「おのれ……! ロイドめ!!」

膝をついたユアンは息が上がる中、そう唸った。

「奴らをここから逃がすな! 何が何でも、ロイドとあの赤毛の少年を捕えよ!!」
「ハッ!!」

ユアンの命令にレネゲードは返事を返すと、部屋から出て行った。

「……何が何でもやらなければいけないのだ」

全ては、彼女の望んだ世界にする為に……。






〜Symphony The World〜








「ねぇ、これからどうするの?」

ある程度、レネゲードたちを撒いて物陰に隠れていると、ジーニアスがそう訊いた。

「……そうだな。何とかしてコレットを助けよう。マーテルの器にされちまったら、コレットが死んでしまう」
「でも、どうしたらいいのさ?」
「……ねぇ、しいな。あなたのエクスフィアは、何処で手に入れたものなの?」

リフィルは、しいなに視線を向けてそう尋ねた。

「なっ、何だよ、急に。……これは……こっちに来るときに王立研究院で付けられたんだよ」
「テセアラでは、エクスフィアを装備するのが当たり前なのかしら?」
「そんなことはないよ。元々はレネゲードからもたらされた技術なんだ。それを研究して、今じゃ機械にエクスフィアを取り付けたりするのが一般的だよ」
「ちょっと、待て。じゃぁ、テセアラとレネゲードは仲間なのか?」

しいなの言葉にロイドは目を見開いた。

「仲間……かどうかは知らないよ。ただ二つの世界の仕組みについて情報を漏らしたのは、レネゲードだったんだ。神子(みこ)の暗殺計画も奴らの提案だよ。あいつらが陛下と教皇に吹き込んだんだ。テセアラの繁栄を望むなら、シルヴァラントの神子(みこ)を殺せって」
「ひどい……!」

それを聞いてジーニアスの顔は哀しみで歪んだ。

「ロイド、私はテセアラへ行くことを提案するわね」
「どうして、テセアラなの?」
「ユアンが言ってたじゃない。天使とは《クルシスの輝石》という特殊なエクスフィアで進化したハーフエルフだって」
「……そうか! コレットのこの状態も《クルシスの輝石》のせいか!!」

リフィルの言いたいことが分かったロイドは、納得したようにそう言った。

「エクスフィアを研究しているテセアラなら、《クルシスの輝石》についてもわかるかもしれない……」
「そいつはいい考えだ。確か王立研究院では、テセアラの神子(みこ)が持っている《クルシスの輝石》を研究していたはずだよ」
「テセアラにも神子(みこ)がいるの?」

しいなの言葉にジーニアスは首を傾げた。

「当たり前サ。世界再生の儀式はテセアラでも行われている儀式だ。あっちだって、マーテル教はある」
「……でも、そんなに再生を繰り返しているのに、どうしてマーテルの器ってのは完成しなかったんだ?」

疑問を感じたロイドは首を傾げた。

「それについては、私も疑問なの。あるいはあの≪救いの塔≫に並んでいた遺体は……いえ、今はやめておきましょう」

嫌な考えを振り払うようにリフィルは、頭を振ってそう言った。

「……そうだな。それでなくても、分からないことだらけなんだ。クルシスの目的も、レネゲードのことも、コレットを救う方法も。だから、出来ることから始めようぜ」
「テセアラに行くんだね」

しいなの言葉にロイドは力強く頷いた。

「ああ。今はそれしか道がない。それに今度こそ、俺は俺の責任を果たしたいんだ。……もう、コレットに全てを押し付けたりするもんか!」
「待ってよ! 盛り上がってるけど、テセアラはどうやって行けばいいのさ?」
「それは、しいなが知っているでしょう?」

再び、しいなに視線を向けてリフィルはそう言った。

「テセアラに行くには次元の歪を飛び越えるらしいんだ。あたしが知る限り、それが出来るのは『レアバード』って乗り物だけだね」
「それは何処にあるんだ?」
「レネゲードの連中が持ってたはずだよ。この基地の格納庫にもあるはずサ」
「よし、行こうぜ、みんな!」

ロイドの言葉にジーニアスたちは頷き、格納庫を目指して走り出した。

















暗い……。
真っ暗だ。
何も……見えない。
漆を塗ったような闇の中をルークは独りで彷徨い続けていた。
だが、ふとルークはその足を止めた。
声が……聞こえた。
哀しい声が………。

「……誰? ……そこにいるのか?」

暗闇の中にルークは、手を伸ばした。

「触るなっ!!」

すると、その手を何者かが弾いた。
その声からして相手が少年だとわかった。

「大丈夫。俺は、敵じゃないよ」
「敵じゃないだって! 人間の言葉なんて信じられないよ! 姉さまを殺した人間なんかっ!!」

暗闇の中、ルークは光るものを見つけた。
それは、少年が流した涙だと解る。
そうか……。
彼は、きっと……。

「そっか。大好きなお姉さんが死んでしまって、寂しいんだね」
「! ちっ、違う!! 姉さまは、まだ完全には死んでなんかない! ……いつか、ボクが……!」
「でも、お姉さんが帰ってくるまで君は……寂しくないの?」
「…………っ!」
「……寂しいんだったら、俺が傍にいてあげるよ。友達になろうよ!」
「…………友達? ボクとおまえが?」

