「へぇ〜」
「さぁ、どうだ俺の肉体?」

アントニオの肉体をホァンが興味深げに見つめ、彼の胸板を二回ほど叩いた。
すると、カンカンと硬質の物を叩いたような音が辺りに響いた。

「凄い。こんな感じになるんだ! ヒーロースーツ姿でしか見たことなかったから」
「だよなぁ。ほら、もっと殴っていいぞ」
「やだよぉ。こっちの方が痛そうだもん;」

アントニオの言葉にホァンは首を振って断った。

「くだらない。何で来るかどうかわかんないあのルーキーの歓迎会をわざわざしないといけないわけ?」

そう言うとカリーナはテーブルに置いてあったジュースを手に取り、ストローを口に咥えてジュースを口の中へと流し込んだ。

「いいじゃない。ハンサムが来なかったら、タイガーの移籍祝いをするんだから」
「それは……そうだけどさ…………」

ネイサンの言葉にカリーナはそう言いながら、ストローでジュースを掻き混ぜた。

「な〜に? ハンサムが来ない方が嬉しい? そうしたら、タイガーと話せるしね♪」
「そっ、そんな訳ないでしょ! 別にあいつの移籍祝いなんて……」
「えっ? ボクはタイガーの移籍祝いできて嬉しいよ? ってか、こういうのにお呼ばれされたのも初めてだったからすっごく楽しみだし!」

カリーナの反応に少し不思議そうな表情を浮かべてホァンがそう言った。

「ねぇ、折紙さんも楽しみだよね?」
「ええっ!? ぼっ、僕ですか!?」

突如、ホァンに話を振られたイワンはあたふたしだす。

「ぼっ、僕は……ヒーローアカデミーでバーナビーさんのことは見てたから別に……」
「じゃぁ、タイガーは?」
「タイガーさんとは……その……色々話してみたいなぁとは……思ってます」

ホァンの問いにイワンは何処か恥ずかしげにそう言って俯いた。

「ほら! 折紙さんも楽しみにしてるよ♪」
「もっ、もう! いいじゃない! 私のことは放っといてよ!!」
(……ホント、素直じゃないわね;)

ホァンの言葉にカリーナはそう言うと、そっぽ向いた。
そんなカリーナの姿をネイサンは内心そう思いつつ、静かに見つめるのだった。






〜神様ゲーム〜








「悪い悪い」

虎徹とバーナビーが待ち合わせの場所にやって来たのはあの時同様、約束の時間を少し過ぎてからだった。

「遅いぞ、虎徹!」

それに対して、アントニオが不服そうな表情を浮かべてそう言った。

「お前らに会うのにおめかししててなぁ♪」
「あんたがする必要ないでしょ? 主役はバーナビーなんだから」
(……本当はタイガーも主役だけどね……)

そんなことを内心では思いつつも虎徹の言葉にカリーナはそう返した。
バーナビーが来た場合は、タイガーの移籍祝いについてはあくまで伏せて行おうとカリーナ達は話し合いの結果、そう決めていたのだ。

「さーせん;」

そんなこととは当の本人は知る筈もなく、虎徹はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

「ワイルド君。では、改めて自己紹介からかな!」
「おう! そうだな。じゃぁ――」
「結構です。皆さんのことは既に研究済みですから」

キースの提案に虎徹が言葉を言いかけた途端、バーナビーが容赦なくそれを切り捨てた。
バーナビーの言葉で場の空気が一気に重くなったのを虎徹は感じた。

「おい、こいつ感じ悪いぞ!」
「いっ、いや……不器用なだけだろ; 憧れの先輩を前にあがってるんじゃねぇかなぁ;」

アントニオに肩に手を回されてそう言われた虎徹はバーナビーをなんとかフォローしようと思い、そう言葉を紡ぐ。
だが、二人のやり取りを見ていたバーナビーは何故か眉を顰めた。
そして、虎徹の肩に回されているアントニオの手を払い除けた。

