「何とか、牧場に侵入できたわね」

ルークたちは今、アスカード人間牧場の中にいた。
ロイドの提案でディザイアンを襲って服装を奪い、リフィルが変装しルークたちが人質として牧場の中に入ることに成功した。
リフィルは、頃合いを見て着替えた為、今はいつもの服装に戻っていた。
そして、ディザイアンに見つからないように出来るだけ慎重に進んでいった。
幾つもの通路を通り、扉を抜けると、広い部屋に出た。
壁に一つのスクリーンが嵌め込まれており、そこには何かを自動的に製造されている映像が流れていた。
そこで作られているものは……。






〜Symphony The World〜








「エクスフィアだわ」

そうリフィルは、呟いた。

「ここはエクスフィアの製造所なのかな?」
「……どうやらそのようだな」

ルークの問いにクラトスは、そう言った。
クラトスが、ルインに訪れてからずっと様子がおかしいとルークは思っている。
何かに対して、物凄く怒っているように見えた。

「これが全部、エクスフィアか。すげぇなぁ……」

ロイドは感心して、スクリーンを見つめている。

「! ……しっ。隣の部屋から、声が聞こえる」

突然、コレットの表情が険しいものへと変化した。

「何も聞こえないけど……?」
「いや、気をつけろ」

ジーニアスは、それに首を傾げたが、ロイドは双剣を握り締めた。
すると、ルークたちが入ってきた扉とは違う扉が開き、ディザイアンが駆け込んできた。
その中の一人は兜を被っておらず、髪を逆立て、軽装鎧を身に着けていた。
男は、ルークたちの顔を見て驚いたような顔をした。

「ぬっ! おまえたちは!!」
「やべぇ。こいつら、トリエット砂漠で会ったディザイアンだ!」
「まだ、我らをディザイアンだと思っているのか?」

ロイドの言葉に一人のディザイアンが笑ってそう言った。

「しかしボータ様、これは好機です!」
「…………来るか?」

ディザイアンの言葉にクラトスは、剣の柄を握った。
それに対し、ボータと呼ばれた男は、部下であるディザイアンを静止させた。

「待て。……クラトスがいる。ここは一旦退くのだ」
「……知り合いなの?」

ルークの問いにクラトスは首を振った。

「さぁ? ……イセリアとトリエットで、顔を合わせただけだが」
「ここはお互いの為に引きましょうぞ」
「勝手にするがいい」

クラトスの言葉にボータたちは、ルークたちが入ってきた扉へと向かった。
すると、突然コレットが、その後を追って走り出した。

「コレット!?」

それを見たルークは、コレットの後を追いかける。
すると、まだ誰も近づいていないの扉が勝手に開いた。
扉の向こうからディザイアンが現れ、ファイアボールをコレットの向かって放った。
ルークは、咄嗟にコレットを庇おうと前に出て、粋護陣を発動させた。

「コレット! ルーク!!」

それを見たロイドたちは、慌ててルークの許へと駆け寄った。

「私なら、大丈夫」

それにコレットは、微笑んだ。

「俺も、大丈夫だよ。……それより、後ろ!」

ルークは笑みを消して、剣を構えた。
それと同時にスクリーンに近い扉が開き、一人の男の姿が現れた。
かなり大きめの肩当の付いた青い軽鎧を着用した、砂色の髪を後ろに撫で付けている。
男はルークたちを見ると、元から細い目をさらに細めた。

「ほう、これは驚きました。鼠と言うからてっきりレネゲードのボータかと思いきや、手配書の劣悪種とは……。今の魔法を喰らっても生きているとは、さすがと言っておきましょう」

ルークは、辺りを見渡した。
このとき、ボータたちの姿がこの部屋からなくなっていることに気が付いた。
さっきの騒ぎに紛れてここから逃亡したようだ。
そして、男が指示を出すと部屋の扉が一斉に開き、ルークたちは入ってきたディザイアンたちに取り囲まれた。

「おまえは、何者だ!」

ロイドは男のほうに振り向くと、双剣を抜いた。

「人の牧場に潜入しておいて、何を言うのかね」
「……いつもと逆だね、ロイド」
「おまえなぁ! こういうときになぁ!!」

ジーニアスの言葉にロイドは、思わず怒鳴った。

「奴は、ディザイアン五聖刃の……クヴァルだ」
「はは。さすがに私の名前は、ご存知のようですな」

クラトスの言葉にクヴァルは、ニヤリと笑った。
そして、そのまま視線をロイドの左手へと向けた。

「……なるほど、フォシテスの連絡通りだ。確かにそのエクスフィアは、私の開発したエンジェルス計画のエクスフィアのようですね」

クヴァルがそう言った途端、コレットはチャクラムを取り出し、クヴァルへと投げた。
クヴァルはそれを避ける為、扉の前から退いた。

「ナイスだ、コレット! みんな、急げ!!」

ロイドの掛け声にルークたちは、一斉に扉に向かって走り出した。

















「な……っ。なんだ、これは……!」

扉を抜け、進んだ先の光景にルークたちは言葉を失った。
窓の向こうを人が、一定間隔で流れていく。
そして、壁に阻まれて姿が見えなくなったその先から、容器に入ったエクスフィアが次々と吐き出され、流れていた。
(こ、これって、まさか……!)

