「……みんな、ごめんな。勝手に行動して」

再びサイバックの入り口へ戻ってきたルークは、ロイドたちに素直に謝った。

「それより、なんかあったのか?」
「えっ? そっ、それは……」

ロイドの問いにルークは、言葉に詰まった。
正直にクラトスと会っていたなんて言ったら、絶対に怒ると思ったからだ。

「……ルークの奴、ここへ来る途中に財布を落としたんだとよ。それを捜してたんだよ」
「えっ!? そうだったの! 財布、見つかったの?」
「うっ、うん……なんとか……」

呆れたようにそう言ったアッシュの言葉にコレットが心配そうにルークに尋ねた。
それにルークは、苦笑しながらそう答えた。

「もう、ドジだなぁ。ルークは!」
「まったく、今度は気を付けるのよ」
「はっ、はい……;」

ジーニアスとリフィルの言葉にルークはただただ頷いた。

「さぁ、ルークも戻ったことだし、ロイド。その……ケイトという人のところへ行きましょう」
「……そうだな。行こう」

こうして、ルークたちはケイトの許へと向かうのだった。






〜Symphony The World〜








「あなたたち!?」

隠し通路からケイトたちのいる部屋へとルークたちが入るとケイトが驚いたように声を上げた。

「約束通り、仲間を助けてプレセアを連れてきた」
「……ええ、間違いないわ。エルフの血と人間の血が融合した、この不思議なマナ。ハーフエルフが仲間だっていうのは本当だったのね」

ジーニアスとリフィルを交互に見てケイトはそう言った。

「話はロイドたちから聞いてよ。プレセアは、《クルシスの輝石》を体内で作らさせているとか?」
「ええ、そうよ。私たちは『エンジェルス計画』と呼んでいるわ」
「『エンジェルス計画』! 俺の……母さんが関わってた計画と同じだ」

ケイトの言葉にロイドは、目を瞠ってそう言った。
「あのエクスフィア自体は珍しいものではないの。ただ、《要の紋》の紋に特殊な仕掛けがしてあって、本来なら数日で行われるエクスフィアの寄生行動を数年単位に伸ばしているの。それでエクスフィアは、《クルシスの輝石》に突然変異することがあるらしいわ」

そう言ってケイトがプレセアに近づき、プレセアに触れようとするとプレセアはその手を弾き、ルークの後ろへと隠れた。

「まさか……プレセアの感情反応が極端に薄いのは、エクスフィアの寄生が始まっているからなの?」
「そっ、それじゃぁ、以前のコレットと同じじゃないか!?」
「! このままプレセアを放っておいたら、どうなってしまうんですか?」

他人事とは思えなかったコレットがケイトに問いかける。

「寄生が終わると後は……死んでしまうわ」
「そんなの酷いよ! 助けてあげてよ! プレセアが一体、何をしたって言うのさ!!」
「……何も、何もしていないわ。ただ、適性検査に合ってただけ」

ジーニアスの言葉にケイトは首を振るとそう言った。

「…………約束です。プレセアを助けてくれますよね?」
「……ええ、わかってる。あなたたちはハーフエルフを差別しなかった」
「ケイト! いいのか!? そんなことをしたら、おまえが……」

ルークの言葉にそう言って頷くケイトにハーフエルフの男はそう言った。

「約束は約束よ」

それに対してケイトは、男を見てそうはっきりと言った。

「プレセアを助ける為にはガオラキアの森の奥に住んでいるアルテスタというドワーフを訪ねるといいわ」
「この世界にもドワーフがいるのか!?」
「ええ。彼と私たちは教皇に命じられて、この研究に関わっているの」

驚くロイドにケイトは、頷いてそう言った。

「やっぱり、あのヒヒじじいの差し金かよ」
「ヒヒじじいなんて言わないで!!」

目を細めてそう言ったぜロスにケイトは、声を荒げてそう言った。

「おっと。ハーフエルフが教皇の肩を持つとは、珍しいな?」
「……別に。肩なんて持ってないわ」

それに少し驚きつつもゼロスはそう言うと、ケイトは目を逸らしてそう呟いた。

「とにかく、彼女の《要の紋》をアルテスタに修理してもらって」
「ロイドじゃ直せないの?」
「……正直言って、普通の《要の紋》と何処がどう違うのかわからねぇや」

ジーニアスが首を傾げてそう言うのを聞きながら、ロイドはプレセアの胸元にあるエクスフィアを見た。
しかし、そのエクスフィアに付いている《要の紋》は普通のものと同じように見え、何処がどう違うのかわからなかった。

「そのアルテスタってドワーフを捜したほうが早そうだな」

変に俺が弄ってエクスフィアを暴走させてしまったら大変である。

「じゃぁ、話は決まりだね。ガオラキアの森に向かおうか?」
「そうだな。それにしても……まさか教皇とディザイアンたちは繋がっているのか?」
「……そうね。気になるわね」