「すみません。見ているこっちが暑苦しいので、やめてもらえませんか」
「あ゛ぁ?」

バーナビーの言葉にそう声を上げたアントニオは明らかに怪訝そうであった。
まずい。明らかに場の空気が悪い。
この状況を何とかしなければ……。

「……やっぱり、こんな時間を過ごしても無駄ですね。行きますよ、おじさん」
「えっ? ちょっ、ちょっと待てよ!」

焦る虎徹とは裏腹にバーナビーはそう言い虎徹の腕を掴むと来た道を戻ろうとした。
それを慌てて虎徹が制止させる。

「おい! いくらなんでも早過ぎるだろうがっ!」
「もう十分だと思いますが……」
「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」

二人のやり取りにカリーナの堪忍袋の緒が切れたかのようにバーナビーを睨みつけた。

「さっきから何なの、その態度? タイガーに頼まれたからこっちは集まってあげてるのに!」
「は? おじさんが頼んだかもしれませんが、僕は別に頼んでいませんし。それに僕の歓迎会でしたら、この後はおじさんと二人でやりますので、皆さんは帰っていただいて構いませんよ」
「「「「「「はぁっ?」」」」」」

バーナビーの言葉にヒーロー達が見事にハモった。

「どういうことだい、ワイルド君?」
「えっと、その……。バニーがみんなのところに行くの嫌がったから、ちょっとでも顔出したらその後に飯に行くって約束を……」
「「「「「「!!」」」」」」

戸惑うキース達に対して虎徹は恐る恐るバーナビーと交わした約束の内容を告げた。
その内容にヒーローたちが皆瞠目した。

「これで何も問題ないですよね? では、帰りますよ、おじさん」

皆の表情を一瞥してからバーナビーはそう言うと再び虎徹の手を引いて歩き出そうとした。

「待ちたまえ。そして、待つんだ!」

だが、それを虎徹とバーナビーの間にキースが割って入るようにして引き止めた。
キースの行動に明らかにバーナビーの表情が険しいものへと変わる。

「……何ですか? 問題ならないはずですが?」
「いや、大いにある。ワイルド君にも帰られては我々も困るんだよ」
「「?」」

キースの言葉に意味が解らず、虎徹とバーナビーは不思議そうな顔を浮かべた。

「何故なら、これはワイルド君の移籍祝いも兼ねていたんだからね」
「! それ、本当か! スカイハイ!?」

思わぬキースの言葉に虎徹は思わず声を上げた。
それにキースは大きく頷くと見た虎徹は思わず感極まってしまった。
みんなが俺のことも祝おうとしてくれたことが嬉しかった。

「どうだい、ワイルド君? 我々と一緒に楽しまないかい?」

キースは白い歯を見せて爽やかに虎徹に笑って見せた。
だが、その笑顔とは裏腹にキースは内心焦っていたのだ。
キースはずっと前から虎徹のことが気になっていた。
それは、自分がヒーローとしてデビューした時からだ。
あの頃は、新たなヒーローを市民達は暖かく迎え入れてくれたが、ヒーロー達はそうではなかったのだ。
無理もない。新たなヒーローが増えるということはヒーロー達にとってはポイントを競う相手が増えるということだ。
自分の人気や地位を脅かす存在が増えるのだから誰も暖かくなんて迎えてくれるはずがないのだ。
その為、自分はこのままヒーローをやっていけるのか不安にもなった。
だが、彼だけは違ったのだ。
「これから、一緒にこの街を守っていこう」と言って笑ってくれたのだ。
あの時の彼の言葉が、笑顔が今でも脳裏に焼き付いて離れなかった。
彼がいたから不安からも解消され、今の私が存在しているのだ。
そんな気持ちをずっと胸に秘めていながら、今までは彼を遠くから眺めているだけだった。
もっと、彼のことを知りたいと思っているのに、どうしても一歩前に踏み出すことができなかったのだ。
そんな中、突如転機が訪れた。
トレーニングセンターでの彼が言った言葉が嬉しくて仕方なかった。
バーナビー君の歓迎会をきっかけにみんなと仲良くなりたいと、私たちのことをライバルではなく仲間と言ってくれたことが……。
だから、彼の提案に誰よりも早く賛成したのだ。
彼と話ができる機会ができたことに心から喜んだ。
だが、そんなチャンスが今まさに潰えようとしている。
それだけは絶対に阻止したい。

