われた通り、ライジングコースターの非常口をすべて封鎖できたわ』 「ありがとうございます、アニエスさん」 時を遡ること数分前、バーナビーに頼まれていたことが完了した為、アニエスは再びバーナビーに連絡を取った。 それにバーナビーは素直にお礼を言った。 『でも、本当に大丈夫なの、この作戦? 一歩間違えれば、ロビンを二度と捕まえられなくなるわよ』 アニエスにも協力してもらう為、バーナビーは虎徹の作戦を彼女にも話した。 作戦の内容は、まずはおじさんが囮となってロビンをライジングコースターへと誘き寄せる。 そして、上手いこと最上階までロビンを誘き寄せたら、おじさんの役目は終了。 ロビンに気付かれないようにその場から離れる。 その間僕の方は予め最上部に先回りして今身に着けているヒーロースーツを乗降場にスタンバイさせて物陰に隠れて待機しておく。 ロビンのNEXT能力は視界に入った人間と場所を入れ替わるものだ。 物とは入れ替わることは不可能なのだ。 ヒーロースーツを僕だと誤認させて能力が使えなくなったことに動揺している隙に僕がロビンを確保するというものだ。 この作戦をあの男から聞いた時、かなりの衝撃が走った。 ロビンの能力の唯一の弱点を活かしたこの作戦を僕はこの男から聞くまで考えもつかなかった。 この男からロビンのNEXT能力について話があった時にすぐにでも気付いていれば、この作戦は僕が思いついていただろうに。 おじさんであるこの男が先にこの作戦を思いついた事が少し悔しくも感じた。 「……大丈夫ですよ、アニエスさん。ロビンを捕まえるには最早この方法しかありません。必ず成功させますよ」 『別にバーナビーの事は心配していないわ。……寧ろ、心配なのはタイガーよ。彼、ちゃんとやれるかしら……』 確かに、アニエスさんの言う通りだ。 あの男がロビンの誘導に失敗すれば、この作戦は全て水の泡になると言っても過言ではない。 それに、スカイハイさんも言っていたが、ロビンはあの男を狙っている可能性もある。 なのに、あの男は自分が囮になると言って聞かなかった。 己が狙われている可能性があるという自覚がこの男には本当にあるのだろうか? ――――……それにさぁ……お前だったら、ロビンを必ず捕まえられるって、俺は信じてるからなぁ! そう言ったあの男の笑顔を、言葉を思い出すと何故が自分の抱える不安が全て払拭される。 「…………大丈夫ですよ。それくらいおじさんでもやれますよ」 『あら? 意外ね。タイガーの事、信頼してたなんて』 そう言ったバーナビーの言葉にアニエスは少し驚いた表情を見えた後フッと笑って見せた。 それに対してバーナビーは少しだけ不満そうな表情を浮かべた。 「そんなんじゃないですよ。……僕も準備がありますので、もう切ります!」 バーナビーはそうアニエスに伝えると一方的に回線を切った。 そして、作戦を遂行すべくアトラクション目指して歩き出した時、ふと目に飛び込んできたのは、巨大なクリスマスツリーだった。 それによって、バーナビーの二十年前のあの日に事を思い出してしまった。 クリスマスイヴのあの日にマーベリックさんと行ったスケート場。 クリスマスツリーの前でマーベリックさんと二人で記念写真を撮った事。 僕が心から笑えた最後のあの瞬間のことを思い出していた。 もし、あの時もっと早く家に帰っていれば……。 もし、あの日遊びに行っていなければ……。 大好きな父と母を失わずに済んだのではないかと思ってしまう。 いくら仮説を増やしても決して結論が出ないとわかっているのに二十年間それを繰り返していた。 「…………バニー」 すると、背後から声が聞こえたので振り返るとそこにはあの男が立っていた。 「何ですか? 準備なら、ちゃんとやってますよ」 「あっ、いや……そうじゃなくて……なんて言うかさぁ……」 バーナビーの言葉に何故か虎徹は口籠った。 その反応にバーナビーは眉を顰める。 「何ですか、はっきり言ってください」 「えっ、えーっとさぁ……。あんま、独りで思い悩むなよ」 「!!」 虎徹はそう言うとまたすぐにバーナビーから離れて来場者の避難誘導へと戻っていた。 虎徹の言葉を聞いたバーナビーはその場から動けなかった。 自分が一体何を言われたのかわからなかった。 あの男に僕が抱えている思いなんてわかるはずないのに……。 