――――おまえはただ自分とあいつを重ねて見てるだけだろ! そんなのおまえの自己満足なだけだっ!

さっきのアッシュの言葉が頭の中に何度も反響する。
胸が締め付けられるように、痛い。
涙を流しながら、ルークは無我夢中で走った。






〜Symphony The World〜








「へぇ〜。あれがアッシュの捜していた《聖なる焔の光》ねぇ〜。追わなくていいのか?」

教会の扉の向こうを眺めて、ゼロスはアッシュに尋ねた。

「……いいんだよ、別にっ!」

それにアッシュは、鬱陶しそうに前髪を掻き揚げて言った。

「…………あんな言い方、ないんじゃないか」

アッシュの態度を見て、ロイドは静かに言った。

「せっかく、逢えたのにあんたはあんなことしか言えないのかよ!」
「はぁ? おまえたちには、関係ないだろう」
「かっ、関係なくなんかないよ! ルークは、ボクたちの仲間なんだから!!」

冷たいアッシュの言葉にジーニアスはそう怒鳴った。

「……仲間、ねぇ……。おまえたちにルークの何がわかるって言うんだ」

それに対してアッシュは、何処か冷めたような口調でそう言った。

「……わかってないのは、おまえの方だろう」
「……なんだと」

静かなロイドの言葉にアッシュの翡翠の瞳が苛烈な光を帯びた。

「だって、そうだろう!? つい最近までルークは大変なことになってたんだぞ!! なのに、あんな酷いこと言って!!」
「だから、どういう意味だと、聞いているだろうが!!」
「アッシュ。少しは抑えろって;」

アッシュは、今にもロイドに掴みかかりそうな勢いで怒鳴った。
それを慌てて止めたのが、ゼロスである。

「……ルークは、ユグドラシル――クルシスとディザイアンを統べる存在に致命傷な傷を負わされたの」
「!?」

リフィルの言葉にアッシュの表情が一変した。

「そして、防衛本能かしら? ルークは、超振動(ちょうしんどう)を暴走させてしまったの。だから、ルークが目を覚ましたのは、つい最近なのよ」
超振動(ちょうしんどう)? ……なんだそりゃ?」

リフィルの言葉にゼロスは首を傾げた。

「……ありとあらゆる物質を分解し、再構築する力だよ。知らなかったの?」
「いやぁ〜。アッシュは自分の世界のことは、あんまし喋んなかったし;」

不思議そうな顔でジーニアスが聞くとゼロスは苦笑してそう言った。
そんな会話がアッシュの耳には、すうっと通り抜けていく。
ルークは、致命傷な傷を負っていた。
しかも、超振動(ちょうしんどう)まで暴走させていた。
なのに、あいつは笑っていたのだ。
何事もなかったかのように……。

「……あのバカ!!」

自然と手には力が入る。
そして、アッシュは踵を返して、教会を後にした。

「おっ、おい、アッシュ! 何処に行くんだよ!?」
「決まってるだろっ! あのバカを連れ戻すんだよっ!!」

振り返ることなくアッシュはそう吐き捨てると、教会を出て行った。

「……俺たちも行こうぜ」

アッシュの姿が見えなくなると、ロイドはジーニアスたちにそう提案した。

「ルークの身体が心配だ。ルークがまた倒れる前に早く見つけようぜ」

いくら元気そうに見えてもルークの身体は、かなりの負担が掛かっているはずだ。
だから、敢えてさっきもついて来るのを控えたのだろう。
少しでも、身体を休める為に……。それを誰にも悟られないように……。
ルークは、そういうやつなんだ。

「そうね……。行きましょう」
ロイドの言葉に素直にリフィルたちは頷くと、ルークを捜す為にそれぞれ教会を後にした。

















「ハァ……ハァ……」

初めは歩いていたはずなのに、いつの間にかアッシュは息を切らせながら走っていた。
それは、決して闇雲に走っているわけではない。
わかるのだ。
この先にルークがいることが……。
そして、アッシュは足を止めた。
その視線の先には美しい夕焼けのように赤い長髪が静かに揺れていた。
その背中はとても淋しそうに見えた。
そんなルークの姿にアッシュは一瞬と惑ったが、思い切って一歩踏み出した。

