彼女が、コレットが天使になるまで、残りあとわずか……。 それまでに、俺は彼女に何をしてあげられるのだろうか? 〜Symphony The World〜 ロイドの隣にいるコレットの手が動く。 ロイドの掌を開いて、その上に指を滑らせた。 ロイドはその指を動きを読み取って眉を顰めた。 「……『ごめんね』? なんで謝るんだ?」 すると、コレットはさらに指を滑らせた。 「……『最後なのに……喋ることが……出来ないから。……変だって』?」 ロイドの言葉にコレットは、それを肯定するように頷いた。 「……バーカ。そんなのどうでもいいよ。どんなになってもおまえはおまえ。例え、おまえが天使になっても、マーブルさんみたいになっても、俺はおまえのこと変なんて思わねぇよ。絶対に」 それを聞くとコレットはロイドの手を強く握り締め、不器用ながら本当に嬉しいときに見せる微笑を浮かべた。 それに、なんとなく照れくさくなって真っ直ぐ見ることが出来なくなったロイドは視線を逸らした。 「そっ、それより、俺のほうこそ謝らねぇと」 「………?」 不思議そうにコレットは首を傾げた。 「旅が終わるまでにおまえの首飾り作ってやるって約束したのに、まだまだ先だと思って全然終わってないんだ」 ロイドがそう言うとコレットは首を振ると、再び指を滑らせた。 「……『ずっと……待ってる。……天使になっても……ずっと待ってる。……だから……いつでもいい』」 コレットの顔を見ると、コレットはコクリと頷いた。 それにロイドも頷いた。 「……わかった。今度こそ作るよ。どんなに時間がかかっても」 それを聞いたコレットは、本当に嬉しそうに笑った。 「……最後に聞いていいか?」 ロイドの言葉にコレットは首を傾げた。 「……本当に、後悔しないのか? 天使になってもいいのか?」 「…………」 その問いにコレットは少し考えてから、指を動かした。 「……『本当は……少し怖い』……か。そうだよな」 ロイドがそう呟いたとき、コレットの指がまだ動いているのに気付き、さらに読み進めた。 「『でも、自分の……人間としての……命を……引き換えに……シルヴァラントが……生まれ変わるなら……、自分の……命が……世界中に……溢れるってこと。そう考えたら……大丈夫』」 そうロイドが言い終わると、コレットはロイドから手を放した。 「……おまえって、強いな」 その言葉にコレットは曖昧に笑った。 辺りに吹く風が先程より冷たくなったのをロイドは感じた。 「……風が冷たくなってきたな。そろそろ、宿に戻ろう」 コレットの身体を気遣っての言葉だった。 「……あっ、ごめん。おまえ、感じないんだったな」 その言葉にしてから、今のコレットの状態をロイドは思い出し、申し訳なさそうにそう言った。 コレットは、自分の身体を何かを確認するようにして触ると、ロイドに笑みを浮かべた。 それはまるで、「気にしないで」と自分に言っているようだった。 そして、コレットはそのまま踵を返して、坂を下りていった。 「…………くそっ! どうにもならないのかよ!!」 悔しそうに拳を握ると、ロイドはコレットの後を追って走り出した。 ――――おまえは彼女の願いを叶える為にこの世界に連れて来られたのだ。 彼女の願い。 それを叶える為に俺は、この世界に連れて来られた……。 ――――……世界を支える場所。そこに彼女はいる。 世界を支える場所。 それは一体何処……? 「どうした、ルーク?」 暗くなっていく空に向かって、何処までも伸びている白亜の塔を眺めるルークの背中に声が掛かる。 ルークが視線を向けると、鳶色の髪と瞳が視界に入った。 「……クラトス」 ルークが彼の名を呼ぶと、ルークの傍へとクラトスは歩み寄った。 「どうした? また、考え事か?」 「えっ? えっと……その……」 突然のことにルークは、躊躇ったように口をパクパクさせる。 「……いや、別に無理して話すことはない」 「ちっ、違うよ! って言うかどっちかっていうと聞いて欲しいし……」 「?」 溜息をついたクラトスに対して、ルークは慌ててそう言った。 それに対してクラトスは、不思議そうな表情を浮かべた。 「あっ、あのさ……。世界を支える場所って、何処だかわかる?」 本当はコレットに聞こうと思っていたのだが、タイミングを逃して聞けなくなってしまった。 「……世界を支える場所? それがどうしたのだ?」 ルークの問いにクラトスの眉が微かに上がった。 「なっ、なんかさ……ユニコーンが言うには、そこに俺をこの世界に連れてきた人がいるらしいんだよ」 「……そうか。だか、すまない。そこに思い当たる場所には心当たりはないな」 「……そっか。本当に何処なんだろう……;」 クラトスの言葉にルークは、残念そうに肩を落としてそう言った。 「……そろそろ、宿へ戻ろう。明日は早いのだからな」 「…………はい」 クラトスに促されたルークは、宿屋へと向かって歩き出した。 が、そう言った当の本人はその場を動くことなく、≪救いの塔≫を一瞥した。 「…………まさか」 まさか……そんなはずがない。 そんなことはありえないのだ……。 だが……それ以外は考えられないのだ。 おまえが呼んだのか……? 彼を、ルークのことを……。 「……クラトス! 何、突っ立ってるの? 早く、行こ!!」 遠くから聞こえるルークの声にクラトスは、現実に引き戻された。 「あ、ああ……」 そして、踵を返して、ルークの許へと歩み寄るのだった。 Symphonyシリーズ第3章第9話でした!! コレットとロイドが話すシーン。 これは何度見ても切ないです>< そして、クラトスは何を知っているでしょうか? H.20 11/30 次へ |