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それは、あのときと変わらなかった。
アッシュの足元に譜陣(ふじん)が現れ、レムの塔の最上階を包むほど広がり、そのまま縁から下へ水が流れるように落ちていきながら、レムの塔全体を覆っていく。
ただ違っていたのは、己の身体にかかる負担だけだった。






~Shining Rain~








「始まった……」

そう誰かの声が聞こえた。
レプリカたちの身体から第七音素(セブンスフォニム)が溢れ出し、分解し始めたのが見える。
音素(フォニム)はゆっくりと渦を巻いて、アッシュの周囲へと集まりだす。
それはあのときと同じだ。
あのとき俺は、死への恐怖で足の震えが止まらなかったが、今はそれがない。
むしろ、落ち着いていると言ってもいいかもしれない。
だが、アッシュの身体に激しい痛みが襲う。
その痛みは、あのときとは比べ物ならないくらいものだった。

「くっ…………!」

その痛みに耐え切れなくなったアッシュは膝をつく。
あのときと同じように身体から力が抜けていく。
そして、己の指先が光となって消えかかるのをアッシュは見えた後、意識が朦朧としてきた。

「おかしい……集まりかけた第七音素(セブンスフォニム)が拡散していきます! このままでは障気は消えない!!」
「どうして、そんなことが!?」

ジェイドの言葉にディストが声を上げる。

「わかりません。第七音素(セブンスフォニム)を拡散させるものなんて、ここにはないはず」
「…………まさか」

ルークが何かに気付いたように呟く。
アッシュが握っていた《ローレライの剣》に触れたとき、剣から微かな震えを感じ取った。
まるで、何かに反応しているかのように……。

「《ローレライの宝珠》だ! そいつが邪魔してるんだ!!」
「《ローレライの宝珠》!? ちょっ、ちょっと待ってください! アッシュは、宝珠なんて何処にも――」
「どけぇっ!!」

ディストの言葉など無視し、ルークは、渾身の力でレプリカたちを跳ね飛ばし、逆流し始めた音素(フォニム)の中を走った。
「出来もしねぇことを、一人でやるな! バカ!!」

そして、アッシュの許へ駆け寄ると、消えかかっていたアッシュの手を優しく包む。

「ルーク……?」

その温かさを感じたアッシュは、重たい身体を必死で動かしてルークを見た。
すると、あのときと同じように再び光が集まりだし、その光の中で輝くのが感じた。

「安心しろ。おまえに少し力を貸すだけだ。……だから、もう少し頑張れ」
「ルーク…………ありがとう」

そう言ったルークの言葉が嬉しくて、アッシュの顔には自然と笑みが零れた。
その途端、光が眩いばかりに爆発した。
その光が優しく世界を包み込む。
障気を中和していく希望の光を世界の人々は眺め、誰もがその輝きに魅了された。
そして、光が完全に障気を中和し、その輝きを失ったとき、アッシュとルークは共に倒れた。

「「「「「「ルーク! アッシュ!!」」」」」
「兄さま!!」
「アッシュ!!」

それを見たティアたちは、すぐさま二人の許へと駆け寄った。

「……っ! アッシュ! しっかりしろ!!」

先に目を覚ましたルークがすぐさまアッシュを抱き起こし、必死に呼びかける。

「大丈夫だ。彼は、まだ生きている」
「!!」

その声に視線を上げるとそこには、レプリカ・マリィが立っていた。
だが、彼女の身体は既に目鼻立ちが何とか判別できるほどまで分解が進んでいた。

「大切にするんだな。そんなバカ滅多に存在しない」
「ああ……」

マリィの言葉にルークは頷く。

「約束だ。……生き残ったレプリカたちに生きる場所を与えてくれ。我々の命と引き換えだ……」
「わたくしが!」

マリィの言葉を聞いたナタリアが胸に手を当てて、叫んだ。

「キムラスカの王女である、このナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアが! 命を賭けて約束しますわ!!」
「僕もです」