その光景にルークは、背筋が凍りつくような感覚に陥った。

「培養体に埋め込んだエクスフィアを取り出しているのですよ」

すると、後ろから声が聞こえ、振り返ると部下を従えたクヴァルの姿があった。

「……まさか、エクスフィアは人の身体で作られているの!?」

そう口にしたリフィルの声は、ひどく震えていた。
「少し違いますね。エクスフィアはそのままでは眠っているのです。奴らは人の養分を吸い上げて成長し、目覚めるのですよ。人間牧場は、エクスフィア生産の為の工場。そうでなければ、何が嬉しくて劣悪種を飼育しますか」
「ひ……ひどい」

そう言ったジーニアスをクヴァルは、冷ややかな目で見つめた。

「ひどいだと? ひどいのは君たちだ。我々が大切に育て上げてきたエクスフィアを盗み、使っている君たちこそ罰せられるべきでしょう」
クヴァルがそう言うと、部下のディザイアンたちがルークたちを取り囲んだ。
それによって、ルークたちは完全に逃げ場を失った。

「うわぁ; 囲まれちゃったよ……;」

少し呑気な声でルークはそう言うと、剣を構える。
それに続くかのようにロイドも双剣を構えた。

「ロイド、君のエクスフィアは、ユグドラシル様への捧げ物。返してもらいましょうか」
「ユグドラシル……。それがあなたたちディザイアンのボスなのね」
「そう。偉大なる指導者、ユグドラシル様の為、そして我が功績を示す為、そのエクスフィアが必要なのですよ!」

リフィルの問いにクヴァルは、笑ってそう言った。

「またか……! 俺のエクスフィアは、一体……」
「それは、私が長い時間をかけた研究の成果。……薄汚い培養体の女に持ち去られたままでしたが、漸く取り戻すことが出来ます」

クヴァルの言葉に、ロイドは目を見開く。
心臓が大きく、ドクンと跳ねた。

「どっ、どういうことだ? 培養体の女って、まさか……!?」

そんなロイドの反応を見たクヴァルは、楽しそうに笑った。

「……そうか、君は何も知らないのですね。そのエクスフィアは母親である培養体『A012』、人間名アンナが培養したものです。アンナはそれを持って脱走した。もっとも、その罪を死で贖いましたが……」
「おまえが母さんを……!」
「勘違いしてもらっては困りますね。アンナを殺したのは私ではない。君の父親なのですよ」
「嘘をつくなっ!」

吼えるようにロイドは言った。

「嘘ではありません。《要の紋》がないままエクスフィアを取り上げられ、アンナは怪物となった。それを君の父親が殺したのです。愚かだとは思いませんか?」
「……死者を愚弄するのはやめろ」

それまでクヴァルの話を黙って聞いていたクラトスは、とても低い声でそう言い放った。
クヴァルへと向けられるクラトスの瞳はとても静かで、だかその中には激しい怒りが満ち溢れていた。

「くくく……! 所詮は二人とも薄汚い人間。生きている価値などない蛆虫よ!」

クヴァルはそう言うと部下に合図を出す。
すると、ディザイアンたちはジリジリとルークたちへと近づく。

「……くっ! 父さんと母さんを馬鹿にするなっ!!」

悲鳴に近いロイドの声が聞こえた。
その間にもディザイアンとルークたちの距離は徐々に縮まって言った。

(くそ……。どうすれば……)

どうすれば、その状況を変われるだろう。
戦ったとしても、相手の数が多過ぎる。
そして、何より今ロイドに剣を振るわせることは、自殺行為に等しいとルークは思った。
色々と考えた末、ルークの頭の中に一つの策が浮かんだ。
でも、それが旨くいく保証は何処にもない。

(……でも、やってみなくちゃ、わからない!)

覚悟を決めたルークは、深く息を吸った。
そのとき、ルークたちの目の前に一つの人影が落ちてきた。
漆黒の髪の少女の姿が……。

「ここはあたしに任せな!」

しいなはそう言うと、懐から一枚の紙札を取り出し、それを見つめた。

「……おじいちゃん。最後の一枚、使わせてもらうよ」

そうしいなは小さく呟くと、その紙札を宙へと投げる。
すると、紙札はこの前ルークたちが倒した紅風、蒼雷によく似た魔物が出現した。
魔物が咆哮すると、ルークたちの身は風に包まれ、その場から消えた。
























Symphonyシリーズ第2章第7話でした!!
やっと、アスカード人間牧場へ突入ですww
ここで、エクスフィアの秘密が明らかになるんですよね。
ロイドにとっては辛い真実ですね。
ところで、ルークが何をしようとしたのか、皆さんわかりましたか?


H.19 9/14



次へ