「じゃぁ、俺は今から《要の紋》を修理するから、みんなここで待ってろな」

そう言うとロイドは研究室の中へと入っていった。
そんな中、アッシュは、一人暗い面持ちで入り口を見つめていた。

「……どうしたの、アッシュ?」

それを不思議そうに思ったルークがアッシュに尋ねた。

「……あの男、さっきとは様子が違っていたからな」

王立研究院へ再び訪れたルークたちをさっきも応接してくれた男の様子がおかしかった。
なにやら、凄く慌ていたそんな感じがした。

「…………気をつけろ。何か嫌な予感がする」

ルークにしか聞こえないような声でアッシュはそう言った。

「……うん」

それにルークは頷くのだった。






〜Symphony The World〜








「……こんな形でおまえに誕生日プレゼントをやるとは思わなかったな」

ロイドは視線を出来たばかりの《要の紋》を見つけて呟いた。

「……遅くなったけど、これが俺からのプレゼントだ……」

ロイドはコレットの《クルシスの輝石》に《要の紋》を嵌め込むように首飾りをコレットにかけた。
一瞬だけ《クルシスの輝石》が光ったようにルークには見えた。

「……コレット? 俺がわかるか?」
「…………」

ロイドがコレットに話しかけるが、コレットの反応は全く変わらなかった。
表情にも変化はなく、瞳にも感情は宿らなかった。

「……どうなの?」
「ダメみたいだ……」

恐る恐る尋ねるルークにロイドは、首を振ってそう言った。

「そう……。なら、ダイクに力を借りたらどうかしら?」
「でも、おじさんはシルヴァラントにいるんだよ。それにレアバードは燃料切れだし……」
「この研究院の人たちなら何かいい方法を知らねぇかな?」
「おいおいおい、ちょっと待てよ。肝心なことを忘れてないか?」

ロイドたちの話にゼロスは割って入った。

「俺様はおまえたちの監視なんだぞ? シルヴァラントに帰るなんて許すわけないだろうが」
「……じゃぁ、ゼロスも一緒に来ればいいんじゃないの?」
「……えっ? マジ?」

ルークに提案にゼロスは、間の抜けた声を上げた。

「あなたはフェミニストなのでしょう?」
「そうだよ。コレットを助ける為だもん。黙っててくれるよね〜。慈悲深い神子(みこ)様は♪」

ゼロスは、ルークたちを見回すと溜息をついた。

「……そう言われたら、チクる訳にはいかないでしょーよ」
「ありがとな、ゼロス!」
「っ////」

ロイドの笑顔にゼロスに顔が赤くなった。
そして、再びゼロスが口を開きかけたそのときだった。

「―――そこまでです、神子(みこ)様」

そう声がすると、研究院にどかどかと重武装した鎧の騎士が数名乗り込んできて、ルークたちを取り囲むようにして立った。
手にした斧には、覆いは付けられてはいない。

神子(みこ)様。聞かせて頂きましたぞ。テセアラの滅亡に手を貸した反逆者として、神子(みこ)様とその者たちを反逆罪に認定します」

騎士の言葉にゼロスは腰に手を当て、舌打ちをした。
「……チッ、随分とタイミングがよすぎるじゃねぇか。教皇騎士団さんよぉ?」
「教皇様のご命令です。神子(みこ)様に王家への反逆の疑いがある為、監視せよと」
「……よーく言うぜ。どっちが反逆しようとしているのやら」

騎士の言葉にゼロスは小さく呟いた。

「取り押さえて、サンプルを取れ。天使の方はいい、下手に近寄ると殺されるぞ」

騎士たちがルークたちへと近づいてくる。
すると、アッシュがそっと手を握ってくれた。
アッシュの顔を見ると、笑みを浮かべていた。
大丈夫だと、そう言ってくれているようでルークの不安は少しだけ和らいだ。

「いてぇ! 何するんだよ!!」

針を刺すような痛みにロイドはそう怒鳴った。

「罪人は捕らえる前に生体検査をするんだよ。こっちのは身分制度があるからな。ハーフエルフは見た目が人間と変わらない奴もいる。そいつらを確認する必要があるんだ」
「! ……生体検査……」

ゼロスの言葉にルークは色を失った。
じゃぁ、俺はどうなるの?
人間でも、エルフでも、ハーフエルフでもない。
人形の俺は一体どんな結果が出るの?
ロイド、ゼロス、プレセア、アッシュと次々に生体検査をしていき、難なくクリアしていく。
その度にルークは不安で鼓動が速くなっていく。

「次はおまえの番だ」
「っ!!」

そう言われた瞬間、ルークの心臓がドクンと跳ねた。
騎士がルークの腕を掴み、検査機らしきものを徐々に近づける。
怖い……。
ルークは、これ以上見ていられなくなって瞳を閉じた。

「……たっ、大変です! 適合しました!!」

その時、聞こえたのはルークを検査しようとしていた騎士ではなく、リフィルとジーニアスを検査していた騎士だった。

「ジーニアス! 先生!」

ジーニアスとリフィルに一斉に視線が注がれる。

「……おまえたち、ハーフエルフだったのかっ!」
「……ハーフエルフだと? おまえら……本当なのか?」

驚き、いや、嫌悪を含んだ表情でゼロスはジーニアスたちを見た。

「…………そうよ」
「姉さん!」
それを否定することなくそう言ったリフィルにジーニアスは叫んだ。

「今更隠しても仕方ないことだわ……」
「低能なハーフエルフが。図々しい身分偽称だ!」
「何だと!」

鼻で笑った騎士に対してロイドは怒鳴った。

「先生もジーニアスもおまえらよりずっと立派だぞ! ハーフエルフだろうが、なんだろうが、関係ないだろう!!」
「おまえらの世界がどうだが知らねぇが、こっちのじゃハーフエルフの身分制度は最下層なんだよ」

冷たい目でリフィルとジーニアスを見ながらゼロスは言った。

「ハーフエルフの罪人は例外なく死罪だ」
「そんなバカなっ!」
「その二人を連れて行け」

騎士たちは、リフィルとジーニアスに手錠を嵌めた。

「おい、こいつの検査がまだ終わってないぞ」

騎士の言葉に再びルークの心臓が跳ね上がる。

「……こいつは俺の双子の弟だ。俺の検査結果を見ればこいつも結果は同じだ」

すると、黙っていたアッシュがそう口を開いた。

「……そうか。なら、さっさとその二人を連れて行け」

アッシュの言葉に少し考えると騎士はそう言った。

「先生! ジーニアス!!」

ロイドは、ジーニアスに駆け寄ろうとしたが、それをゼロスがロイドの腕を掴んで止めた。

「予定が狂ったな。ハーフエルフは魔術が使える。厳重に警戒せねば……」
「余剰兵力がありませんが?」
「橋まで戻って応援を呼ぶ。神子(みこ)たちは……地下にでも軟禁しておけ」

そして、ルークたちは地下へと連れて行かれるのだった。
























Symphonyシリーズ第4章第9話でした!!
ジーニアスとリフィルが捕まってしましました!
ルークは生体検査を逃れましたけど、受けてたらどうなってたのだろう?
次回でしいなと合流します。


H.22 9/9



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