「上等だ! かかってきやがれ!!」 ロイドはそう言うと、魔物に向かって走り出した。 〜Symphony The World〜 「くらえ! ――――獅子戦吼!!」 ロイドは、魔物に肩からぶち当たって、そのまま力を込めた気を放出する。 気が獅子の顔似た形になり、魔物を吹き飛ばした。 「ぎゃっ!」 魔物は、狭い地下室の壁に背中を打った。 その時、自然と握る力が強くなったのか、魔物の手の中にいるルークがさらに苦しそうな表情を浮かべた。 魔物はそんなことは気にせず、立ち上がった。 そのとき――。 「――――魔神剣・双牙!」 燕尾のマントを翻して間合いに踏み込んだクラトスが剣を素早く振った。 それによって、出現した二つの衝撃波のうち一つが魔物の右腕を捉え、右腕を切り落とした。 その手の中にいたルークも一緒に落ちたが、床に接触する寸前にクラトスが素早く抱きかかえた。 「みんな、下がって!」 コレットの背中に淡い赤の羽が出現し、身体がふわりと浮き上がった。 「……聖なる力、ここに集いて神の御心を示さん」 コレットは天使術の詠唱が始めた。 「――――エンジェル・フェザー!」 コレットがそう叫ぶと、光り輝く天使の輪が現れ、不規則な軌道を描きながら、魔物へと襲い掛かった。 天使の輪は魔物を切り裂き、焼き尽くした。 「そん、な……プロネーマ様……」 魔物は、身体から炎を噴出し、焼け焦げた身体が床に倒れた。 その周りに光の羽毛がヒラヒラと舞い落ちて儚く消えた。 「……やったか?」 その様子を見たロイドは、双剣を鞘へと収めた。 「先生! 早くルークを治療して!」 コレットが、クラトスの傍に寄りそう叫んだ。 「ええ……」 リフィルは、ルークに回復魔法をかけた。 優しい光がルークを包み込み、ルークの顔色は徐々によくなっていった。 「……これで、少しはよくなるはずよ」 治療を終えたリフィルは、一息をついた。 すると、階段の方から足音が聞こえてきたと思うと、そこからニールの姿が現れた。 ニールは、ルークとクララの姿を見ると驚いた表情を浮かべた。 「ルークさん! 奥様!? 一体、何があったんですか!?」 「説明は後でします。今はルークを」 「わっ、わかりました」 こうして、ロイドたちは、ルークを休ませるため、一端宿へと戻った。 「うっ……」 小さな呻き声を上げると、ルークの瞳は徐々に開いた。 「ここは……?」 辺りを見渡すと、そこは宿屋の部屋だった。 自分は地下室にいたはずなのに、どうしてここにいるのだろうか。 「起きたか、ルーク?」 すると、ロイドたちが部屋の中へと入ってきた。 「ルーク、もう大丈夫?」 ルークを見つめるコレットの瞳は、心配そうに揺れていた。 「うっ、うん。……もう大丈夫だよ」 それにルークは、笑顔で答えた。 「……ルーク、ちょっといいかしら?」 「? なんですか、リフィルさん?」 リフィルに話し掛けられ、ルークは首を傾げる。 「……地下室で使ったあの力。……あれは一体何なの?」 「そっ、それは………」 やっぱり、聞かれてしまった。 あれをどう説明したらいいだろうか。 「……あれは『超振動』です」 ルークは、ゆっくりと話し始めた。 「『超振動』? それは一体……」 「俺たちの世界では、この世界と違って元素と『音素』によって万物は構成されています。『音素』は第一から第六に分類されていて、それぞれの『音素』を用いて『譜術』、この世界でいう魔術を操る人を『音譜術士』をいいます」 「それと、『超振動』ってどういう関係があるの?」 ルークの話を聞いてジーニアスは首を傾げる。 「本来なら、音素は第六までなんだけど、惑星オールドラントの地核に渦巻く力の源『記憶粒子』と音素が結合して『第七音素』が生まれたんだ。『超振動』この第七音素がお互いに干渉しあって発生する力なんだ。あらゆる物質を破壊し、再構築するんだ」 「……なるほど、先程の力は彼女の身体を一度分解して、新たに人の身体を再構成させたというわけか」 「簡単に言えば、そうなるかな?」 クラトスの言葉にルークは頷いた。 「……でも、本来だったら特殊な条件の下、第七音譜術士が二人いて初めて発生させることが出来るんだけど、俺はそれをたった一人で起こせるんだ」 「……ルークって、本当に異世界の人なんだ」 ルークの言葉にジーニアスは呟く。 「何だよ、ジーニアス。まだ、ルークのこと信じてなかったのかよ?」 「だ、だって、異世界から来たなんてそんなに簡単に信じれるわけないんじゃん」 「……それで、どうしてルークは倒れたの?」 