「こいつはすげぇ……」 レムの塔を見上げ、ガイはしみじみと呟いた。 「確かに、宇宙へ上がる為の施設だったと言われても納得だな……」 塔の巨大さは、アルビオールからでもわかったが、こうして傍に来なければ、自分の上に倒れ掛かってくるような迫力は感じられない。 「見て! あそこに昇降機があるわ!!」 ティアの声にルークたちは、視線を変えると昇降機を発見した。 「……どうやら、上へと上がっているようですね」 「じゃぁ、これにアッシュが乗ってるってことか!?」 「ええ。間違いないでしょう」 ルークの言葉にジェイドは頷くとそう言った。 「まずいですねぇ。他に上に行く方法は――」 「おい、あそこに階段があるぞ! あれで追いかけるぞ!!」 ルークが指差した先には、塔の外周を回るように備え付けられた階段がある。 ところどころ壊れている箇所があるが進めなくはない。 「おいおい、正気か!? この塔、相当な高さだぞ!?」 「ここで昇降機を待っていたら、アッシュが死んでしまうわ! それに、もしかしたら、上にも昇降機の乗り込み口があるかもしれないし!」 ルークの言葉を聞いて焦るガイに対してティアはそう言った。 それにナタリアたち女性陣も頷くのを見てガイは溜息をついた。 「……わかったよ。女性陣にそう言われたら、こっちも文句は言ってられないな」 「年寄りにはキツイですねぇ」 「ジェイド! 文句など言っている暇などありませんよ!!」 やれやれと言うかのようにジェイドがそう呟くとディストが怒鳴る。 「ソファーに乗って移動している人にだけには、言われたくないのですが」 「なんですって!!」 「まぁまぁ;」 ガイが、ディストを宥めるように二人の間に立つ。 「とにかく、上に行くぞ! ディストは、それにイオンを乗せてやれ」 「……わかりましたよ。イオン様こちらへ」 ルークの言葉にディストは、そう言うとイオンをソファーに乗せた。 「よし、行くぞ!」 そして、ルークたちは最上階を目指して駆け出した。 〜Shining Rain〜 昇降機を使ってアッシュは、最上階へとやってきた。 塔の屋上の何もない広場には、多くのレプリカたちが集まっていた。 「やるべきことはすんだのか?」 すると、アッシュが現れたことに気付いたのか、レプリカの群れの中からマリィが現れるとアッシュへと近づいて来た。 マリィの言葉にアッシュは頷く。 「ああ。……レプリカたちのことを陛下たちに頼んできた」 「そうか。我々の方もいつでも死ぬ覚悟は出来ているぞ」 「わかった。だったら、さっさと始めよう」 アッシュの言葉を聞くとマリィはコクリと頷いた。 そして、再びレプリカの群れへと戻っていく。 「…………」 そんなマリィの背中を見送り、アッシュは深く息を吸った。 いよいよだ。 これから、障気を中和させるんだ。 あのときとは違ってここにティアたちの姿などない。 それが俺を不安にさせ、あのときの死への恐怖が甦ってくる。 その気持ちを抑える為、何度も何度も深呼吸した。 自然と《ローレライの剣》を握る手にも力が入る。 それは、俺の中にある《ローレライの宝珠》との共鳴を抑える為でもあった。 (よし……行こう……) 覚悟を決めたアッシュは、レプリカたちの群れへと歩み出す。 「アッシュ!!」 「!?」 そのとき、ひとつの声に辺りに響いた。 その声にアッシュは瞠目すると、振り向く。 そこに立っていたのは燃えるような紅の長髪の少年。 ここまで全力疾走してきたのか、息がかなり上がっているようだ。 「ルーク……!?」 「アッシュ!!」 「みんなも!?」 ルークの後ろからティアたちも現れた。 それを見たアッシュは、酷く動揺した。 彼らがやって来ることなんて、初めからわかっていたつもりなのに……。 「アッシュ! てめぇ、自分が何をしようとしているのか、わかってるのか!!」 ルークは、アッシュへと歩み寄るとアッシュの胸倉を掴みそう怒鳴った。 「これしかないんだ。