「コレット!」 コレットが倒れたのは、遺跡を出てすぐのことだった。 後ろに倒れ込んだコレットをロイドは、しっかりと受け止めた。 「天使疾患ね。早く横にしてあげましょう」 「大丈夫か?」 ロイドが優しくコレットに問いかける。 「また……迷惑かけちゃうね」 「いや、そんなの平気だけど……!」 そう言いかけたとき、ロイドはバランスを崩し、倒れた。 コレットもその拍子で前へと倒れた。 「……いってぇ……」 「もう、何やってるんだよ! コレット、大丈夫?」 「…………」 心配そうに尋ねるジーニアスにコレットは、不思議そうな顔で見つめ返した。 「どっ、どうしたのコレット! 痛かった? 何処か怪我したの?」 「うっ、ううん。なんでもない。えへへ、ボーっとしちゃった」 ジーニアスの反応にコレットは、慌ててそう言った。 「…………」 そんなコレットをロイドは、何も言わず、ただ見ていた。 〜Symphony The World〜 「コレット、手を見せてみて」 一人星空を眺めていたコレットにルークは近づき、そう言った。 「えっ? どうしたの?」 それに対してコレットは、不思議そうに首を傾げた。 「いいから、見せてみて!」 ルークは、半ば強引にコレットの腕を掴み、掌を見た。 コレットの手にしているグローブが破れ、手から血が出ていた。 それは、見ているこっちが痛く感じてしまうくらいのものだった。 「……やっぱり、怪我してる。さっき転んだときだよね。こんなに血が出てる……」 「でも、痛くないから」 「えっ?」 コレットの言葉にルークは、コレットの顔を見た。 ルークの表情を見たコレットは、しまったと言ったような顔になった。 「あっ、違うの。あんまり気にならない程度だってこと」 「……とにかく、治療しないと。ばい菌でも入ったら、大変だしね」 そう言うとルークは荷物から傷薬と包帯を取り出した。 二つともこっちの世界で買ったものだ。 コレットがあまりにもよく転ぶので、それを見たルークはこれを買わずにいられなかった。 俺もティアたちみたいに治癒譜術が使えたらよかったのだが、使えない。 こんなことなら、ティアに教わっておくべきだったと今更後悔した。 ルークは、コレットのグローブを外すと、手馴れた感じでコレットの手に薬を塗り包帯を巻いた。 「これでよしっと! ……一応、後でリフィルさんに見てもらったほうがいいよ」 「……ありがとう、ルーク」 コレットは、嬉しそうにそう言った。 すると、暗闇から物音が聞こえてきた。 ルークは、その方向に視線を向けると、そこにはロイドが立っていた。 「ロイド。……どうしたの?」 それにコレットも気付き、ロイドに話しかけた。 「……コレット、ちょっといいか……?」 「えっ? うっ、うん。いいけど……?」 「……じゃぁ、俺そろそろ寝るね。おやすみ、ロイド、コレット」 ロイドのいつもとは違う様子にルークは、その場を後にすることにした。 「うん! おやすみなさい」 「ああ、おやすみ」 二人の返事を聞いたルークは、踵を返して寝床へと戻っていった。 「どうしたの、突然……」 ルークと別れてから一旦ロイドは、コレットを一人に待たせて二つのマグカップを持ってコレットの前に現れた。 「たまには二人っきりで話でもしようと思ってさ」 それにロイドは、いつもと変わらない笑みでそう言った。 「……ロイド。……うん」 「……これ、ホットコーヒー」 「ありがとう」 コレットは、両手でロイドからマグカップを受け取った。 「熱いだろ?」 「うん。アツアツだねぇ〜」 ロイドの問いにコレットは、素直に同意した。 「それ、アイスコーヒーなんだ」 「……えっ?」 ロイドの言葉にコレットの表情が曇った。 「ジーニアスに冷やしてもらった」 「あ、あはは、そうだよね。冷たいもんねぇ〜」 コレットは、そう言って笑って誤魔化した。 「嘘。本当はホットなんだ」 「!?」 ロイドの言葉にコレットは、思わずマグカップを地面に落とした。 「……やっぱり。おまえいつからだ! 何にも感じなくなってるじゃねぇか!!」 