「うわぁ〜綺麗だなぁ〜」

ルークは、船から海を眺めて、そう呟いた。
海は何処の世界でも青く透き通っているんだなぁとルークは思った。

「ところで、リフィルさん大丈夫かな? なんか、すごく気分が悪そうだけど?」

ルークは船の隅にいるリフィルに視線を向けて言った。
リフィルは、とても気持ち悪そうな表情をしていた。

「先生、船酔いでもしたかな?」
「ねぇ、ロイド! ルーク! 見て見て!」

コレットに呼ばれた二人は、コレットのところへ歩み寄った。

「ほら! あそこに街が見えるよ!」

コレットが指差す方へ視線を向けると水平線の向こうに街が見えた。
あそこが目的地、パルマコスタだ。






〜Symphony The World〜








「でかい街だなぁ……」

船を降りたロイドはそう呟いた。
イズールドの村で無理を言って船を出してもらってやっとパルマコスタに辿り着いた。
最近、海の魔物が増えていると言っていたが、魔物に襲われることはなかった。

「……リフィルさん、大丈夫ですか?」

ルークは、顔色が青白くなっているリフィルに話し掛けた。

「え、ええ、平気よ。……もう、乗らなくてすむのだし」
「えっ?」

リフィルの言ったことが聞き取れず、ルークは聞き返した。

「な、なんでもありません。私のことはともかく、早速この街の教会に行きましょう」
「お祈りなら後にしようぜ、先生」

リフィルの言葉にロイドは嫌そうにそう言った。

「違います。……封印に関する手がかりの『再生の書』は教会にあったはずよ」
「『再生の書』ってなんですか?」
「マーテル教を開いた、最初の神子(みこ)スピリチュアが行った世界再生の旅の全てを記録した書よ」

ルークの問いにリフィルは、優しく答えた。

「その書は一冊だけ作られていて、バクラフ王家に納められてたんだけど、王朝が滅んでしまった今は、この教会で保管されていりはずよ。パルマコスタは、スピリチュアが最初に説法を行った場所だから。確か今の祭司長は、前にイセリア聖堂で修行していたマーチ祭司だったはずよ。コレット、覚えていて?」
「はい。穏やかで、立派な祭司様でした」

リフィルの言葉にコレットは懐かしそうにそう言った。

「彼に頼んで『再生の書』を見せてもらいましょう。よもや、神子(みこ)に見せないなんてないでしょう」
「さすが、姉さん! 伊達に『遺跡マニア』をやってないよね!」

調子に乗ったジーニアスがそう言うと、リフィルはジーニアスの頭をパカリと叩いて、皆に教会に行くように促した。
その時、港の入り口から男が慌てふためきながら叫んできた。

「た、大変だ! ディザイアンの公開処刑だ! 『パルマツールズ』のカカオさんが、奴らに捕まって、広場で公開処刑になるぞ!」

それを聞くと人々は一斉に走り出した。

(公開処刑だって!?)

それに続くかのようにルークは走り出す。

「ルーク!」
「俺たちも行こう!」

ロイドたちはルークを追って走り出す。
そして、広場に着いた途端、ロイドたちは息を呑んだ。

「! ……酷すぎる」

ジーニアスが呟き、コレットは胸の前で組んでいる手を強く握った。
目の前に広がる広場の中央には、絞首台が設置させ、柱から下がったロープの輪に、女性の首が通され立っていた。

「やめて! お母さんを放してっ!!」

絞首台の傍で下級兵士に身体を押さえつけられている少女が叫ぶ。
刑を執行される女性の娘のようだ。
そのあまりにも残酷さに、ロイドは自然と剣の柄を握る。

「駄目よ、ロイド。ここをイセリアの二の舞にしたいの?」

その様子を見ていたリフィルはロイドの腕を掴み、ディザイアンに聞かれないように小さく呟く。

「だけどっ!」

ロイドは唇を噛んだ。
すると、絞首台の前に光柱が出現し、一人の男が現れた。
他のディザイアンとは違い、兜を被っていないその男は、縮れた赤い髪を後ろで束ね、左目には大きな傷が走っていた。
男の姿を見た途端、人々はざわつき始める。

「…………マグニスだ……」

近くにいた男が呟き、リフィルは「知っているのか」と彼に聞いた。

「ハコネシア峠の付近にある『救いの小屋』の東にある人間牧場の長だ」

男は、そう小さく呟いて教えてくれた。

「聞け! パルマコスタの民よ!」

ディザイアンの一声に辺りは静まり返った。

「この女は、偉大なるマグニス様に逆らい、我々への資材提供を断った! よって、定められた間引きの量は超えるものの、見せしめとして、この女を処刑を執り行うこととした!」
「何が提供よ!」

