「しいな、ありがとう」 コレットは、しいなにそうお礼を言った。 アスカード人間牧場で危ないところをしいなによってルークたちは救われた。 「いや、そんなことはいいんけどサ。……どうするんだい?」 「……一度、ルインへ引き上げましょう」 しいなの問いに少し考えてからリフィルは言った。 「それがよかろう」 「そうですね、行きましょう」 「……うん」 こうして、ルークたちは一度ルインへと向かった。 その時、ロイドは一言も喋らなかった。 それをルークは、心配そうにただ見つめているしか出来なかった。 〜Symphony The World〜 「……エクスフィアが人の命から出来てたなんて……」 夜、ルインで野営を取ったルークたちは、焚き火の前にいた。 そして、ジーニアス、リフィル、しいなは自分が身に付けていたエクスフィアを外し、それをジッと眺めていた。 「これ、マーブルさんの命なんだ……」 ふと、ルークは、ロイドへと視線を向けた。 ロイドは、みんなから少し離れた位置に立ち、静かに左手をエクスフィアを見つめていた。 そして、ロイドは左手のエクスフィアを剥ぎ取り、その手を振り上げた。 「こんなもの……。こんなもの!」 「待って、ロイド! これを取ってどうするんだよ!!」 それを見たルークは、慌ててロイドを止めた。 「そうだよ! それに、このエクスフィアは、ロイドのお母様の命でもあるんだよ!!」 ルークの言葉に続けて、コレットも必死でそう言った。 「でも! こんな、人の命を弄ぶようなもの……!!」 「しかし、これがなければ我々は、とうに負けていた」 クラトスの静かな声が響いた。 「わかってるよ、そんなの!!」 「本当か? 今、エクスフィアを捨てて、この旅を無事に終わらせることが出来ると思っているのか?」 クラトスの言葉にロイドは、振り上げていた腕を下ろし、エクスフィアを見つめた。 「……そうだよ! こいつがなけりゃ、俺たちはただ弱い人間だ。これがあるから戦える。そんなのわかってる!!」 ロイドの声が徐々に苦しそうなものへと変わっていく。 「でも、確かにエクスフィアは誰かの命を喰らって、ここに存在しているんだ!!」 「それがどうした。犠牲になった者だって、好きで犠牲になったわけでも、エクスフィアとなった挙げ句捨てられることを望んだわけでもないだろう」 「私、自分がエクスフィアを使ってないから、こんなこと言うのかもしれない」 コレットはロイドの前に立ち、真っ直ぐロイドを見つめてそう言った。 「でも、聞いて。今、私たちがエクスフィアを捨てれば、ディザイアンに殺されちゃうと思う。そうしたら、これからもたくさんの人たちが、こんな石に命を奪われちゃうんだよ。私、そんなのいやだよ! 何の為に世界再生の旅に出たのかわからないもの!!」 「コレットの言うとおりだ」 コレットの言葉にクラトスは同意した。 「エクスフィアを捨てることはいつでも出来る。しかし、今はエクスフィアの犠牲になった人々の分まで、彼らの想いを背負って戦う必要があるはずだ。……おまえはもう迷わないのでは、なかったのか?」 クラトスの言葉が胸に突き刺さった。 「……駄目だ……! 理屈ではわかってるんだよ。でも、今は……」 ロイドの手は、自然とエクスフィアを握り締めていた。 「……ごめん、暫く一人で考えさせてくれ」 ロイドはそう言うと、一人暗闇の中へと消えていった。 「……母さん……。こんなものに命を吸い取られて、辛くなかったのか?」 一人、木に背を預けて座ったロイドは、エクスフィアに向かって呟いた。 「……俺がこれを使って、それが許されるのか?」 「ロイドなら、どうして欲しいの?」 すると、ロイドしかいない空間に違う声が響いた。 「……えっ?」 ロイドが顔を上げると、美しい夕焼けのように赤い長髪の彼が、こっちの向かって歩いてきているのが見えた。 「もし、ロイドが逆の立場になったら、ロイドはどうしてもらいたいの?」 「……俺は……」 ルークに考えても見なかったことを聞かれ、ロイドは答えることが出来なかった。 「俺だったら、この世界の哀しい連鎖を断ち切ってくれる人や、大切な人たちに役立ててもらいたいな」 いつもと変わらない声でルークは笑ってそう言った。 この声を聞くと、何故かとても安心する。 「……ルークの大切な人って誰だ?」 「……仲間だよ。ティアやガイ、アニスにナタリアにジェイド。もちろん、ロイドたちもだよ!」 ロイドの問いにルークは、微笑んだ。 辺りは真っ暗なのに、ルークだけは輝いて見える。 「……大丈夫だよ、ロイド。それを使っても。きっと、ロイドのお母さんもそれを望んでいると思う」 ロイドのエクスフィアを触ったときに見たもの、感じたものはアンナのもの。 そして、その中でロイドを守ろうとする彼女の想いも感じた。 必死に我が子を守ろうとする母親の想いが……。 