「おい、アニエス! 今の遊園地の状況は?」 漸く目的地である遊園地に到着した虎徹はすぐさま現状を確認する為、アニエスに連絡を取った。 『……遊園地側に事情を説明して、緊急閉鎖と来場客の避難誘導をしてもらってるわ。犯人は……スカイハイの追跡を躱して、現在も逃走中よ』 「はあっ!? 何で、スカイハイ達に犯人を追跡させてんだよ!?」 アニエスの言葉にそう虎徹は声を上げた。 「何で、スカイハイ達も避難の誘導や閉鎖の手伝いをさせてないんだよ! あいつらが犯人に攻撃したらどうするんだよ!!」 『なっ、何言ってんのよ! そんなんじゃ全然画にならないわ! それに、攻撃しなきゃいつまで経っても犯人は捕まえられないわよ!!』 虎徹の言葉にアニエスはそう反論した。 アニエスの言い分は聞きようによれば正論だが、そうでないことを虎徹は知っている。 みんな奴の能力を知らないから仕方のないことだろう。 やっぱ、もっと早く伝えるべきだったのではと内心虎徹は後悔した。 「……アニエス。ヒーローたち全員との回線を繋いでくれ。……さっき言った通り、犯人についての重要な秘密を俺から全員に伝える」 『……わかったわよ。ちょっと待ちなさい』 「サンキューな、アニエス」 虎徹の言葉にアニエスは渋々それに応じた。 マスク内蔵モニターに映し出された彼女の顔は、眉に皺が寄っているのがよくわかる。 それを見た虎徹は苦笑してアニエスに礼を言った。 さぁ、これからが本当の本番だ、ロビン。 今度も俺たちがお前を捕まえてやる! この園内の何処かにいるであろうロビンに対してそう虎徹は心の中で宣戦布告するのだった。 〜神様ゲーム〜 『みんな、タイガーからのお知らせよ。特別に回線を開くわ』 数分後、ヒーロー全員との回線が開いた状態でそうアニエスが告げた。 アニエスが何処か怒っているように感じたのは俺だけだろうか? 「おう、ワイルドタイガーだ。犯人のNEXT能力が何なのかわかったぜ!」 『『『『『『『えっ?』』』』』』』 虎徹の言葉に彼らが戸惑う声が聞こえてきた。 「奴の能力は……《所在転換》だ」 『《所在転換》?』 「もう少し簡単に言えば、視界に入る人間と場所を入れ替われる能力だ」 折紙サイクロンの不思議そうな声に虎徹はそう付け加えた。 『だからさっき!』 『それで、遊園地の封鎖と来場者の避難を私に頼んだわけね……』 虎徹の言葉にそうロックバイソンは悔しそうに言い、アニエスは今までの虎徹の言動について納得したように呟いた。 「ああ、そういうわけだ。だから、みんなも今一番何を優先すべきことは何なのか……わかるよな?」 『……遊園地の封鎖と来場者の避難誘導、ってことでしょ?』 「おっ、さっすがブルーローズ! わかってんじゃんか♪」 『べっ、別に、当たり前のことを言っただけでしょう! ……このままだと、関係のない人を傷つけちゃうかもしれないし……』 ブルーローズの言う通りだ。 このまま無理矢理ロビンに攻撃を仕掛ければ、能力を使って位置が入れ替わった市民が犠牲になる可能性があるのだ。 つまり、ロビンの視界に市民がいる限り、奴に迂闊に手を出すわけにはいかないのだ。 市民の安全の為にも今俺たちがすべき事は、来場者の避難。 そして、この遊園地を外部からの接触を完全に封じてロビンを外へと逃がさないようにする事だ。 「そういうわけだ。みんな、頼んだぞ!」 虎徹の言葉にもう誰も反論する者はいなかった。 こうして、ヒーロー達はロビンを追いつめる為の包囲網を張ることに尽力するのだった。 「どういうつもりですか?」 「ん?」 ヒーロー達との回線とのやりとりから数分後。 突如、背後から聞こえてきた声に虎徹は振り向くとそこにはバーナビーの姿があった。 フェイスシールドを上げている彼の顔には眉間に皺が寄っていた。 「おう! 今着いたところか?」 「何で他のヒーロー達と協力してるんですか?」 バーナビーに笑みを向ける虎徹に対してバーナビーはそう冷たく言い放つ。 「なっ、何でって……その方が効率よく園内を封鎖できるだろうが?」 「そうしている間にも他のヒーロー達が犯人と接触して確保したらどうするんですか?」 