「あっ、プレセア!」 オゼットに到着した途端、プレセアは待ちかねたように駆け出していった。 ジーニアスが止めたが、あっという間に見えなくなってしまった。 「追いかけようよ!」 「ああ」 ジーニアスの言葉にロイドは頷くと、プレセアを追いかけるのだった。 〜Symphony The World〜 プレセアを追いかけて村の中を走る中、ルークには何故か村の人々の視線が痛いくらい突き刺さってくるのがわかった。 「気をつけな」 すると、こそっとゼロスが言った。 「この村は、ちょっと病的なまでにハーフエルフを嫌ってる。ぜぇ〜ったいにバレないようにした方がいいぜ。村人全員と、一戦交えるってんならいいけどな」 「ボクたち、悪いことなんか何もしてないのに!」 「そんなことは関係ねぇんだよ」 思わずそう言ったジーニアスにアッシュはそう言った。 「祭司憎けりゃ法衣まで憎い、って言うだろ? 世の中はな、正しけりゃいいって訳じゃねぇだよ。ガキ」 「何だと!」 「アッシュの言う通りね」 アッシュの言葉にロイドは怒鳴ったが、リフィルは同感したように頷いた。 「それが、人間とハーフエルフの現実だわ。でも、それを含めて全てを正す為に、私たちは一歩を踏み出した。些細なことには目を瞑りましょう」 「…………」 ジーニアスは不満そうに膨れたが、何も言い返さなかった。 「ちょっと、あんたたち!」 すると、ルークたちは一人の老婆に声をかけられたので、足を止め振り返った。 老婆はルークたちをジロジロと見ると、手にしていた杖で一番近くにいたロイドの胸を突くようにした。 「余所者のようだけど、今プレセアと一緒にいたね? あんたたち、あの呪われた子と何か関係があるのかい? だったら、とっとと出て行っておくれ! ああ、気味が悪い!!」 「呪われた子? ……それはどういうことですか?」 「何も知らないのかい?」 首を傾げてそう言ったルークに対して、老婆は眉を顰めると声を潜めた。 「……あの子はね、人間のクセにハーフエルフと同じなんだよ。病の父親に代わって、扱える訳のない大きな斧を軽々と使って、その上歳を取らないのさ。……気味が悪いったらないよ。前はよく笑う子だったけど、今じゃすっかりあの通りさ」 「プレセアが帰ってきたの?」 話し声が聞こえたのか、一人の村の女性が近づいてきた。 だが、その顔にははっきりと嫌悪が浮かんでいる。 「せっかくいなくなったと思ったのに……教皇様もこの村のご出身なんだから、ここのことをもっと気にかけて欲しいわ!」 「なんなんだよ、あんたたち! プレセア――もごっ!」 女の言葉にさすがに怒り出したジーニアスの口をリフィルが素早く塞いだ。 「教皇様は、この村のご出身なの?」 「ええ、そうよ。奥様がお亡くなりになられて、それを機会にメルトキオへ移られて、教皇様になられたのよ」 「そう、ありがとう。……ところで、プレセアの家は何処かしら?」 「…………あの子の家なら、そこの坂を下った先よ」 リフィルの問いにいかにも嫌々といった様子で女はとある坂を指差した。 さすがにお礼を言う気になれなかったルークたちは真っ直ぐにそこへ向かった。 「大した連中だよ。プレセアちゃんの伐り出す神木のおかげで、何とか村を維持してるくせによ」 「えっ? そうなの!?」 「ああ。神木の代金は村に支払われる。プレセアちゃんに渡るのはその一部なのさ」 驚くルークのゼロスは頷くとそう言った。 「ひっどい! それなのにあんな言い方するなんて!!」 「でもよ、プレセアは人間なんだろ? 歳を取らない、ってどういうことだ?」 「わからないわ。エクスフィアの影響なのかもしれないけど……」 ロイドの言葉にリフィルは、首を振ってそう言った。 「あっ、プレセア!」 朽ちかけた小さな家の前にいるプレセアをジーニアスは見つけ、声を上げた。 だが、プレセアは一人ではなく、紫の髪を後ろに撫で付け、赤い丸眼鏡をかけた中年の男と何か話しているようだった。 