「コレット!」

コレットが倒れたのは、マナの守護塔を出たすぐ後だった。

「先生! コレットの天使疾患が……」

ロイドとルークは、すぐさまコレットに駆け寄った。

「わかりました。今日はここで休みましょう」
「…………!」

蒼白い顔で口を開いたコレットは、目を見開いた。

「……?……」

コレットが、どれだけ口を動かしても聞こえるのは息が掠れる音だけで、声は聞こえなかった。

「コレット、どうしたんだ!?」

コレットの異変に気付き、ロイドはコレットの肩を掴んだ。

「……声を失ったのではないか」
「「「「「!?」」」」」

静かにそう言ったクラトスの言葉にルークたちに衝撃が走った。

「そんな!」
「……!!……」

コレットが、口を動かしても声は出ない。
その事実にコレットの肩は、小さく震えていた。






〜Symphony The World〜








「……みんな。聞いてくれないか」

日が完全に沈み、空に眩いばかりに星が輝く下でルークたちは、焚き火を囲んで座っていた。
すると、突然しいなが立ち上がり思いつめたような瞳がそう言った。

「どうしたんだ、急に?」
「……どうしてあたしが神子(みこ)の命を狙っていたのか、話しておきたいんだよ」

突然のしいなの行動に不思議そうに尋ねたロイドにしいなはそう言った。

「聞きましょう。この世界には存在しない、あなたの国のことを」
「知っていたのか!?」

リフィルの言葉を聞いたしいなは、驚きで目が見開いた。
それに対してリフィルは、首を振った。

「いいえ。でも、あなたが言ったのよ。『シルヴァラントは救われる』って。それなら、あなたはシルヴァラントの人間ではないってことでしょう?」
「ああ……アンタは、本当にシルヴァラントには勿体無い頭脳を持っているんだね」

リフィルの言葉にしいなは、溜息をつくとそう言った。

「いいえ。それを確信できたのは、ルークのおかげよ。世界が一つではないことをルークが教えてくれたのだから」
「ちょっ、ちょっと待った! ルークは、シルヴァラントの人間じゃないのかいっ!?」

思っても見なかったリフィルの言葉にしいなは声を上げた。

「えっ? うっ、うん。俺、気が付いたらこのシルヴァラントにいたんだ。たぶん、しいなの世界とは違う世界だと思うよ」

そんなしいなの姿を見たルークは、思わず苦笑した。

「ああ……。そうだろうね。あたしの世界にはあんな歌は、存在しないし……」

ルークの説明に納得したようにしいなは呟いた。

「とりあえず、あたしの国は『テセアラ』……そう呼ばれている」
「『テセアラ』!? テセアラって月のこと?」

ジーニアスは月を指し示しながら、しいなに問いかけた。

「まさか。あたしの国は、確かに地上にある」
「「「「「?」」」」」
「あたしにだって、詳しいことはわからないんだ」

不思議そうな顔をするルークたちを見て、しいなは困ったような顔をした。

「でも、このシルヴァラントには光と影のように寄り添い合うもう一つの世界がある。それが『テセアラ』……つまりあたしの世界サ」
「……寄り添い合う、二つの世界?」
「二つの世界は常に隣り合って存在している。だた、『見えない』だけなんだ。学者に言わせると、空間がずれているんだと。とにかく、二つの世界は見ることも触ることも出来ないけれど、確かにすぐ隣に存在して干渉し合っているって訳さ」
「……干渉し合うって、どういうことだ?」

ロイドは意味がさっぱりわからない、といった感じで首を傾げた。

「マナを搾取し合ってる」

それに対してしいなは、はっきりとそう言った。

「片方の世界が衰退するとき、その世界に存在するマナは全てもう片方の世界へと流れ込む。その結果、常に片方の世界は繁栄し、片方の世界は衰退する。砂時計みたいにね」
「まっ、待ってよ! それじゃぁ、今のシルヴァラントは……」

ジーニアスの言葉にしいなは頷く。

「そう。シルヴァラントのマナはテセアラに注がれている。だから、シルヴァラントは衰退する。マナがなければ作物は育たないし、魔法も使えなくなっていく。女神マーテルと共に世界を守護する精霊もマナがないからシルヴァラントでは暮らせない。結果、世界はますます滅亡の坂道を転がり落ちる」
「じゃぁ、神子(みこ)による世界再生は、マナの流れを逆転させる作業なの?」
「……そう言うことだね」

