「ピエトロは……亡くなりました」

冒険者が集う村ハイマにやってきたルークたちは、その村にある宿屋へと向かった。
そして、その宿屋にいた女性ソフィアから出た言葉は、ルークたちにとって残念なものだった。






〜Symphony The World〜








「何か言ってませんでしたか? 人間牧場のこととか」

ルークは、少しでも情報を集めようと思い、ソフィアにそう尋ねた。
それに、ソフィアは首を振った。

「さ、さぁ……。本当にそこから逃げて来たのかどうかもわかりませんし」
「その人の遺品はどうなっているのかしら?」

ソフィアの言葉に続けてリフィルはそう言った。

「遺品なんていっても何もありませんよ」
「お墓は何処です?」
「冒険者たちの墓場の一番奥です。……言っておきますけど、墓を暴こうなんて考えは起こさないでくださいね」

リフィルの言葉を聞いたソフィアは少し怪訝そうにそう答えると、階段を上り、ルークたちの前から立ち去った。

「……とりあえず、行ってみましょう」

リフィルは、ルークたちのほうを向いてそう言うと、さっさと宿屋を出て行った。
ルークたちもそれに続いて、冒険者たちの墓場へと向かった。

















坂を登ったところにある冒険者たちの墓場にやってきたリフィルは溜息をついた。

「墓を暴く……のは駄目でしょうね、やっぱり」
「当たり前だろ;」
「とりあえず、お祈りしましょう」

コレットは、そう言うと墓場へと向き直すと、手を組んで祈り始めた。
ルークたちもそれに倣ってお祈りした。

「あれ……?」

ふと、コレットは顔を上げると振り向いた。
コレットの視線を追うと、そこに一人の男が立っていた。
ルークたちのほうにゆっくりと歩み寄ってくる男の瞳は生気が感じられず、虚ろだった。

「ミコ……マナ…………シ……シヌ」
「なっ、何言ってるんだろ?」

途切れ途切れの男の言葉にジーニアスは首を傾げる。
そして、男の顔を見たしいなの顔色が一変した。

「ピエトロ! アンタ死んだって……」
「「「「「「!?」」」」」」

しいなの言葉にルークたちは驚いた。
すると、そこへさっき宿屋で会ったソフィアがピエトロの元へと駆けつけた。

「こんなところにいたのね」
「ミコ……シヌ……テンシ……シヌ。ニンゲン……ボクジョウ…………チカ」

ソフィアがピエトロに話しかけると、ピエトロはそう言葉を漏らす。
それをソフィアは、慌てて止める。

「駄目よ。……行きましょう」

そして、そのままピエトロの腕を掴んで坂を下りようとした。

「嘘をついていたのね。この人が牧場から脱走した人なのでしょう?」
「!?」

リフィルがソフィアとすれ違うところでそう冷たく言い放つ。
それにソフィアの顔色は変わった。

「そうなのか!? 教えてくれ。どうやったら人間牧場から逃げ出したんだ!?」
「イワ……オオキイ……イワ……ホウセキ…………イワ……ドカス……ミコ」

ピエトロの話す言葉は途切れ途切れの単語だけで、何を言っているのかよくわからなかった。

「何言ってるんだよ?」
「それが……脱出ルートか?」
「……もう、放っておいてあげて!!」

ロイドとクラトスがピエトロに話しかけようとすると、ソフィアがそれを遮った。

「あのな! アンタは、ピエトロを守ってればそれでいいかもしれないけど、こいつのおかげでルインの人はたくさん死んじまったんだよ! 少しは協力したらどうなんだい!!」

ソフィアの態度に思わずしいなは怒鳴った。

「ピエトロだって……彼だって伝えたいことがたくさんあったはずなのに、呪いのせいでこんな風になってしまって……」
「呪い? それって……?」
「人間牧場から逃げ出した人間は呪いにかかって、少しずつ人間性を失って、最後には怪物になるんだって」

ルークの問いにソフィアは哀しそうにそう言った。

「怪物!? ……まさか、エクスフィアが暴走しているのか?」
「クララさんやマーブルさんみたいになっちゃうってこと? じゃぁ、《要の紋》をつければ……」

ジーニアスの言葉にロイドは首を振った。

「……いや、ダメだ。親父に聞いたことがある。《要の紋》は装着したときからエクスフィアから毒が流れ込まないように出来るだけだ、って」
「……俺たち、どうしても牧場に行かなきゃいけないんです。脱出出来たなら、潜入も出来ると思うんです。お願いです。協力してください」
「………協力してもいいわ。その代わり、一つ条件があるわ」

