ルークたちは、これまでとはまったく違う、広い部屋に出た。

「ここが管制室か……」

ロイドはそう呟きながら辺りを見渡した。

「漸く到着か。天から見放された神子(みこ)と、豚どもがっ!」






〜Symphony The World〜








円壇の真上、天井に据えられた筒状の機械から光がまっすぐに伸び、空中に浮かぶ椅子に尊大に座ったマグニスがゆっくりと降下してきた。

「天から見放されたのは、マグニス、おまえだ! ここで叩きのめしてやる!」

ロイドは素早く双剣を抜き、構えた。
それを見たマグニスはルークたちを嘲笑った。

「……所詮は豚の浅知恵よ」

マグニスが指を鳴らすと、転送装置は停止し、代わりに左右にあった扉から数人のディザイアンが現れ、ルークたちを取り囲んだ。

「か、囲まれた〜……」

少し後退したコレットを庇うように立って、ロイドは舌打ちした。

「がはははは! 貴様達の行動なんぞ、全て筒抜けよ! 培養体どもが愚かに逃げ出そうとしているのもな! このスクリーンに何もかも映っていたのよ!」

そう言ってマグニスがもう一度指を鳴らすと、スクリーンの一つがニールたちが人間牧場の正面から逃げ出そうとしているのが映った。
だが、彼の前で扉は閉まり、そして他の扉も閉まり、彼らは広間に閉じ込められてしまった。

「なっ、なんであんな小さなところにニールたちが入っているんだ!?」
「ロイド、そうではない。あれは投影機と言うものだ。離れている場所の様子を映し出し、記録することも出来る。我々の行動は全て見られていたのだろう」

驚くように言ったロイドに、クラトスは静かにそう言った。

「その通りだ! ドアが裏切るであろうことも、俺様の策略には織り込み済みよ! わかったか!! おまえらの行動は、何もかも無意味なんだよっ!」
「無意味なんかじゃない! 今からおまえを倒して、この牧場を潰してやる!! そうすれば、みんなを助けられる!!」

マグニスの言葉にロイドは吠えた。

「はあ!? ……おまえ、よくそんなことが言えるなぁ! イセリア村が燃えちまったのは、おまえの無駄で無意味で無策な行動にせいだろうが! おお、そうだ。あそこに映っている連中で、あのときの再現をしてやろうか? 培養体に埋め込んだ悪魔の種子、エクスフェアを暴走させて、化け物に変えてよぉ! 家族で殺し合う様をゆっくりと見物するのも、乙なものだぜぇ?」
「やっ、やめろ!!」

ロイドは、悲鳴に近いような声で叫んだ。
それを聞いたマグニスは、満足そうに笑った。

「おいおい、遠慮するなよ。おまえが殺したあのババア……マーブルのようにしてやるよ!」

マグニスの言葉を聞いた途端、ショコラの顔色が真っ青になった。

「マ、マーブル……!? マーブルってまさか……」

震えるようなショコラの声にロイドは振り返った。

「そうなんだぜぇ、ショコラよぉ! お前のババア、マーブルはイセリアの人間牧場に送られ……そこにいる、ロイド・アーヴィングに殺されたのさ! それは無残な最期だったそうだぜぇ!」

その背中に突き刺すように、マグニスの声が聞こえた。

「そっ、そんな……」

ショコラは首を振りながら、ルークたちから離れるように下がった。

「まっ、待ってよ! 違うんだ!!」

ジーニアスは手を伸ばしたが、ショコラはそれを払い除けた。

「そうじゃないんだ! ロイドは、マーブルさんを助けようとして、でもそれをディザイアンが邪魔して、マーブルさんを怪物に変えて……」
「ロ・イ・ドが、殺したんだよな?」

ジーニアスの言葉を遮ってマグニスはそう言った。
それに対して、ジーニアスはマグニスを睨みつけた。
マグニスは、それを満足そうな笑みを浮かべて、ちらりと視線を外した。

「! いけない、ショコラ!!」

ルークが、それにいち早く気付いたが、遅かった。
マグニスの合図でディザイアンたちは、ショコラの腕を掴み、自分達の方へと引き寄せた。
反応が遅れたせいもあるが、それをショコラは抵抗しようともしなかった。

「くそっ! ショコラを放せ、ディザイアン!!」
「来ないで!!」

駆け寄ろうとしたロイドは、ショコラの拒絶の声に足を止めた。

「おばあちゃんの仇なんかに頼らない。それくらいなら、死んだほうがマシよ!」
「死ぬなんてこと言っちゃダメだよ! どんな状況だって死んじゃうより、生きているほうがいいに決まってるよ、絶対!」
「放っておいて! 私のことは、ドア様が助けてくれるわ! だから、おばあちゃんを殺したあんたなんかに頼らない!!」
「っ!!」

