「うっ……」

何かが倒れる物音に、ロイドは目を覚まして。
身体に微かに痛みが走ったがそんなことは気にせず、ロイドは今の現状を確認しようと身体を動かした。
そして、ロイドはある場所を見て、言葉を失った。
膝をつき、頭を下げるクラトスの傍にいるブロンドの長髪の男。
その男の足元にぐったりとしたルークの姿があったのだ。
白かったはずの服は血で真っ赤に染まっていた。
そして、男はルークの魔術を放とうと手を突き出していた。

(…………ルーク!?)

痛みを堪えて、ロイドは立ち上がる。

「――――魔神剣!」

そして、男に向かって魔神剣を放った。






〜Symphony The World〜








「っ!?」

テセアラ王都メルトキオ。
そこのゼロスの屋敷にいたアッシュの動きが不意の止まった。
一瞬、背筋が凍りつく感覚に陥ったから……。

「? どうしたんだ、アッシュ?」

それにゼロスは、不思議に思ってアッシュに声をかけた。

「…………何でもない」
「何でもないって、そんな風には全然見えないですけど?」
「うるせぇ。……さっさと、公務を済ませに行くぞ!」

そう言ってアッシュは、再び歩き出そうとした。
そのとき、アッシュの足元に何かが鈍い音を立てて落ちた。
そこにあったのは、光る珠だ。
珠は七色に変化しながら、温かい光を反射し続けていた。
それは、間違いなく《ローレライの宝珠》だ。
それをアッシュは、無言で拾い上げた。
さっきといい、これといい、嫌な予感がする。
しかもそれは、愛しい半身(ルーク)のことでだ。
アッシュは、《ローレライの宝珠》を強く握り締めると、懐へとそれをしまった。
そして、再び歩き出した。
自分が今、考えていることが杞憂で終わることを祈りながら……。

















「……ルークに……手を出すなっ!!」

怒気を孕んだロイドの声が辺りに響いた。
それに対して、男はロイドに碧い瞳を向けた。
その眼差しにロイドは、足が竦んだ。
それだけで、男がレミエルとは全く格が違うことがわかる。

「……なるほど。おまえがロイドか?」
「ひっ、人に、名前を尋ねるときは……まず、自分から名乗れよ!」

ロイドの言葉に男は、面白い玩具を見つけたように笑った。

「ハハハ! ……犬の名前を呼ぶとき、わざわざ名乗るものはいまい?」
「なんだと!」
「哀れな人間の為に教えてやろう。我が名はユグドラシル。クルシスを……そして、ディザイアンを統べる者だ! ……哀れなおまえたちに、力の違いを見せてやろう」

そう言うとユグドラシルは静かに手を上げた。
すると、それまで何もなかった祭壇に、突如一振りの剣が出現した。
それが輝いた瞬間、ロイドは見えない力に弾き飛ばされ、周囲の柱へ叩きつけられた。

「があっ!」

脆くなっていたのか、ロイドの背中で柱は俺、外側に向かって倒れた。

「「「ロイド!!」」」

いつの間にか目を覚ましたジーニアスたちの声が聞こえてきた。
それに答えるように、ロイドは何とか立ち上がった。

「……ほお? まだ、立てるのか」

それをユグドラシルは、面白そうに見つめた。

「……依存はないな、クラトス?」
「…………」

ユグドラシルはクラトスに尋ねたが、クラトスは何も答えなかった。
それを肯定と受け取ったのか、ユグドラシルは満足しに微笑んだ。

「……さらばだ」

ロイドへと振り返り、その腕を上げた。
そのとき――。

「なっ!?」

突如、ユグドラシルの身体が吹き飛ばされた。
ユグドラシルは、何が起こったのかわからないような表情を浮かべ、力を感じた方へ視線を向けた。
そこにいたのは、夕焼けのように赤い長髪少年の姿。
彼の周りに赤い光が取り巻き、その光が彼の身を護るように包み込む。
そして、少年の身体は、ゆっくりと浮上していく。