ルークの言葉にソフィアは、少し考えてからかそう言った。
その言葉にジーニアスは、足を踏み鳴らした。

「条件!? 何だよ、それ! ルインの人たちが苦しんでいるってのに!!」
「苦しんでいるのは、ピエトロだって同じよ! ルインの人たちが助かって、どうしてピエトロが助かっちゃいけないの!? 私はピエトロの方が大事なのよ!! それとも、ピエトロはこのまま怪物になってしまえばいい、って言うの!?」
「そっ、それは……」

ソフィアの悲痛な叫び声にジーニアスは、何も言えなくなった。

「……その条件は、何ですか?」
「条件は……ピエトロの呪いを解いてくれること。ピエトロを治してくれるなら、彼が話してくれたことを教えます」
「わかりました。でも、牧場への潜入の方が先よ。これだけは譲れないわ」

ソフィアの条件を聞いたリフィルは、そう言い放った。
暫くの間、ソフィアはリフィルの顔をジッと見つめていたが、やがて、折れたかのように瞳を逸らした。

「……この人、脱出したときに、牧場の庭から出てきたって言っていたわ。岩で出口を塞いできたって。お墓の中に彼の持ち物があるの。……持っていって」
「ありがとう。治療法が見つかったら、また来ます」
「……さぁ……行きましょう」

ソフィアは、ピエトロを引き連れてさっさと坂を下りていった。
それをルークは、ジッと見つめていた。
ピエトロ助ける方法が一つだけ自分は知っている。
ルークは、ソフィアをおって坂を下ろうとした。
そのとき、誰かがルークの腕を掴んでそれを止めた。

「……クラトス……?」

ルークは振り向くとその人物が、クラトスであることを知る。

「……何処に行くつもりだ?」
「えっ? えっと……。その……」

クラトスの問いにルークは、言葉を返すことが出来なかった。
言ったら、きっとクラトスは怒るから……。

「……はやり、アレを使うつもりだったのだな」

そんなルークの様子を見たクラトスは、確信したようにそう言った。
「! ダメだよ! ルーク!!」
「そうだぞ! そんなことしたら、またっ……」

クラトスの言葉を聞いたコレットとロイドは、必死でルークを止めた。
「……でも、超振動(ちょうしんどう)を使えば、きっと……」
「そして、また倒れるつもりか? パルマコスタのときのように」
「「「「「…………」」」」」

クラトスの静かな声がルークたちの表情を曇らせた。
パルマコスタでルークは超振動(ちょうしんどう)を使った。
エクスフィアが暴走し、怪物となってしまったクララを助けるために……。
そのせいで、ルークは倒れた。
あのときの苦しそうなルークの顔が今でもロイドは、鮮明に思い出すことが出来る。

「それに、下手をすれば今度はおまえが、命を落とすことになるかもしれないのだぞ」
「……俺、ピエトロさんのこと、助けてあげたいんだ」
「だからと言って、あの者を助けて代わりにおまえが死んでしまったら意味がない」
「…………」

クラトスの鳶色の瞳が鋭く光る。
明らかに、クラトスは怒っている。
いや、俺のことを叱ってくれている。
俺のことを心配してくれているのだ。
それがわかっているのに、どうしてもクラトスの言葉に頷くことが出来なかった。

「ルーク」

すると、リフィルのことが聞こえてきた。

「どのような病を治す、最高の治療術に心当たりがあるの。だから、あなたが超振動(ちょうしんどう)を使わなくても済むはずよ」
「……本当……ですか?」

ルークの問いにリフィルは頷いた。

「ええ、本当よ」
「…………よかった」

それを聞いたルークの顔が綻んだ。
超振動(ちょうしんどう)以外に、治療法があるとわかったから。
それによって、場の空気が一気に明るくなった。

「でも、さっきも言った通り、牧場へ侵入するのほうが先よ」
「はい!!」
「よし! 早く、牧場へ乗り込んでルインの人たちもピエトロも助けよう!!」

墓に埋まっていたピエトロの持ち物を回収し、ルークたちは急いでアスカード人間牧場へと向かっていった。
























Symphonyシリーズ第2章第9話でした!!
ハイマにやってきた、ルークたち。
本当は、ここのシーンはカットしようかと思ったんですけど、ルークとクラトスを絡ませたいと思って書いてしまったww
それだけのために、かなり長くなってしまいましたが;
さぁ、次回は再びアスカード人間牧場に潜入です!!


H.19 10/5



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