騎士を先頭にして、ルークたちは薄暗い階段を降りていった。
その先は、分厚い金属の扉になっていて、いかにも頑丈そうな鍵が掛けられており、その前に見張りと思わしき男がいた。

「おい、開けろ」

騎士の命令に男は逆らわず、鍵を開けた。






〜Symphony The World〜








そこは上にもあった研究室と似たような作りになっていた。
だが、空気は重苦しく、湿っぽい。

「……誰!?」

ルークたちに気付いた碧色の髪を上げて後ろでまとめた女性が振り返ってそう訊いた。

「ハーフエルフ風情が、俺たちに声をかけるな。おまえは黙って作業を続けてろ」
「…………っ!」

騎士の言葉に女の眼鏡の奥にある瞳が悔しそうに揺れ、唇を噛んでいた。

「こいつらは罪人だ。引き取りに来るまで、ここで監禁しておけ」

そう吐き捨てるように言うと騎士たちは、一秒でもこんな場所にいたくないといった感じでさっさと部屋から出て行った。
騎士達の気配が完全に消えるのを確認してから女は溜息をついた。

「……罪人ねぇ。せっかく人間に生まれたのなら、大人しくしてればいいのに」
「おっ、俺たちは何もしてないっ!」
「まぁ、シルヴァラントに帰ろうとはしてたけどな♪」
「うっ、うるさいなぁ;」

ゼロスに事実を言われ、ロイドは言葉に詰まった。
それを見たゼロスは、面白そうに笑みを浮かべた。
そんな二人の様子をよそに女はプレセアを見た。
その途端、女は驚いたような表情をした。
プレセアは女と目が合った瞬間、ビクッと反応し、そしてルークの背中へと隠れた。

「……プレセア? プレセアね? どうして、あなたがここに!?」
「……うっ……こっ、来ないで……」

何処か怯えたような声でプレセアは、首を振りながらそう言った。
咄嗟にルークの腕を掴んだ彼女の手から震えを感じ、力が徐々に入ってきている。

「……プレセアを知っているんですか?」
「そっ、それは……」

ルークの何気ない問いに女は言葉に詰まった。
それに対してルークとロイドは不思議そうに首を傾げたが、ゼロスは眉を顰めた。

「王立研究院のハーフエルフが人間の子供と知り合いねぇ? ……おかしいじゃねぇか?」
「どうしてだ?」
「言ったろ。こっちの世界じゃハーフエルフはゴミ同然だ。王立研究院で働くハーフエルフは、一生研究院から出してもらえない。……一生な」
「そんな……無茶苦茶だ」
「ひっ、ひどい……」

ゼロスの言葉にロイドとルークは、哀しそうに顔を歪めた。
「……なるほどな。ここから出られないはずのこのハーフエルフがどうして、こいつと知り合えるのか、ということだな?」
「その通り♪ さすが、アッシュだねぇ♪」

