「やめろっ!」
「!!」

突如響いた声に振り返るとガイは瞠目した。
自分の目に飛び込んできたのは一人の美しい女性。
自分と同じ蒼い瞳に長い金髪の彼女。
その人物を忘れるはずがなかった。

「…………姉上」

彼女を見てガイは、ポツリとそう呟いた。






〜Shining Rain〜








彼女の後ろには、多くの人々を従えていた。
そんな彼女は、機械の傍に立つとジェイドを睨んだ。
その視線の途中にはガイの姿もあったが、彼女はガイには何も反応しなかった。
そのことでガイが傷付いたことがよくわかる。

「……何故」

レプリカ・マリィの口がゆっくりと開く。

「何故そんなことをする? 我々の仲間が誕生するのをどうして拒む? 我々は、やがて天の大地の新しい住居を与えられる。邪魔をするな」
「……おまえたちは、それでいいのか? 望まれて誕生したわけではないんだぞ」
「そんなことはない。我々は、モース様に求められて誕生した」

< ルークの言葉にマリィはそう言う。

「………姉上。あなたがそう仰るなら、そうかもしれません。でも、あなた方が住むという天の大地が完成したら、被験者(オリジナル)は殺される」
「我々を望まぬ者が殺されようと我々は知らぬ」

ガイの言葉にマリィは淡々とそう言った。
そのとき、

「なっ、何だ!?」

突如、建物全体が激しく突き上げるように揺れ、ルークたちは背を低くして転倒しないようにした。

「大変だ! モース様が我々を残したまま、計画を!」
「!!」

そう言って部屋に飛び込んできたレプリカの言葉にマリィは、初めて動揺の表情を見せた。
そして、踵を返して駆け出す。

「行ってみましょう」

ジェイドの言葉に従い、ルークたちはレプリカたちを追った。
外に出たルークたちは、海を破って巨大な、ぐるりと金属の板を張り付けた筒のような機械が上昇していくのを見た。
恐ろしくでかいそれは、まるで空飛ぶ城だ。
その周囲に急速に大地のようなものが形成されていく。

「どうなってやがる! あれは一体――」
「モース様! 我らも新生ホドに迎えてくださる約束では……!」

ルークの声を掻き消すようにマリィが叫ぶ。
その言葉にガイは、瞠目する。

「新生ホド? じゃぁ、あれはホドなのか?」

それに応える者がおらず、レプリカたちはホドらしき物体を見上げる。

「我々は、どうしたらいいんだ……」
「レムの島へ向かおう。そこがモース様との約束の場所だ。必ず迎えに来てくださる」
「島の航行装置は、フォミクリーとともに停止した」
「このまま海流に乗れば陸に辿り着く。そこから歩いていけばいい!」
「よし、そのように伝達しよう」

レプリカたちは口々にそう言い、話がまとまると踵を返して再び施設へと戻っていく。

「おっ、おい……」

ルークは声をかけたが、誰一人反応しなかった。
まるで、はじめからルークたちのなどいなかったかのように……。

「どうする? あいつらをこのままにしておくのか? 俺にはモースがあいつらを受け入れるとは思えないが……」
「まぁ、私なら見捨てますね。レプリカ情報さえ残っていれば、態々彼らを搬送しなくても、無限にレプリカを造れますし」
「では、彼らの行き場がなくなるのでは……!」

冷酷なジェイドの言葉にナタリアはそう指摘した。

「そうですね。ですが、彼らがその事実に気付くのは、まだ先のことでしょう」
「あいつら……モースを信じているからな」

ルークは、吐き捨てるようにそう言った。

「なぁ! あの空に浮かぶ機械が、本当にホドなのか……? そうだとしたら、あれはヴァンが計画していたレプリカ大地ってことになるけど……」
「上陸してみればわかるじゃない?」
「そっ、それもそうだが……」

しれっとそう言ったアニスの言葉にガイは口籠った。
無理もない。
ホドは、ガイにとって故郷であると同時に忌まわしい思い出の場所でもあるのだから。

「行ってみるか?」
「危険な気もしますが……まぁ、いいでしょう」

ルークがそう言うとジェイドは、眼鏡を押さえて頷いた。

「みなさん!」

すると、ルークの目の前にアルビオールが出現すると窓からノエルが顔を出した。

「異変があったので飛んできました! 乗ってください!!」

そう言うと昇降口が開き、縄梯子が降りてきた。

「いやはや、大したものですね。行動力といい、判断力といい」

そうジェイドに言わしめるのだから、本当に大したものだ、とルークも感心した。
揺れる梯子を上り、コックピットに全員が収まって席に着くと、ノエルはアルビオールをさらに上昇させた。

「ノエル! あそこへ行ってくれ!!」

ルークは、ホドだという建造物を指差した。

「わかりました!」

ノエルは、そう言うとアルビオールを転進させ、一気に建造物へと突っ込んだ。

「「きゃあっ!」」

アニスとアリエッタの悲鳴がコックピットの中で響く。
アルビオールは、見えない壁にぶつかったかのように弾き飛ばされたのだ。
ノエルは巧みな操作で機体を立て直すと、ホド周囲をぐるりと回りながら接近し、機械が異常な振動を起こすと離れるといった行動を繰り返した。

「ダメです! これ以上は近づけません!!」
「これは、プラネットストームですね。それを防御壁として利用している」
「っということは、こいつがある限り、近づけないってことか」

そう言ったルークにジェイドは、ええと答えた。

「大佐。レプリカだとしても、周囲の爪のような対空装置を考えると、製造されたのはかなり前なのではありませんか? こんな装置は本来ホドにはなかったはずです」
「恐らく、海中で復活させた後で防御装置を施したのでしょう。そして、セフィロトを利用した上空に押し上げた」

ティアは、プラネットストームで揺れる影を見つめるとそう言った。
それに対してジェイドは、眼鏡を押しさえてそう言った。

「おい。セフィロトは外殻を押し上げる力を失ってるんだろ?」

ルークがそう言うとジェイドは、フッと笑みを浮かべた。

「セフィロトすらレプリカですよ。わかりますか? ホドが消滅する前の状態に戻っているんですよ」
「……待ってください。他の場所もセフィロトごとレプリカを造るとしたら…………」
「ええ、ティア。あなたの予測通りになります」

ティアの言葉にジェイドは頷く。
それに対してティアは青ざめた。

「何が起こるんですか?」

イオンがそう訊くとジェイドは、少し考えてから首を振った。

「……説明は難しいですね。現実になるまでは保留としましょう。どちらにしても、今は手のうちようがありませんから、とにかく今はどうもない。一先ず、グランコクマへ行きましょう。軍本部にホドの情報が保管されています」
「…………わかった」

ジェイドの提案にルークは頷く。
ジェイドの言う通り、あそこに近づけない以上、手のうちようがないのだ。
こうしてルークたちは、グランコクマへと向かうのだった。
























Rainシリーズ第9章第6譜でした!!
レプリカマリィの登場です!!
原作ではアスランやイエモンなどのレプリカも出てきましたが、この話では死んでいないのでレプリカを出すのは止めました。
別に出してもよさそうでしたが、なんか嫌だったので;


R.1 8/28



次へ