キムラスカの首都、バチカル。
インゴベルトとの謁見を終えたルークたちはちょうどバチカル城を出たときだった。

――――ルー……ク、ルーク。今、何処にいあるの?

久しぶりに頭に響くあいつの声。

(今、バチカルだが……?)
――――バチカルだね! わかった!! そこから、動かないでよ!!
(おっ、おい!)

ルークはそれを止めたが、アッシュはそれを完全に無視して回線を切るのだった。






〜Shining Rain〜








「……? ルーク、どうかしましたか?」

ルークの顔を見たイオンは不思議そうな表情を浮かべてそう訊いた。

「………アッシュがこっちに向かっているようだ」
「「「「「アッシュが!?」」」」」
「兄さまが!?」

ルークの言葉を聞いたティアたちは思わず声を上げた。

「それで、この辺りを動くなだとよ」
「アッシュ、戻ってくるのね!」

そう言ったティアの声は、妙に弾んでいた。
久しぶりのアッシュとの再会に心踊っているようだ。
それは他の者も同じようで、皆表情が明るくなっっていた。
だが、ルークの表情だけは晴れていなかった。

「……どうかしましたか、ルーク?」

それに気付いたイオンが再びルークに尋ねる。

「…………いや、何でもない」

それに対してルークは首を振るとそう言った。

(………気にせい、か?)

先程頭に響いたアッシュの声。
あの声が、何故か妙に引っ掛かった。
まるで、何かに焦っているかのように聞こえたのだ。
何故、そう聞こえたのかは自分自身わからない。
だから、気のせいだったことにしようとする。

(でも……何だ? この胸騒ぎは……?)

アッシュに会えるのは嬉しいはずなのに、妙な胸騒ぎが収まらない。
何故か嫌な予感がするのだ。
そんな思いを抱えながら、ルークはアッシュと再会するのだった。





















「みんな!」

暫くすると、ルークたちの許に一人の少年が駆け寄ってきた。
夕焼けのように赤い長髪が走る度に綺麗に揺れる。

「よかった……。思ったより、早く会えて!」

ルークたちの前に立ったアッシュはニッコリと微笑んだ。
それを見たルークもつられてフッと微笑む。
やはり、あの胸騒ぎは気のせいだったようだ。
だが、ルークはそのときは気付いていなかった。
アッシュの視線の先は、ルークの腰にある《ローレライの剣》があったことを……。

「何かあったのか?」
「えっ? あっ、そうそう! ナタリアに頼みがあったんだ!!」
「わたくしにですか?」

アッシュの言葉にナタリアは首を傾げた。
それにアッシュは頷く。

「うん……。レプリカたちのことでさ」
「!!」
「知ってるだろ? レプリカたちが……虐待を受けてるってことは」
「ええ……」

アッシュの言葉にナタリアの表情は曇った。
それは嫌でも思い知らされたていたから。
バチカルへ行く前にルークたちは、ユリアシティに立ち寄っていた。
そこで、ボロボロの服を着た情勢のレプリカと会ったのだ。
自分たちを見て酷く怯えていた。
それは、心無い人々から虐待を受けていた為だった。
また、レプリカを見て「化け物」呼ばわりする人もルークたちは見てきた。

「そんなレプリカたちのことを放っとけないなんだよ。俺には……他人事とは思えないから」
「アッシュ……」
「だから、ナタリアに頼みたいんだ。キムラスカでレプリカたちの保護をして欲しい。……ダメかな?」


「……わかりましたわ」

真っ直ぐなアッシュの瞳を見て、ナタリアは頷いた。

「お父様に相談して、すぐにでも取り掛かりますわ!」
「ありがとう、ナタリア!!」

ナタリアの返事を聞いたアッシュは嬉しそうに笑った。

「では、早速お父様に――」

ナタリアがそう言ったそのときだった。

「アッシューーー!!」
「「「「「「「「!?」」」」」」」

辺りに突如響いた声にルークたちは瞠目した。

「なっ、何だ……?」
「…………」

その声にルークはアッシュに背を向け、声が聞こえたほうへと振り向く。
ルークの背中を見たアッシュの表情が哀しみで歪んだ。

「ルーク……ごめん……!!」
「っ!?」

小さくそう呟いたアッシュは、ルークの首筋を一気に突いた。
思わぬアッシュの攻撃にルークは、それをもろに受けよろめく。

「「「「「「「!!?」」」」」」

アッシュの思わぬ行動にティアたちは声を失い、動けなかった。

「アッシュ! 待ちなさいっ!!」

その声にアッシュは、慌てたようにルークの腰にある《ローレライの剣》を手にするとその場から駆け出す。
そして、ポケットから何かを取り出し、中へと投げたかと思うとそこから小型の譜業(ふごう)機械が現れた。
アッシュはそれに飛び乗ると、あっという間に遥か彼方へと消えていった。