なのに、あの言葉はそれを全て見透かされたようだった。 だが、不思議だった。 あの男の言葉で自分の気持ちが少しだけ軽くなった気がしたのだ。 本当に不思議な男だ。 (……一応、お礼を言った方がいいのか?) そう思ったバーナビーは虎徹の背中に声をかけようとしたその時だった。 辺りに一つの悲鳴が響き渡り、事態は一変する。 「はぁい、おマヌケコンビ! 捜したぜぇ♪」 そう言ったロビンの口元には歪んだ笑みを浮かべていた。 (はぁ……何であんな事言っちまったんだろう……;) ついさっき、バニーに言った事を虎徹は後悔していた。 作戦の準備が整う間、市民の避難誘導を行っていた時にふとバニーの姿が目に止まった。 巨大クリスマスツリーを見つめるバニーの表情は何処か苦しげだった。 おそらく、クリスマスツリーを見て両親が殺された時の事を思い出しているのだろう。 そして、両親を救うことができなかった自分自身を責め続けているような気がした。 あの時もバニーはこのクリスマスツリーを眺めて同じような表情をしていたのを思い出す。 お前のせいじゃない。お前は何も悪くない。 悪いのは自分の罪を認めることができない、マーベリックなんだ。 今すぐその真実を口に出してしまいたいが、きっと今のお前は俺の言うことなんてこれぽっちも信じないだろう。 だったら、今の俺がバニーにしてやれることは何だ? 考えた結果、バニーにあの言葉をかけたがのだったが、もっといい言い方があったのではないかとバニーの表情を見た時、そう後悔した。 後でバニーに変なこと言って悪かったと謝ろう……。 そんなことを考えている時に辺りに悲鳴が響いたので、虎徹はその方向へ視線を変えた。 「はぁい、おマヌケコンビ! 捜したぜぇ♪」 そこに立っていたのはニヤニヤ笑いながらそう言ったロビンだった。 「あいつ……!」 ロビンを睨みつけるように見据えていると、突如誰かに首根っこを掴まれた。 その人物を確認するとバニーだった。 「なっ、何すんだよ! いきなりっ!!」 「……貴方、スカイハイさんが言っていたことを忘れたんですか? ロビンは貴方を狙っている可能性があるってことを。……さっきのロビンの言葉でそれは可能性から確信に変わりましたけど」 バーナビーの対応に虎徹は吠えるとバーナビーは呆れたようにそう言った。 「だっ、だからってここで大人しくしてろってか! そんなんじゃ、あいつを捕まえられねぇぞ!!」 「貴方がドジしてヘマをやらかすよりは、マシです」 「何だよ、それ! 俺を信じてねぇのかよ!!」 「ええ、信じてませんよ。おじさんの事なんて全く」 「っ!!」 バーナビーの言葉に虎徹は息を呑んだ。 この言葉を今日だけで二回聞いたというのに、この胸に刺さる痛みは決して慣れなかった。 「おーい。俺を置いて話進めんなよ。痴話喧嘩だったら、どっか余所でやってくれ;」 「誰も痴話喧嘩なんてやってません」 ロビンの言葉にそうバーナビーは冷たく言い放った。 (……にっしても、こいつが本当に俺の能力を見破った奴なのか?) 年下の相棒に首根っこを掴まれて何とも情けない格好となっているこの男が本当に俺の能力を見破ったのか? どう見ても今までに会ったヒーローの中で一番こいつがマヌケじゃないか。 本当にこいつが俺の追い求めていた人物なのか? 「……本当にお前が俺の能力を見破ったのか? ……すっげぇ、マヌケそうなのに」 「だっ、誰がマヌケだ……って、うわぁ!」 「「…………」」 ロビンの言葉にムキになった虎徹がそう吠えた瞬間、虎徹はバランスを崩し、その場でこけた。 「…………やっぱ、マヌケだわ、お前;」 「間抜けですね、おじさん」 「お前が言うなっ!」 それを見たロビンとバーナビーは思わず呟くと、それを不服とばかりに虎徹はバーナビーに言った。 そんな彼らのやり取りを見た結果、ロビンは一つの結論を出した。 (……やっぱ、こいつもハズレだわ) こんな奴が俺の求めていていた人物なわけない。 自分の能力を見抜いたのはおそらくまぐれだろう。 そうとわかれば、こんなところに長居は無用だ。 これ以上、こいつらと関わっているとマヌケがうつりそうだ。 「やっぱ、お前らもハズレみたいだから、もう興味ねぇわ。じゃ、そういうことで♪」 「! バニー、ロビンが逃げるぞ! やっぱ、俺なんか狙うわけねぇだろ!!」 「ちょっと待ってください! 