「いや、その心配はねぇよ」 バーナビーの言葉に虎徹は、はっきりとそう言った。 「あいつらは犯人の能力を知っちまったから、逆に簡単に手が出せなくなったぞ思うぞ。手を出せば、能力を使って移動されちまうんだしな」 「…………なるほど。貴方にしてはよく考えましたね」 「なっ、何だよ! その上から目線は!!」 「これでも貴方の事、褒めているんですよ」 そう言ったバーナビーの言葉に虎徹は溜め息をついた。 褒めるにしても言い方ってもんがあるだろうが; 「相変わらず可愛くないねぇ、バニーちゃんは♪」 「だから、その呼び方やめてくださいと何度言ったらわかるんですか!」 虎徹が頭に手を当てて兎の真似をしてバーナビーを茶化すと、バーナビーは予想通りの反応をした。 「いいじゃんか! バニーちゃんの方が可愛げがあって♪」 「僕は別に可愛さなんて求めてない!!」 (その反応が可愛いんだけどなぁ……) 普段はクールでカッコいいバーナビーもこれにだけは子供のような反応になるのが、楽しくて仕方ない。 ここまでこの呼び方を嫌がるバニーがいるから、俺は後々助かるのだが。 それに、この反応は俺にしか向けられないことがさらに優越感を感じてしまっていたりする。 『ちょっと! こんな時に何じゃれ合ってんの!』 「誰もじゃれ合ってません!!」 痺れを切らしたようなアニエスの声にバーナビーは、はっきりとそう言った。 『……司法局から情報が入ったわ。犯人はロビン・バクスター。国際的に名の知れた凶悪強盗犯よ。各国でロビンによる被害が報告されている。でも、逮捕歴はゼロ。すべて逃げ切ってるわ』 アニエスの言葉を聞きながら、虎徹はマスク内蔵モニターに目を移す。 そこには、あの時にも見たロビンによるこれまで報告された事件の詳細映像が流れている。 どれだけ厳重に警備された場所であってもロビンは物怖じることなく略奪していく。 寧ろ、警備にあたる人数が多ければ多い程ロビンの能力が有利に働き、奴に退路を与えてしまっていたのだ。 故にこれまでに世界中のありとあらゆる捜査機関がロビンを徹底的にマークするも、誰一人として奴を捕まえられずにいたのだろう。 『だから、くだらないやりとりはもうおしまい! ……次やったら、ポイント減らすわよ!!』 「……へーい」 「……はい」 アニエスの物言いに虎徹とバーナビーは素直に従う。 別にポイントを減らされることは虎徹にとっては痛くも痒くもない事だが、これ以上さすがにバニーちゃんと遊んでいる暇はないと判断した為である。 「…………あの……ワイルド君」 「ん?」 ふと聞こえてきたその声に虎徹は視線を変えると、そこにはスカイハイがいた。 「おう、スカイハイ! ってか、いつからそこにいたんだよ? 全然気付かなかったんだけど;」 「そうだね。……ワイルド君が丁度バーナビー君に話しかけられたくらいかな?」 虎徹の問いにそうスカイハイは答えた。 スカイハイはバーナビーとほぼ同時に虎徹を見つけたが、先にバーナビーが虎徹に話しかけたので、声をかけられずにいた。 虎徹に話しかける機会を窺がって、やっと今声をかけることに成功したのだ。 今までの二人のやり取りをずっと見ていたスカイハイは正直、バーナビーが羨ましいと思った。 私もあんな風にワイルド君と話せるようになりたい……。 「ええっ!? そんな前からいたのか!? 気付かなくって悪かったなぁ;」 「……僕たちの会話、聞いてたんですか? スカイハイさん。……趣味悪いですね」 スカイハイの存在に気付かなかったことに対して虎徹が謝るのに対して、バーナビーは怪訝そうにそう言った。 「バニー! そんな言い方ねぇだろうが! それより、大丈夫か?スカイハイ? お前、さっき自分の攻撃喰らったって聞いたけど?」 バーナビーに対してそう言うと虎徹は心配そうにスカイハイに話しかけた。 やはり、ワイルド君は優しい。 彼の優しさにスカイハイは胸が熱くなるのを感じながら、しっかりと頷いた。 「ああ、問題ない。そして、ノープログレムだ!」 「……犯人を取り逃がしておいて、よく言えますね」 「……ブルーローズ君とバイクチェイスを繰り広げた結果、ロビンを取り逃がしたバーナビー君だけには言われたくないよ」 「…………」 (なっ、何で、こんな空気になるんだよっ!) バーナビーとスカイハイが無言で見つめ合う中、虎徹は頭を抱えた。 