「ジェイドッ!!」

その声の持ち主は六神将が一人《死神ディスト》だった。
彼はジェイドに近づくと、思いっきり胸倉を掴んだ。

「何故、アッシュを捕まえなかったんですか!!」
「…………監獄から逃げ出したかと思えば、アッシュを追いかけていたんですか。暇ですねぇ」

ものすごい剣幕で怒鳴ったディストに対して、ジェイドは少し呆れたように息をついてそう言った。

「あっ、あなたと言う人は! こんなときまでふざけて!! そのせいで、アッシュが死ぬかもしれないんですよ!!!」
「! どっ、どういうことだ!?」

何とか立ち上がったルークは、ディストを問い詰めた。

「…………アッシュはレプリカたちと共に……心中するつもりなんです」
「「「「「「「「!!?」」」」」」」」

ディストの言葉にルークたちは瞠目した。

「どういうことだ!? アッシュがレプリカたちと心中するわけ――」
「そう言うべきなんですよ。アッシュが、これからやろうとしていることは……」
「まさか! アッシュが、やろうとしていることは…………!」

ディストの言葉を聞いたジェイドは、全てを確信したような顔になった。

「そうです。障気を中和する為に超振動(ちょうしんどう)を使うつもりなんです」
「! 超振動(ちょうしんどう)で障気を中和なんて出来るの!?」
「普通では不可能です。ですが、大量の第七音素(セブンスフォニム)とその力を増幅させるものがあれば、可能となるのです」
「それが……レプリカたちと《ローレライの剣》!!」

ジェイドの言葉にそう言ったティアの声は震えていた。

「では、さっきのあれは……」
「レプリカたちの条件ですよ。残されたレプリカたちの保護をして欲しいというのは」
「!!」

ディストの言葉にナタリアは声を失った。

「…………あいつは何処へ向かった」
「レムの塔です。そこにレプリカたちは集まっていますから」

ルークの問いにディストはそう言った。

「なら、レムの塔へ行くぞ」
「行ってどうするつもりですか?」
「決まってるだろ! アッシュを止めるんだ!!」

ジェイドの言葉にルークはそう言った。

「行ったところで、アッシュを止められるとは思えませんがねぇ」
「だからと言って、このままアッシュを見殺しにするつもりか! これじゃぁ、あのときと同じじゃねぇかよ!!」

あのときとまったく同じだ。
アッシュがアクゼリュスを崩壊させたときと。
また、あいつは消えようとしているのか。
失いたくない。
あいつを失いたくないんだ!

「俺はもう……あのときと同じ過ちを犯したくねぇんだ! おまえらがアッシュを止めに行かねぇって言っても俺は、一人でも行く!!」
「…………まったく、あなたは。誰も行かないとは言ってないでしょう」

ルークの言葉を聞いたジェイドは、呆れたようにそう言った。

「さっさと行きましょうか。あの頭の悪い子を叱りに♪」
「あぁ」

ジェイドの言葉にルークたちは頷くと踵を返して歩き出す。

「ちょっ、ちょっと待ちなさい! 私も行きますよ!!」
「おや? まだいたのですか?」
「ムキーーーーッ! 何ですか、その言い方は!!」

あっさりとそう言ったジェイドにディストは地団太を踏む。

「おい、何してる。ついてくるならさっさと来い」
「あっ、あなたに言われなくてもついていきますよ!!」

ルークの言葉にディストはそう言うとルークたちの後を追った。
こうして、ルークたちはレムの塔へと目指した。
























Rainシリーズ第9章第10譜でした!!
アッシュとルークが再会です!!
ナタリアにレプリカの保護を頼むのも目的でしたが、一番の狙いはルークの持っている《ローレライの剣》でした。
《ローレライの剣》がないと障気の中和は出来ませんからね。


R.2 3/14



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