「? どうした、ルーク?」

ルークがずっと、後ろを気にしているようだったので、クラトスは声をかけた。

「……え〜と。なんか、ノイシュが誰かに吠えてたみたいだったから……珍しいな、と思って……」
「……気付いていたのか」

ルークの言葉に少し驚いたようにそう言った。

「? 何がだ?」
神子(みこ)の命を狙うあの娘。どうやら、入れなかったようだ」
「!? ついてきてたのか!?」
「……気付いてなかったのか」

ロイドの驚いたような声にクラトスは、呆れたようにそう言った。

神子(みこ)の命……それって、コレットが狙われてるってこと?」
「あっ、ああ。ルークと出会う前にちょっとした襲撃があったんだよ」

ルークの問いに何故か苦笑いでロイドは、そう答えた。

「? でも、どうしてコレットの命が狙われるの? コレットは世界再生の旅をしているのに?」
「いつの時代にも、救いの手を拒む者がいるということだ」
「う〜ん。そんなものなのかなぁ?」

何か違うような感じがルークはした。
何かもっと深い理由があるとそう思った。






〜Symphony The World〜








水の封印を守る怪物ノーディスを倒すと、祭壇の周りから蒸気が噴出し、内側の円形の床が六本の柱に支えられて持ち上がった。
その内側に光の柱が満ち、中央に青い輝きが生まれる。
その青光が安定すると、筒の天井となった床は消え、柱は枠となったそれを元のように祭壇へと引き込み、後は宙に浮かぶ青い光球だけとなった。

『再生の神子(みこ)よ。よくぞここまで辿り着いた。さぁ、祭壇に祈りを捧げよ』

そして、広間に男の声が響いた。

「……はい!」

その声にコレットは答え、祭壇へと近づき、手を組んだ。

「大地を守り育む大いなる女神マーテルよ。御身の力をここに!」

コレットは羽を出現させると、ふわりと宙に浮いた。
その祈りに答えるかのように青い光球はその輝きを増し、そして消えた。
入れ替わるかのように天井が輝き、黄金の光球が降りてくる。
光球が爆発的に光った後、純白の鳥に似た翼が生えた蜂蜜色の髪の男が現れた。
彼がロイドたちが言っていた天使、レミエルのようだ。

「よくぞ、第二の封印を開放した。神子(みこ)コレットよ!」
「はい、お父さま」

コレットの言葉を聞いたレミエルの表情が一瞬曇った。

「……クルシスから祝福だ。そなたにさらに天使の力を授けよう」
「……は? はい……?」

コレットがそう答えると、四色の光が現れ、コレットの身体にすう、と吸い込まれていった。

「次の封印はここよりはるか北。終焉を望む場所。かの地の祭壇で、祈りを捧げよ」
「お父さま。私、何か御不興を買うようなことをしましたか?」
「……別によい。そなたが天使になればいいだけのことだ」

コレットの言葉にレミエルは、あっさりとそう言った。
そして、その後に穏やかな笑みを浮かべた。

「また、次の封印で待っている。わが娘……コレットよ。早く真の天使になるのだ。よいな……」

そう言うとレミエルは、再び光が爆発的に光ると消えた。
そして、光の羽根だけが残り、ヒラヒラと舞い落ちた。

「なんだ、アイツ。相変わらずエラソーな感じ」

それまで黙っていたジーニアスが、腕を組んでそう言った。
コレットは、静かに地面へと降り、羽をしまうとルークたちの元へと歩み寄った。

「コレットに謝りなさい!」

リフィルは、そう言うとジーニアスの頭を思いっきり叩いた。
ジーニアスは、頭を抱えて蹲った。

「いいんです。お父さま……レミエルさまって本当に偉そうだし」
「さて、次の封印を探すとするか。……あいからわず、わかりづれーけどな」
「ぼやくな。……行くぞ」

クラトスは、ロイドに一喝すると、さっさと転送装置へと歩き出した。
それに続いてルークたちも転送装置へと足を進めた。

















光の橋を渡り、神託の石版のと近くにある階段をルークたちは降りていた。
コレットが階段を降りた瞬間、コレットの身体が地面に吸い込まれるように倒れた。

「コレット!?」

コレットの顔が地面にぶつかる寸前のところで一番近くにいたルークが抱きかかえた。
ルークはコレットの顔を見て、息を呑んだ。
コレットの唇は紫色へと変わり、顔色は真っ青になっていた。
額には脂汗が滲んでいる。
ロイドたちも慌てて駆け寄る。

「先生! また、コレットが!!」
「……また? それって、どういう意味?」

ロイドの言葉の意味がわからず、ルークは聞き返した。

「以前、火の封印を開放したときも同じようなことになった。どうやら、天使への変化は一夜の苦しみが伴うようなのだ」

それに、クラトスが落ち着いた様子で説明してくれた。
リフィルは、それに同意するかのように頷いた。

「そうらしいのよ。とにかく、すぐに休ませましょう」
「野営の準備だな」
「ええ。……それにしても封印を開放する度こうだとすると、コレットも辛いでしょうね。さしずめ、天使疾患とでもいうのかしら」

ルークの腕の中にいるコレットの瞼が上がり、蒼い瞳がルークへと向けられる。

「コレット、大丈夫? つらい?」

そこにジーニアスは、心配そうに覗き込んだ。

「うん。また、すぐに治るから……ごめんね」

それにコレットは、笑顔で答えた。
でも、ルークには、それがとても痛々しく思えた。

「もー、おまえ謝るの禁止な」
「えへへ……。ごめんなさい」

ロイドにそう言われたのに、コレットはまた謝ったのだった。

















辺りはすっかり暗くなり、みんな寝静まった頃、ふとロイドは瞳を開く。
そのまま視線だけを動かすと、遠くでプラチナブロンドの髪が静かに揺れているのが見えた。
ロイドは起き上がり、ルークたちを起こさないように気を遣いながら歩く。

「……コレット、まだ起きてたのか?」

ロイドの声にコレットは振り返り、苦笑した。

「えへへ、何か眠れなくて」
「よくなったっていっても倒れたんだから、ちゃんと寝なくちゃダメだぜ」
「うん。もう少し経ったら、ちゃんと寝るから」
「でもなぁ……」

コレットのことが心配であるロイドは、納得しないかのようにそう言った。
すると、突然コレットの視線がロイドから外れる。
ロイドは、コレットの視線を追った。
そこにあったのは、焚き火の近くに座るクラトスの姿だった。

「ほら、クラトスさんだって起きてるし」
「あいつは寝ずの番をしてくれてるからいいんだよ。おまえは寝るんだ」
「……うん」
「よし、じゃぁおやすみ」

コレットの返事を聞いてやっと納得したのかロイドは、笑ってそう言った。
そして、踵を返し、寝床へと戻っていく。

「うん。おやすみなさい……」

ロイドの背中を見送って、コレットはそう言った。
コレットは、胸の辺りにある赤い宝石を手で覆った。

「…………私の分も素敵な夢を見てね。ロイド……」

コレットの呟きは風に掻き消されてロイドの耳には届かなかった。
だが、コレットの近くで寝ていたルークだけがその呟きを聞いていた。
この呟きの意味をルークが理解するのは、もっと後のことである。
























Symphonyシリーズ第2章第2話でした!!
水の解放のシーンを書きました!!
その為、今回は全然ルークが活躍してないし;
本当は、コレットとルークを絡ませようかと思ったけど、結局やめました。
あんまり、ルークにおいしいとこ持っていったらロイドがかわいそうかと思ってww


H.19 7/6



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