アッシュの言葉にゼロスは、何処かふざけたようにそう言った。
だが、その表情はすぐに真剣なものへと変わった。

「……んで? なんであんたは、プレセアちゃんを知ってるんだ?」
「…………その子は、うちのチームの研究用サンプルよ」

ゼロスの鋭い視線に少し戸惑いながら女はそう口を開いた。

「研究? 何の研究だ?」

嫌な予感はする。
だが、アッシュは訊かずにはいられなかった。

「人間の体内で《クルシスの輝石》を生成する研究」
「「っ!?」」

女の言葉にルークとロイドが息を呑んだのがわかる。

「《クルシスの輝石》なんて作れるのか?」

それでもなお、アッシュは質問を続けた。
それに女は頷いた。

「作れるわ。理論的にはエクスフィアと変わらない。人間の体内にゆっくりと寄生させて――」
「ふっ、ふざけるな!!!」
「!!」

女の言葉にロイドは何かが弾けたように怒鳴った。
ロイドの剣幕に女は瞠目した。

「これじゃぁ、まるでディザイアンがエクスフィアを作っていたのと同じだよ!!」

ロイドに続くかのようにルークも叫んだ。

「なに? ……何を言っているの?」

それに女はただただ困惑していた。

「人の命を何だと思っているのかって言ってるんだよ!!!」
「……その言葉、そっくりそのまま返すわ」

ロイドの言葉に女の瞳から鋭い眼光が放たれた。

「あんたたち人間は、ハーフエルフの命を何だと思っているの?」
「同じだよ。そんなの同じに決まってる。ハーフエルフも人間も生きてるってことには変わりないだろ!」

それに対して、ロイドは迷うことなくそう言い切った。

「……俺も……ロイドと同じ意見です。……どんな形で生まれたとしても、生きていることには変わりはない。……どんな形であっても…………」

例え、作られた命であっても、本当だったら存在しない命であっても、生きていいんだ。
自分が生きたいと思うのなら。
自分に生きろと言ってくれた人がいるのなら……。

――――……二人は、テセアラの人間じゃない。
「「「「!!」」」」

すると、辺りに声が響き渡った。
その声の主をルークは知っていた。
ルークの近くにボッと音をたてて煙が立ち込める。
煙が消え、そこから現れたのは肩にコリンを乗せたしいなだ。

「ロイドはシルヴァラントでハーフエルフやドワーフと育った変り種で、ルークはエルフやハーフエルフすら存在しない世界から来た人間だよ」
「!?」
「しいな! どうしてここが……?」

突如現れたしいなに驚いてロイドは目を丸くした。

「詳しい説明は後だ。ジーニアスとリフィルがメルトキオに連行された。今追いかければ、助けられるはずサ!」
「あんたたち、逃げるつもりなの?」

女は信じられないといった感じでそう言った。

「邪魔するつもりかい?」

それに対して、しいなは懐から札を取り出し、いつでも戦える体勢を整えた。

「……こいつは親友のハーフエルフを助けに行くつもりなんだ。どーする? ハーフエルフのお姉ちゃん?」
「だっ、騙されないわ。人間がハーフエルフを助けるわけがない」

ゼロスの言葉を否定するように女は首を振った。

「……しかし、ケイト。ハーフエルフが二人連行されたって話を聞いたぞ」

もう一人いたハーフエルフの男が女――ケイトにそう言った。

「…………」

男の言葉にケイトは、無言でルークたちを見つめた。
それをルークは真っ直ぐと見つめ返した。

「くそっ! 時間がねぇ。邪魔するって言うなら戦うまでだ!」

ロイドは腰にある双剣を抜いた。
今は一分一秒でも時間が惜しい。
ルークも諦めたように譜歌(ふか)を歌おうと息を吸った。

「……いいわ。見逃してあげる」

すると、ケイトは決心したようにそう口を開いた。

「……本当、ですか?」

そう言ったルークにケイトは頷いた。

「その代わり、そのハーフエルフの仲間を助けたら必ずここへ戻って来て。あなたたちの話が本当だったら……プレセアを研究体から解放してあげてもいいわ」
「本当だな?」

ケイトの言葉にロイドは、双剣を鞘へと戻すとそう訊いた。

「女神マーテルに誓って」
「…………わかった」

ケイトの言葉にロイドの眉が微かに動いたが、ロイドは頷いた。

「じゃぁ……こっちよ。秘密の抜け道があるの。ここからサイバックの街へと出られるわ」

ケイトはそう言うと、とある本棚の前へと移動した。
そして、その本棚にある一冊の本を動かすと、本棚がすうっと横へスライドした。
そこから一つの道が現れた。

「助かる」
「ありがとうございます」

それにロイドとルークは、素直にお礼を述べた。

「……プレセアちゃんの研究ってのは、誰の命令だ?」

ゼロスは、いつになく真剣な表情でケイトに尋ねた。

「それは……言えない」
「教皇、だな?」
「…………」

それにケイトは、答えなかった。
だが、その沈黙がゼロスの言葉を肯定した。

「ゼロス! 急ぐぞ!!」
「わーってるよ! やれやれだぜ……」

ロイドの言葉にゼロスはそう言うと踵を返して外へと歩き出した。
























Symphonyシリーズ第4章第10話でした!!
ケイトの話を聞いてロイドとルークが激怒しちゃいました♪
てか、しいながルークの秘密をさらりと暴露しているのに、ケイトが全く驚いてないし;
次は、グランテセアラブリッジへ行ってジーニアスとリフィルを助けます!!


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