「そっ、そんなことない……」 コレットは、俯いてそう言った。 「嘘つけ! さっき転んだときには、もう感覚がなかったんだろう! あんなに血が出てるのに、ルークが手を触っても平気なんておかしいだろう!!」 ロイドは、そのことを確かめようと、コレットを探していた。 そして、ルークとコレットのやり取りを見てそれは、ほぼ確信でと変わっていった。 「……バレちゃったんだ」 「最近おまえ、メシ食ってないし」 「食べてるよぉ、えへへ」 ロイドの言葉にコレットは、顔を上げ笑った。 「本当に数える程だろ。それに嫌いなものまで食うようになったし。それだけじゃないぞ。おまえ、寝てるか?」 「寝てるよぉ〜。えへへ。ほら、眼も赤くないし」 「もう、俺に嘘をつくな! おまえ、昔から嘘つくときは愛想笑いするんだ」 「ちっ、違う……」 「何が違うんだ! ……俺はそんなに、頼りにならないのか?」 「! 違うよぉ!!」 ロイドの言葉にコレットは、声を張り上げた。 その顔は、今にも泣きそうな顔だった。 「だって、心配かけたくなかったから……」 「……何があったんだ?」 「わかんない」 コレットは、首を振りながらそう言った。 「わかんないけど……最初におかしくなったのは火の封印を解放したときだよ。急に何も食べたくなくなったの。食べ物食べても、味がしなくなった」 「……味がしない?」 「うん。でも、無理して食べるともどしちゃうから、あんまり食べないでいたんだけど……いつまで経ってもお腹が空かないんだ」 「それって……」 コレットの言葉にロイドは目を見開く。 「次の封印を解放したら、今度は全然眠くならなくなったの。目を閉じてもどうしても眠れなくて……それ以来ずっと寝てない」 「…………」 「それで、この封印でとうとう何も感じなくなって……」 「どうして……どうして何も言わなかったんだっ!」 コレットの言葉にロイドは怒鳴った。 「だって、これがきっと、天使になるってことだと思うから。だったら、このくらいのことで、うろたえたりしちゃ駄目なんだって思って……」 「こんなことがか!? 食べなくなって、眠らなくなって、何も感じなくなることが!?」 「あっ、でも、目はよくなったの。すっごく遠くまで見られるようになったし」 それにコレットは、笑ってそう言った。 だが、その笑みが徐々に哀しいものへと変化していく。 「それにね、小さな音までよく聞こえるよ。聞こえすぎて……ちょっと辛いけど……」 「…………ごめん」 これ以上その哀しい笑みを見ていられなくなったロイドは、コレットを抱き締めた。 「……俺、今まで気が付かなくて……ごめん」 コレットのために自分の気持ちを抑えてロイドは、声を潜めてそう言った。 それに対して、コレットは首を振った。 「ううん。でも……みんなには言わないでね? せっかく楽しく一緒に旅してるんだもん。楽しくしていたいし……だから、ロイドも気にしないでね? 平気だから」 「ばっ、馬鹿やろう……っ!」 コレットがもう何も感じなくなっているのをわかっているのに、ロイドは強く抱き締めた。 悔しい。 コレットが、こんな状態になるまで気付けなかったことが……。 強く閉じられた瞼から涙が零れ、ロイドの頬を濡らした。 「……ごめんね、ロイド」 ひどく優しく、哀しいコレットの声が胸に響く。 「せっかくロイドが私のために泣いてくれているのに、嬉しくて、泣きたいくらいなのに……」 コレットの腕がロイドの背中へと回る。 「……私、涙も出ない。ごめんね……!」 コレットの瞳から決して涙は流れない。 だが、確かにコレットは泣いていた。 Symphonyシリーズ第2章第5話でした!! ううっ、切ない。切ないよ、コレット(ノ△T) ゲームに小説にマンガ、ここは何度見てもそう思いますね。 この場面でどうやってルークを入れるか、かなり迷いました。 で、出した結果はコレットの傷の手当ですwwいいね。 傷薬と包帯を携帯しているルークはコレットが転ぶたびにルークはそれを取り出していると思いますww H.19 8/17 次へ |