「助かりますよ。おや……?」 男はルークたちに気付いたのか、赤い眼鏡がこっちに向けられる。 「あちらもお客さんですかな?」 「…………運び屋」 < 男の言葉にプレセアは、ポツリとそう言った。 「ほう。運び屋さんですか」 「プレセア! 《要の紋》を作らないと!!」 ジーニアスは、プレセアに駆け寄ってそう言ったが、それをプレセアは感情のない瞳で見つめた。 「仕事……さようなら……」 そして、そう言い残すと踵を返して家の中へと入っていってしまった。 「教会の儀式に使う神木は、プレセアさんにしか採りにいけないんですよ。彼女が戻って来てくれて、こちらも大助かりです。ふぉっふぉっふぉっ」 男はそんな笑い声を立てながら、ルークたちの脇をすり抜けて坂を上がっていった。 「…………・あの男、ハーフエルフだわ」 「えっ?」 リフィルの言葉にルークは、坂を見たがもう男の姿は何処にもなかった。 「間違いないわ。……だからどう、というわけじゃないけれど」 「そうだよ、先生。それより早く、病気だっていうプレセアのお父さんに会おうぜ。プレセアのこともそうだけど、先生、治せるなら治してあげよう」 「ええ、そうね」 ロイドの言葉にリフィルは頷いた。 そして、ルークたちは階段を上がると傾いて軋む扉を押し開けた。 その途端、異様な異臭が押し寄せてきて、ルークは思わず顔を顰めた。 家の中には何とも言えない異臭が籠もっているが、プレセアは何事もなかったかのように隣の部屋からお盆を持って戻ってきた。 その上に載っていたお椀の中身は腐って真っ黒なカビが生えていたが、異臭の原因はこれだけではないようだ。 台所にいるプレセアを残し、ルークたちは恐る恐る隣の部屋へと足を踏み入れた。 そして、その瞬間ルークは息を呑んだ。 「おいおいおい、洒落になんねぇぞ……」 ゼロスの声が微かに掠れている。 当然だとルークは思った。 それを言えただけでも凄い。 俺なんか言葉が喉に引っかかってしまい、息をするのも難しいのに……。 プレセアの父は確かに病気だったのだろう。 だが、今はそれで済む問題ではない。 ベッドの中のプレセアの父親であったであろう人物は既に息はなく、そればかりか腐敗して肉は溶け、身体のあちこちを虫やネズミに食われて見るも無残な姿になっていた。 ジーニアスは我慢出来ず飛び出し、家の外で吐いてしまったのが聞こえた。 「……大丈夫か?」 「うっ、うん……。なんとか……」 心配してアッシュが声をかけてきたのでそう言ったが、実際のところ全然大丈夫ではない。 それをわかっているのか、アッシュは何も言うことなく、ただ隣に立って優しく手を掴んでくれた。 たったそれだけのことなのに、呼吸が楽になったような気がする。 「どうして、こんなことに……」 しいなは比較的に冷静だったが、唇は震えている。 「おそらく、エクスフィアの寄生が進んだ為でしょう。あのベッドの中の人物がどうなっているのか、プレセアにはわからないのね」 「そっ、そんな……」 リフィルの言葉にルークは息を呑んだ。 エクスフィアの寄生がここまで恐ろしいものだとは思わなかった。 「……一先ず、プレセアはここへ置いて行きましょう。この状態で無理に連れ出そうとすれば、死に物狂いで抵抗するかもしれない。私たちだけでアルテスタのところへ行って、《要の紋》の修理について聞いた方がいいわ」 「ああ……そうだな」 リフィルの言葉にロイドは頷いた。 そして、ルークたちは一心不乱に斧を研ぐプレセアを残してアルテスタの家へと向かった。 Symphonyシリーズ第5章第8話でした!! こちらは、ビックリするほど久々の更新ww そして、ついにオゼットまでやってきました!! 本当にここに住む人はプレセアに冷たくていやだなぁと思いつつ書いてた。 さぁ、次にアルテスタさんが登場です!! H.26 4/11 次へ |