ドアによって、壁にかかっていた布が剥ぎ取られた。
そして、目の前に広がった光景にルークたちは、絶句した。






〜Symphony The World〜








鉄格子の向こうに、腐って溶けかけた巨大なサボテンのような怪物が、汚れて擦り切れたドレスを着て立っていた。

「……マーブルさんと同じだ」

ジーニアスが、小さく呟いたのが聞こえた。

「……泣いてる。あの人苦しいって泣いてるよ!」

コレットの震える声が聞こえた。

「どうだ! これが私の妻! クララの変わり果ては姿だ! 神子(みこ)よ! 救えると言うなら救ってみろ! 世界を再生するのだろう!? ついでに、クララも救って見せろ!」
「黙れ! あんたの奥さんは確かに可哀相さ! でもな! あんたの言葉を信じて死んでいった人だっているんだぞ!」

ドアの言葉にロイドは、声を張って言った。

「抵抗を始めたのは私じゃない! ……父が愚かだったのだ。先代の総督だったあの男が、ディザイアンに抵抗する組織など作ったために、私の妻は見せしめに≪悪魔の種子≫を植え付けられた! 妻を助けるには金が要る! 大体、何が不満だ! この町の人間は私のやり方に満足している! 金を払うことで、パルマコスタ地方の間引き量は、他の地方よりも格段に少ない!」

ドアは、ロイドの言葉を振り払うかのように叫んだ。

「そんなの、根本的には何も解決にもなってないじゃんか! コレットが世界を再生して、ディザイアンが封印されれば……」

ジーニアスがそう言うと、ドアはルークたちを睨みつけた。

「黙れ! 何が神子(みこ)だ! 何が世界再生だ! 自分達だけが正義だと思うな!!」
「ふざけろ! 正義なんて言葉チャラチャラ口にするな! 俺はその言葉が一番嫌いなんだ! 奥さんを助けたかったなら、総督の地位なんか捨てて、薬でも何でも探せばよかったじゃないか! 何が『満足している』だ! あんたは奥さん一人のためにすら、総督の地位を捨てられなかった屑だ!!」
「ロイド、やめて!」

今にもドアを殴りかかりそうな勢いのロイドをコレットはロイドの腕を掴んだ。

「みんなが強いわけじゃないんだよ! だから、もうやめてあげて!!」
「だけどよ!!」
「ねえ、その薬っていうの、私たちで取ってきてあげよう? パルマコスタの人間牧場にあるんでしょう? そうしたら、総督さんだって、もうディザイアンの見方をしなくてもいいんだから、そうしてあげよ? ね?」
「コレット……」

コレットの言葉にロイドは、振り上げていた拳を下げた。

「……私を許すというのか?」

ドアは、まるで信じられないものを見たかのように驚きの表情を浮かべた。
ドアの言葉にコレットは、首を振った。
「あなたを許すのは、私ではありません。街の人です。でも、マーテル様はきっと、あなたを許してくれます。マーテル様は、いつでもあなたの中にいて、あなたの再生を待っていてくださるから」
「私の……再生……」

ドアは静かに手を胸に当てた。
そのとき――。

「…………泣いている」

壁を覆っていた布が剥がされてから、何も喋っていなかったルークが突然呟いた。

「ルーク?」

それに、ロイドがルークに声をかけたが返事は返ってこなかった。

「……痛いの? ……苦しいの?」

ルークはそう言いながら、クララへと近づいた。
すると、クララはルークに向かって腕を振り上げた。

「うっ……!」

ルークは、それをもろに受け、声を上げる。

「ルーク!!」

それを見たロイドは、ルークに近づこうとする。
「来るな!!」
「!!」

だが、そんなロイドに対してルークは、そう叫んで制止される。
ルークの言葉にロイドは、思わず足を止めた。
ルークは、ゆっくりと剣を抜いた。
それを見たクララは、身体を強張らせた。
だが、ルークは剣を構えず、剣を床へと投げる。
ルークの行動にクララだけでなく、ロイドたちも驚いた。

