「小賢しい、レネゲードめ!」

ロイドたちが消えた転送装置を見つめ、ユグドラシルは唇を噛んだ。

(にしても……あの赤毛の少年……)

ふと、思い出すのは赤。
美しい夕焼けを思わせるような赤だ。
あの赤を何処かで見たような気がする。
何処かで……。

――――……寂しいんだったら、俺が傍にいてあげるよ。友達になろうよ!
「!!?」
「どうかしたか?」

突如、ユグドラシルの顔色が変わったのを見て、クラトスは問いかけた。
それにユグドラシルは首を振った。

「……いや……なんでもない。一旦引くぞ、クラトス」

そうクラトスに言い残すと、ユグドラシルは光の柱を残してその場から消えた。

「……ルーク、ロイド」

ユグドラシルが完全にいなくなると、クラトスは静かに呟いた。

「…………死ぬなよ」

祈るようにそう呟くと、ユグドラシル同様にクラトスは、その場から消えたのだった。






〜Symphony The World〜








ロイドたちは今、トリエット砂漠にある建物の中にいた。
そこは以前、ロイドがディザイアンに捕まった場所でもある。
だが、彼らは自分たちはディザイアンとは違うとそう言った。
彼らは自分たちを『レネゲード』と名乗った。
ロイドの傍には、コレットがいた。
真紅の瞳には光が宿っておらず、表情も冷たく心を失ったままだ。
何を話しかけても反応することはなかった。
そして、ロイドのすぐ傍にあるベッドには、一人の少年が横たわっていた。
夕焼けのように赤い長髪が白いシーツの上に散らばり、本来そこにあるはずの美しい翡翠の瞳は瞼の下に隠れてしまっている。
リフィルの回復魔術によって、ルークは何とか一命は取り止めることが出来た。
今のルークは、まるで死んでいるかのように眠り続けている。
その顔を見るのが怖い。
でも、見ずにはいられなかった。

「ロイド。ルークの様子はどう?」

今まで、この部屋にはいなかったジーニアスたちが部屋へと入ってきた。
それにロイドは首を振った。

「いや。……全然、目を覚ます気配すらないよ」
「そっか……」

それにジーニアスは、ガッカリしたように俯いた。

「……ロイド、ちょっといいかしら?」
「……なんだよ、先生?」
「レネゲードのリーダーが、私たちに話があるそうよ。ロイドも来てくれないかしら?」
「えっ? でも……」

リフィルの言葉に戸惑ったように、視線をルークへと落とした。

「……ルークなら大丈夫よ。……行きましょう」
「…………ああ」

ロイドは重い腰を上げて、リフィルたちへと歩き出した。

















リフィルたちの後に続いてある部屋へとロイドは入った。
そこにいたのは、蒼い髪の男とボータが何かを話し合っていた。
男はロイドたちに気付くと話を中断し、振り返った。

「……彼は、目を覚ましたか?」
「…………いや」
「そうか……」

ロイドの言葉に男は、残念そうにそう言った。

「おまえらが、レネゲードなのか?」

ロイドの問いに男は頷く。

「そう。我々はディザイアンに……いや、クルシスに対抗する為の地下組織だ」
「では、クルシスとディザイアンは、本当に同じ組織というわけね?」
「その通りだ。クルシスは表ではマーテル教を操り、裏ではディザイアンを統べている。ディザイアンは、クルシスの下位組織なのだ。マーテル教はクルシスが世界を支配する為に生み出した方便にしか過ぎない。天使と名乗っているが、奴らは《クルシスの輝石》と呼ばれる、特殊なエクスフィアを用いて進化したハーフエルフだ。当然、神などではない。……尤も、マーテル教も神子(みこ)もそんなことは知らないはずだがな」
「……天使が、ハーフエルフだったなんて……」

男の言葉にしいなは、驚いたように呟いた。

「奴らだけではない。ディザイアンの一部も、クルシスも、そして我々もハーフエルフだ」
「……クルシスは何が目的なんだ? 世界を支配する為に、こんなことをしているのか?」

ロイドは首を傾げてそう訊いた。

「全てを我々に聞くつもりか? 少しは自分の頭で考えたらどうなんだ?」
「女神マーテルの復活、かしら?」

男の言葉にリフィルは即答した。

「レミエルの言葉を信じるなら、クルシスはマナの血族に神託を下して、婚姻を管理し、器となる神子(みこ)を作り上げている。……かなり、まだるっこしいやり方なのが気になるけど」
「ほう、見事ですな……」

リフィルの言葉にボータは、関心したような表情でそう言った。

「シルヴァラントには、互いにマナを搾取し合う、もう一つの世界がある」
「テセアラだな」

ロイドの言葉に男は頷いた。

「そう。そして、この歪な二つの世界を作り上げたのがクルシスの指導者、ユグドラシルだ」
「世界を作った!? そんなの、それこそ神様じゃないか!!」

ジーニアスは、目を見張ってそう言った。
「そんな連中相手に何をしようってんだ? それだけじゃないぞ。おまえたちはコレットの命を狙ってた。俺のこともだ。到底、味方だとは思えない。なのにどうして、≪救いの塔≫で俺たちを助けたんだ!?」
「……満更、馬鹿ではないらしいな」