少女が叫んだ。

「物が欲しいなら、ちゃんとお金を払いなさいよ! もっとも、あんたたちの汚いお金なんて、この街で受け取る人間なんていないでしょうけどね! ディザイアンなんかに……」
「やかましい!」

少女の言葉はマグニスに殴られて、途中で途絶えた。

「うっ……」
「人間風情が対等な口をきくな。……豚が」
「あ、あんたなんか……ドア総督が戻れば……」

少女の瞳に一粒の光が光る。

「ドアだと? ガハハハ! そんな望みなんて捨てるんだなあっ! やつには、何もできん! やれ! この娘の母親を吊るせ! 我々に逆らえばどうなるか、思い知らせてくれるな!」

マグニスは高々と笑って腕を上げた。
すると、ディザイアンの一人が留め金を外す棒に手をかけた。
これ以上、黙って見ていることなんて出来ない。

「もう、我慢できねぇ! 俺はやるぜ、先生!」

ロイドはリフィルの手を振り解き、双剣を抜く。

「目の前の人間も救えなくて、世界再生なんかやれるかよ!」
「あなたの言っていることは、綺麗事よ! 神子(みこ)が死んだら、世界再生もないわ! あの女性一人の為に、また何十年も待つというの!? その間に何人の人が苦しみ、死んでいくと思っているの!?」
「失敗しなけりゃいんだろ! コレットは俺が守ってみせる!」

ロイドの言葉にリフィルは目を細めた。

「……ふざけないで。何を気負っているの? 口先で完遂できるほど、この旅は甘く――」

リフィルは最後まで言葉を言うことが出来なかった。
ディザイアンの手が動き、カカオの足元の床が抜けた。
その瞬間、何かがロープへと飛び、ロープを切った。
そして、カカオが地面と接触する直前に誰かが彼女を抱きかかえた。
夕焼けのような赤い長髪が美しく揺れている。

「ルーク!?」

ジーニアスは驚きの声を上げる。

「貴様! 何をする!」

マグニスはルークに向かって怒鳴った。

「さっきから、話を聞いてたら、あんたたち横暴じゃねぇか? 物を買うときはお金を払う。そんなの子供でも出来ることじゃんか?」

そんなマグニスに対して、ルークはケロッとした顔でそう言った。
とは言っても、俺も一度だけお金を払う前にりんごを食べてしまったこともあったけどな……。

「貴様! 劣悪種の風情で我々に逆らったら、どうなるかわかっているのか!!」

ルークの言葉にマグニスは激怒し、手に大きな斧を持った。

「劣悪種? なんだそりゃ?」

マグニスの言葉にルークは首を傾げる。

「貴様っ! ふざけるのはいい加減にしろ!!」
「……なんかわかんないけど、やれるもんならやってみろよ?」

ルークはカカオを下ろすと、マグニスに笑ってそう言った。

「こ、この……豚がっ!!」

マグニスは怒りに身を任せ、ルークへと突っ込む。

「よっと」

ルークはそれをヒラリとかわして、姿を消した。

「くそっ! 何処に消えた!!」
「ここだ!!」

ルークの声にマグニスは空を見上げた。

「ぐあっ!!」

ルークの蹴りがマグニスの頭に見事命中し、マグニスは倒れ込んだ。
そして、完全に、マグニスはのびていた。

「……すげぇ」

ロイドは、それをただ呆然と眺めていた。
あのディザイアンを、しかも人間牧場の長を蹴り一発で気絶させた。

「蒸気船だ!」

誰かが、そう叫んだ。

「ドア総督が戻られたぞ!」

人々は一気に活気付き、ディザイアンたちはオロオロし始める。
自分達の長が気絶しているのだから仕方あるまい。

「た、退却だ!!」

一人のディザイアンの呼びかけにほかのディザイアンたちも従い、自分たちの長を連れて逃げるようにその場から立ち去っていった。
そして、広場には歓喜の声が響き渡った。
























Symphonyシリーズ第1章第4話でした!!
ルークたちがパルマコスタに到着しました。
そして、カカオさんをルークが助けましたww
馬鹿だよね〜マグニスは。ルークにあんたが勝てるわけないのにww


H.19 2/19



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