ロイドとジーニアスのやり取りを無視してリフィルは話を進めた。 「……この世界には『第七音素』はない。他の音素に似ているのはあるみたいだけどね。だから、さっき『超振動』を起こすときに、俺の身体にある『第七音素』を使ったんだ。それが思っていた以上に体力を消耗させちゃったみたい」 ルークは、それに苦笑して答えた。 「それって、ルークがこの世界で『超振動』を使ったら、死んじゃうかもしれないの?」 「……たぶんだけど、『超振動』を使いすぎたら、きっと俺の身体の中にある音素が身体から離れて『音素乖離』を起こすと思う。音素が元素と組合させて初めて物質となるから、音素が無くなったら俺は消える。それは、死ぬことを同じなんだ」 「!?」 ルークの言葉にロイドたちは息を呑んだ。 ルークは自分が死んでしまうかもしれないのに、『超振動』を起こしたのだ。 「……よくわかったわ。ルーク、説明ありがとう」 リフィルは、ルークにお礼を言った。 「……でも、もうその力は使わないで。その力を使って他の人を助けられたとしても、あなたが死んでしまったら意味がないのだから」 そして、リフィルは優しくルークを説得するかのように言った。 「……リフィルさんは、優しいんですね。はい、わかりました」 それにルークは、笑顔で答えた。 「……さぁ、今日はもう休みなさい。私たちは明日のことでちょっとニールさんとお話をしてきますから」 リフィルはルークに優しくそう言うと部屋を出て行った。 それに、ロイドたちも続く。 「あっ、あの、クラトスさん!」 最後に部屋を出ようとしたクラトスにルークは思わず声をかけた。 「…………なんだ?」 「あ、あの。……さっきは、ありがとうございました」 「? なんのことだ?」 ルークの言葉にクラトスは、不思議そうな顔をする。 「……クラトスさんですよね。俺をここまで運んでくれたのは」 「なんでそう思った?」 「なんとなくですけど。……違ってましたか?」 キリアが魔物化してからの記憶はほとんどなかった。 けど、あの状況から考えると、ロイドは双剣なので、両手が塞がっていただろうから俺を運ぶのは無理だろう。 となれば、自動的にクラトスが俺を運ぶことになったのではないかと、ルークは考えたのだ。 「間違ってはいないが、別に礼を言われるほどのものではない」 「それでも、俺は言いたかったんです。ありがとうございました」 「…………」 ルークの言葉にクラトスは少し困った顔をした。 それを見てルークは、思わず笑ってしまった。 「なっ、何がおかしい?」 「ごっ、ごめんなさい。クラトスさん、俺の知り合いにそっくりだから」 初めて会ったときからずっと思ってた。 彼の雰因気とか反応がアッシュにそっくりだ。 俺の大切な半身に……。 「…………でいい」 「えっ?」 「別に、呼び捨てでもいい」 少し照れたような声でクラトスは、そう小さく言った。 ルークは、初めクラトスが言った言葉に意味を理解できず、間抜けな顔をした。 だが、その意味を理解したルークは、嬉しくなり笑みを浮かべた。 「うん! わかった!」 それは、無邪気な子供の笑み。 いつまででも見ていたいような、そんな笑みだった。 「……今日は、ゆっくり休め」 クラトスは、そう言うと今度こそ部屋から出て行った。 もう部屋には、ルークしかいない。 ふと、ルークは左手を動かした。 すると、そこに光の粒子が集まり、手の中に剣が現れた。 「……こいつのおかげかな?」 それは、ローレライの剣。 なりゆきで、ずっとルークが持っていた。 ジェイドに教わって、自分の左腕の中にこの剣をずっと収めていた。 この剣は第七音素そのものから出来ていて、第七音素を吸収する力がある。 だから、この剣に蓄えられていた第七音素が俺の身体へと入ったのだろう。 これがなかったら、俺は死んでいたかもしれない。 ルークは再びローレライの剣を光の粒子へと変え、消した。 そして、ゆっくりと眠りにつく。 きっと、明日にはロイドたちとショコラを助けにパルマコスタの人間牧場へ向かうだろう。 俺も一緒に行きたい。 足手まといには、なりたくない。 その為には、体調を整えないと。 ルークはそんなことを考えながら、深い眠りへと落ちていった。 Symphonyシリーズ第1章第10話でした!! ルークが悩んだみたいに、私も超振動の説明に悩みましたよ; そのせいでえらく長くなってしまったし; クラトスがルークに心を許しましたよ!! 後、ゲームをやってて、キリアがさほど大きくなかったですけど、まあいいですよね(^−^;) H.19 4/4 次へ |