「神子様方。それでは、道中お気をつけて」 街の外まで見送ってくれたニールはそう言った。 ルークたちは一度パルマコスタ戻り、ドアが取り返してくれた『再生の書』を受け取った。 ルークたちが人間牧場に行っている間、ドアはマーテル教会を通じて、それを取り返してくれたのだ。 「はい! ニールさんたちもお元気で!!」 こうしてルークたちは『再生の書』に書いてあった、『水の封印』があるであろう『ソダ間欠泉』を目指した。 〜Symphony The World〜 ソダ間欠泉へ向かう途中、日が沈んだためロイドたちは、野宿をすることにした。 「あれ? ロイド、ルークを見なかった?」 「いや、見てないけど?」 「おっかしいなぁ〜。もう、ご飯が出来たのに……」 ジーニアスは、辺りを見渡しながらそう言った。 「じゃあ、俺が捜してきてやるよ。その辺りにいると思うし。飯は先に食ってていいからな」 「うん、わかったよ。でも、出来るだけ早く戻ってきてよね。せっかくのご飯が冷めちゃうからさ」 「ああ、わかってるって」 ロイドは、ジーニアスにそう言うとルークを捜し始めた。 (ルークの奴、何処に行ったんだろ?) あれから、数分経ったが、まだあの夕焼けのように赤い髪は見つからない。 (まさか、魔物に襲われたんじゃないだろうな?) 一度はそう思ったが、ロイドはすぐにその考えを捨てた。 例えそうだとしてもあのルークだ。 ルークはとても強い。 俺なんかよりもずっと……。 すると、ロイドの耳に人の声が入ってきた。 それは、声と言うよりも歌だ。 (なんだ……?) それは、ロイドが今までに聞いたことのない歌だ。 ロイドは、その歌が聞こえるほうへと足を進めた。 そこにいたのは、自分が捜していた夕焼けのように赤い長髪の少年。 風でなびくそれは、星の光を浴び、所々がキラキラと輝いて見える。 ルークの口から今までに聞いたことのない美しい旋律が奏でられていた。 ロイドはその声に、歌に聞き入ってしまって動けなくなっていた。 トゥエ レィ ツェ クロア リュオ トゥエ ズェ クロア リュオ ツェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ツェ ヴァ ネゥ ズェ トゥエ ネゥ ツェ リュオ ツェ クロア リュオ レィ クロア リュオ ツェ レィ ヴァ ツェ レィ ヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ツェ レィ クロア リュオ クロア ネゥ ツェ レィ クロア リュオ ツェ レィ ヴァ レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ ルークは、歌い終わったと同時にロイドの方へと振り返った。 すると、このとき後ろにロイドがいたことに初めて気が付いたのか、ルークは驚きの表情を浮かべた。 「ロ、ロイド!? 聴いてたの!?」 「わ、わりぃ。盗み聞きするつもりはなかったんだけどな」 ロイドの言葉を聞いたルークの顔を見る見るうちに赤くなっていった。 どうやら、歌を聴かれたことが、よほど恥ずかしかったらしい。 「にしても、変わった歌だな。ルークの世界の歌なのか?」 「……うん。これは『ユリアの譜歌』なんだ」 「『ユリアの譜歌』?」 ロイドは首を傾げた。 「俺たちの世界には第七音譜術士がいることは話したよね?」 「ああ、それは聞いたな」 「その第七音譜術士には音律士がいるんだ。音律士は譜歌を使う人たちを指しているんだ。譜歌っていうのは譜術における詠唱部分だけを使って旋律と組み合わせた術のひとつなんだ。その中でも『ユリアの譜歌』は特別で譜歌に込められた意味と象徴を正しく理解しないと発動しないんだって」 「ルークは『ユリアの譜歌』に込められた意味と象徴を理解できたのか?」 