「すみませんが、おじさんに変な理由を付けて引き止めるなんてやめてもらえませんか」
「変な理由……?」

初めバーナビーが言ってる事が理解できなかったが、すぐに納得した。
恐らく、彼の移籍祝いにのことだろう。

「なら、言い方を変えさせてもらおうか! 私はワイルド君と話がしたい! バーナビー君。君は帰ってもらっていいぞ!!」
「!!」

笑顔でそう言ったキースの言葉にバーナビーは瞠目した。
それはまるで、己のプライドが傷付けられたといった感じだった。
だが、次の瞬間バーナビーが見せた表情は見事なまでの営業スマイルであった。

「……キング・オブ・ヒーローだからと言ってあまり調子に乗らないでいただきたいですね。……どうせその地位もすぐ僕の物になるんですから!」
「ばっ、バニー……;」
「お生憎、そう簡単にキングの座は渡せないな。……もちろん、ワイルド君も!」
「すっ、スカイハイ……;」

バーナビーもキースも笑顔を浮かべているのに、お互い目は笑っていなかった。
そんな二人のやりとりを虎徹は恐る恐る声をかけるしかできなかった。
今、この場を支配する空気は明らかに重い。
それは前回以上だと虎徹は思う。
それに、バーナビーとキースのやりとりは明らかにおかしい。
俺が知っている二人はお互いに笑い合っていたが、こんな空気には多分なっていなかったと思う。

「…………ホント、罪な男ね。タイガーは」
「何がだよっ!!」

そんな彼らのやり取りを静かに見ていたネイサンは溜め息をつくとそう言った。
その言葉の意味が解らず、虎徹は思わず声を上げる。

「ねぇ、タイガー。ボク達と一緒にご飯、食べようよ〜」
「えっ?」
「そっ、そうよ! ……私達があんたの移籍祝いやってあげようと思ってんのよ!!」
「えっ? えっ?」
「ぼっ、僕もこの機会にタイガーさんといろいろ話をしてみたいです!」
「虎徹! あんな奴と飲んでも美味い酒も不味くなるぞ! 俺らと飲め!!」
「ええっ? 折紙までどーしたんだよ!? バイソン、お前が怒ってるのはなんとなくわかるけど;」

すると、痺れを切らしたかのようにホァン、カリーナ、イワン、アントニオが虎徹の許へ近寄ってきてそう口々に言った。
彼らの行動に虎徹はただただ驚くしかなかった。
アントニオの機嫌が悪いのは、先程のバニーの態度のせいだろうが。

「……おじさん。今日誰と過ごすかこの際はっきり決めてください」
「えっ?」
「そうだね、ワイルド君。我々とバーナビー君どちらか決めてほしい」
「ええっ!?」

そう虎徹に言ったバーナビーとキースは笑顔であったが明らかに怖かった。

「……いっ、一応聞くけど、みんなでっていう選択肢は――」
「ないです」
「ないね」
(なっ、なんでだよ!)

虎徹の言葉にバーナビーとキースは見事にハモってそう言い、カリーナ達は当然とばかりに頷く。
彼らの反応に虎徹は頭を抱えた。

「さぁ、さっさと決めてください。おじさん」
「さぁ、ワイルド君♪」
「さっさと、決めろ! 虎徹!!」
「ちょ、ちょっと待てってお前ら……!」

何とかこの状況を変えようと虎徹がそう口を開いたまさにその時だった。
その場にいたヒーロー達全員のPDAが一斉に鳴り出した。
あまり嬉しいものではないが、PDAが鳴ってくれたことに虎徹は内心感謝した。
店内にいた客席がざわつく中、皆がヒーローだと悟られないように慎重に回線を繋ぐと、あの時同様アニエスの声が聞こえてきた。

『ボンジュール、ヒーロー。シュテルンメダイユ地区で重大事件発生。強盗は時価数億シュテルンドル以上の……とにかくすぐに向かって!』

こうして、虎徹たちは本日二度目の事件へ出動することになるのだった。
























神様シリーズ第1章第13話でした!!
今回は、バーナビーの歓迎会&虎鉄さん移籍祝いのお話です!
いや〜、青年サンドを書いててめちゃくちゃ楽しかったですww若干、キースさんが黒いです♪
青年サンドは美味しいですよねぇ♪しかも、みんなに迫らせてオドオドする虎徹さんが可愛いww
次回からロビン事件に突入です!!


H.25 3/7



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