「……ルーク……。すま――」
「ごめんな、アッシュ」

振り返ることなく、ルークはアッシュの言葉を遮ってそう言った。

「……図星だったんだ。アッシュに言われたことが。俺は……コレットから昔の俺を見ていた」

そして、ゆっくりとアッシュへと振り向くと笑みを浮かべてそう言った。
ルークは笑っているはずなのに、その笑みはとても哀しく、アッシュの胸を締め付けた。

「…………俺さ、わかったんだ。あのときのティアたちがどれだけ辛かったのかを……」

ただ見ているしかできないことの辛さを……。
何も出来ない無力な自分に腹が立った。

「だから……俺、自己満足だって言われてもいい。……コレットを助けたいんだ」

もう嫌なんだ。
同じ苦しみを誰かが背負うのは……。

「だから――」
「わかった」

アッシュの返答にルークは、キョトンとした表情になった。

「……えっ?」
「どうせ、止めたってやるんだろ? だったら、おまえが無茶しないように見てやるよ」

少し溜息をついてアッシュは、そう言うとルークへと歩み寄った。

「……あいつらから聞いた。……超振動(ちょうしんどう)を暴走させたのか?」
「えっ? あっ、うん……。よくは……憶えてないんだけど……;」

アッシュの言葉にルークは、困ったように笑った。

「……すまなかった」
「どっ、どうしてアッシュが謝るんだよ?」
「……俺は、一番初めに確認すべきことは、おまえの身体だったんだ。……それなのに……」
「アッシュは悪くないよ! アッシュが俺のことを想って、ああ言ってくれたこと、ちゃんとわかってるから……」

申し訳なさそうな顔になったアッシュにルークは慌ててそう言った。

「そっ、それにさ! 実際のところ俺、全然平気だから! だから……!」

笑ってそう言い掛けたとき、ルークの視界が一気に変わり、ルークはアッシュの胸の中にいた。

「アッ、アッシュ……!?」

それにルークは、ただ慌てるしかなかった。

「…………よかった、ほんとうに……」

気付いてやれなかった。
俺はあのとき、それを感じたはずなのに。
《ローレライの宝珠》が、それを知らせてくれたのに……。
ルークが苦しんでいるときに俺は、何もしてやれなかった。
あいつらに話を聞いて、正直心臓が止まるかと思った。
そして、すぐにルークを抱き締めたいと思った。
怖かった。
目の前にいるルークが消えてしまいそうで……。
だが、今感じるのは間違いなくルークの熱だ。
自分の愛しい半身の……。

「……俺さ、ずっと……アッシュに逢いたかったんだ」

静かで優しいルークの声が、アッシュの耳に届く。

「けどさ……呼べなかった。アッシュを呼んだって、この世界にはアッシュがいないと思っていたから……」

呼んでしまったら、逢いたくなる。
アッシュの姿を捜してしまう。
だから、その気持ちを今日まで押し殺してきたんだ。

「…………呼べよ、俺の名前を」

さっきより強く、けれど優しくアッシュはルークを抱き締めた。

「……ちゃんと、答えてやる。……だから、我慢するな」
「……っ!」

優しいアッシュの言葉でルークの瞳から涙が溢れ出した。

「…………アッシュ」
「ああ……」

ルークの言葉にアッシュは優しく笑うと、ルークの背中を撫でた。

「……アッシュ。……アッシュっ!」

それが嬉しくて、嬉しくてルークは何度もアッシュの名前を呼んだ。
涙は止まらない。
でも、これは嬉しくて泣いているのだ。
だから、それを止めようとはしなかった。
そんなルークをアッシュは静かに背中を撫でるのだった。

















「…………」

そんな二人の姿を遠くから一人ロイドは見つめていた。

「ロイド! ルークは……見つかった?」

そこにジーニアスは、息を切らしながらやってきた。

「……いや、こっちにはいなかったぜ。……いくぞ」

そうロイドは言うと、踵を返すと歩き出した。

「えっ? でも、何処に?」
「決まってるだろ、教会にだよ」
「でっ、でも、ルークがまだ見つかってないよ?」
「大丈夫だよ、ルークなら……」

そう言ったロイドの声は、微かに震えていた。

「ロイド……?」
「ほら、さっさといくぞ! ジーニアス」

ロイドはいつもと変わらない笑顔でジーニアスに笑いかけた。

「うん……いこう」

それにジーニアスは頷くとロイドと並んで歩き出した。
























Symphonyシリーズ第4章第5話でした!!
ルークがいなくなったらアッシュとロイドが喧嘩してしまったし;
絶対、この二人はなかなか仲良くならないと思うんだよね!
ロイドにとってもルークは今のところ大切な存在だから。
そして、二人を見つけたロイドが切なすぎた;


H.21 9/22



次へ