「……ルーク?」

ロイドは眉を顰めてそう言った。
何かが違う。
いつものルークとは、何かが……。
ロイドの言葉に反応するかのように、ルークの瞼がゆっくりと上がる。
そこから現れた翡翠の瞳には光は宿っていなかった。
ルークの身を包む赤い光の一部が、コレットとは異なる光の羽へと形どった。

「ルーク!!」

ロイドが叫んだとき、辺りに赤い光が迸った。
光が物質と言う物質に触れると、それを跡形もなく消し去っていく。

「いけない! ルークの超振動(ちょうしんどう)が暴走しているんだわ!!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ! このままだとルークは……」
ジーニアスの言葉にリフィルは静かに頷いた。

「……このまま暴走を続けたら、ルークは間違いなく、音素乖離(フォニムかいり)を起こすわ」
「! そっ、そんな!!」

音素乖離(フォニムかいり)が起こったら、ルークは死んでしまう。

「……なっ、なんだ、これは!?」

すると、転送装置から複数の足音が聞こえる一人が、驚いたようにそう言った。
彼らは、ロイドたちを幾度も襲ってきたディザイアンたちでその中にはボータの姿もあった。

「くっ……。しかも、神子(みこ)は、既に天使化してしまったか!」
「あなたたちは一体!?」
「詳しい説明は後だ。とにかく、神子(みこ)を連れてここから離れるぞ!」

リフィルの言葉にボータは、そう言ってディザイアンたちに指示を送った。

「まっ、待ってよ! ルークはどうするのさ!!」
「……残念だが、無理だな。危険すぎて、近づけない」
「そんなっ!!」

このままだと、ルークが死んでしまうかもしれないのに、ルークを置いて行くことなんて出来ない。
いや、置いて行ける訳がなかった。

「……ロイド?」

ふと、ジーニアスがロイドに視線を向けると、ロイドは双剣を鞘へと収め、深く息をした。
そして、ルークの許へと一気に駆け出した。
あの光に当たったら、死ぬかもしれない。
でも、そんなことは、関係なかった。
ただ、ルークを止めたい、助けたい、それだけだった。

「ルーク!!」

ロイドは、光と光の僅かな隙間を掻い潜ってルークの身体を掴まえた。

「っ!?」

ルークの身体に触れた途端、手に焼けるような痛みが走った。

「ルーク! 目を覚ませ! ルーク!!」

その痛みに耐えながら、ロイドは必死を叫んだ。
すると、ルークの翡翠の瞳が微かに揺らぎ、口が開く。

『――――らえた』
「えっ?」

ルークの口から発せられた声にロイドは、目を見開いた。

『……やっと、捉えた。ルークよ』
「!?」

今度は、はっきりと聞こえたその声は、ルークのものではなかった。
ルークより低い男の声は、何処か安堵したような声でそう言った。

『……待っていろ、ルーク。今から、我がそなたを迎えに行く。それまで――』

男の言葉が途中で途切れたかと思うと、ルークの身を包んでいた光が消えた。
その途端、宙に浮いたルークの身体が地に落ちる。

「ルーク!!」

それをロイドが、しっかりと受け止めた。

「ロイド! 早く!!」
「ああ!」

ロイドは、ジーニアスの言葉に頷くとそのまま、転送装置へと駆け出す。

「逃がすかっ!」

ロイドの背中にユグドラシルは光弾を放った。
それを避けるのは不可能に等しかった。
だが――。

「なにっ!?」

光弾はロイドに当たることなく、消滅した。
それは、ルークの身を包んでいた光が再び現れ、今度はロイドもそれに包まれたから。
ロイドはそのまま転送装置へと辿り着いたときには光は消えていた。
そして、ロイドたちはそのまま≪救いの塔≫を後にするのだった。
























Symphonyシリーズ第3章第13話でした!!
久しぶりにアッシュの登場です!!気のせいじゃないんですよ!アッシュ!!
暴走しているルークを何としてでも助けようとするロイド。男前ですね!!
そして、何気にローレライが出てきてます;
ルーク見つけるのに時間かかりすぎだねww


H.21 2/5



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