リフィルの問いにしいなは瞳を閉じ、深く息を吸うとそう言った。

神子(みこ)が封印を解放すると、マナの流れが逆転して封印を司る精霊が目を覚ます。あたしは、この世界再生を阻止するために送られてきた。超えられないはずの空間の亀裂を突き抜けて、テセアラを護る為に」

冷静さを保ってそう言おうとしているしいなの声は、微かに震えていた。
それを聞いたロイドはゆっくりと立ち上がると、しいなを見つめた。

「……それは、シルヴァラントを見殺しにするってことか」

そう言ったロイドの声も震えていた。
それを聞いたしいなは、悲痛な表情を浮かべた。

「そう言うけど、あんたたちだって再生を行うことによって、確かに存在しているテセアラを滅亡させようとしているんだ! ……やっていることは同じだよ」
「…………」
「……そんな目で見ないどくれ、コレット。アンタがそんなつもりじゃないことは、わかってるよ」

哀しそうなコレットの視線に気付いて、しいなも悲しそうにそう言った。

「……あたしだって、どうしていいのかわからないだ。テセアラを護る為に来たけどこの世界は貧しくて、みんな苦しんでてさ。でも、あたしが世界再生を許してしまったら、テセアラがここと同じようになってしまう」
「でも今は、ボクたちに協力してくれてるよね」
「だからって、テセアラを見捨てることは出来ないよ! あたしにはわからないんだ……」

ジーニアスの言葉にしいなは、苦しそうにそう言った。

「なぁ、他に道はないのか? シルヴァラントもテセアラもコレットも幸せになる道はサ!」
「俺だって、知りたいよ!」
「……そんな都合のいいものは、現実にはないのではなくて?」

しいなの言葉にロイドは叫び、リフィルは静かにそう言った。

「……我々に出来る最善のことは、今危機に瀕しているシルヴァラントを救うことだ」

クラトスは、焚き火の火を見つめたままそう言った。
「例えば、世界を再生しないで、ディザイアンを倒したらどうかな?」

ロイドの提案にクラトスは首を振った。

「確かに牧場は破壊してきた。しかし、ディザイアン全員を滅ぼせるわけではない。マナもやがて枯渇する」
「……マナって、そんなに大事なものなの?」

ルークは、首を傾げてそう言った。
シルヴァラントとテセアラの人間ではないルークには、それがよく理解することが出来なかった。
マナは、音素(フォニム)に似ているようで違うものだから……。

「魔術使いや学者以外は、あまり気にしたことがないかもね」

それに口を開いたのは、ジーニアスだった。

「あらゆる命にとってマナは、空気や水よりも大切なんだよ。マナがなかったら、大地は死ぬんだ。全てを構成する源がマナなんだ。僕はそう学んだ。……そうだよね、姉さん?」

ジーニアスの言葉にリフィルは頷いた。

「ええ。……お伽話のようにマナを生み出す大樹は、この世の何処にもない。私たちは、限られたマナを切り崩して生きているのよ。だから、ディザイアンがマナを大量に消費した年は、作物が不作になるわ。かつて存在した魔科学が失われたのは、何故だと思って?」
「それは……マナが枯渇したから……ですか?」
「そうよ。だから、当時の人々はそれを捨てたの。……でも、今の私たちには捨てるものがないの」
「…………」

すると、ロイドの傍にいたコレットは、ロイドの手を取った。

「……コレット?」

ロイドは振り返ってコレットを見ると、コレットは優しく微笑んだ。
そして、コレットは、ロイドの掌に滑らすように指を動かした。

「ああ……、文字を書いてくれているんだな」

それに気付いたロイドは、コレットの指を動きを目で追っていった。

「……『レミエル様に……お願い……してみる。……二つの……世界を……救う方法が……ないか』」

ロイドの言葉を聞いたコレットは、笑って頷いた。

「……でも、もしもそれが上手くいかなかったら……。あたしは、アンタを殺すかもしれない」

声を搾り出すようにそう言ったしいなをコレットは見つめると、再びロイドの掌に指を動かした。

「……『そのときは……私も……戦うかも……しれない。……私も……シルヴァラントが……好きだから』」
「…………わかったよ。どうあっても、アンタは天使になるんだね」

暫く、しいなはコレットを見つめていたが、溜息をつくとコレットから目を逸らしてそう言った。
それに対してコレットは力強く頷いたのだった。
























Symphonyシリーズ第3章第3話でした!!
しいながテセアラについて話すシーン。
ゲームでも結構重要なシーンなのでカットしないで書いてみたけど、ルークが全然出ないなぁ;
何気に、今までしいなはルークが異世界からきたこと知らなかったしww
さぁ、次はユウマシ湖へGOだぁ!!
H.20 3/11



次へ