宿屋に義勇兵が飛び込んできたのは翌朝のことだった。 「み、神子様、大変です! 昨日神子様に助けていただいた『パルマツールズ』のカカオさんの一人娘ショコラがディザイアンに攫われて人間牧場の方に……」 「「何だって!?」」 男の言葉にルークとロイドは、ほぼ同時に立ち上がった。 「……ちくしょう、ディザイアンめ! 助けにいこうぜ。な、ルーク」 「うん!」 ロイドの言葉にルークは頷いた。 「おお! そうしてくださいますか!」 男は、その言葉を聞いて感激したような声を上げる。 「ことは一刻も争います。ドア総督もすぐに義勇兵を集めて救出に向かうとのことで、出来ましたら神子様方には先行していただけるとありがたいと、申しておりました」 「ああ、任せとけ。絶対に死なせたりするもんか。ついでにパルマコスタの人間牧場をぶっ潰してやるぜ!」 男の言葉にロイドは、握り拳を作ってそう言った。 「ありがとうございます! 私は早速そのことを総督にお伝えしてまいります!」 男は、そう言って急いで部屋から飛び出していった。 すると、それと入れ替わる形で顔の鼻から下を覆面で隠した男が入ってきた。 「誰?」 「神子様方、副総督のニールです」 リフィルに問われ、男は覆面を外しながらそう言った。 その顔は確かに昨日会ったニールのものだった。 「……皆さん、悪いですが、どうかこのままパルマコスタから去ってください」 ニールの口から思っても見ない言葉が飛び出した。 〜Symphony The World〜 「どっ、どういうことだよ! パルマコスタの義勇軍と連携してショコラを助け出すんじゃないのかよ?」 ニールの言葉にロイドとルークは驚きの表情を浮かべた。 それに、ニールは暗い表情を浮かべた。 「……やはり、罠か」 そんなニールの様子を見たクラトスは、溜息まじりでそう言った。 「……嫌な方の想像が当たったわね」 「クラトス! それに先生も、どういうことだよ!?」 「頭を使え、ロイド。あのディザイアンが、組織立った軍隊を持つ街を大人しく放置しているのは何故だ? おまえは、砂漠の連中のアジトを見たはずだ。連中の持つ技術力は、人族のものとは、まったくレベルが違う。港の蒸気船など連中にとっては玩具に過ぎない」 「ええ、その通りだわ。なのに、彼らは反乱の芽を潰さないのは、彼らにとってそれが有害ではないから……そうじゃなくて?」 クラトスの言葉にリフィルは、続けてそう言った。 二人の言葉にニールは頷いた。 「……ええ、お二人の仰るとおりです。ドア様は、ディザイアンと通じているのです。そして、神子様、ロイドさん、ルークさん…三人を罠にかけようとしています。ショコラは、その為の餌として攫われたのです。あなた方があの親子を助けたから……」 「俺とコレットが狙われるのはわかるけど、なんでロイドも狙われるんだ?」 ニールの言葉に疑問を感じたルークは首を傾げた。 「昨日、エクスフィアの話をしていたのを覚えていて? ディザイアンたちは、ロイドのエクスフィアを奪おうとしているの。理由はよくわからないけど……」 その疑問にリフィルは、そう答えた。 ロイドのお母さんの形見のエクスフィア。 それがロイドがディザイアンに狙われる理由。 「総督も昔は、本当に街のみんなのことを考えておられたのです。五年前にクララ奥様を亡くされた時も、ディザイアンと対決することを誓っておられました。しかし、いつの間にか、総督はディザイアンと取引をして、表向きは対決するフリををし、人々からその為の資金を偽って金を集め、それをディザイアンに……」 「イセリアと同じね」 それにリフィルは、冷たく言い放った。 「……それ、どういうことだよ、先生?」 「ロイド。あのディザイアンが、何の見返りもなしに村に手を出さなかったと思うの? 密約があったのよ。私はそう思っているわ」 その言葉にクラトスも頷く。 「珍しくない話だ。……さて、神子よ。罠とわかった以上、これ以上関わるべきではないと私は思うがな。この男の話が事実なら、パルマコスタの援軍は期待できない」 「ダメです! このまま見過ごすなんて出来ません!」 コレットは、両手を強く握り締め、叫んだ。 「でもね、コレット――」 「先生! 世界を再生することと、目の前の困っている人を助けることは、そんなに相反することなの? 私はそうは思わない!」 コレットの力強い瞳を見て、リフィルは溜息をついた。 「……コレットがそう言うなら、私達はそれを止める権利はなくてよ? この旅で何をするか、その決定権は神子であるあなたにあるのですもの」 リフィルの言葉を聞いたコレットは、ルークとロイドへと視線を向けた。 「ロイド、ルーク。