何かの罠かもしれません」 その場から離れようとするロビンを見て虎徹はすぐさま起き上がると駆け出そうとした。 それを遮るようにバーナビーは虎徹の肩を掴むとそう言った。 「そんなこと言っちまったら、折角の作戦が水の泡になるだろうがっ!!」 ここでロビンを捕まえなくてもいい。 せめてあのジェットコースターのエントランスにロビンを向かわせさえできればいいのだ。 だが、ここでロビンがこの場から離れればそのチャンスは二度と訪れないかもしれないだろう。 それはダメだ! 虎徹はバーナビーを振り払うと迷うことなくロビンの許へと駆け出す。 「逃がすかよっ!」 「バーカ、もう遅いよ」 そう言ったロビンの瞳が青白く光り、NEXT能力を発動させようとする。 ダメだ、間に合わない。 そうわかっていてもその手を伸ばさずにはいられなかった。 (えっ……?) そう思ったその時、虎徹は身体に違和感を覚えた。 それは何とも言えない感覚。 三半規管が麻痺し、平衡感覚が無くなる感じとよく似ているが、少し違う。 見える視界は様々な方向に捻じ曲がり、地に足が着いている感覚もなく宙に浮いているようだった。 そう感じたのは一瞬だったが、長い間それを感じていたようにも思えた。 そして、その感覚が無くなった時、虎徹は驚きで瞠目した。 今、己の目の前にいる人物はロビンだった。 所在転換の能力を使ったはずのロビンが目の前におり、奴の腕をしっかり掴んでいたのだ。 一緒に移動してしまったのかと一瞬思ったが、そうではない。 俺がいる場所はさっきと変わらず、広場だった。 「何で……っ!」 一体何が起きたのかわからなかった。 それを考えようとした時、それを遮るかのように頭に激痛が走る。 あまりの痛みに呼吸をすることも忘れそうになる。 そんな虎徹とは引き換え、虎徹に腕を掴まれたロビンは初めこそ驚きの表情を浮かべていたが、それは徐々にどす黒い笑みへと変わっていった。 「…………やっぱ、アタリはお前だったのか、ワイルドタイガー」 「……な……に? ……っ!?」 ロビンの言葉に何とか声を絞り出したその時、突如フェイスシールドが上がると何かを吹き付けられた。 その瞬間、視界がグラつき、激しい眠気に襲われる。 頭痛の事もあり、虎徹が意識を手放すのにそう時間はかからなかった。 「ひゃはっははははっ!」 意識のない虎徹の身体を抱きとめたロビンは高らかに嗤った。 やった、ついに見つけた! そして、自分は手に入れたのだ! これで全て、自分の思いのままに……。 「ロビン・バクスター! その男を放せっ!!」 すると、何処からともなく怒涛が響き渡ったかと思うと自分目掛けて赤い何かが飛んでくる。 それにロビンはすぐさま虎徹の肩に担ぐとその場から飛び退いた。 その瞬間、バーナビーの蹴りが先程までロビンがいた場所に減り込んだ。 それを見たロビンは内心ゾッとしたが表情にはそれを出さず、舌を出してバーナビーを挑発した。 「やーだよ。……やっと見つけなんだ。だーれが返すかよ!」 ロビンはそう言うと背負っていたリュックからあるものを取り出すとそれをバーナビーへと投げた。 バーナビーは初めそれを避けようとしたが、その物体が何なのか理解した時慌ててそれを受け止めた。 金色に輝く女神像――スタチュー・オブ・ジャスティスを。 「そいつはもういらねぇわ。……そんなもんより、もっと価値のあるもんを手に入れたしなぁ」 「! まっ、待て!!」 バーナビーがそう声を上げた時にはもう遅かった。 ロビンは能力を幾度も発動させ、人混みの中の来場者と次々に入れ替わっていく。 それによりロビンとバーナビーとの距離が見る見るうちに離されていく。 「退いて! 退いてくださいっ!!」 バーナビーは人混みを掻き分けて一心不乱にロビンを追いかける。 だが、その追跡の甲斐もなく、バーナビーはロビンと虎徹の姿を見失うのだった。 神様シリーズ第1章第18話でした!! ついにここまで書けたよ!! 劇場版でロビンさんが出てきた時、虎徹さんとの絡みが少ないことに満足ができず、こういう展開を書いてしまったよ; そして、虎徹さんの身にも明らかな異変が起こっています!! それは次回以降で書いて行こうと思ます!! 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