プレセアの家の南、オゼットの森を出てすぐのところにアルテスタの家はあった。
その家は岩肌を直接刳り貫いたような家だった。

「どちら様でスか?」

ロイドが家の扉を叩くと、やたら平坦な一本調子の声で扉の向こうからそう反応が返ってきた。

「あの、ここにドワーフが住んでいると聞いて来たんですけど、会えますか?」

ルークがそう言うと扉が静かに開いた。






〜Symphony The World〜








そこから現れたのは薄緑の髪を三つ編みにしてひとつにまとめた少女だった。
少女は声と同じく、表情も一本調子で変化がない。

「マスター・アルテスタへご面会ですね。どうゾ」

少女に促され、ルークたちは中へと入った。
中は思っていた以上に広い。
少女は、導くように時々振り返っては、ルークたちを家の奥へと案内してくれた。
通された場所はいかにも工房といった雰囲気の部屋だった。
そこには背の低い、禿頭の男が熱心に金物細工に取り組んでいた。
足音で気付いたのか、男は手を止めて振り返った。
頑固そうな顔に立派な髭が印象的である。
男は、ルークたちを顔を一瞥すると少女へと目を向けた。
「タバサ。何じゃ、こいつらは?」
「マスターの、お客様でス」

男、アルテスタにタバサと呼ばれた少女はそう言った。

「あの……俺、ロイドっていいます」

アルテスタの低い声に少しビビリつつ、ロイドは一歩前へと出た。

「サイバックのケイトから教えてもらって、プレセアのことで来ました」
「!!」

ロイドがそう言った途端、アルテスタの表情が一変した。

「…………帰れ」
「えっ?」
「あの子のことは、もうたくさんじゃ! 出て行ってくれ!!」

アルテスタは手にしていた鑿を振り上げた。
その目には、狂気と言っていい光が浮かんでいる。
それを見たタバサが動きだけ慌てたように傍に来て、見た目にはそぐわない力強さでルークたちを工房から押し出した。
アルテスタは、腕を下ろすと、背を向けた。
ルークたちは、大きな食卓用のテーブルのある部屋へ押し戻されてしまった。

「スみまセん」

すると、タバサはぎこちなく頭を下げた。

「マスターは、プレセアサんに関わるのを嫌がっておられるのでス。あのような実験に手を貸シて、後悔シているのでス」
「だったら、プレセアを助けてよ!」

タバサの言葉にジーニアスが叫ぶ。

「《要の紋》を修理してくれるだけでいいんだよ!」
「ソれが本当に彼女の為になるのか、わたシにはわからないのでスが……」
「どうして! あのままにしていれば死ぬとわかっていて、その上あんな……あんな惨い暮らしまでしていて、そのままにしていいわけないよ!!」

何故か首を傾げるタバサにルークは思わずそう言った。

「…………ソこまで仰るのなら、抑制鉱石を探すといいでス。プレセアサんのあれは、抑制鉱石で造られた物ではありまセんから」
「タバサ! 何をしている! 連中を追い返せ!!」

アルテスタの怒声が響き、タバサは背を向けた。

「スみまセん、戻らないと。また今度来てくだサい。アルテスタサまを、説得シてみまスから」

そう言うとタバサは工房へと戻っていってしまった。

「なぁ。こっちの世界じゃ、抑制鉱石は何処へ行けば手に入るんだ?」

ロイドは、ゼロスの方を向くとそう訊いた。

「アルタミラからユミルの森へ向けて斜めに続く一連の鉱山地帯で取れる――――と、聞いた」

それに答えたのは、情報通のしいなではなく、リーガルだった。

「もしもプレセアに《要の紋》を創ってやるのに必要だというのなら、協力させて欲しい。私はおまえたちを鉱山に案内できる」
「……なぁ、リーガル。あんた、プレセアとどういう関係なんだ?」

ずっと疑問に思っていたことをロイドはリーガルに質問した。

「関係は……ない」

そう言ったリーガルの表情からこれといった変化を読み取ることは出来なかった。

「その男の言っていることは嘘じゃないよ。抑制鉱石は、『エクスフィア鉱山』の比較的表層で採掘されるんだ」

しいなは頷くとそう言った。

「『エクスフィア鉱山』?」
「そうさ。エクスフィアとその寄生を抑える抑制鉱石は同じ場所から出るのさ」
「私が知ってる鉱山は、ここから海を越えた南の大陸にある」

それを聞いたゼロスの顔が何故か輝いた。

「ってことは、アルタミラの方か! ……いいなぁ、アルタミラ♪ なぁなぁ、ついでに寄ろうぜぇ?」
「あんたねぇ! プレセアの命がかかってるときにあんなチャラチャラしたリゾートで、何を楽しもうって言うんだい!?」

それを聞いたしいなが眉を吊り上げて怒鳴った。

「じょっ、冗談だよ……; そんなに怒るなよ〜;」
「海……また、海なのね……」

そう言ったリフィルの顔は、はっきりと曇っていた。
泳げないリフィルにとって海を渡ることは恐怖でしかないのだから、無理もないかもしれないが……。
「よし! じゃぁ、鉱山に向かおうぜ!!」

ロイドの意見に反対する者はいなかった。
アルテスタの家を出て、エレカーに乗る為に湾へと向かう中、ゼロスはリーガルになぁと声をかけた。

「ずっと気になってたんだけどよ。アンタと俺、どっかで会ったことないかなぁ?」
「…………」

そう言ったゼロスの問いにリーガルは、何も答えることなく歩を速めた。

「……無視かよ。冷てぇな、まったく」

一人遅れる格好になったゼロスはその背中を見送りながら、肩を竦めた。
だが、その唇には微かに笑みが浮かんでいる。

「何だ、ゼロス。気持ち悪い笑みなんか浮かべやがって」

それに気付いたアッシュは、半眼でゼロスを見て言った。

「いや、エクスフィア鉱山ねぇ、と思ってよ」
「なんだい、胡散臭そうな声出して」

声を潜めてそう言ったゼロスの言葉に対して、しいなは眉を顰めた。

「おまえは知ってるでしょうよ。アルタミラの方にあるエクスフィア鉱山と言えば、おそらくトイズバレー鉱山のことだろ?」
「あぁ、隣のモーリアと坑道で繋がってるっていう、あそこかい?」
「だとしたら、あの付近の山の持ち主が誰かを考えてみろよ」
「レザレノ・カンパニーだろうねぇ。でも、それがどうしたんだい?」

ゼロスの言葉にしいなは、小首を傾げてそう言った。
それを聞いたゼロスは、ひどくガッカリした顔になった。

「……ちぇっ。しいなが立派なのは胸だけかよ」
「殴るよっ!」

そう言ったときにはしいなの手はすでに出ていて、ゼロスの頭を思いっきり殴っていた。

「あだっ!」

そのあまりの痛さにゼロスは頭を抱えた。

「…………まぁ、自業自得だな」

そんなゼロスを見て、呆れたように溜息をついてアッシュはそう言うのだった。
























Symphonyシリーズ第5章第9話でした!!
漸くアルテスタさんとタバサに会いに行けたよ!!
正直、タバサの台詞が書きづらかった;
ゼロスとしいなのやり取りを冷め切って見ているアッシュが何気に今回のお気に入りだったりする♪


H.26 4/11



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