ルークは、ウンディーネとの距離を一気に縮めた。
その周囲に水の球が浮かび上がったと思った直後、ルークは激しい水流に呑み込まれた。






〜Symphony The World〜








「ルーク!!」

そう叫ぶロイドの声は、ルークの耳には届かなかった。
全ての音という音を水流によって遮断されたから。
これは、自分が知っているジェイドのスプラッシュより遥かに威力があった。
だが、それをまともに喰らうルークではなかった。
激しい水流に呑み込まれた瞬間にルークは粋護陣を発動されたのだ。
やがて、水流の勢いが弱くなっていったので、ルークは一気に駆け出しウンディーネに斬りかかった。

「っ!?」

ルークの思わぬ行動にウンディーネは反応が遅れたが、ギリギリのところでそれを避けた。

「ジーニアス! 火だ!!」
「うん! 任せて!!」

ロイドの言葉にジーニアスは頷くと、剣玉でリズムを取り始めた。
その時間を稼ぐ為にロイドもウンディーネに近づき、ルークの応戦に入った。
すると――。

「二人とも、下がって!!」

ジーニアスの声にルークとロイドはすぐにその場から飛び退いた。

「燃えちゃえっ! ――――イラブション!!」

ウンディーネの足元が崩れ、極小の噴火が起こった。
ウンディーネの肉体を構成する水が次々と蒸発し、あたりに濛々と霧が立ち込める。

「くらえっ! ――――生吸符!!」

その霧に紛れて近づいたしいなは、符をウンディーネに張り付けた。
符が光を放ち、ウンディーネから生気を吸い取る。

「吹き飛びなぁ!」

その間にルークは崩襲脚を放ち、火のFOF(フィールドオブフォニムス)を発動させた。
そして、ルークは天高く飛び上がった。

「――――紅蓮襲撃!!」

辺りに炎を纏ったまま、ルークはウンディーネに蹴りを放った。
炎がウンディーネの身を包み、それに形を保てなくなった彼女はただの水に戻って地に広がった。

(やっ、やりすぎたかなぁ;)

その事態にルークは、ただただ焦った。
だが、地に広がった水は徐々に集まりだし、再び人の形をとった。
瞼を開くとルビーのように紅い瞳が現れる。
そして、穏やかな瞳で何故かルークを見つめた。

「………さすがは、《ローレライの愛し子》ですね♪」
「えっ?」

そう呟いたウンディーネの言葉にルークは瞠目した。
そんなルークの様子など気にすることなく、ウンディーネはしいなたちへと視線を向けた。

「……見事です。あなたたちを認めましょう」

そして優しく微笑み、ウンディーネはそう言った。

「では、誓いを立てなさい。私との契約に、何を誓うのですか?」
「……今、この瞬間にも苦しんでいる人がいる。その人たちを救うことを誓う」

少し考えた上で、しいなはそう言った。
そのしいなの誓いに賛同したように、ウンディーネは頷いた。

「わかりました。私の力を契約者しいなに……」

そう言うと、ウンディーネは元の光に戻っていた。
光が収束し、最後には一つの指輪だけが残った。
指輪はゆっくりと降下し、しいなの手の中に納まった。
指輪を握り締め、しいなの顔が綻んだ。

「……やった。……精霊と契約ができた!」
「おめでとう! しいな!!」

ルークは、すぐにしいなに駆け寄り、満面の笑みをしいなに向けた。

「あっ、ありがとう。でも……契約ができたのは、ルークのおかげだよ」

ルークの笑みにしいなは、少し顔を赤らめて、そう言った。

「ううん、それは違うよ! しいなが頑張ったから、契約ができたんだよ!!」

そう言うルークに対して、しいなは首を振った。

「いや……。あのとき、ルークがああ言ってくれたから、あたしは頑張れたのさ。だから……ありがとう」

しいなは、そう言うと笑顔になった。

「そっか……。なら、どういたしまして!」

それを見たルークは何だか嬉しくなり、さらに笑った。

「……そういえば、ウンディーネって、普段はその指輪の中に入っているの?」
「いや、そうではない」

ルークの質問に答えたのはしいなではなく、クラトスだった。

「そのアクアマリンの指輪は、ウンディーネを呼ぶことを許された証だ。精霊にはそれぞれ、対応した指輪がある。元々はドワーフが作ったものらしいが、それもそうなのかどうかはわからん」

それを聞いたリフィルは、クラトスのほうへと振り向いた。
その表情はまるで、何かを疑っているような感じの表情だった。

「……あなた、やけにいろいろと詳しいのね。とても一介の傭兵の知識とは思えないわ」
「精霊について少々詳しい知り合いがいただけだ。生き抜く為には何事も、知らぬより知っていたほうがいい。知識もまた武器だ」
「……そう」