ロイドの言葉にルークは、首を振った。 「ううん。俺は第七音譜術士だけど、音律士じゃないんだ。この意味と象徴を詠みとれたのは、俺の仲間ティアなんだ」 ユリアの子孫である彼女はこの譜歌に込められた意味と象徴を詠みとることが出来た。 彼女の口から奏でられる美しい旋律が好きだった。 「俺、この譜歌が好きだったからティアに教わったんだ。といっても、ティアに比べると全然下手だけどな」 ルークは、苦笑しながらそう言った。 「そんなことないぜ。俺はそのティアって人の歌声を聞いたことがないけど、ルークの歌声も凄く綺麗だったぜ」 「……そっ、そうかな。そう言ってもらえて、嬉しいよ。ありがとう」 「いや、お礼を言わないといけないのは、俺のほうだ」 「えっ?」 ロイドの言葉に意味がわからず、ルークはロイドに聞き返す。 「……パルマコスタの人間牧場で俺を助けてくれただろ? 手が震えていたことバレてたんだな」 ルークが俺を庇ってああ言ってくれたことが嬉しかった。 「……マグニスの言った通りなんだ。イセリアが燃えたのも俺のせいで……マーブルさんを俺が殺した」 「…………」 「今でも、マーブルさんを斬った感触が忘れられないんだ。……人を殺すのが怖いんだ」 ロイドの手は自然ときつく握り、震えていた。 「……ロイドの気持ちはよくわかるよ。俺も初めては、そうだったから」 「えっ?」 ロイドは、驚いたような声を上げた。 「俺も人を殺してしまった後、まともに剣を握ることなんて出来なかった。……でも、そのせいで俺はティアを傷付けてしまった」 再び人と戦ったとき、俺はまた人殺しをしてしまうことを恐れて動けなかった。 そのせいでティアが俺を庇って怪我をしてしまったのだ。 「あとさ、ある人にこんな事言われたんだ。『人を殺すのが怖いなら、剣なんか棄てちまいな!』って」 それは、アッシュが俺に向かって初めて発した言葉だ。 「すっ、凄いこと言うなぁ;」 「うん。でも、そんなこと言われても仕方なかったんだ。あのときの俺は本当に馬鹿だったから……」 本当にあのときの俺は馬鹿だった。 何もかも人任せにして、人のせいにして逃げていたあの頃の俺は……。 「……馬鹿だったんだ俺のせいで、俺は……ひとつの街を崩壊させてしまったんだ。何も考えずに、超振動を使ってしまったから……」 今でも、あのときの悲惨な光景を思い出せる。 人々の悲鳴が耳から離れない。 「ルーク……」 「俺は、一度ティアたちに見放されたんだ。馬鹿なこと言って喚いていたから。……本当、あのときの俺は幼稚だったんだ」 知らなかったんじゃない、知ろうとしなかったんだ。 ティアたちはあんなに一生懸命に教えてくれたのに……。 「一人になって、俺は変わりたいと思った。心の底から変わりたいって……」 「ルーク……」 「ごめんな。こんな暗い話しちゃって」 ルークはロイドに笑いかけた。 やっと、わかった気がする。 ルークが無理をして牧場へ着いてきた理由が……。 ルークは俺なんかより辛い経験をしている。 なのに、ルークは俺に笑いかけてくれている。 俺に不快な思いをさせないように……。 本当にルークは強い。 剣術とかじゃなくて、心が……。 「ロイド! ルーク!!」 「あっ! ジーニアス!!」 すると、ジーニアスがルークたちへと駆け寄ってきた。 「もう! 二人とも遅いよ!! せっかくのご飯が冷めちゃうだろ!!」 「あっ! ごめんな; 今すぐ行くから」 ジーニアスに申し訳なさそうにルークはそう言った。 「もう! 早く来てよね!」 そう言うとジーニアスは、元来た道を走って戻っていった。 それを追いかけてルークも走り出そうとした。 「ルーク!」 「? 何? ロイド?」 不意に名前を呼ばれたルークは、ロイドへと振り返った。 「……なんて言ったらいいのか、よくわかんないけどさぁ。