男は微笑を浮かべるとそう言った。

「何!!」
「我々の目的は、マーテルの復活の阻止。その為には、マーテルの器となる神子(みこ)が邪魔だったのだ」

男はロイドの後ろにいるコレットに目を向けた。

「……尤も、神子(みこ)は完全に天使と化してしまった。今の神子(みこ)は防衛本能に基づき、敵を殺戮する兵器のようなもの。下手に手出しは出来ん。しかし――」

再び、男はロイドへと視線を向けた。

「マーテル復活の阻止という、我々の目的を果たす為に最も必要なものは、既に我らが手中にある。もう、神子(みこ)など……必要ではない!」

それが合図であったかのように、扉が開いてレネゲードが雪崩れ込んできて、ロイドたちを包囲した。

「何のつもりだ!」
「我々に必要なのは貴様だ! ロイド・アーヴィング!!」
「俺!? まだ、俺のエクスフィアを狙っているのか!!」
「貴様のエクスフィア? ……ふっ、貴様が我らの理由を知る必要などない! ロイドを捕らえよ!!」

ロイドたちを包囲したレネゲードたちは一歩、ロイドたちへと近づいた。

「させないよ!」

しいなは、懐から札を取り出した。
ジーニアスとリフィルも武器を構え、そしてロイドも双剣を手を伸ばした。
が――。

「動くな! こいつがどうなってもいいのか!!」
「「「「!?」」」」

一人のレネゲードの言葉にロイドたちは息を呑んだ。
そのレネゲードの腕の中にいたのは、夕焼けのように赤い長髪の少年。

「「「「ルーク!!」」」」

武器を突きつけられているルークの顔色は悪く、ぐったりとしていた。

「てめぇ! ルークを放せ!!」
「おまえたちが大人しくしているなら、彼は殺しはしない」

男はルークへと近くへと歩み寄るとそう言った。

「寧ろ、我々は彼の未知の力に興味がある。この力を持ってすれば、ユグドラシルも否ではない」
「ルークに超振動(ちょうしんどう)を使わせるつもり!? そんなことしたらルークは……」

その続きをリフィルは、怖くて言い出すことが出来なかった。
だが、その続きが何なのかロイドたちには分かる。
今はまだ生きているルークだが、今度を使えば確実に音素乖離(フォニムかいり)を起こすだろう。
そうすれば、ルークは確実に死ぬ、そういうことだ。
ロイドたちは、下手に動くことが出来ず、ジリジリとレネゲードが包囲の輪を縮める。

「っ!?」

距離を詰め寄ったとき、レネゲードの武器はルークに当たり、ルークは小さく呻いた。
そのとき、

「! ――――まずい!!」

男がそう叫んだときにはもう遅かった。
コレットの背中に天使の羽が現れてふわりと浮かび上がると、両手を真横に伸ばした。
その直後、天井から光の柱が降り注いだ。
光の柱はロイドたちには当たらず、レネゲードだけに当たった。
ルークを捕まえていたレネゲードにも当たると、その拍子にルークはレネゲードの手から放れた。

「ルーク!!」

それをすぐさまロイドは駆けつけ、ルークを支えた。
それによって、ルークは床との衝突を逃れた。

「――――」
「!?」

そのときにロイドは、ルークのうわ言を聞いた。
恐らく、それは自分以外には聞こえなかっただろう。
その声は助けを求めるように呟いた。
『アッシュ』、と……。

「おのれ、神子(みこ)め! このような場所でジャッジメントを放つとは! 防衛対象にロイドたちを含めているのか! ………ぐっ!!」
「ユアン様!!」

一条の光の柱が男を、ユアンを掠め、それによってユアンは膝をついた。
それにボータは、すぐさまユアンの許へ駆け寄った。

「いかん、ハイマでの傷が開いたか!!」
「……おのれ、クラトスめ! 何処までも、私の邪魔をするか!!」
「ハイマでの傷だと!?」

二人の言葉でロイドは、クラトスの背後から襲おうとした影を思い出した。
何処かで見たことがあると思っていた人影を……。

「まさか、あのときクラトスを襲ったのは――」
「何やってるのさ、ロイド! さっさと、逃げるよ!!」

しいなの声にロイドは我に返った。
そして、ルークを背負うと倒れているレネゲードたちを跨ぎ超えて、急いで外へと出たのだった。
























Symphonyシリーズ第3章第14話でした!!
今回はシルヴァラントベースでのやりとりです!
ユアンさんもルークを狙ってますよ!!
そして、ロイドはルークのうわ言のかなりショック受けてるし;
次回で、テセアラに旅立ちます!!


H.21 3/13



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