リフィルは、そう言うと目を細めた。
その様子から、明らかにクラトスの言葉を信じていないということがわかった。
クラトスは小さくため息をつくと、リフィルから視線を逸らした。

「それにしたって、クラトスは凄いよ! それにクラトスが言っていることもよくわかるよ!! 知らないより、知ったほうがいいってこと」

あのときの俺は何も知ろうとしなかった。
そのせいで多くの人の命を奪ってしまった。
だから、クラトスの言葉が俺には身に沁みてよくわかる。

「リフィルさんも、そう思いますよね?」
「えっ? ええ……。それはそうだけど……」

素直なルークの言葉に思わずリフィルは頷いた。

「だったら、この話はここで終わり! さっさと、ユウマシ湖に向かおうよ!!」
「わっ、わかりましたから、そんなに押さないの、ルーク;」

リフィルの背中を押しながら、ルークは転送装置へと歩き出した。
クラトスとすれ違ったとき、とても小さな声で「ありがとう」と、クラトスが言ったようにルークには聞こえた。

















「コレット。隣、いい?」

洞窟を出るとすっかり日が暮れていたので、ルークたちはここで野営をとることにした。
食事を取り、明日に備えてロイドたちは、休眠を取り始めた。
しかし、眠ることができなくなったコレットは、一人静かに星空を眺めていた。
暇を潰すのに夜空の星を数えたら言いとクラトスに教えられたので、毎日それをやっている。
すると、コレットの背中に声をかける声が聞こえた。
振り返ってその方向を見ると、夕焼けのように赤い長髪の少年の姿がそこにあった。
それにコレットはコクリと頷くと、ルークはコレットの隣に腰を下ろした。

「……コレット。ちょっと、両手を出してみて?」
「?……」

コレットはルークの言葉に不思議そうな表情をして、そしてルークへと両手を差し出した。
それをルークの手が優しく包み込む。
すると、ルークの頭の中にキィンという音が微かに鳴った。
そして、声が聞こえてきた。

――――……どうしたんだろう? さっき、転んだからまた、私怪我しちゃったかな?
痛みを感じない自分には、それがわからない。
だが、ルークは首を振った。

「安心して、コレットは怪我なんてしてないから」
「!?」

ルークの言葉にコレットは、驚いたような表情を浮かべた。
――――どうして、わかったの?
「それは、俺にはコレットの声が聞こえてるから♪」

コレットの問いにルークは、笑ってそう答えた。

――――……私の声……聞こえてるの?

「うん。……正確に言えば、頭の中でコレットの声が響いてる、って感じだけどね♪」
――――そうなんだ。……でも、どうして?
「たぶん、コレットの手を繋いでいるからだと思う。あの時、突然コレットの声が聞こえたからさ」

ソダ島に到着し、陸地に上がろうとしたコレットはバランスを崩した。
それをルークが咄嗟に手を伸ばしてコレットを陸へと引き寄せたのだった。
そのとき、ルークは確かに「ありがとう、ルーク!」、と言うコレットの声が聞こえたのだった。

「……なんで、コレットの声が聞こえるのか、理由もなんとなくわかるけど……」

そう言ったルークの翡翠の瞳が何処か哀しげに揺れた。

――――……無理に話さなくていいよ、ルーク。
「……うん。ごめんな」

ルークは頷き、笑ってそう言った。
その笑みはコレットには、無理して笑っているように見えた。

「……だからさぁ、俺でよかったら話相手になるよ」
――――……えっ?
「ずっと起きてると、することがなくてつまんないだろ? だから、俺と喋って少しでもそれが紛れたらいいな、って思ってさ!」
――――……でも、そんなことしたら、ルークが疲れちゃうよ。
「大丈夫。できるだけ無理はしないし、眠くなったらちゃんと寝るからさ!」

心配そうな瞳で見つめるコレットにルークはそう言った。

「……それに、今の俺にはこれくらいしか、コレットにしてあげられないし」

そういうルークに対してコレットは、思いっきり首を振った。

――――そんなことないよ! ルークに私の声が届いてるってことがとっても嬉しいよ!! ………ありがとう、ルーク。

そして、コレットは不器用な笑みをルークに向けた。
それが今、彼女がルークに見せることができる精一杯の笑顔だった。

「……じゃぁ、せっかくだし何話そっか♪」

そして、ルークとコレットは夜が明けるまで語り明かしたのだった。
























Symphonyシリーズ第3章第6話でした!!
やっぱりね、戦闘はルークで始まり、ルークで終わらないといけませんねww
そして、ウンディーネにルークのことを《ローレライの愛し子》と言わせてみましたww
≪聖なる焔の光≫でもよかったんですけど、こっちの方が面白いかなぁ、と思いまして♪
ウンディーネとの契約でルークとしいなの関係がギュッと縮まった感じですねww
そして、ルークとコレットとの会話♪
これは、二人だけの秘密です!!


H.20 7/7



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