「……俺は、あなたを傷つけるつもりはありません」

だから、怖がらないで……。
俺に、あなたの声を聞かせて。

キィン

――――……苦しい。

すると、アッシュとの回線が繋がったような感触に陥ると、声が聞こえた。

――――……痛い、苦しいの。
「……何処がですか?」

ルークは、さらにクララに近づき、彼女の身体を優しく触った。
彼女の身体はとても温かかった。

――――……わからない。身体全体が……痛いの。
「…………出来るだろうか?」

今の俺に出来るだろうか。
ここは、俺がいた世界とは違う。
ここで、超振動(ちょうしんどう)を起こせるだろうか。
でも、やるしかない。
俺は、この人を助けたい。

「…………集え」

ルークは瞳を閉じ、小さく呟く。
手に第七音素(セブンスフォニム)を集中させる。

「……集え、そして……従え」

ルークがそう呟いた瞬間、ルークの手に赤い光が出現し、爆発的に光った。
ロイドたちは、その光に目を庇った。

「なっ、何が起こっているの!?」

リフィルは、目の前で起こっていることが信じられず、声を上げる。
すると、光が徐々に弱まり、消えていった。
ロイドたちは、ルークのほうへと視線を向けた。
すると、そこにはサボテンのような怪物の姿はなく、ルークの前に一人の女性の姿があった。

「……クララ」

彼女を見て、ドアはそう呟いた。
それは間違いなく、妻クララの姿だった。

「……よかった」

上手く出来た。
そう思った瞬間、ルークの視界はぐらつき、身体中が悲鳴を上げた。
第七音素(セブンスフォニム)のないこの世界で超振動(ちょうしんどう)を引き起こしたのだ。
こうなることは、なんとなく予想していた。
ルークは、そのまま床へと倒れ込もうとした。
だが、それは誰かの手によって遮られた。
ルークを支えるというより、その人物は、ルークの胸ぐらを掴んでいた。
虚ろな瞳で、ルークはその人物を捉える。
ブロンドの髪をツインテールにした小さな少女の姿を……。

「貴様! 今、何をした!!」

少女とは思えないような声でキリアは、ルークを問い詰めた。

「言え! あの女に一体何をした!!」

キリアは手の指から、恐ろしいほど鋭利な爪を伸ばし、それをルークの顔へと近づける。

「おまえ、誰だ!!」

その光景を見たロイドは、思わず叫ぶ。

「私は、ディザイアンを統べる五聖刃が長、プロネーマ様の下僕」

それにキリアは、少女らしからぬ笑みを浮かべてそう言った。

「プロネーマ!? マグニスの手下じゃないのか!?」
「マグニス? 馬鹿を言うな。私は、ただマグニスの新たな人間養培法とやらを観察していただけさ。……しかし、それもこいつのせいで台無しになったがな」
「……キリアは……本当のキリアは何処だ!!」

キリアの言葉が信じられないドアは叫んだ。

「……まだ、わからないのか? おまえの娘などとっくの昔に私が殺したわ。それに気付かないおまえの姿を見るのは、笑いを堪えるのが大変だったわ。あははは!」

キリアは、高々と笑った。
それを見て、ドアとクララが怒りと哀しみで震えているのがわかる。

「……許せない。……あなたは絶対に許せない!!」

コレットは、震えた声でそう叫んだ。

「あははは! 許せないだと? 可笑しなことを言ってくるれる。……それより、いい加減喋ったらどうだ?」

キリアは、ルークに視線を向けて言う。

「あの女に何をした? どうやって、人の姿へと戻した?」
「…………」

キリアの問いかけられても、ルークは何も言わなかった。
いや、むしろ言えなかったと言っていいだろう。
ルークは、話せないくらい衰弱している。
それはロイドが見てもわかるくらいに……。

「テメェ、いい加減ルークを放しやがれ!!」
「威勢はいいな、ロイド・アーヴィング。そんなことを言ったくらいで私がこいつを手放すとでも思ったか? こいつはプロネーマ様のところへ連れて行く。こんな未知の力を持つ劣悪種など野放しになど出来ぬからな!!」
「……だったら、力づくでも返してもらうぜ!!」

ロイドはそう言って、双剣を勢いよく抜き、構えた。

「あははは! おもしろい!!」

キリアはそう言うと、キリアの背の倍以上に伸びた。
服は破れ、異様に細く鋭い爪を備えた長い手足を持った紫色の体色の魔物へと変化した。
ツインテールの髪は、そのまま捩れた角へと変わった。

「貴様らの始末は、私がここでつけてやるよ。おまえのエクスフィアがマグニスの手に渡るのはおもしろくないからね。……覚悟しなっ!」

キリアは右手にルークを握り締めながら、そう言った。

「上等だ! かかってきやがれ!!」

ロイドはそう言うと、魔物に向かって走り出した。
























Symphony第1章第9話でした!!
ルークがえらいことになっています!
この世界でも超振動起こせるんだ〜
思った以上にキリアが悪者になっています;


H.19 4/2



次へ