レムの塔をアッシュは、ゆっくりと階段を下りていく。
すると、アッシュは、人の気配を感じ取った。

「……誰?」

アッシュは腰にある剣へと手を伸ばしてそう言った。
その声に応えるように、アッシュの目の前にゆっくりと一人の男が現れた。






〜Shining Rain〜








「ディスト……」

現れた男を見たアッシュは、そう呟いた。
ここでディストと出くわすと思っていなかったアッシュは驚きを隠せなかった。

「…………アッシュ。一体、何処へ行くつもりですか?」
「…………」

静かなディストの声にアッシュは、何も答えることは出来なかった。
それに対してディストの目が細まる。

「私には言えないのですか? あなたがこれからやろうとしていることを」
「!?」

ディストの言葉にアッシュは瞠目した。

「……あなたをジェイドたちの許へは行かせません!」

行けば、アッシュが死ぬことは確実となる。
障気を中和させる為に超振動(ちょうしんどう)を起こすのに必要なのは、大量の第七音素(セブンスフォニム)とそれを増幅させる《ローレライの剣》だ。
その《ローレライの剣》を持っているのは、アッシュの被験者(オリジナル)であるルークなのだ。

「そこを退いて、ディスト。俺は急いでいるんだ」
「退きませんよ! 退いたら、あなたは死んでしまうから!!」
「…………」

ディストの言葉にアッシュは、困ったような表情になった。

「どうしてですか! どうして、あなたはそこまで世界の犠牲になろうとするのですか!!」
「ディスト。俺は世界の犠牲になるつもりはないよ。ただ、大切な人たちを守りたいだけだ」
「だっ、だからと言って、あなたではなくてもいいはず! 被験者(オリジナル)ルークでも、それはできるはずです!!」
「これは、俺がやらなきゃいけないんだ」

ディストの言葉に対してアッシュは、静かにそう言った。
そう言ったときのアッシュの翡翠の瞳には強い意志が宿っていた。
その瞳を見たディストは思わず怯んだ。

「もう一度言う。ディスト、そこを退いて」
「……退きません。どうしても、ここを通りたいんだったら、私を倒してからにしなさい!」

アッシュの言葉にディストは力強くそう言った。
絶対ここを通さない。
アッシュを死なせたくないから。
アクゼリュスのときは止めることは出来なかったが、今は違う。
もうあんな思いはしたくないのだ。

(困ったなぁ……)

それに対してアッシュは、困ったように頭を掻いた。
私を倒してからここを通れと言ったディストだが、今目の前にいるディストは、ほぼ丸腰である。
そんな彼を倒そうなんて気は、アッシュには起きなかった。
ジェイドだったら、にっこり微笑んでやりそうだが;

(どうする………)

アッシュは、辺りを見渡した。
そして、あるものが目に付いた。
一部強度の弱そうな壁が……。

(やるしかないか………)

何かを決心したアッシュは、腰にある剣を抜いた。
それを見たディストは、一瞬ビクッとなったが身構えた。

「魔神拳!」
「!!」

そして、アッシュは、衝撃波を放つ。
だが、ディストに向かってではない。
強度の弱い壁にだ。
衝撃波は見事に壁を当たり、人一人通れるような穴を開けた。
そこへアッシュは駆け寄ると、一気に飛び込んだ。

「アッシュ!?」

それを見たディストは、悲鳴に近い声を上げた。
何故なら、ここままだまだ最上階に近い高さの場所である。
そこから飛び降りるということは、まさに自殺行為である。
ディストは、急いでソファーを操作し、その穴から外へと出た。
外へと出たディストは瞠目した。
そこで見たものは、アッシュが羽の付いた小型の機械に乗って飛んでいく姿だった。
知らなかった。
アッシュがあんな小型の飛行機械を持っていたなんて……。