……危険かもしれないけど、手伝ってくれる?」 「ああ、俺は初めからそのつもりだぜ」 「俺もコレットと同じことを考えてから……」 例え、この世界が俺がいた世界と違っていても、俺はこの世界の人たちを助けたいから。 「ですが……」 コレットたちの反応にニールは、戸惑いを隠せないようだ。 「大丈夫だよ。心配ないよな、姉さん」 そんな彼の不安を取り除くかのように、ジーニアスはリフィルに問う。 「ええ。罠だとわかっていれば、それを逆手に取ることだって出来るわ。ドア総督がディザイアンと通じているというなら、牧場の構造やどんな罠を用意したかのか、この街の誰よりも知っているはず。彼には少しお喋りになってもらいましょう」 リフィルは、不敵に笑ってそう言った。 その笑みが時たまジェイドが見せる笑みによく似ていた。 「? どうしたの、ルーク? 顔色がよくないよ?」 そんなルークを見て、ジーニアスがルークに問いかける。 「……いや、なんでもないよ。ただ、少しいやなことをお思い出しただけだから」 ルークは、リフィルがジェイドのようなことをしないように刹那に祈った。 「……誰もいないようだぜ」 ルークたちは総督府の中に入ったが、そこには人っ子一人いなかった。 「もしかしたら、本当にパルマコスタの人間牧場に行ったかもしれらないぜ」 「あり得ないわ」 ロイドの言葉にリフィルは、キッパリとそう言った。 「さっきの話が本当なら、きっと外出していると見せかけているかもしれないわよ」 リフィルはそう言いながら、辺りを見渡す。 「……なぁ、あっちの方に人の気配を感じるよ」 ルークの言葉にロイドたちは、ルークが指差す方へと視線を向ける。 そこには、地下に続く階段があった。 「……いってみるか」 ロイドがそう言うと、階段を降りた。 ルークたちもそれに続いて降りた。 「妻は……クララは、一体いつになったら元の姿に戻れるんだ!」 すると、階段を降りる途中で悲痛な声が聞こえてきた。 ルークたちは足を止め、耳を澄ませた。 それは、間違いなくドアの声だったが話の内容にルークは耳を疑った。 ニールの話では、クララは既に亡くなっているはずなのに? 「もはや、精一杯だ! 通行税に住民税、マーテル教会からの献金、交易品の関税、これ以上何処からも搾り取れん!」 「……まあいいだろう」 子馬鹿にしたような男の声が、聞こえてきた。 ルークたちは、足音を立てないように気を使いながらゆっくりと階段を降りた。 着いた場所は、物置のような地下室。 ルークがそこを覗くとそこには、ドアとディザイアンが向かい合っていた。 ドアの腰の辺りには、キリアがしがみついていた。 「まだまだ金塊が足りないが、次の献金次第では、マグニス様も≪悪魔の種子≫を取り除いてくださるだろう。精々、金を集めることだな」 ディザイアンはそう言うと、光柱に包まれ消えた。 「お父様……」 キリアの声にドアは振り返り、キリアを抱き締めた。 「もう少しだ。もう少しでクララは元の姿に戻れるのだ。ああ、そうだ! 旅業の料金を底上げし、マーテル教会への寄付にも課税をすることにしよう。そうとも、知恵を絞れば――」 「……どういうことだよ」 「!!」 ロイドの声にドアは驚き、振り返った。 「……何だよ、その面は。まるで、死人でも見たような顔じゃねぇか」 「ねぇロイド。その台詞、ありがちだよ?」 「う、うるせーな」 二人のやり取りをよそにドアは、キリアを庇うように後ずさった。 「なっ、何故、神子たちがここに……ニール! ニールはどうした!」 「ニールさんはいなくてよ」 リフィルの言葉に、ドアはハッとした表情を浮かべた。 「そうか。……ニールは裏切ったのか!」 「裏切ったのは、あんただろ?」 ドアの言葉にロイドは、そう言った。 「けど、どういうことですか? ニールさんの話では、あなたの奥さんは五年前に亡くなったって聞きました。でも、さっきの話を聞いていると、まだ生きているみたいですよね? 死んだって言うのは嘘で本当は人質にでも取られているのですか? だったら、俺たちと一緒に助けに――」 ルークの言葉は、突然ドアが笑い出したことで掻き消された。 彼は笑っていたが、泣いていた。 「人質だと!? 助けるだと!? 笑わせる! お前達に助けられると言うなら、助けてみろ! 妻なら……」 ドアは壁に掛かっていた布を掴んだ。 「ここにいる!」 そして、布はドアにとって剥ぎ取られた。 Symphonyシリーズ第1章第8話でした!! な、長いよ;何処で切っていいのかわからず、こんなにも長くなってしまったよ; 次回はどうな展開にするかまだ、迷ってます。 H.19 3/24 次へ |