恐らく、二人共さっきの事をまだ引き摺っているのだろう。 さっきの事は、どちらかというとバニーの方が悪いとは思うが、敢えてそれは口にしないでいる。 「そっ、それよりスカイハイ。俺になんか用でもあったのか?」 虎徹は話の話題を何とか変えようとそうスカイハイに言った。 その言葉にスカイハイは本来の目的を思い出したかのように虎徹へと向き合った。 「ああ、そうだったね。ワイルド君に伝えておきたいことがあったんだよ」 「俺に? 何だよ?」 「実は犯人……ロビンは、ただの強盗犯じゃないような気がするんだ」 「! それ、どういう意味だよ、スカイハイ!」 スカイハイの言葉に虎徹は瞠目した。 スカイハイの言った言葉の意味がわからなかったのだ。 「何と言うかその……。彼は誰かを捜しているようなんだよ」 「えっ!?」 「それ、何かの間違いじゃないですか?」 バーナビーがそう言ったのに対してスカイハイは首を振った。 「いや、間違いないよ。彼は私に対してはっきりと『ハズレには興味がない』っと言ってたからね」 (どういうことだ……?) 前回では、そんな動きなどロビンは見せてなどいなかった。 だが、スカイハイが言っていることは嘘ではないだろう。 ここで、こんな嘘をついてもスカイハイには何の得もないし、そもそも彼は嘘が苦手であるのだから。 だとしたら、ロビンの奴は一体誰を捜しているんだ? 早くそいつのことを特定して、保護してやらないと……。 だが、いくら考えてもそれが誰なのかわからなかった。 「あの……ワイルド君。これは私の想像なのだが……。ロビンが捜しているのは…………ワイルド君、君じゃないかと思うんだ」 「はあっ!? 何で俺なんだよ!?」 スカイハイの言葉に虎徹は瞠目した。 だが、スカイハイの言葉に訊いていたバーナビーは何故か納得したようだった。 「なるほど。おじさんがロビンの能力を見破ったからですか。この男、自分の能力を過信している分、妙にプライドが高そうですし……」 今まで誰も彼を捕まえられなかったのは、あの能力のおかげであり、それを見破った人物が現れなかったからだ。 だが、今回は違う。 この男が誰も見破れなかった奴の能力を見抜き、迅速に対応した結果これまでにないくらい追いつめられているはずだ。 プライドの高そうな奴がこの男に逆恨みを抱いてもおかしくない。 「ああ、私もそう思ったからワイルド君にこの事を伝えようと思ったのだよ」 そう言ってスカイハイは頷いた。 ロビンに関する連絡を彼から聞いた時、直感的にそう感じたスカイハイはこの事を伝えずにはいられなかった。 彼が凶悪犯に狙われているかもしれないと思うと居ても経っても居られなかった。 彼もヒーローであるが、あの能力を使って不意を突かれたら反応できないかもしれないと思ったのだ。 「……そうか。サンキューな、スカイハイ。あいつを捕まえる時は、気を付けるわ」 「いや、その心配はいらないよ、ワイルド君。彼は私が捕まえてみせるからね」 虎徹の言葉にそうスカイハイは言った。 彼にロビンは近づけさせない。 彼の許へロビンが現れる前に必ず捕まえて見せる。 「……そうか。あんま、無理すんなよ」 「ああ。では、私はこれで」 虎徹の言葉にスカイハイは力強く頷くと、風を操って自らの身体を浮かせてその場を後にした。 彼に伝えることができたので一先ず安心した。 これで彼の目の前にロビンが現れても彼もうまく反応できるだろう。 後は、己の手でロビンを捕まえるのみだ。 スカイハイはそう決意し、遊園地の上空を飛んでいく。 だが、この行動が後々後悔へと繋がることなど、彼はまだ気付かずにいるのだった。 神様シリーズ第1章第16話でした!! 劇場版では、バニーちゃんが伝えるところをここでは虎徹さんが伝えています。 虎徹さんのお願いに誰も文句なんて言いませんよ!! そして、スカイハイは虎徹さんの危機に敏感に反応してロビンに注意しろと助言してくれると思います。 相変わらず、バニーちゃんとスカイハイは仲が悪いですけどvv H.25 3/13 次へ |