……この世界では、俺たちが傍にいてやるから」 だから、おまえは一人じゃないよ。 「ロイド……。うん! ありがとう!!」 ルークは、ロイドの言葉が嬉しくて、微笑んだ。 その笑みを見たロイドも笑みを浮かべた。 「じゃあ、さっさと飯を食うか!」 「うん! いこ、ロイド!!」 ルークとロイドは、二人並んで歩き出した。 同じ頃、テセアラのゼロスの屋敷でアッシュはベランダで夜空を眺めていた。 世界が違っても星の輝きは全く同じで、美しかった。 だが、アッシュの口から出るのは溜息ばかりだ。 こんなに捜しているのに、愛しい半身は未だに見つかっていない。 あの美しい夕焼けのような赤い髪の少年は、まだ見つからないのだ。 「な〜に、溜息なんかついてるのさ、アッシュ?」 すると、ベランダにゼロスがやってきた。 アッシュが溜息をついているもうひとつの原因が。 コイツが仕事をサボる度にいつも俺がその始末をさせられる。 いい加減にしてもらいたいものだ。 「溜息つくと幸せが逃げていくんだぜ」 「……うるせぇ」 「連れないなぁ、アッシュは」 ゼロスはそう言いながら、アッシュの隣へと歩み寄った。 「まあ、捜している人がなかなか見つからなくて、焦る気持ちもわかるけどな。テセアラは広いからそう簡単には見つからないさ」 「…………」 ゼロスの言葉をアッシュは、黙って聞いていた。 そんなアッシュの様子を見てゼロスは、フッと笑った。 「……そう言えばさぁ、アッシュが捜している人の名前は、なんていうのさ?」 ゼロスは、ふと思い出したようにそう言った。 これまでにアッシュと共に行動してきたゼロスだったが、彼が捜している人の名前はまだ教えてもらわなかったのだ。 「…………言わねぇ」 「な、なんでだよ! 名前がわからないと俺様が見かけててもわかんないじゃんか!!」 「おまえにあいつの名前を教えると、あいつが穢れる気がする」 「ひっ、ひどいなぁ; アッシュ;」 アッシュの言葉にゼロスは、肩がガックリと下がった。 そんな言い方しなくたっていいじゃんか……。 「…………《聖なる焔の光》」 「へっ?」 アッシュが静かにそう呟いたので、ゼロスは聞き返した。 「俺の世界の言葉であいつの名前は、《聖なる焔の光》を意味している。あいつにピッタリの名だ」 俺よりもあいつのほうが、この名は合っている。 あいつの笑顔はとても暖かく、誰もが幸せな気持ちになる。 俺は、あの笑顔を早く見たい。 あいつに逢いたい……。 「《聖なる焔の光》ねぇ。……って、結局その言葉自体は、教えてくれないのかよ!?」 「意味だけでも教えてやったんだ。有難いと思え」 「そりゃないでしょ;」 今までのお返しだ。 アッシュは、ゼロスを見てフッと笑った。 「俺はもう寝る。テメェもさっさと寝ろ」 アッシュは、そうゼロスに言うと部屋へと戻っていった。 「はぁ〜。連れないなぁ、アッシュは」 アッシュにああ言っておいて、ゼロスは溜息をついた。 (……でも、一体どんな奴なんだろう? アッシュの捜している奴は?) アッシュがそいつのことを話している声は穏やかで、翡翠の瞳も優しい光を放っていた。 いつも、眉間に皺を寄せているあのアッシュが……。 早く会ってみたいと思った。 「さてと、俺様も寝るとしますか」 ベランダには誰もいないのに、ゼロスはそう言うと自分の部屋へと戻っていった。 Symphony第1章第15話でした!! 今回はルークとロイドがいい感じwwそして、やっぱりルークに譜歌を歌わしちゃったww だって、好きなんだもん!譜歌を歌うルークが>< そして、久しぶりにアッシュとゼロスが登場!! アッシュがゼロスに振り回されている光景が目に浮かぶ…。 なのに、それを小説には書かない自分; この二人はルークたちがテセアラに行くまで等分出番ないかも; というわけで、次回から第2章に突入します!! H.19 6/15 第二章へ |