少年の言葉にルークは頷いた。

「……君は、ハーフエルフなんだよね? だから、人間が嫌いで信用できないってことはよくわかるよ。けどさ、人間が全員が悪い人とは限らないでしょう?」
「…………」

人ではない俺がこんなことを言うのは、間違っているかもしれない。
でも、そのことを言わずにはいられなかった。

「怖がらないで、人を信じることを。俺を……信じて」
「…………」

再びルークは、暗闇へと手を伸ばした。
その少年がいるであろう場所へ……。
すると、恐る恐るといった感じでルークの手を握る手が現れた。
その手をルークは優しく握り返し、暗闇へと笑みを浮かべた。

「俺の名前は、ルーク。君の名前は?」
「…………ボクの名前は――」

少年が口を開いた途端、突如何もない空間に突風が吹き荒れ、少年の声を攫っていった。
そして、暗闇だった空間が一気に輝きだすのだった。
















「うっ……」

ルークは小さく呻くと、ゆっくりと瞼を上げた。

「ここは……?」

今の状況が理解できないルークは、辺りを見渡した。
どうやら、何処かの格納庫のようだ。

「……コレット?」

すると、自分の傍にコレットが、立っていることにルークは気付いた。
コレットはルークの言葉に反応することなく、ただそこに立っていた。
コレットの真紅の瞳には何の感情も宿っていなかった。

(夢じゃ……なかったんだ……)

コレットの真紅の瞳を見ただけど、ルークはコレットの心は失ったままだとわかった。

「ルーク! よかった、目が覚めたんだね!!」

すると、ジーニアスがこちらへと駆け寄ってきて、安心したようにそう言った。

「大丈夫? どこか、痛いところとかない?」
「いや……特には。ちょっと、身体がだるいくらいかな。でも、どうして?」

ルークは、不思議そうに首を傾げた。

「どうしてって……ルーク。あんなことがあったのに、覚えてないの!?」
「いや……全然、覚えてない」

クラトスと闘ったことは、よく覚えている。
その後に、背中に激しい痛みが走ったような気がする。
その後のことは、本当に覚えていなかった。

「……ルーク。あなたは、超振動(ちょうしんどう)を暴走させたのよ」
「えっ? うそ!?」

リフィルの言葉にルークは目を丸くした。
超振動(ちょうしんどう)を暴走させた割には、身体が軽いのだ。
クララさんのときに使ったときよりも……。
それは何故だろう。

(まっ、まさか……!?)

思考を廻らせるルークに一つの考えが浮かんだ。

「…………後で、怒られるだろうなぁ;」
「えっ? 何か言った、ルーク?」
「えっ? あっ! なっ、なんでもないよ;」

ジーニアスの問いにルークは、思わず苦笑した。

「…………とにかく、無事のようで安心したわ」
「……すみません、心配かけてしまって」
「気にすることはなくてよ、ルーク」

それにリフィルは、優しい笑みを浮かべた。

「詳しい事情は今は説明している時間はないの。だから、手短に話すわね。今から、私たちはテセアラに向かいます」
「えっ? テセアラ!? でも、どうやって?」
「この格納庫にあるはずの『レアバード』に乗って、次元の歪を飛び越えるんだよ」

それに、しいなが答えた。

「待って。今から、それを出すわ」

そう言うとリフィルはある機械に近寄り、操作し始めた。

「…………なぁ、ルーク」
「? 何、ロイド?」

ロイドの声にルークは振り返り、不思議そうに首を傾げた。

「…………いや。やっぱ、いいや」
「……?」

一度、何か言いかけた言葉を呑み込んで、ロイドは笑った。
本当は……訊いてみたかった。
あのとき、ルークが呟いた『アッシュ』とは誰なのかを……。

「……あったわ」

リフィルがそう言うと、床の一部が開き、鳥の姿をしたような機械がせり上がってきた。

「……これが、レアバードか」

レアバードを眺めてそう言ったロイドにしいなは頷いた。

「そうさ。使い方はあたしが教えるよ。別に難しいことはないからさ、安心しな」
「ああ、頼む。――コレット」

ロイドは、コレットの手を取ってレアバードに座らせ、ロイドもそれに乗った。

「足元の板の左が上下、右が左右だよ。速さを調節したいときは右の握りを回すんだよ」

それぞれがレアバードに乗ったのを確認すると、しいなはそう言った。
すると、しいなの肩に煙が立ち込めると、コリンが現れた。

「しいな、急いで! 追っ手が近くまで来てるよ!!」
「わかったよ。……それじゃぁみんな、あたしの後についてきな!!」

しいなは握りを回し、格納庫から真っ直ぐに続く通路へとレアバードを走らせた。
その後に続いて、リフィル、ジーニアス、ルークもレアバードを走らせる。
ロイドは、コレットがちゃんとレアバードに座っていることを確認してから握りを回した。
レアバードは飛び出し、次第に速度が上がっていく。
そして、しいなのレアバードから順番に光となって消え、すぐにロイドの周辺も光に包まれたのだった。
























Symphonyシリーズ第3章第15話でした!!
ついに第3章が完結しました!!
夢の中(?)でルークが話した少年は誰だかすぐにわかりますよねww
ロイドはアッシュについてルークに聞きたいけど、怖くて聞けない状態ですね;
なんか可哀想な気がしてきた;
次回から第4章へ突入します!!


H.21 3/13



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