それに続くようにイオンも言う。

「ローレライ教団の導師として。レプリカの保護をお約束します」
「俺もだ。レプリカたちを見殺しにはしない。……姉上と同じあなたの命の為に」
「…………ありがとう」

ガイの言葉を聞いたマリィの顔に笑みが浮かんだ。
そして、彼女は光と溶け、他の仲間たちと同じく、星の譜帯と一体になる為に、空へと昇っていき見えなくなった。

「…………うっ!」
「「「「「「「「アッシュ!!」」」」」」」」
「兄さま!!」

すると、アッシュが小さな呻き声を上げたのでルークたちは一斉にアッシュを見た。
瞼がゆっくりと上がり、そこから美しい翡翠の瞳が現れる。

「…………ルーク?」

そして、一番初めに姿を捉えたルークの名をアッシュは口にした。

「アッシュ! ……心配させんじゃねぇよ!!」
「ごっ、ごめん……;」

怒鳴ったルークに対して、アッシュは思わず謝った。

「アッシュ!」
「うわぁっ!」

声と共にティアがアッシュに抱きついたので、アッシュはルークの手から離れてしまった。
その拍子でアッシュの手に握られていた何かが落ちた。

「よかった! 本当によかった。……私、もうあなたが消えてしまうかと思ってた……」
「ティア……」
「バカァ! どうして、無茶なことばっかりするのよ!! 本当にバカよ!!」
「ティア……ごめんな」

サファイアブルーの瞳から涙が溢れ出すのを見てアッシュはそう言うしかなかった。

「ティアにとられた、です……」

いつもだったら、一番に抱きついているアリエッタだったが、今回はティアに先に越されてしまった。
それに少しガッカリしたようにアリエッタは俯いてそう言った。

「…………?」

すると、アリエッタは地面に転がっている何かに気付き、それを拾った。

「何、これ……?」
「そっ、それは……!?」

アリエッタの声にアッシュたちは、アリエッタの手に視線を移すと声を失った。
アリエッタが手にしていたものは、光の珠だ。
珠は七色に変化しながら、温かな光を反射していた。

「それが《ローレライの宝珠》だ」

そう言ったのは、他ならぬアッシュだった。

「これが!? でも、どうしてここに!?」
「……本当は、俺はローレライからこれを受け取っていた」

ティアの言葉にアッシュは、ゆっくりと話し出す。

「けど、受け取るときに失敗して、宝珠は俺の体内の音素(フォニム)と同化してしまったんだ」
「つまり、コンタミネーション現象が発生したわけですか」

ジェイドの言葉にアッシュは頷く。

「うん。……何度も取り出そうとしては見たけど……ダメだった」
「ジェイド、何だ? その……コンタミネーション現象って?」
「レプリカは音素(フォニム)と乖離しやすい。それは同時に音素(フォニム)が混入しやすいということです。周波数が近い音素(フォニム)なら、容易に体内に取り込んでしまう」
「宝珠は第七音素(セブンスフォニム)で出来ていますから、アッシュの第七音素(セブンスフォニム)と交じり合ってしまったというわけです」
「それがコンタミネーション現象……」

ジェイドとディストの言葉にイオンがそう言うとジェイドは頷いた。

「……アッシュ。生き残ったとはいえ、本来なら消滅しかねない程の力をあなたは使った。非常に心配です。ベルケンドで検査を受けてください」
「…………うっ、うん」

ジェイドの言葉にアッシュは頷いた。
既に知っている検査結果のことは己の胸にだけに仕舞い込んで……。
























Rainシリーズ第9章第12譜でした!!
今回で無事に瘴気の浄化が完了しました。そして、無事に《ローレライの宝珠》を取り出す事にも成功しました!
いつもだったら、この辺でアリエッタが飛び込んでくる展開になるんですが、今回に関してはティアの方がいいかなぁと思ってそうしました。
次回で、第9章は完結する予定です!


R.2 7/26



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