ロイドの言葉にリフィルは頷く。

「とにかく、今はガオラキアの森へ急ごう」
「そうだな、行こう」

ルークの言葉にロイドは頷くと一同はガオラキアの森を目指してサイバックを後にした。
















ガオラキアの森を目指す中、ルークたちは野営を取った。
ロイドたちが寝静まった頃、ロイドの許に一つの人影が落ちた。
夕焼けのように赤い長髪の少年の翡翠の瞳はロイドの左手に付いたエクスフィアを見つめていた。
以前、ルークはそれに触れたとき、アンナの過去が見えた。
必死に幼いロイドを守ろうとしたアンナを……。
その傍にはいつも一人の男がいた。
そして、アンナの最期のときも……。
顔を見ることは出来なかったが、はっきりとアンナの名を呼んだ彼の声にルークは聞き覚えがあった。
それを確かめる為にはもう一度、ロイドのエクスフィアに触れなければならない。
でも、またあの光景を見るのは正直辛い。
それに、これはロイドの過去でもある。
俺に、そこまで知る権利があるのだろうか。

(…………やっぱり、ダメだ……)

そう思い直したルークは自分の寝床へ戻ろうとロイドに背を向けて歩き出した。
そのときだった。

――――…………えて。
「!!」

突如、聞こえてきた女性の声にルークは足を止めた。

――――……お願い、エクスフィアに触れて! ……あの人に、伝えたいことがあるの!!

それは、間違いなくあのとき聞いたアンナと同じ声だった。
彼女は俺に何かを伝えようとしている。
それに俺は応えなければいけない気がした。
ルークは、再びロイドの許へ歩み寄ると覚悟を決め、エクスフィアに触れた。

















ルークの目の前に広がった光景は、以前にも見たあの光景だった。
無理矢理エクスフィアを剥がされ、怪物化したアンナが暴れまわる。
それをノイシュが幼いロイドを庇って必死に体当たりをした。
それがきっかけとなり、アンナは正気を取り戻した。

『……あなた……お願い……私を……殺して……』

そして、近くにいた男にそうアンナは言った。
以前はわからなかったその人物の顔が今ははっきりと見える。
彼の顔が……。

『……おね……が……い。この子を……殺してしまう前に……私を…………殺して!』

意識が闇に呑み込まれる前に必死のそう叫んだ。
その後はもう身体はいうことをきかない。
アンナは、幼いロイドへと鋭い爪を振り下ろそうと腕を振り上げた。

『アンナ!』

彼は彼女の名を叫ぶと剣を強く握って、そして……。
そして、剣で一気に彼女の身体を貫いた。
あたりに怪物の奇声が轟く。
そして、アンナはロイドとの異種と共に崖から滑り落ちていった。

『アンナ! ロイド!!』

彼の声が哀しいくらい辺りに木霊した。

――――…………これが、私とあの人の最期に過ごした時間……。
「!!」

そう声が聞こえた瞬間、ルークの目の前は真っ暗となった。
そして、一人の女性が現れた。
とても落ち着きのあるその女性は、何処と無くロイドに似ていた。

「あなたは…………アンナさん?」

ルークの問いにアンナは、静かに頷いた。

――――……もうこれ以上、あなたをここへ留めて置く時間は無いの。これ以上、ここにいたらあなたの身体に負担が大きくなってしまうから……。

そう言うとアンナはゆっくりとルークに近づくと、ルークの耳元で何かを囁いた。

「!?」

その言葉にルークは、瞠目した。
そして、アンナはゆっくりとルークから離れると優しい笑みを浮かべた。

< ――――……今の言葉をあの人に伝えてください。こうするしか手段が無かったから。……お願いしますね、《聖なる焔の光》さん。

そう彼女が言った途端、ルークの意識は一瞬にして飛んだ。

















「…………っ!」

再び意識が戻ったとき、ルークの身体にある異変を感じた。
身体のあちこちに痛みが走り、ルークは思わず膝を付いた。

「ルーク!!」

すると、何処からとも泣くアッシュの声が聞こえ、ルークの許へと駆け寄ってきたのがわかる。

「……アッシュ? ……どうしたんだよ、こんな時間に?」
「どうしたじゃねぇだろうが! ……起きたら、おまえがいないから捜してたんだ!!」
「そっか……ごめん……!」

アッシュの言葉にルークは素直に謝ったそのとき、自分の身体が宙に浮いたように感じた。
それは、アッシュがルークを抱きかかえたからだった。

「アッ、アッシュ!?」
「うるせぇ、身体が辛いだろうが。少しは黙ってろ!」
「う゛っ……;」

アッシュの言葉に返す言葉が見つからないルークはそのまま黙るしかなかった。
アッシュはそのままルークを寝床まで連れて行くと優しくルークを寝かせた。

「……アッシュ…………ごめんな」
「…………」

すると、ルークはアッシュに苦笑いを浮かべてそう言った。
アッシュはルークが何に対して謝ったのか理解していた。
何故、自分がこうなったのか、その理由を言えないことに対してだと……。

「………いいから、さっさと寝ろ」

アッシュは優しくルークの頭を撫でるとそう言った。
本当は話して欲しかった。
だが、無理に訊こうとは思わなかった。

「うん……。ありがとう……」

それを聞いたルークは安心したように瞳を閉じると眠りにつくのだった。

























Symphonyシリーズ第5章第5話でした!!
アルテスタに会うためにガオラキアの森へ向かいます!
そして、ルークがついにアンナさんと対面!
アンナさんがクラトスに伝えたかった言葉は物語を進めていく中で書かせていただきま〜す♪
次回、囚人さんと再会です!!


H.25 4/2



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