「大地を護り育む、大いなる女神マーテルよ。御身の力をここに!」

コレットは、他の封印の祭壇と同様に祈りを捧げた。
コレットの周りに光の羽毛が舞い、背中に羽が現れ、ゆっくりと上がっていった。
すると、黄金の光が震え、人の形へと変わっていった。
三日月に腰掛ける女性の姿で、手には杖を持っていった。
彼女はコレットたちへと視線を向けると不安そうな顔をした。






〜Symphony The World〜








「……アスカは、何処?」
「うわ、しゃべった!?」

女性が喋ったことにロイドは驚いて目を見開く。
女性は辺りを見渡すと、溜息をついた。

「……アスカがいなければ何も出来ない。私の力を取り戻す為にも、お願い……アスカを捜して……」

女性はそう言うと光になって、青い空に溶け込んでいった。

「なんだったんだろう、今の?」
「さぁ、俺にもわかんねぇな」

首を傾げるルークに対して、ロイドも同様にそう返した。
すると、天が輝きを放ち、空から一つの光が下りてくる。
光が爆発的に光ると、コレットとは異なる純白の翼を持つ天使、レミエルが現れた。
彼は、コレットより高い位置でとどまり、優しげに微笑んだ。

「長き道のりであったが、よくぞここまで旅を続けたな、神子(みこ)コレットよ」
「……はい。……レミエル様」
「我らクルシスから、そなたに祝福を与えよう」

そうレミエルが言うと、四つの光が空中に現れ、コレットの身体に吸い込まれていった。

「……浮かない顔だな。また一歩、天使に近づいたというのに」
「いえ、とても嬉しいです」

目を微かに細めてそう言ったレミエルにコレットは、慌ててそう言った。
それに対してレミエルは、少し不思議そうな表情を浮かべた。

「ふむ……? しかし、神子(みこ)よ。喜ぶがいい。そなたの旅も漸く終わりを迎えようとしている。《救いの塔》を目指せ。ここで再生の祈りを捧げるのだ。その時神子(みこ)は、天の(きざはし)に足を乗せるであろう」
「「《救いの塔》!?」」

レミエルの言葉にロイドとルークは目を見開く。

「じゃぁ、いよいよ世界が再生されるんだね!」
「本当に、再生しちまうのか……?」

小さく呟いたしいなの声は、とても哀しそうに聞こえた。

「レミエル様の御言葉にままに」

コレットの言葉にレミエルは頷くと、再び光と化し、光の羽毛だけが舞い散った。

『最後の封印で待っているぞ。我が娘……コレットよ。そこでそなたは、我と同じ天使になるのだ』

辺りにレミエルの声が響き渡ると、コレットはゆっくりと地に下りた。

「漸く終わりが見えたな。《救いの塔》へ向かおう」
数秒の沈黙が流れた後、クラトスが静かにそう言った。

「…………本当にいいの? コレット」
心配そうな声でリフィルは、コレットの背中に向かってそう言った。
その声に振り返ったコレットは、決して変わることのない強い意思を秘めた瞳をしていた。

「……はい、大丈夫です。それより、早く『ボルトマンの術書』を探しましょう」
「……わかりました。では、下に戻りましょう」

コレットの言葉にリフィルは、頷くと階段を下り始めた。
ジーニアスたちもその後に続いたが、ルークとロイドはその場から動かなかった。

「…………そんな……」

ロイドたちに教えてもらった。
《救いの塔》でコレットが祈りを捧げることで世界が再生されることを……。
もっと先のことだと思っていたのに……。
でも、このままでは、コレットが犠牲になってしまう。
あのときの俺のように……。
決心したばかりなのに……。
コレットが犠牲にならなくてもいい方法を見つけることを……。
それなのに……。

「ロイド! ルーク!! 早く、行こう♪」

動かない二人にコレットは、階段に差し掛かる前にルークたちへと振り返って笑ってそう言った。

「……ああ」
「……うん」

それに二人は力なくそう言うと、ゆっくりとコレットの方へと歩き出した。

















「リフィルさん、これですか?」

下の階へと戻ったルークたちは、ズラリと並んだ本棚から『ボルトマンの術書』を探し始めた。
そこに納められている本は、膨大な数で手分けして探していた。
すると、ルークは一冊の古びた本に目が留まり、手を伸ばした。
その表紙には、こちらの言葉で『ボルトマンの術書』と書かれていた。

「……ええ。間違いないわ! それが『ボルトマンの術書』だわ!!」

ルークの言葉にすぐさま駆け寄ってきたリフィルは、本を見ると頷いた。

「凄いわ、ルーク! ちゃんと文字が読めるようになったのね!!」
「はい! リフィルさんとジーニアスのおかげです♪」

こちらの世界にやってきた日から、ルークは暇な時間にはリフィルとジーニアスに勉強を教わっていた。
言葉は何故か通じていたが、こちらの世界は俺の世界で使っているフォニック文字とは違い読めなかった。
「文字が読めないと何かと不自由だでしょう?」と言ってリフィルは、丁寧にこちらの文字をルークに教えていったのだ。

「いいえ。あなたが頑張ったおかげよ。呑み込みも早かったし」

ルークの言葉に対してリフィルは優しい笑みを浮かべた。
それに対してジーニアスもウンウンと頷く。

「そうだよ! それに比べて……」

そう言ったジーニアスは、呆れて様な目でロイドへと視線を向けた。

「……なんでそんな目で俺を見るんだよ」

それを見たロイドは、怪訝そうな顔になった。

「まぁ、もうちょっとロイドもルークに見習って勉強したらいいんだけどねぇ」

ジーニアスの言葉にリフィルも静かに頷いた。
「うっ、うるさいな! とっ、とにかく、これがあればピエトロを助けられるんだよな?」

恥ずかしさからかロイドは、無理矢理話を変えようと話を振った。

「……いいえ。これだけでは難しいわね」
「! どうしてですか?」

リフィルの言葉に思わずルークは、口を上げた。

「私の治癒術ではこの本を使いこなすのは、難しいわね。せめて体内の生気を増幅する道具があれば別だけど……」
「例えば、どんなものが必要なんですか?」
「そうね……。前節のユニコーンの角やエルフ族の薬草マナリーフを煎じたもの……ぐらいかしら?」

ルークの問いにリフィルは、顎に手を当ててそう言った。

「そんなもん何処にあるんだよ」
「……ユニコーンの角なら心当たりがある」

クラトスが、ルークたちに近づきながらそう言った。

「本当なの! クラトス!!」
「……ああ。アスカードからルインへ行くまでの道のりに湖があったことを覚えているか?」
「うん。確か……ユウマシ湖だっけ?」
「そうだ。この湖にユニコーンはいると言われている」
「だったら、すぐにユウマシ湖に向かおうぜ! 何とかユニコーンに頼んで欠片でも良いから譲ってもらおう!! それでいいよな?」

ロイドはルークたちを見回してそう言った。
それにルークたちは頷いた。

「もちろんだよ!!」

それを反対する理由なんて何処にもなかった。

「よし! じゃぁ、すぐに出発だ!!」

こうして、ルークたちは、マナの守護塔を後にした。
























Symphonyシリーズ第3章第2話でした!!
ぎゃぁ!もう少しでコレットが天使化しちゃうよ!!
せっかく、ルークがコレットを救おうと決意したばっかりだったのに!!
そして、ルークはちゃんとこちらでも勉強してますよww
ロイドに対するジーニアスの反応が面白いです♪


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