「って! 今はそんなことどうでもいいです!!」

おかげでアッシュに逃げられてしまった。
早くアッシュを捕まえなくては!
そう思ったディストは、すぐさまアッシュを追いかけるのだった。





















「陛下!」

グランコクマ城の謁見の間の扉が乱暴に開かれ、そこからノルドハイムが現れた。
その息は若干上がっている。

「どうした? 新生ローレライ教団の使者でも来たか?」

そんなノルドハイムを見たピオニーはそう言った。
しかし、ノルドハイムは首を振った。

「いえ、陛下宛にこんなものが……」

そう言ってノルドハイムが取り出したものは一通の手紙だった。

「手紙、ですか?」

それを見たアスランが不思議そうに首を傾げた。

「ああ。どうやら、アッシュ殿からのようです」
「!!」
「早く貸せ!!」

ノルドハイムの言葉にアスランは驚き、ピオニーは手紙へと手を伸ばした。
消印など何処にも付いていないその手紙の裏には、小さな文字で確かにアッシュの名があった。
ピオニーはその手紙の封を切り、手紙を読み始める。

「!!」

そして、ピオニーの表情が一変するのにさほど時間はかからなかった。

「「陛下?」」

それを見たアスランとノルドハイムは不思議そうな表情を浮かべた。

「…………ノルドハイム。この手紙は、何処にあった?」

そう言った手紙をクシャリと握り締めたピオニーの声は微かに震えていた。

「そっ、それが……陛下のブウサギの一匹がこれを加えていたとメイドが申していたもので……」
「なら、アッシュは、一度ここへ来たというわけだな」
「へっ、陛下……?」
「何故、そのときアッシュを捕まえなかったんだ!!」
「「!!」」

そう言ったピオニーの言葉にアスランとノルドハイムは瞠目した。

「ノルドハイム! 今すぐ全軍に伝えろ! レプリカを見つけ次第、保護するように! そして……アッシュを私の許へ連れてくるようにとだ!!」
「陛下! それは一体……!?」
「時間がない! 早く全軍にそう通達しろっ!!」

訳がわからないと言ったノルドハイムに対して、ピオニーは声を荒げてそう言った。

「はっ、はい!」

それに驚きつつ、ノルドハイムはすぐさま謁見の間から退出し、マルクト軍本部へと向かった。

「アスラン。アッシュが、まだこの近くにいるかもしれない。すぐに捜しに行ってくれ」
「陛下。アッシュの手紙には一体何が……」
「今は説明している暇はない。……だが、ひとつ言えることは……このまま放っておけば、アッシュは確実に死ぬということだ」
「!?」

ピオニーの言葉にアスランは瞠目した。

「時間がない。頼むっ!」
「…………わかりました」

アスランは、そう言うと踵を返して急いで謁見の間から出て行った。

「…………何を考えてるんだ、アッシュ」

一人、謁見の間に残されたピオニーは、唇を噛んだ。
ピオニー宛に送られてきた手紙にはこう書かれていた。

『ピオニー九世陛下へ

 突然のお手紙で申し訳ありません。

本当でしたら、直接お会いしてお話したほうがよかったのでしょうが、

このことを話したら、優しい陛下は私を止めると思ったのでやめました。

実は、私は障気を中和する方法を見つけました。

それは、私が超振動(ちょうしんどう)を起こして中和させる方法です。

その為には大量の第七音素(セブンスフォニム)が必要ですが、それはレプリカたちの協力でなんとかなりそうです。

ですが、それを行うにはひとつ条件があります。

それは、残されたレプリカたちの保護です。彼らが、誰からも差別されることなく人として生きていけること。

それは、彼らと同じレプリカでもある私の願いでもあります。

ですから、陛下にレプリカたちの保護をお願いしたいと思います。

これが、私からの最後のお願いです。どうかよろしくお願いします。

アッシュより』

「……止めるに決まってるだろうっ!」

難しい知識がなくてもこれだけはわかった。
アッシュは、レプリカたちと共に心中しようとしているのだと。
死なせたくない。
たとえ、それが世界を救う方法だとしても、アッシュを死なせたくない。

「アッシュ……早まるなよ…………」

祈るようなピオニーの声は、誰の耳にも届くことなく虚しく辺りに木霊すのだった。
























Rainシリーズ第9章第9譜でした!!
やっぱり、盗み聞きしてたのはディストでしたww
アッシュを止めるも失敗してるし;
アッシュからの手紙を読んでピオニーさんは激怒してますねww
ちなみに、アッシュの手紙を持っていたブウサギがもちろんアッシュですww


R.2 3/14



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