「後は、ロイドがエクスフィアにどう接するかだよ」 「…………」 ルークの言葉を聞いたロイドは、無言でエクスフィアを見つめた。 「……じゃあ、もう遅いし俺寝るね。おやすみ、ロイド」 そんなロイドを見たルークはそう言うと、踵を返して寝床へと歩き出す。 が、その途中でルークは足を止めた。 「……もしかして、ロイドのところに行くんですか?」 「……そのつもりだったが、その必要はないようだったな」 ルークが、闇に向かって話しかけると声が返ってきた。 ロイドと同じ鳶色の瞳がルークへと向けられる。 「………クラトスだったら、どうしてもらいたい? もし、自分がエクスフィアに命を吸い取られたとしたら?」 「おまえと同じさ。そうすることで、……私が招いた罪が少しでも贖えるのならば……」 「クラトスの……罪? それって……?」 クラトスの言葉にルークは首を傾げた。 「……私のことはいい。それより、さっさと寝るんだ」 そう言うとクラトスは、ロイドのいる方でも寝床の方とも違う方向へと歩き出し、闇へと消えた。 ――――……ルークの大切な人って誰だ? クラトスの姿が完全に見えなくなった頃、ルークの頭に中にさっきのロイドの言葉が響いた。 俺にとって大切な人。 それはさっき言ったとおり、仲間だ。 でも、ティアたち以上に大切な人が一人いる。 目を閉じると浮かぶ彼の顔は、俺と同じ翡翠の瞳に、燃えるような紅の長髪だ。 もう何十日も彼の顔を見ていない。 逢いたい……。 この世界に彼がいないことを知っているのに、それを願ってしまう俺がここにいる。 逢いたい、彼に……。 「…………アッシュ」 小さく呟いたその声は、誰の耳にも届かず、頬を伝って落ちる涙は夜空の星によって照らされていた。 「…………さて、どうする?」 翌日、ルークたちの前に現れたロイドにクラトスは、そう話を切り出した。 「……ひとつだけわかったことがある。本当は母さんだって、きっともっと生きたかったにちがいないってことだ」 それにロイドは、静かに話し始めた。 「だから、この左手に宿る母さんの分まで、俺は生きてやる!」 「……それは、戦うということだな?」 クラトスの問いに、ロイドは力強く頷き、クラトスを見つめた。 その瞳にもう迷いはなかった。 「あぁ。そして、この連鎖を断ち切る。母さんやマーブルさんみたいな人を増やさない為にも、コレットの世界再生を手伝う」 「……うん、そうだね。ボクもマーブルさんの分まで頑張る!」 「私も。私も早く世界を再生する」 コレットがそう言ったとき、ロイドは何故か複雑そうな顔をした。 「よく決心したわ、ロイド。人は業が深い生物。だからこそ、生きている限り業を背負い続ける覚悟がいるのよ」 「生命は生命を犠牲にする、か。上手く言えないけど、エクスフィアを作るために犠牲になった人たちは、それとは違う気がするよ。違うからこそ、余計許さないんだ!」 しいなは拳を震わせ、そう言った。 「……なぁ、あたしを……連れて行ってくれないか? こんなこと知ってしまって、今更知らん顔なんて出来ないよ! こんなの酷すぎる!!」 「……どうする?」 「もちろん、歓迎します」 クラトスの言葉にコレットは微笑んだ。 「……あぁ。おまえには助けてもらったしな」 「そうだよ。一緒にディザイアンをやっつけよう!」 「好きにしなさい。今は、あなたを信用することにします」 「ありがとう。式神は使い切っちまったけどサ。きっと、役に立ってみせるよ」 ロイドたちの言葉にしいなは、微笑んでそう言った。 「よかったですね、しいなさん」 「あっ、ああ……。そっ、それと、あたしのことは呼び捨てでいいよっ! ……さん付けで呼ばれるのは、どうも苦手だからね」 「……うん、わかったよ。しいな!!」 「っ////」 しいなの言葉を聞いて、早速ルークがそう言うとしいなの顔は真っ赤になった。 「でも、これからどうすりゃいいんだ?」 「今回のことでクヴァルも警戒を強めているに違いない。簡単には侵入出来まい」 「……牧場から脱走した人がいたわね。その人なら、別の侵入方法を知っているかもしれないわ」 クラトスの言葉を聞いたリフィルは、少し考え込んでからそう言った。 「あたし、その人知ってるよ。ピエトロって奴さ。まだ、ハイマにいるはずだよ」 「何で知ってるんだ?」 「べっ、別にいいだろ! ……ちょっと、訳有りさ」 「ふうん。まっ、いいか。よし、ハイマに行こう!」 こうして、ルークたちは、ハイマへと向かった。 Symphonyシリーズ第2章第8話でした!! ロイド君、エクスフィアについて葛藤しました。 それにけりをつけることが出来たのはやっぱりルークのおかげww そして、何気にルークとクラトスを絡ませるww アッシュの存在を忘れないようにちゃんと配慮もしてま〜す♪ H.19 9/30 次へ |