ルークたちが立ち去った管制室にひとつの人影が現れた。
それは立体映像で、藍色をした髪を全て後ろへ撫で付け、赤く丸い眼鏡をかけた老人だった。
その人物は、マグニスが最期のときに現れた老人だった。

『クヴァル殿、あなたのおかげで魔導砲はもうすぐ完成です。エンジェルス計画は、わしが引き継ぎますから、ご安心くだされよ。ああ、もう聞こえてませんかな。フォッフォッフォッ! では、エンジェルス計画の研究データの残り、いただいていきましょうかね』

そう老人、ロディルは言うと管制室から姿を消した。
そして、牧場が爆発したのはそれから数分のことだった。






〜Symphony The World〜








「じゃぁ、コレットは封印を解放して天使に近づく度に、人間らしさ……みたいなものを失っているって言うのかい?」

コレットを休ませる為、ルークたちは一旦アスカードまで戻ってきた。
そして、宿屋でコレットをベッドに寝かせ、ルークたちはロイドから話を聞いた。

「人間性の欠如……? そんな! じゃぁ、最終的にはどうなっちゃうのさ!!」
「……最終的には、か。どうなっちまうんだ。本当に……」

ジーニアスの問いにロイドは、答えることは出来なかった。
それは、ロイドも疑問に思っていたことだから……。

「それに世界を再生した後は、この地上でたった一人の天使になっちゃうんだよ。そんなの辛いよ……」
「そっ、それは――」
「先生、いいんです」

リフィルが何かを言いかけたとき、コレットがそれを遮った。
コレットは、ベッドから身体を起こした。
それを見たロイドはすぐさま駆けつけ、コレットの身体を支える。

「でも、コレット……」
「みんな、ごめんね。心配かけて。今はちょっと大変だけど、完全な天使になったら、もっと過ごしやすくなるかもしれないでしょ? だから、大丈夫」
「でも、辛いじゃないか!」

笑ってそう言うコレットに、しいなは叫んだ。

「疲れたら寝たいだろ? 好きだったものの味を懐かしく思ったりしないのか? 誰かと手を握ってもその人の温かさを感じられないなんて……。世界再生なんてやめちまいなよ!」
「あなた……コレットに世界再生をさせたくなくて、そんなこと言っているのではなくて?」

冷たいリフィルの視線に、しいなは首を振った。

「冗談じゃないよ! それとこれとは別さ!! あたしは本当に……」
「ありがとう、しいな」

コレットは、しいなを見つめて優しく微笑む。

「でも、ここでやめたら、世界中で苦しんでいる人が救われないから、私、世界再生の為に生まれたんだから、ちゃんと自分の仕事をするよ。ね?」
「…………」

コレットの言葉にしいなは何も言えなくなり、コレットから視線を外し俯いた。
手には自然と力が入り、震えているのがよくわかる。
「そうだな。……それが神子(みこ)の宿命だ」

変わって答えたのは、クラトスだった。

「……何かないのか? コレットが天使にならなくて済む方法が……」

ロイドは、静かにそう言った。

「私が天使になることで世界は再生されるんだよ。今でも……これからもきっとどそうなんだよ。だから……」
「じゃぁ、本当にこのままでいいのか?」
「……うん。私、天使になる。お父さまもそれを望んでいるんだもん」
「どっちの親父だよ」

ロイドの言葉にコレットの肩がビクッと震えた。

「…………きっと、どっちのお父さまも……望んでいるよ」
「……わかったわ。でも、コレット。あなたが選んだ道はとても辛い道なのよ?」

心配そうに見つめるリフィルにコレットは、コクリと頷いた。
「はい、先生」

そうコレットが言ったときだった。

「…………おかしいよ」
「えっ?」

それまで一言も喋らなかったルークがポツリとそう呟いたので、誰もがルークへと視線を向けた。

「おかしいよ、こんなの! どうして、コレットがこんな目に遭わなくちゃけないの! コレットは世界を再生しようとしているのに!?」
「でっ、でもね、ルーク。コレットが天使にならないと世界は再生されないのよ」

リフィルは、ルークを宥めるようにそう言った。

「だからって、その為にコレットが犠牲にならなくちゃいけないの! 世界の為に、コレットが犠牲になるなんで、そんなのまちがっ……!?」
――――死んでください、と言います。私が権力者なら。友人としては……止めたいと思います。
――――俺は認めないぞ。おまえはまだ七年しか生きていない! たった七年で悟ったような口を聞くな! 石にしがみついてでも生きることを考えろ!!
――――あなたは、わたくしのもう一人の幼馴染ですわ! ……二人でキムラスカ王国を支えてください。二人とも公爵の人間です。どちらが本当かだとか、そんなの関係ありませんわ!!
――――イオン様といい、ルークといい……どうして、そうあっさりと命を捨てられるの? もう……イオン様みたいに誰かが消えていくのを見たくない! こんなのいやだよ! どうしてこんな思いをしなきゃならないの? もう……いやだよ……!!
――――ルーク、やめて!!!!

昔の仲間達の言葉を思い出し、ルークは口を閉ざした。
昔、俺も同じような選択を迫られた。
世界と自分の命を秤にかけられて、俺は世界をとった。
今なら、あのときのティアたちの気持ちがよくわかる。
俺が苦しんでいたようにティアたちも苦しんでいたことが……。
今更、それに気付くなんて……。

「……ルーク」

いつの間にかベッドから降りたコレットが、ルークの両手を優しく包んだ。

「……ありがとう。私なんかの為に泣いてくれて」

コレットの言葉を聞いて、ルークは自分が泣いていることに気が付いた。

「でも、私なら大丈夫だから。だから……心配しないで、ね?」

優しいその言葉がルークの胸に響き、さらに涙が流れる。

「……ごめんね、コレット。……俺には……コレットを止める資格なんて……ないんだ……」

次から次へと溢れ出す涙を止めようとしながら、ルークは言葉を紡ぎだす。
俺にはコレットを止める資格なんてない。
同じ決断をした俺には……。

「……でも、これだけは言わせて。……何があっても諦めないで。生きることを。生きたいって、強く願えば人は生きることが出来るから」

ルークは、それを強く感じている。
何度も何度も生死を彷徨っているのに、俺はこうして生きている。
生きたい、と強く願ったから……。
だから、コレットも諦めないで欲しい。
人として生きることを……。

「…………うん。わかった」

それにコレットは少し困ったように笑った。
諦めたくない。
彼女が、コレットが天使にならなくて済む方法がきっと何かあるはずだ。
それを何としてでも見つけたい。
ルークの胸にその想いが強く刻まれた。
























Symphonyシリーズ第2章第14話でした!!
ルークがコレットの天使化について知ってしまったよ!!
ルークはやっぱりおかしいと否定するけど、同じような選択をした自分には止める資格はないと思っていると思う。
でも、同じような選択をしたルークだからコレットを止められると思うけどな。
今のルークはどちら側の気持ちもよくわかるから。
これにて第2章は完結です!!次回からは第3章に入ります!!


H.19 12/25



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