コレットの言葉を振り払うかのようにショコラは叫んだ。
この言葉にロイドは、傷付いた表情になった。
それを見たルークは、ショコラへと一歩前に出た。

「……俺は、このことをよく知らないけど、でも、どうしてショコラは話を聞こうとしないの? ショコラがロイドを憎むのはわかる。でも、ロイドだって苦しんでいるんだよ」
「苦しんでいるですって? どうして、そんなことがわかるのよ! あいつは、おばあちゃんを殺したの! 人殺しなのよ!!」
「わかるよ」

ルークは、静かにそう言った。

「……さっき、俺を助けてくれたロイドの手は、震えていたから」

ディザイアンに襲われたあのとき、ロイドが助けてくれた。
その時のロイドの手は微かに震えていた。
俺以外わからないくらいに……。

「それは、何よりもロイドが苦しんでいる証なんだよ。人は、そんなに簡単に人を殺すことなんて出来ないんだ」
「…………」

ルークの言葉にショコラは俯いた。

「…………だとしても、理由を聞いてどうなるの? そんなの聞いたって、おばあちゃんは戻ってこないのよ。……もう二度とおばあちゃんに会えないことには、変わりないじゃないっ!!」

ショコラは、瞳に涙を溜めて悲痛な声で叫んだ。

「何をしている! さっさと、そいつを連れて行け!!」
「はっ!!」

痺れを切らしたマグニスがそう言うと、ディザイアンはショコラの腕を掴んだまま転送装置へと向かった。

「待って!」

それを止めようとルークは駆け寄ろうとするが、ディザイアンによって阻まれた。
それをルークは、剣を使わず蹴りとパンチでディザイアンを倒すと必死に転送装置へと手を伸ばすが、間に合わなかった。
その手は何も掴めず、ショコラの姿はディザイアンと共に消えた。

「形勢逆転だな、マグニス」

クラトスの声が聞こえ、ルークはそちらへと視線をやる。
そこには、剣に着いた血を振るい落とすクラトスと床に倒れたディザイアンの姿だった。
その為か、マグニスの表情からは笑みが消え、怒りを露にしていた。
マグニスは、空中に浮いていた椅子を地面へ近づけて降りた。
「こうなったら、このマグニス様が直々に相手してくれるわ! エルフの血を捨てられねぇ愚か者共々、神子(みこ)を葬り去ってやるわ!」
「相手って。この前、俺に負けたのに?」

マグニスの言葉を聞いたルークは首を傾げた。

「あのときは、油断しただけだ! だが、今度はそうはいかん! 劣悪種風情なんかに負ける俺様ではないわ!」
「だーかーら。劣悪種って何なのさ? 俺、ちっとも、わかんないよ」
「き、貴様! まだ、ふざけているのか!!」

ルークの言葉にマグニスは吠えた。

「あ、あのね、ルーク。劣悪種っていうのは、ディザイアンが、人に使う差別用語なものだよ」

ジーニアスが、慌ててルークへとそう言った。

「人に……。そっか、嬉しいなぁ〜」

ジーニアスの言葉を聞いたルークは、笑顔でそう言った。
それに対して、ジーニアスはずっこけた。

「もう! なんで喜ぶのさ! 差別用語だって言ったのに!!」
「えっ? だって、それって俺が人だって、認めてくれてるってことでしょ? 嬉しいじゃんか♪」
「あっそう。もう、いいよ……」

ジーニアスは、諦めたように呟いた。
劣悪種って呼ばれて、喜ぶ人なんて初めて見たよ。

「貴様ら! 俺様を差し置いて何を話してやがるんだ!!」
「あっ、ごめん。すっかり、忘れてた」
「貴様! 馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」

ルークが、ケロッとした顔でそう言ったので、再びマグニスは吠えた。
そして、マグニスの手の中に巨大な斧と盾が現れ、装着した。

「貴様だけは、この俺様が倒してくれるわ!!」
「上等だね。やってみなよ」

ルークはそう言いながら、ゆっくりと腰にある剣を抜いた。

「ロイド! いくよ!!」
「お、おう!!」

ルークがロイドに声をかけ、そして二人はマグニスへと向かって床を蹴った。
























Symphony第1章第13話でした!!
やっとここまで来ましたよ;
にしても、ショコラはロイドに酷いこと言ってるなぁ(言わしてるのは私だけど)。
ロイドが可哀想ですよね。でも、そのぶんルークがフォローしてくれたからよしとしよう。


H.19 5/26



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