世界を救う方法は」 それに対してアッシュは、動揺したことを悟られないようになるべく冷静な口調でそう言った。 「障気を中和する以外、世界を救う方法はない。俺が超振動を使うしかないんだ」 「……超振動を使えるのはてめぇだけじゃねぇ。俺もだ! 俺がてめぇの代わりにレプリカたちと消えてやる!!」 「「「「「「「ルーク!?」」」」」」」 突然のルークの言葉にティアたちは驚きの声を上げた。 だが、それを聞いたアッシュの表情は、悲しみを帯びた。 「それはダメだよ、ルーク。ルークには他にやるべきことがあるんだ」 「何だと?」 「ローレライの解放だよ。ヴァンの身体に取り込まれたローレライを解放するのは、ルークじゃなきゃ出来ないんだよ。……だから、これは俺がやる。彼らと死ぬのは、俺でいいんだ」 「…………何でだよ」 優しい笑みを浮かべてそう言ったアッシュにルークは、声を絞るような思いでそう呟いた。 「何でてめぇは、そんなに簡単に死ぬとか言うんだ! てめぇがレプリカだからとか思ってるからか! レプリカだとか被験者だからとか、そんなもんで命の重さは量れねぇだろがぁっ!!」 レプリカとか、被験者とか関係ねぇ。 おまえがおまえだから、消えて欲しくねぇんだよ。 「そうだぞ、アッシュ!」 ルークの言葉に続くようにガイが言う。 「おまえは、まだ七年しか生きてないんだぞ! 石にしがみ付いてでも生きることを考えろ!!」 「ガイ……」 「そうです! 障気を中和する方法は探せばまだあるはずです! アッシュ、どうか命を粗末にしないでください!!」 「ナタリア……」 ガイとナタリアの言葉にアッシュの瞳が揺らぐ。 また、死への恐怖が湧き上がってくるのも感じていた。 「アッシュ……もう馬鹿なことは止めろ」 そんなアッシュに対して、ルークは《ローレライの剣》へと手を伸ばした。 (! 何だ……?) そのとき、ルークの手は《ローレライの剣》から微かな震えを感じ取った。 「剣が……何かに、反応している……?」 「!?」 その言葉を聞いたアッシュは、我に返るかのようにルークを突き飛ばした。 自分の本来の目的を思い出したから。 そして、アッシュはレプリカたちの許へと走り出す。 「まっ、待て! アッ――」 それを見たルークたちは、すぐさまアッシュを止めようとした。 だが、それを阻むようにしてレプリカたちがルークたちを押さえつけた。 「悪く思うな。これは彼の意思だ」 「あっ、姉上!?」 彼らの命令を出したであろう人物を見てガイが叫ぶ。 ガイの言葉にマリィは、表情ひとつ変えることなくルークたちを見下す。 「彼が障気を中和させたいと思うのは、他ならぬおまえたちの為だ。おまえたちが生きるこの世界を守る為、彼は命を懸けるのだ」 「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」 マリィの言葉にルークたちは瞠目した。 そんなルークたちを放置してマリィは、アッシュのいる方へと歩き出した。 そんな中、アッシュ広場に中央へと辿り着くと《ローレライの剣》を空へと振り上げた。 「……みんな……俺に命をください。俺も……一緒に消えるからっ!」 「アッシュ、お願いやめてっ!!!」 「兄さまっ!!!」 悲鳴に近いティアとアリエッタの声が響く。 ティアは、何とかレプリカたちから逃れようと必死に身体を動かすがビクともしなかった。 それが悔しくて瞳から涙が溢れ出す。 「…………みんな……ありがとう」 「「「「「「「「「「っ!」」」」」」」」 優しい笑顔を浮かべてそう言ったアッシュの言葉にルークたちは思わず息を呑んだ。 綺麗だと一瞬錯覚させてしまうその笑顔を見て……。 Rainシリーズ第9章第11譜でした!! なんとかアッシュに追いついたルークたち。 かなりの速さで階段駆け上がったんだろうなぁ; せっかく頑張ってアッシュを説得しようとしたのに、結局ダメだったし; いよいよ障気中和です!! R.2 6/23 次へ |